世界とは関係無い遠いところで
唐突にはじまるのが小説で、
エッセイもまた唐突にはじまります。
戦いが続きすぎてこの物語の方向性が分からなくなってきた頃合い、
始まりの紙飛行機をふとみる。
「ああ、あの頃はおだやかだったわね」
女神様はそうつぶやくと、血濡れた道を突き進むことにした、
魔王の娘、サルシャ姫の今後を占うべき出来事が何かを検討していた。
「おおよそ、大魔王の存在かしら?」
大魔王、魔界の王にして各魔王を統べる格の高き存在。
「だけれど、それだけでは退屈よね」
あまりにも順調な滑り出しで多くの魔族を葬ってしまった、
サルシャ姫からすれば、勇者との共闘でもはや勝利は見えたようなものであったがゆえに。
「誰でも出来ることではないわ、
魔王の娘だからこそやっていることだけど」
血塗られたものを倒すのは同じく血濡れた道をゆくものだ。
それは決定事項ではあるが、変更が効かないのが厄介である。
「昔みたいに好き勝手にシナリオを決めたらいいのにね、
一度宿敵を知ると、味をしめたようにパターンにはまっちゃう」
どこかでパターン崩しを行わなければ、延々と戦いは続くだけで、
それは女神にとって退屈このうえないことであるのは確かだった。
「女神よ」
「あら?魔王様じゃない!お久しぶりね」
えっ?魔王? 女神と親しいの?
「ああ、小説を読んでばかりいると、
時には散歩がしたくなってな」
「そんなことってあるわよね、
どうして若い子ってあんなに使命感に燃えてるのかしら?」
すでに何千年と生きてきている魔王と女神にとって、
サルシャ姫たちの牙剥いた戦いは、そこまで珍しいものではない、
もはや皮膚感覚としては通り抜けてきた日常のひとつに等しい。
「サルシャのことか?しばらくみんかったが、
たしかにすごい剣幕で旅に出たいとせがまれたのう」
「そうですか、魔王様、自分の娘なのに何も知らないのね?」
女神がいきさつを話すと。
「サルシャがか? 我が娘もやるようになったものだな?
はて? いつしかは小説家になりたいなどと言っていたが、
あれはもうあきらめたのだろうか?」
(諦めさせたかもしれない原因は私なのだけどね)
「それにしても、彼女が赤子だったときはあれだけ、
まともな娘に育てたいと懇願してたというのに、
あなた子育ては放任主義なの? 親としての自覚無いの?」
「ははは、言われてしまうと厳しいな」
「あなたの娘は近いうちに大魔王に牙をむくわよ、
それでもまだ放任してるつもりなの?」
「そうじゃな、じゃが、わしも年をとった、
これからの時代は若い力が切り開いていくものだ」
「まったく呆れちゃうわね
それよりお茶にしない?」
「そうじゃな、久しぶりに」
魔王と女神は茶会を開いた、
辺りには天使と悪魔が行き交い、
花咲き乱れるというなんだか混沌とした様相ではあるが、
魔王の平和路線はどこか歪ながらも、
確実に進みつつあるものだった。
「できれば末永く仲良くしていたいものね」
「そうだな、小説を共に親しむものとして、な」
女神も小説を読むのだろうか?
「なんでも読む魔王様にはかなわないけど、
わたしだって読むには読むのよ」
彼らは長い年月を生きすぎて、
彼らに友好的なものを少なくして久しい、
そんな魔王たちを慰めるものが、
あの紙飛行機にのせた人類の小説群だったかもしれない。
「世界はこんなに輝いてるというのに、
未だ戦うことによってしか人は、
自分の在処をしれないのね」
小説を書くということをいつしか戦いのようにしてしまって、
久しい人も多いだろう、
生きるために書くという行為が身についてしまった人にとっては、
それはもう息を吸って吐くように等しい行為にとなってしまったかもしれない、
だが未だ苦闘し苦難の道を歩む多くの作家がおり、
またひとりまたひとりと希望を失い倒れるものもいる。
「ここは聖域、身の安全は保障されてるわ」
書くものにとっての聖域は果てしなく広がる。
だが、その広さだけ誇ってはいられない、
戦いの歴史に目を戻してみようか。
世界は女神のものではないように、
魔王のものでもないように、
人間のものでもまた無いのです。




