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2018/12/24 7:30 p.m.

 可愛らしい雑貨屋から出て歩くアルヴァとケネスの首は、赤いマフラーで繋がれていた。長い長いマフラーを、二人で巻いて歩くから、マフラーを貰う前よりも二人は密着して歩いている。

 自分の右側に感じる体温の暖かさに、アルヴァはマフラーに埋もれた口元で柔らかい笑みを浮かべていた。

 そんな二人が向かうのは、近くで行われているというクリスマスマーケット。


「――さっきの人、随分細かい人だったな」

 

 ケネスが、ぽつ、と溢す。彼の口元も毛糸に埋もれているから、少しくぐもっている。


「そうか? そんなことはないと思うけど」

「いや細かいだろ。この後の行き先、全部指定したぞ。行き方まで。これを細かいって言わなかったら、生きとし生ける全ての生物は大雑把ってことになるぞ」


 ケネスの左手を握り返しながら、アルヴァは困ったように笑って「うーん」と曖昧な声を返す。


 先ほどの雑貨屋の、緑の綺麗な瞳の女性は、『見上げるもの』について質問したアルヴァに、二枚のメモを渡してくれた。

 その彼女曰く、これは、二つの塔への地図なのだそうだ。

 一枚目は、クリスマスマーケットが開催されるという公園からスタートして、『スカイツリー』という塔へ行くための地図。二枚目は、『スカイツリー』から『東京タワー』という塔へ行くための地図。

 ケネスの言う「細かい」の理由は、女性が『どこから出て、何番目の曲がり角を曲がって』までしっかり指定してきたからだろう。 


「でも仕方ないさ。そうしないと、着かないっていうんだから」


 アルヴァは、女性の『この道で行かないと、絶対に着かないわよ』と言う言葉を思い出しながら、ポケットからメモを取り出す。

 丁寧に書かれた線の簡素な地図。その横の数字は、何番目の曲がり角で曲がるのかを示している。その下に、流れるように美しい字で『良い旅を』と言う言葉が添えてある。

 アルヴァは、無くさないように、とメモたちをコートのポケットに戻した。


「それにしたって、細かいって。夢なんだから、もっとこう、ユルユルにさ……扉を出たら辿り着く! とかそういうこと、あってもいいだろ?」

「良いじゃないか、のんびり周りを見て歩くのも悪くない。ほら、見てみろ」


 アルヴァがそう声をかけると、ケネスは、『クリスマスマーケットの開催場所』への地図が書かれたメモに落としていた目を、アルヴァの方に向けた。赤紫の目の視線を受け止めてから、アルヴァは並木に目をやった。


「樹が、みんなキラキラ光ってる。魔術かな? それとも、そういう花を咲かせる樹なのかな? とっても綺麗だ。なぁ、ケネス」

 

 樹々が纏う煌きを瞳に映しながら、アルヴァはケネスを振り返る。そうすると、アルヴァを見つめて静かに目を細めているケネスと目が合った。


「――ああ、すごく綺麗だな」


 ケネスの同意に、アルヴァは頷きながら前を向く。その視線の先には、夜でも明るい街の中、ひときわ輝く光の門がある。


 ――あそこをくぐれば、クリスマスマーケットの会場になってる公園か。


 ケネスの手にあるメモを覗き込み、アルヴァは、クゥ、と目を細めた。

 心が弾む。自然、歩みが早くなる。ケネスがクスクスと笑っている気配を感じて、アルヴァは彼に笑みを向ける。

 さぁ行こう、とケネスの腕を引っ張って、アルヴァは子供のように駆けだした。


 ――公園の中は光に溢れ、人で満ちていた。

 腹の虫をくすぐる香りがあたりに漂っている。


「夢の中でも、腹は減るんだな」


 ケネスの言葉に、アルヴァは頷きながら周囲を見回していた。

 輝く景色、光の花を咲かせる大きなモミの木。それから、周囲の店の屋根や、地面に飾り付けられた人形たち。トナカイが牽くソリや、それに乗った、赤い服の優し気なお爺さんの人形や、楽しそうな小人の人形だ。


「私もお腹空いた。何か買おう、この――お金で」


 ポケットをまさぐったアルヴァが取り出したのは、コートを買った残りの『お金』だ。その紙のお金を握り締め、アルヴァとケネスは、あちらへフラフラ、こちらへフラフラ、匂いに誘われるままに歩く。

 そんな、蝶のような二人が最初に飛びついたのは、ウインナーの盛り合わせだった。


「すみません、これを――ひとつ、頂きたいのですが」


 アルヴァがそう声をかけると、店主らしき男がにっこり笑って、盛り合わせを差し出してくれる。ケネスがそれを受け取って、アルヴァが代金を払いお釣りをもらい、二匹の蝶は再びフラフラ歩き出した。


 結局、二人はどっさり買った。

 買ったものを膝に置き、アルヴァたちは今、ひときわ大きな光のモニュメントの前、設置されていた長椅子に腰かけていた。

 手に持ったホットワインが暖かい。アルヴァが使い捨てのコップにそっと口を付けようと、マフラーの口元をずり下げたところで、ケネスが待ったをかけた。


「俺が先に飲む」


 お前が酔っぱらったら、夢の中でも厄介だろうからな。ケネスが真面目な顔で呟くのを、アルヴァは呵々と笑い飛ばす。


「んな大げさな……」


 ホットワインだぞ? アルコール飛んでるだろう。そう続けたアルヴァを、ケネスがチロリと見る。


「コップ一杯の牛乳にウイスキーをスプーン一杯分入れただけなのに、顔真っ赤になった奴は黙ってろ」


 言いながらケネスがコップを傾ける。アレは初めて飲んだからだ、と笑いながら反論するアルヴァに、ケネスは吐息を一層白くしながら許可を出した。


「……ん、これならお前でも大丈夫だな」


 飲んでいいぞ、と許可をもらったアルヴァは「許可を頂きありがとうございます」と笑いの滲んだ声で言って、コップを傾けた。


 食事をとる間も、二人は手をつないだままだった。食事の時くらいは、と二人も流石に互いの手を離そうとしたのだが、二人の頭上に浮いて、静かに二人を眺めている火の精霊エクリクシスの視線に、何となく離すタイミングを失ってしまったのだ。だから、二人は互いに食べ物を食べさせ合っていた。


 腹も満ちた二人は、しばらく、目の前で輝くモニュメントを眺めていた。様々な色に輝きを変えるその光を無言で眺めていた二人の視線は、いつの間にか交差している。

 白い吐息が混ざる。ケネスの赤紫の目が優しく細くなる。

 名残惜しいけど、と思いながら、アルヴァは笑みを浮かべて、長椅子から立ち上がった。ケネスもそれを追う。

 

 ――クリスマスを楽しんで。そうしなければ、帰さない。そして最後に、私を見上げてほしい。私は――。


 そうとも、見上げられるのを待っているであろう『私』さんを、ずっと待たせるのも忍びない。ずっとここにはいられない。


「――さあ、そろそろ行こう。見上げてほしがっている『誰か』が、私たちを待ってる」


 そう言いながら、アルヴァはポケットからメモを取り出す。

 次の行き先は、『スカイツリー』。そこにいるかもしれない『私』さんに会うために、二人はゆっくり歩きだした。

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