魔王の娘サルシャの執筆劇
魔王の娘サルシャは、
本を執筆するために、
日々文章の練習を繰り返すのだった、
これは他ならぬ小説家になるためだった。
魔王の娘サルシャはひたすらに書き進めることにした。
まず大地があった。
そこにお嬢様が暮らす土地があったのです。
そしてお嬢様は王子様と出会い、
末永く幸せに暮らしましたとさ。
「やった、できた」
決して識字率の高くない魔族において、
この文を綴れただけで称賛に値する。
「さっそく読むのよ、スライム」
「はい、サルシャ様」
スライムはぷるぷるしながら、
文章を反芻すると、感動した。
「すごい!すごいですよサルシャ様!
文章が書けるだなんて!」
「そうよ、魔族にだって小説は書けるのよ、
いまさらだけどね」
「でも僕には書けませんよ」
そういうとスライムはぷるぷる震えてみせた。
「そりゃあスライムには手が無いからね、
書こうと思っても書けないわね」
この問題は根深い、
人間は識字率が高いのに魔族は個体別評価が枷になり識字率が低い、
識字率とは文字を理解して読み書きができるということであり、
多くの魔族が文字に関して未履修のまま、
ほぼ口伝で言葉のやりとりをし、あとは念話に、
頼っている現状、魔族の者達が本を親しむのは上級魔族に限られることになる。
「別媒体が流行っていればよかったのだけれどね、
魔族特有の社交スタイルが確立されていれば、
あなたも自分の物語を共有することが出来たかもしれないわ」
「えっでもスライムであるぼくは喋れますし、
喋れればきっと物語も……」
「甘いわね、確かに口で語ったり口伝で示すことは出来るかもしれない、
それでも記録を正確に残すにはどうしても識字率の問題を解消しないと、
これを越えていくことは出来ないのよ」
サルシャは人類の識字率の高さに脅威を抱いていた、
魔王たちが住む異世界は人類が皆共通の言語を話し、
その文章を学んでいたため、非常に執筆文化も発展していた。
言語摩擦によるトラブルが一切ない誰もが話に入っていける敷居の低さが、
文字を書くことの文化を一斉に開花させたのだ。
「このまま人間達が小説家になろうとしたらどうなるとおもう?
お父様は完全に人間の奴隷になってしまうわ」
サルシャが小説家を目指すのは他ならぬ、
文の魔王と成り果ててしまった父、魔王を救うためである。
「でもサルシャ様、お父上である魔王さまは、
毎日のように人間の小説を読みふけっておいでです、
これを切り離すのは難しいのでは?」
「決して負けるもんですか!
私も書くのよ!」
というとサルシャは再び筆を取って文章を書きはじめた、
昔々あるところに勇者がいました、
勇者達は、生活に困窮すると、
村々で壷の中やタンスの中を荒らしてまわり、
みつけたアイテムで日々の生計をたてる畜生でしたが、
やがて王様に見出されると、
魔王を討伐するための冒険に出たのです。
長い長い道のりの果てに、
ついに勇者は魔王の城につきました。
「長かったぜ! この旅は」
現れたった勇者は、剣を手に構えて、
型を決めた!
「そうですね勇者様」
魔法使いと僧侶は勇者の傍で杖を構えて、
これを補佐する構えに転じた!
「そうそう、色々あったぜ!」
盗賊は勇者にものの盗み方や、
屋敷の侵入し方を教えた張本人で、
勇者の参謀ともいえる存在と化していた。
「さあ皆!魔王を倒そう!
あと一息だ!」
唐突に現れた勇者は、
サルシャの小説か?
それとも現実の勇者か!?
創作と現実は交錯する!