表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂のアリカ  作者: 白鴻 南
1:魔法少女と異世界人
7/88

01-06

 桃色の空が広がる世界には地平の果てまで何もない。見渡す限り、あるのは今出てきた洞窟がある山だけ。

 圧倒される一樹をよそに九重は洞窟を迂回し、その山を登り始めた。一樹もそれに続く。

 歩いた限りかなり柔らかい腐葉土で踏み込むと靴が少し沈む。木々は見たことのないような種類もちらほらあった。

 ここは一体どんな場所なんだと考えを巡らせていると一樹たちは山頂に着いた。

 山頂から眺めた世界は見事に真っ二つだった。

 一樹たちが登ったこの山は地平線の彼方まで続いており、世界を二つに分つ境界線のようだった。

 一樹たちが登って来た方面には何もなく、山を挟んだ向こう側には農場や畑、果てにはピンク色の水平線。きっと海だと思う。

 しかし、何よりの違いは空に浮いている城。それも七つも。


「どうだい?凄いだろう?」


 確かに凄いが一々ドヤ顔を決めるなよ。

 けれど九重が言う通り本当に凄い。空に浮かんだ城はどれも違った趣がある。中でも一番高く浮いている城は格が違った。

 薄紫のクリスタルで出来た蓮の花をモチーフにでもした城は遠目に見ても幻想的で、光を反射しているのか、他の城よりも明暗がはっきりしていることで目に焼き付くように強い印象を抱かせた。一番下に浮遊する一番大きく見える日本の城の印象さえも霞ませる程にその存在感は強かった。


「今から向かうのはあの日本式の城だよ」


 おぅ、単体で見れば悪くない日本式の城だというのに他のと一緒に視界に入るせいでいまいちパッとしない印象になってしまった残念城。

 そこの主が異能バトルを指導してくれそうな奴か。

 城の話題はそれとなく避けた方がいいのか。とか考えてしまったが一番大事な事を忘れていた。


「どうやって空飛ぶ城に行くんだ?」


 一樹が異能の力を手に入れたといってもそれは竹千代の能力で空を飛ぶことは出来ない。

 まさか如意棒のように竹千代をあの城まで伸ばせとか言わないだろうな。


「ははは、空飛ぶ城だよ?空を飛んでいくに決まっているじゃないか」


「だからどうやって飛ぶんだよ?」


「これからの一樹君に必要な技術だから教えてあげよう。今からやる技は『空歩(くうほ)』といって空を駆けるための技術だ。身体強化で三倍速以上が出せるなら出来るはずだから試しにやってみようか」


 そういうと九重は文字通り空を駆け始めた。九重の上げた足が何かを踏み込むように空中で止まり、まるで階段でも上がるように空中を上がっていく。

 ただしめちゃめちゃ速い。


「これね、速度を出した方が簡単なんだよ」


 はるか頭上から九重がそうアドバイスをするも、どうすれば空中を踏めるようになるのか全く説明されていなかった。

 途方に暮れていると竹千代が『私がやりましょうか?』なんて言ってくる。

『どうやんの?』とやり方を聞けば、『まずは魂を全身に巡らせて』と語りだしたので素直にやってもらうことにした。

 いきなり魂云々言われても出来っこない。こちとら異能歴は多少ズルをしているが二日目だ。今日は時間が押しているのでまた今度時間を見つけて練習しようと思った。

 竹千代に身体の制御まで預けてしまえば一樹の身体は勝手に動く。五感はそのままだが視界は一樹の意志とは関係ない動くせいで他人がプレイしているアクションゲームを見ているようだった。


 九重とともに空を駆け、一番低い日本式の城まで到達する。想像以上にデカかった。そして広かった。

 今、城のおそらく正門前だと思うのだが左右共にキロ単位で直線が続いている。堀の幅も優に五十メートルはあるだろう。しかもこの堀、文字通り底がない。

 これだと今一樹たちが立っている足場もない方がいいのではないかと思ったが九重がそのわけを説明してくれた。


 何でもこの城は結界で囲まれており、物理的に干渉することが出来ないんだそうだ。目の前に見えても結界作動中はそのまま通り抜けてしまうらしい。なのでこの足場に立ち、城の中に連絡を付けて一部解除してもらうんだとか。


「セキュリティとしては分かるんだけど、この世界は誰でも簡単に来ることが出来るのか?」


 九重の空間は九重が招かなければやってこれないと言っていた。ここもそうじゃないのか?そう問えばここは違うという。


「ここはある一定以上のステータスがあれば誰でも入れるようになる」


「ステータス?」


「正確に言えば『人』になれば、ね」


「人?」


「詳しい話はまた今度、今日は戦闘技術について習いに来たんだ」


 そういうと九重は門の正面に立ち一樹には聞き取れないくらいの小さな声で何か囁いた。すると門と足場の間に橋が架かる。


「さぁ、行こうか」


 九重が橋に足を踏み入れるとその先にある城門が音もなく開きだす。

 二人は巨大な城へと入っていった。



 城門の内側の道はつづら折りの一本道。恐らく攻城対策だろう。門から侵入してきた敵を上の道から一方的に攻撃を加える。そういう設計だと思った。そのせいで無駄に長い道のりだった。

 空歩で直接上に行くのはダメなのか聞けば「それはセキュリティにひっかる」だそうだ。九重が回避したがるようなセキュリティというのも気になるがどう考えても危険なので今は素直に歩く。

 門を潜ってから三十分は歩いてようやく中腹辺りの大きな建物へ辿り着いた。

 ここでも立派な門と壁、壁の向こうには三階建てと五階建ての建物が見える。立派な城だがこれでもまだ本丸ではないらしい。本丸は更に先の頂上に構える城。

 下から見た時には気付けなかったがこの城、信じられないことに城壁の内に三つの城を内包していた。設計者は何がしたいのやら。

 そんな一つ目の城の門の前に立ち九重は何の冗談か叫んだ。


「きーしーくーん!あーそーぼー」


 昭和の子供か!心の中で突っ込んだ。

 九重の叫びに反応したのか門がグワーと音を立てながら開いた。そこに胴着姿の男が立っていた。


「その呼び方やめーや」


「ははは、久しぶり、元気してた?」


 笑顔で挨拶をする九重をどこか嫌そうな顔で見ている。


「それで何の用だよ」


「おいおい、まさかの門前払いかい?それはちょっと酷くない?」


 男は舌打ちをして九重と一樹を門内に入れた。

 背後で閉まる門の音だけが響いた。



 男に案内されて城に入るも入ってすぐ横の部屋に通された。きっと来客用の部屋だろう。ここだけ靴を脱がずに入れるようになっておりテーブルとイス、隅っこに湯飲みなどを入れた食器棚があるだけの寂しい部屋だ。

 九重と一樹を席に着かせ男はお茶を淹れた。流石に茶々程ではないが美味しいお茶だった。

 男も自分の分の湯飲みに手を付け、ずずずと一口飲む。つられて一樹も飲んだ。

 人心地着いたところで男は要件を尋ねてきた。それに九重が答える。


「実は貴志君にお願いがあって来ました。この度、ここにいる一樹君が目出度く魔法少女のマスコットどもに目を付けられまして、対異能者の戦闘技術を教えて欲しくてきました」


 九重はふざけた調子で一樹の紹介とここに来た要件を伝えた。

 それでいいのかと思いつつもそういう間柄なのかもしれないので黙っておく。

 しかし、九重の説明はかなりはしょられており、最低限の情報しか伝えていない。当然男は詳しい話をするように要求してくる。

 問い返してくる男に九重は一樹の事情を話した。

 一通り聞き終えると総括して確認をした。


「要するに魔法少女に遭遇し、記憶消去処置を受けたが九重が記憶を戻したせいで命を狙われているから自衛の手段が欲しいと」


 やはりそういう解釈になるのだろうか?

 一樹も魔法少女に遭遇し、記憶消去処置を施され、そのままであれば日常に還れたのかもしれないという可能性は感じていた。

 しかし、九重が言うように一樹の記憶は戻ってしまっており、今更忘れられない。

 もし記憶が戻っていることをマスコット達に知られてしまったら本当に殺処分をされる可能性がある以上、生き残れるくらいに戦える力が欲しかった。

 だから昨日今日と必死になって竹千代の練習をして、どうにかこうにか出来るようになったつもりだが、一樹は異能バトルがどんなものかを知らないし、自分がその基準でどれくらいで来ているのかも分からない。誰かに教えてもらえればそれに越したことはない。教えてもらえなくても他の異能者との戦闘経験を積むことで自分なりに組み立てていこうと前向きに歩き出したのだ。

 しかし、目の前の男の総括を鑑みるにやはり九重が余計なことをしなければ無事日常生活に還れたような言われ方だ。

 九重も心なしか拗ねているような気がする。


「まるで僕が悪いみたい言い方だけど概ねその通りだよ」


 やはり俺は九重に嵌められたっぽい。

 男は考えるような素振りをみせ、口を開いた。


「別に教えるのは構わねーんだが、この小僧、どれだけできるんだ?」


 男の前向きな返答に内心ほっとする。これで駄目だと言われたら自分で適当に考えた訓練をして、それに命を掛けるような状況だったに違いない。

 男の質問に九重は一樹の評価を簡潔に伝える。


「一応、身体強化と思考加速は及第点、型別能力は中の上ってところかな?」


「教えるのは戦闘技術でいいのか?」


「色々教えてあげて欲しいけど出来れば必殺技を一つは欲しい」


「妖刀持ってんだろ?十分じゃねーのか?」


「決め手に欠けるんだよね」


 当事者の一樹を無視して話は進んでいく。

 それにしても必殺技とは何だろう?

 必殺技、当たれば必ず殺す技。ゲームではゲージなどを溜めることで放てるようになる強力な技であるが現実で必殺技とはこれ如何に。銃弾一発、包丁一本で人は死ぬ。包丁を突き刺すだけで必殺技だ。

 興味を持った一樹は会話に混ざる。


「必殺技ってどんなんですか?」


 一樹の質問に黙る二人。これはやらかしたか、と不安になるも何やら考える素振りを見せ、貴志が口を開いた。


「必殺技。当たれば必ず殺す技、っていうのが聞きたいんじゃねーよな?もっと具体的な、どういうものを必殺技って呼ぶのかを聞かれてるんだと思うがこれは説明するのが難しい。というのもまず異能や魂といったものが理解できていないといけないからだ。そこら辺、分かるか?」


 正直よくわかっていない。九重は「そういうことが出来るというのが分かればいいんだよ」というだけちゃんとした説明はしていなかった。

 とりあえず一樹がどういう認識をしているのかというのを伝える。


「魂がMPで異能がMPを消費して使えるスキル?」


 そう伝えてやれば貴志は頭を押さえつつ九重を睨む。


「酷え理解だ。九重、てめぇ説明もなしに戦闘訓練を付けろとか言ってきたのか?てか待て、さっきお前この小僧は妖刀の基礎能力も型別能力も使えるっつったよな?理解もさせずに使わせてたのか?」


 若干キレ気味に言い放つ貴志に九重は言い訳をする。


「待ってよ。一樹君はまだ異能歴二日なんだ。理解出来てるわけないじゃないか」


 そう、一樹は九重の言う通り、九重空間で時間的なズルはしてても現実世界では異能歴二日目の異能初心者。

 それを聞いた貴志は更に怒った。


「何をどうしたら異能歴二日の初心者に必殺技が必要な事態になんだよ!」


「それはもう話しただろう?だから可能な限り早く自衛の手段が欲しいんだ」


 貴志は舌打ちをして一樹を見ると表で待つように指示を出し、部屋から出て行った。


「よかったね一樹君。貴志君は稽古をつけてくれるようだよ」


「いや、アレ、怒ってたよね?どう考えても怒ってたよね?」


 貴志が何に怒っていたのかは分からなかったが俺のせいじゃないと思いたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ