↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂のアリカ  作者: 白鴻 南
2:主人公不在の世界
42/88

02-04:噂という名の旗をかかげて


 翌日、登校した一樹を見るや否や、クラスの空気が一変した。名もうろ覚えなクラスメイトが遠巻きにひそひそと、それでいて視線がちらちらと一樹に集まる。

 そうだった。これがあったか。

 事情を知らないクラスメイトからすれば一樹は「美少女と校門前で待ち合わせをし、放課後デートに繰り出すリア充」そのもの。今まで良くも悪くも全くの興味の対象外だった地味系男子が話題を掻っ攫うのも無理はない。

 遠巻きにひそひそされる分にはいいとするか。

 一樹が警戒するのは無駄に行動力のある馬鹿であって、噂話に花を咲かせるくらいは許容範囲だと割り切る。

 しかし、それだけで終わるはずもなく直接訊いてくる者も当然いた。


「おい、笹瀬とか言ったな?昨日の美少女とはどういう関係なんだよ?」


 誰だっけ。

 一樹に話しかけてきたのは髪を明るい茶色に染め、外側にハネさせた長髪の如何にもなチャラ男だった。茶ロン毛の他にも所々青紫に染めたクセッ毛男に金髪のツンツンヘアー。

 こいつ等モテるためにバンドとかやってんだろうなと思わせる外見。

 教室中が注目する中、一樹はどう対応するべきか考える。と言っても一瞬の話。何故なら思考を加速させるから。

 加速された思考は世界を置き去りにし、一樹と竹千代だけが共有できる時間を作る。


『どう対応しようにも面倒臭そうだ、さてどうするか』


『そうですね。とりあえず一緒に住んでいるとか、そう言った邪推を招くようなことは避けた方がいいのでは』


『だな。そうなると親戚とかの関係性で買い出しを頼まれたとかそんなんでいいか?』


 一樹は最低限の情報を与え、その場を収めようと目論む。幸い、話しかけてきたチャラ男たちはただの興味本位であって執拗な質問はしてこなかった。周りもそれとなく耳を傾けていたのでこれで事態は終息に向かうだろう。

 ただこちらが話して終わりというのもアレだと思い、一樹はせっかくだから聞いてみることにした。


「そういえばお前らが言ってた美少女から聞いたんだが」と前置きをすればチャラ男も興味を持ち「何だ?」と問い返してくる。


「最近、いろんなところで悪魔とか妖怪が目撃されるって噂を聞いたらしいんだが何か知らないか?」


 ダメもとで訊ねた一樹だがチャラ男は予想外にそういう噂話を知っていた。


「ホントかどうかは知らないが、そいつは多分これだな」


 そう言って見せてきたのはスマホ。その一角にあるアプリを指さすツンツン金髪。


「召喚アプリ?」


「そう、召喚アプリ。このゲームのエクストラクエストってモードがあって、それをクリアするとアプリに持っているモンスターを実際に召喚出来るって噂が実しやかに囁かれている」


「マジで?」


「さぁ?あくまでも噂だし。でも、笹瀬が言った噂に一番近いのがこのアプリに纏わる噂だ」


 とりあえず一樹もスマホを取り出し召喚アプリをダウンロードする。ダウンロードが終わるまでは他愛のない世間話をして、朝のホームルームの時間となった。

 ダウンロードを終え、召喚アプリを起動する。

 まず最初に映るのは利用規約。一樹は一応全てに目を通した。もし噂通り本当にモンスターを召喚できるアプリだとすれば、それは間違いなく異能に関するものだ。用心するに越したことはない。

 けれど利用規約は極々普通のもの。規約に同意すると新たな文字が浮かび上がる。


『汝、己が魂を賭けて悪魔と契約を望むか』


『はい/いいえ』


 己が魂を賭けて、ね。

 それらしい文面を見つけた一樹は『はい』を選択する。

 これでアプリが起動するかと思いきや『ブッブー』というアラートが鳴った。

 画面にはエラーを示す表記がある。

 一樹は再度インストールしながらもう一度起動するも先程と同じところでエラーが発生する。もう一度チャレンジしても同じ結果。授業もあるので一旦諦めることにした。



――――――――――――



 結局その日は他愛もない世間話を数人のクラスメイトとして終了。一樹が危惧していた行動力のある馬鹿は現れなかった。

 帰宅すると既に揚羽がリビングにいた。

 「どうした?」そう言おうとしたとき、一樹はリビングに見慣れない物を発見する。

 炬燵だ。

 揚羽は炬燵から頭だけを出した状態でだらしない顔を晒している。

 何故炬燵があるのか。

 揚羽が持ち込んだからだろう。

 炬燵を出すにはまだ早い気もするが、そう遠くないうちに暖房器具は必要だったので良しとした。


「で、何か用か?」


 一樹も炬燵に入り揚羽に問う。


「んー、寒くなって来たからおこたの用意をしに」


「これからもっと寒くなるんだろう?大丈夫か?」


 初めて会ったときはもうちょっとキリッとした感じだったのだが、最近はだらしない面ばかりが目に付いてくる。

 何はともあれ、一樹はさっそく仕入れた情報の精査にかかる。


「揚羽、お前のスマホにインストールして欲しいアプリがある」


「何?」


 一樹は自分のスマホを見せながら『召喚アプリ』を指さす。


「召喚アプリ?」


「ああ、どうもこのゲームにあるエクストラ何とかというのをクリアするとモンスターを実際に召喚できるって噂があるらしい」


「へぇ、それって」


「ああ、昨日の蛇もこのアプリと関係があるかもしれない」


 二人して同じ結論に達する。

 もし噂が本当であったなら、と。通常であればそんなはずはないと常識的に考えるまでも無く否定される思考も、異能の存在を知る二人にはあるかもしれない、ありそうだ、と考慮せざるを得なくなる。


「それで私がアプリをインストールするのとどう関係が?」


「このアプリな、何度やり直してもエラーが出るんだよ」


 一樹は学校で五回ほどインストールとアンインストールを繰り返したが結果は全て同じ。そのため検証することも出来ない。


「対応機種じゃないんじゃない?」


「その可能性もある。だから代わりにやってくれ」


「えー」


「いいじゃないか。もしこのアプリが関係があるなら結局やることになるんだし」


 そこまで言うと揚羽も、そうなるのだろうと観念し、インストールを開始する。

 インストールが終わるまで特にすることも話すこともないので一樹はキッチンへと向かい夕飯の支度を始める。

 リビングからは「シチューが食べたい」とリクエストが飛んできた。

 確か貰い物のキノコが大量にあったし、キノコのシチューにでもすればいいかと考え、一樹はジャガイモの皮剥きを始める。


――――――――――


 シチューの下ごしらえが終わり、あとは弱火でじっくり煮込むだけ。そのタイミングで揚羽が「んー?」と締まらない呻き声をあげた。

「どうした?」と一樹が聞いてやれば「エラーが出た」と一言で返される。

 エラーとは文字通りエラーなのだろう。念のためにもう二、三回やり直すように言う。

 結果、何度やり直しても揚羽も召喚アプリを起動できなかった。


「あ、でも最後の『汝、己が魂を賭けて悪魔と契約を望むか』をいいえにすると起動した」


 揚羽の言葉に一樹もやってみる。すると本当に起動した。試しにチュートリアルをしてみるもフツーのゲームアプリだった。モンスターを捕まえて、餌をあげたり、芸を仕込んだり、勉強させたり、トレーニングさせたりと色々やらして育てたら、戦わせる。昔からよくある感じの育成系ゲームだった。

 正直あまり面白くない。

 グラフィックは物凄く綺麗なのだが肝心のゲーム性の方が微妙だ。バトルが全部オートというのもいただけない。

 けれど揚羽は「うはっ!私のモンスター芋虫なんだけどー!」と騒いでいる。スマフォの画面をちょこちょこ小突いて実に楽しそうだ。

 

「とりあえず、刀子さんに噂と一緒に報告しといて」


「⋯⋯⋯」


 揚羽は無言だった。まあ、何か報告するたびに動けなくなって担がれて運ばれていたのでいい加減嫌になってきているのだろう。

 無言のままゲームをする揚羽とシチューを煮込む一樹。二人が次に口を開くのは夕飯の「頂きます」だった。

 

 その日の夜。母屋に帰らなかった揚羽を刀子さんが迎えにやって来た。それは思春期の男女が同じ屋根の下で一夜を共にすることに対するものではなく、刀子さんの命令の進捗を聞くためだ。

 一樹は召喚アプリについて「そんな噂が流れていました」程度のニュアンスで報告した。通常であれば「馬鹿馬鹿しい」の一言で片付けられてしまうだろう噂。

 けれど刀子さんは「どれ、確かめてみよう」とアプリをインストールし始めた。

 結果は二人と同様にエラーである。


「やっぱ対応機種じゃないんじゃない?」


 普通に考えればそういう結論に至る。けれど一樹は見た。刀子さんのスマホは、一樹に召喚アプリを教えた男と同じ機種だったこと。男も契約をしたそうだから対応外機種とは考えにくい。

 ならば別の要因が存在する。それは何だ。

 考えても可能性があり過ぎて絞り切れない。けれど、その中で「まさか」と思える心当たりが一つあった。それは


「⋯⋯魂か」


 以前、九重は言った。魂は他人の魂を阻む。異世界因子は他の異世界因子を拒絶する。一樹には竹千代が、揚羽は元魔法少女、そして刀子さんに至っては己で使いこなせるだけの技術がある。その中には外からの干渉に抵抗するものがあるはずだ。


「この契約って、魂が無防備な人間としか契約できないのか?」


 一樹のつぶやきに「どういうこと?」と刀子は反応する。


「以前九重に聞いたことがあります。魂は他の魂と混ざらない。それは異世界因子も同じで他の異世界因子を拒絶する。もし、この契約というのが異世界因子を用いた異能の付与に関する契約ということであれば」


「既に『魔法少女』の異世界因子を受け入れた揚羽の魂はこのアプリの契約を拒絶し、異世界因子の排除を目的とした『妖刀』を持つ一樹君の魂も拒絶される、か。それじゃあ私は?」


「⋯⋯契約の内容が曖昧過ぎて受け入れられなかったんじゃないですかね?刀子さんの魂が」


 考えてみれば『契約』と書いておきながらその詳細がまるで記されていないどころか、大まかな内容すら記されていない。それなのに『契約』という。こんな無茶苦茶な契約と呼べるかも分からない内容でありながら『契約』と記すのはゲームの設定を遵守するためではなく、他の何かしらの理由があるのかもしれない。

 考え込む一樹と刀子にそれまで黙っていた揚羽がポツリと言った。


「そう言えば私が魔法少女になる時も「これは契約よ」って言ってたわ」


 その言葉を聞いて、一樹は確信に近い何かを得た。そうなると後は早かった。


「それじゃ今から九重の所に行ってちょっと確認してきます」


「そうね、早い方がいいわね」


 話がまとまり、行動しようという時に揚羽が言った。


「私も付いて行っていい?」


「「⋯⋯⋯は?」」


「だから私もその九重って人の所に付いていっていい?」


 揚羽の言うことをいまいち理解できなかった。何故付いて行こうなどと考えるのか。そんな戸惑いを竹千代は汲み取ったのか一樹へと囁く。


『別にそこまで驚くようなことではないのでは?行ったことがない場所へ興味本位で行きたがるというのはよくある話です。それに彼女は元魔法少女。何かしら話が聞きたいのかもしれませんし』

 

 竹千代に言われて気付く。揚羽は元魔法少女。それは今までだって考えていた。けれどその上っ面だけを読み取って、彼女が何を考え、どう思っていたのかなんて見向きもしなかった。

 九重は魔法少女を人知れず狩り、一樹もそれに巻き込まれたとはいえ加担した。揚羽には揚羽で何か思うところがあったのかもしれない。

 けれどそう思うと連れて行きたくなくなった。だってどう考えても面倒事に発展しそうだったから。

 だがしかし、一樹が断るよりも先に刀子さんが「よし、行ってこい」と許可を出してしまった。


「いやいや待って」


 どう考えても面倒事にしかならない未来予想に抗うべく抗議する一樹。やれあの空間は人に悪影響を齎す、やれ摩訶不思議な人体実験をさせられる等々、如何に危険な場所かを説き、同行を拒絶する。

 しかし刀子さんは


「構わない、死んだらそれまでだったってことでしょう?面倒だと思うなら一樹君が『あっち』で揚羽を始末してしまえばいいし」


「とんでもねーこと言いやがった!?あんたは本当にこの子の姉か!?」


 思わず叫ぶ一樹。けれど刀子は「はっはっは」と笑う。


「確かに酷い姉だと思う。けれどね、揚羽のことを思うならばこそ、九重の所で『自分が何者なのか』をよく考えさせた方がいいと思ってね」


「どういうことですか?」


「揚羽は知っての通り、元魔法少女という名の侵略者のおバカな手先よ。でも生憎と私たちもその侵略者について詳しく知っている訳じゃない。何せ私たちは戦士だ。だから倒すことは出来ても解らせることは出来ない。なら、専門家に丸投げするのもいいでしょうとそう考えてのことなの。それに」


「それに?」


「きっと揚羽の目的は九重の所に死蔵されている妖刀でしょう。あの子は大人しくなったように見えて、未だに強さへの渇望はなくなっていない。むしろ今までよりもずっと感じているはず。あの種の欲求は満たされることはないからね」


「でも」


「言いたいことは分かるわ。妖刀は異世界因子を殲滅するための物だと窺っている。もし異世界因子の所有者が手にした場合、拒絶反応らしきものを表すとも。当然よね。兵器が敵の手に渡った時の保険を掛けるのは実に真っ当な思考だもの。だから場合によっては妖刀で暴走するかもしれない」


「だったら」


「それならそれで構わないじゃない。姉の私が言うのもどうかと思うけど、人間は生きることが目的ではいないんだから。どう生き、何を成すのか、生きて死ぬまでの過程こそが一番大事なのよ。だから行きたいと本人が言うのであれば行かせてやって欲しいの」


 頭を下げる刀子に対し一樹には言葉がない。だから揚羽に問うことにした。


「だってさ、どうするよ?」


「連れてって」


 即答だった。

 面倒だと思いながらも一樹は揚羽を連れて行く。

 もしもの時は自らの手でこの少女を始末しなければならないのかと思うと気が重い。

 けれど一樹が感じるのはそれだけだった。殺人、それも知り合い、一つ屋根の下で暮らした少女を手に掛けることに対する忌避感などまるでなく、純粋に揚羽の戦闘能力に対して面倒だと思う一樹。

 彼の精神は葛藤を抱えない。情はあるけど、あるだけで彼の行動を踏み留めることはない。

 この時、既に一樹は揚羽を手に掛けるその瞬間をシミュレートしていたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。