プロローグ――いと高きに、星のかんむりを――
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素晴らしい作品に出合えることを、お約束いたします!!
執筆中のBGMはエンヤでした( ´∀`)
何かゆったりした曲でも聞きつつ、暖かいもの飲みつつ、アルヴァとケネスのクリスマスをのんびり眺めてみてやってください。
メリークリスマス! >(*´▽`*)
場所――プラートゥス島は霧の山、名もない洞窟にて。
赤い髪の騎士見習い――アルヴァ・エクエスは、ロングソードを拭きあげていた。彼女は大切な愛剣の腹を丁寧に丁寧に撫でながら、向かい側にいる男に、ちらりと目を向ける。それに合わせるように、一つにくくっている赤髪が小さく揺れる。
「まさか、山狩りの対象になる日が来るとは思ってもみなかったよ」
アルヴァは美しく整った顔に微笑みをのせて、そう言った。その中音の声に、目の前の金髪の騎士見習い――ケネス・ヘイゼルは苦笑を浮かべている。
「そうだな、俺ら、山狩りをした経験はあっても、される側に回ったことはないもんな」
「またとない、いい経験だよ」
アルヴァが冗談めかしてそう言えば、ケネスは「違いない」と返してくれる。とても静かで、落ち着いた会話だった。
故あって王室魔導士に追われる立場にある彼女たちは、この緊迫の中でそれでもゆとりをもって過ごすことができていた。
洞窟に小さく反響するのは、焚き火のパチパチ囁く音と、一緒にここまで来た弟や、少女二人のしゃべり声。それから、自分の相棒である竜――今は人に変化して、コンパクトな幼女姿だ――が「んー」と甘えたように鳴く声だ。
アルヴァは、のんびりした空気の中で、焚き火に目を向ける。その火の中で微睡んでむにゃむにゃしているのは、火の精霊のエクリクシスだ。彼の主は、アルヴァの弟である。
その彼に声をかけるのは、同じく弟に力を貸してくれている精霊――水精霊だ。彼女は、洞窟を覆う霧を制御して、より色濃くしてくれている。
なんとも、平和だった。
この光景だけ見れば、到底、山狩りされている側には見えないだろう。
そう思いながら、アルヴァは、自分の剣に傷が無いかまんべんなく目を這わせ、それから、それを鞘に納める。と、それを待っていたように、横から声が掛かった。
「今日の不寝番は僕がやります」
弟の唐突なその言葉に、アルヴァは「へ?」と言う表情を浮かべながら顔をあげた。弟の濃琥珀は、静かに瞬きをしている。
「いや、今日は――」
王室魔導士がいるから私たちが不寝番を、と続けようとしたアルヴァを、弟の声が遮る。
「霧の日の水精霊ほど、強いものはありませんよ。動体感知、睡眠誘発、締め上げ。全部、霧に魔力を乗せればできることですから」
「いや、それは知ってるが……」
むう、と眉間に皺を寄せる弟に、なんといって納得してもらおうか。アルヴァがそんな風に考えていたら、再び横から声が掛かる。
「ならば、私も不寝番をいたします」
「フィオナ」
「じゃ、じゃあわたしも!!」
「カレン……いやでもなぁ、王室魔導士がいるのに――」
「姉上、いいですか。こんな霧の夜じゃ、人間が周囲を警戒するのは無理です。ここで精神力使って、いざ接敵、って時に不備があったらまずいってのは、姉上が一番わかってるでしょう」
弟の流れるような声に、アルヴァは唸ってから頷くほかなかった。
賢い弟は、アルヴァになんといえば彼女を頷かせられるかをよく知っているのだ。
――確かに、そうなんだよなぁ。もっと騎士がいればあれだが……。戦い慣れしてるのが私たちしかいないのに、その私たちが寝不足でいるのは怖い。
「――んん……わかった。じゃあ、今夜は三人に頼むよ。フォンテーヌもエクリクシスもついてるしな」
アルヴァの言葉に、ケネスも頷く。
二人が頷くのを見届けた弟にせっつかれて、二人は洞窟の奥へと押しやられた。
こうなれば仕方あるまい、とアルヴァはケネスの横に腰かけて、岩肌に背を預ける。と、大きいストールを二枚持ってきた弟が、それをアルヴァたちの膝にかけてくれた。
春といえど、霧の出ている山で、隣のケネスと体温を分け合っているだけでは少し寒い。そう思っていたところだったので、素直にありがたい。
弟に礼を言って、二人は目を閉じる。が、二人は――というかアルヴァは、そこまで深く寝入るつもりはなかった。
そんな考えを見越したように、弟が「二人が起きないように見張っててね、イグニア」とアルヴァの相棒へと声をかけている。
そこまでしなくてもいいのに、と苦笑するアルヴァの耳には「んー!」と元気の良い鳴き声が聞こえる。
――寝ないつもりはないが、この状況ではそこまで熟睡もできないだろう。
アルヴァのその考えは、直ぐに覆される。
ぱちぱちと火の燃える音。弟たちの小さなしゃべり声。火精霊の笑い声。
それが、だんだんぼやけてきているのだ。
そんなに眠くないはずなんだけど、とアルヴァは不思議に思っていたが、どうしても駄目だった。
彼女は我慢もむなしく、右にケネスの暖かさを感じながら、ゆっくりゆっくりと夢の世界へと落ちていった。