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Legendary Saga Chronicle  作者: ポテトS
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 これほど、カガリはレジナのことを怖いと思ったことは無かった。

 カガリの意識はすぐに戻った。

 そのカガリの目に最初に映ったのは、血溜まりの中ピクリとも動かないB子。

 そして、いつぞやの自分と同じように失禁しているA子。

 彼女は、レジナによって壁際まで追い詰められ、足による壁ドンをされている最中だった。

 レジナの姿は、元の少女へと戻っている。

 おそらく、薬の効果が切れたのだろう。

 ふと、カガリは自分の切り裂かれ、怪我を負った胸元を見た。

 まだ二つの膨らみが残っている。

 薬の効力が切れるのに、個人差があるのだろう。

 カガリはまだ女性のままだった。


 「殺さないで、イヤだ、死にたくない」


 「いいよ、殺さないでいてあげる。その代わり、君が彼女を殺したことをバラす」


 カガリは言いつつ、事切れているらしいB子を指し示す。

 とたんに、A子の顔が絶望に染まった。


 「そ、そんな!」


 「傷口を調べれば、誰の武器で殺されたかはわかる。

 君の武器、特注品だよね?

 窃盗防止なのかはわからないけど、本来の持ち主以外には基本使えない仕様に、鞘から抜けない仕様になってるし、そもそも触れようとすれば軽い電撃が流れるようになってるね?

 特別扱いが仇になったね、勇者さん?」


 バケモノを見る目だった。

 A子がレジナを見る目は、異質で、異常で、異端なバケモノを見る目だった。


 「……いや、そんなことされたら、わたし、わたし」


 「……調子乗ってんじゃねーよ!」


 ダンっ!

 レジナが壁を蹴りつけた。


 「君さぁ、自分が何か喋ることが許される存在だと思ってんの?」


 そのレジナのセリフに、もしかして、とカガリは考えた。

 もしかすると、レジナは最初から彼女たちとカガリのやり取りを見ていたのかもしれない。


 「伝説の勇者が仲間を殺した。事故であれ、殺した。

 君は殺人を犯した。

 そうだね、思考を停止させた、伝説の勇者に盲目的な人達なら君にとって都合のいい解釈をしてくれるだろうけど、全員が全員、君の味方だって思わない方がいいよ。

 だって、君達勇者はいくらでも替えがきく存在なんだから」


 「え?」


 「え?」


 A子の間の抜けた声と、カガリの同じように間の抜けた声が重なる。


 「知らなかった?

 勇者が志し半ばで死ぬこともあるんだよ?

 そこの女の子みたいにさ。

 対魔族兵器でしかない君達は所詮道具。

 そもそもおかしいとは思わなかった?

 一対一の個人戦の場合なら勇者は魔族に勝てるけど、魔族の国に喧嘩を売って、国同士での戦争を勇者がどうこうできると本気で思ってたの?

 兵器は道具だ。

 道具には替えがあるものだよ。

 君達ははたして何人目なんだろうね?

 いや、よくよく考えてみると王族がついてきてる時点で最初なのかもしれない。

 でも、変だよね?

 なんで後継者を危険な旅に同行させたのか、不思議じゃない?

 そもそも、君達と共に旅をしているあの王族達は本物なのかな?」


 「そんな、だって、選ばれたって、すごいって、特別だって」


 「君達が?

 こんな一般人でしかない人間に追い詰められて、脅されてるのに?

 何に選ばれたの?

 何が凄いの?

 何で特別なの?

 選ばれた、凄く、特別な存在ならさ、いま目の前にいて脅してる人間を斬り殺してみなよ、その剣でさ。

 そしたら口封じくらいできるかもね?

 でも、増える。

 君の人殺しの罪が増える。

 一人殺したなら、二人も三人も同じだよ。

 その殺した数が数千人にまでなったら、君は血塗れの英雄になるかもだけど。

 よかったね綺麗な勇者じゃなくて、血塗れの穢れた英雄になれるよ」


 「う、うう……」


 声を殺して今度は泣き始めたA子に、レジナは追い討ちをかけた。


 「怪我をする覚悟も、殺す覚悟もないのに武器なんて振り回してんじゃねーよ。

 そうだなぁ、あ、じゃあバラさない代わりにこれ全部魔族がやったことにして、指名手配を解くように手続きしてよ。

 確約してくれるなら、あの死体に偽装工作してあげてもいいよ。

 君が殺したとわからないように」


 そして、一拍おいて、告げた。


 「決めるのは、君だ。

 この提案を拒否するなら、自分らはすぐに立ち去る。

 そうそう、この国の捜査機関に国がわから圧力をかけてもらってもいいけど、表向きはどうあれ、一度不信感を持たれたらそれはずっと付き纏うよ。

 それでもいいなら、拒否すれば?」


 レジナがA子の返答を待つ。

 その時だった。


 「へえ、ほんとに死んでなかったのか。

 意外に回復早いんだな驚いた」


 そんな男の声が聞こえた。

 咄嗟に、レジナはA子の首根っこを引っつかむと、カガリの方へ投げる。

 あまりに唐突だったので、カガリは反応出来ずにそのまま直撃してしまう。

 その、直後。

 今までA子がいた場所が歪み、捻れ、すぐに治まった。

 何かの魔法だろうか?


 「これにも、反応するのか。

 ただのニンゲン、だよな?」


 声の主は、以前襲撃してきた魔族だった。

 A子がまた震えだす、しかし、魔族を初めて見るカガリは彼とレジナを交互に見て戸惑っているようだ。


 「カガリ、その子連れて逃げろ!」


 「おいおい、ひょっとしてコイツらに助けを求めるつもりか?」


 レジナの怒声に、嘲るように言って魔族はそれを転がして見せた。

 それは、首だった。

 王族パーティの生首である。

 生首は二つだった。

 どちらも、カガリのクラスメイトのものだ。

 つまり、王族パーティの転移者はA子を残して全滅したことになる。

 

 「残念だったな、これも仕事でね。

 あとはそこの女共を殺せばーーって、なんだ減ってるな、手間が省けてたすかる」


 死んでいるB子に気づいてそんなことを言う魔族に、レジナは返す。


 「どういたしまして」


 「それで、その女を引渡して欲しいんだけど」


 「おや、あたしと会話してくれるんだ?」


 「まぁ、仕事の手間が省けたから時間が浮いたしな。

 純粋な興味もある。

 お前、何者だ?」

 

 今のうちだ。

 ただ勢いのまま、カガリはA子を担ぐとその場から逃げ出した。

 その気配を悟って、レジナは内心安堵する。


 「ただの人間だけど?」


 「ただの、ただの、ね。

 それは普通って意味だよな?」


 言いつつ、魔族は軽く手を振った。

 それだけでレジナのいた場所の空間が歪んだかと思うと、見えない何かが空間ごとその場を抉ろうとしてくる。

 それを、レジナはまるで蚊でも払うかのような動作で無効化する。


 「普通じゃねーだろ。

 今みたいな芸当ができる人間なんて、この世界にはいないはずだ。

 もう一度聞く、お前はいったい何者だ?」


 「おや、魔族がそこまで熱烈になってくれるなんて、照れるなぁ」


 ニコニコと、レジナは返す。

 答える気はさらさらないのだろう。

 だからか言葉がとても軽かった。


 「何度でも言うよ。

 あたしは、あたし。ニンゲンだよ」


 「あくまでも、はぐらかす気か。

 ただのニンゲンが、駆け出し勇者より強いわけねーだろ」


 「なにか、勘違いしてるみたいだけど、あたしは弱いよ。

 ホントなら今すぐ逃げ出したいしね」


 「なら、何故そうしない?」


 「それ、聞いちゃうかぁ。

 あのね、あたしは、大バカな女なの」


 「それは、愚かと言うことか?」


 「言い方は色々あるけどね。

 ま、そういうこと。

 ほんと、変なところばかり似て困るよ」


 誰に、とは言わなかった。


 「あたしはね、いま、凄く興奮してて、楽しんでる。

 魔族と会話してる、この瞬間が楽しくて仕方ない。

 逃げ出したいより、楽しみたいが勝ってる。

 そういうこと。理解できた?」


 「なんだ、ただのトラブル好きか」


 的確な魔族の男の一言に、レジナは笑った。

 そして、魔剣(デモン・スレイヤー)を出現させる。


 「一言で言うとそういうことだね」


 「ニンゲンは、他者を守るために実力以上の力を出すと聞いたことがあるが」


 「あはは、それ嘘だよ。

 実力以上の力なんて出せるわけないよ。

 それに、あたしには守りたい誰かもいないしね」


 「さっきのニンゲン達は違うのか?」


 「違うよ。

 あたしみたいな人間に守れる人なんていない。

 魔族にはわかんないよ、きっと」


 苦笑して、レジナは魔剣を構える。


 「まぁ、でも一度言ってみたかったし、守るってことで良いか。

 さっきの子達が目当てなら、あたしを倒してから行くと良いよ。倒せるもんならね!」



 なんて言って、レジナから仕掛けた。

 その瞳は紅く輝いていた。

 それはもう、新しく与えられた玩具で遊ぶ、子供のようにキラキラと。

 そして、言い切った! と満ちたりた表情で。

 レジナは魔剣を一閃させた。


 

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