サルシャの説得
対するはサルシャ姫!
勇者よどうする!?
「はじめまして、魔王の娘サルシャです」
サルシャは挨拶をちょこんとしてみせた。
「はじめまして?魔王はどうした!!」
「お父様は既にお休みになっておられますわ、
変わりは私がいたしましょう」
「戦う気か!?」
盗賊は身構える。
「いいえ、人質になってあげましょう」
「!!?」
「わたしお父様が為してきた戦争の数々のこと、
本で読んで学びましたの、
人間と魔族両者が互いに異を唱えて、
それぞれが多大な犠牲者をだして、
お互いに禍根が残ったこと、
そしてその戦が今は停戦協定によって終わったことも」
「それでも魔王は倒す!
魔王の娘を人質にするまでもなくな!」
「そうよ!死んだ人たちが報われない!」
「ですから、もし望むのでしたら、
魔王の娘たる私が、
私が死んで償ってもいいのですわ
まあ、ここは一旦おさえて、
詳しい話でも聞いてくださらない?」
サルシャは穏やかに語る。
「私、彼女の話、訊いてみる価値はあると思うわ」
「僧侶!正気か!?」
「勇者はどうなの?!」
「魔法使い、今時間が許すなら、訊く価値はあると思う、
彼女はどうも、話したいことがありそうだから」
「勇者までか……しかたあるまい、
俺たちの身の上の安全は保障してくれるんだろうな?」
「もちろんですわ、
さあ、私の部屋にいらして」
魔王の娘と一緒に勇者たちは歩き出した。
長い廊下で、
(罠じゃないだろうな?)
(油断は出来ないけど、敵意は無さそうよ)
(私は彼女の言うことを信じてみたいです)
(まったくここまできていうことじゃないぜ)
やがて魔王の娘たる姫の部屋に入ると、
客人用の椅子に一行は座り、
魔王の娘サルシャは静かに語りだした。
「魔族といっても一筋縄で括ることの出来ない、
多種多様な存在が要ることはお分かりだと思うけれど、
単刀直入に言わせてもらうと、
わるい魔族は限られていますわ」
「今さら、そんなことを、命乞いか?」
「私の父上が直接指示したことも確かにありますけど、
多くは部下が功を急いて起こした凶行であったり、
他の魔族が介入してきたこともありますの」
「……ありそうな話ね」
「ですから魔王領といっても一括りにはできない、
中にはさきの戦で戦功をあげたという理由だけで、
残虐非道の行為が放免されてる将軍がいたりします、
これには重大な罰を与えてしかるべきだと、
思うところにはあるのです」
「だからって、魔王を倒せば全部おさまるはずだろ?」
「魔王を倒しても第二第三の魔王が現れるだけです、
それに広大な領地が一気に内乱に突入して、
おそらく今よりも甚大な被害をもたらすことでしょう」
「で、なにが言いたいの?」
「わたくしは、魔族が起こした数々の残虐行為、
問われるべき責任を歴史書から見知ってこれを、
記録しています、ですから、
もしよろしければ勇者パーティーに加えていただいて、
悪逆非道を尽くしたと思われる魔族に制裁を、
共に、と」
「おいおいずいぶん勝手なんだな?
お父様とやらの差し金かなんかか?」
「わたしの独断です、
そして勇者御一行さまの
ここまでの活躍を知ってのことでもあります」
「じゃあなにかい?
魔王の手下の中にいる、
特別悪い連中に制裁を加えろって、
俺たちに指図するってわけかい?」
「盗賊!」
「言ってることはそういうことだろう?
でもって美味しいところは取ってくつもりなんだろ?」
「そこはわたくしから申し上げれば、
むしろ勇者様方の名誉挽回、汚名返上の絶好の機会なのでは?」
サルシャの言い分に勇者は姿勢を前のめりにして応える。
「まあいまさら魔王の首を取るだけじゃ、
王様も脱獄の罪をどうこうしてくれる、
わけじゃなさそうだしな」
勇者達も結構無軌道に行動してきたツケが回ってきている、
それに魔王の娘である姫君も自分たちを悪くは思っては無いようだ。
「なんだか地味な仕事になりそうね」
「ええ、でも歴史に残る出来事にはなるはずですよ、
私がみなさんの事を仔細書いて歴史に残す予定ですから」
「こらこら、作家でも目指してるのかしら?
娘さんと来たら」
「ええ、もちろんですわ、作家になれるなら喜んで」
ニコッと笑みを浮かべるサルシャ姫に勇者達は、
「まあこっちは敵の名前も分からない状態だ、
もし本当に倒すべき敵の名前を教えてくれるなら、
これほど助かる話は無いさ」
「本当ですか!?」
「ああ、了承した、だけど裏切るなよ?」
「ありがとうございます!」
こうして勇者達と魔王の娘サルシャは手を組むことを決めた。
後々大変なことにならなければいいのだが?




