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魂のアリカ  作者: 白鴻 南
1:魔法少女と異世界人
19/88

01-18


胸がが貫通している少女を抱きかかえ、一樹は九重の元へとやって来た。少女の治療を頼むためだ。

まずは入ってすぐのところにある竹林堂の茶々に会い、九重に連絡を取ってもらうつもりだったが目的の九重は竹林堂にいた。

 九重は挨拶するよりも先に一樹が抱えている少女を見て訊ねてきた。


「一樹君、その抱えている血塗れの少女は何だい?」


 一瞬九重の声にどこか暗いものを感じた一樹だったが、一樹が何か言う前にその気配は既に霧散していた。気にはなったが物事には優先順位というものがある。

 一樹は単刀直入にお願いした。言い訳や理由などを述べているうちに取り返しがつかなくなってしまわないように。

 一樹の目と九重の目が合う。

 目を逸らさずに頭だけ下げ、「この子の治療をお願いできないか」と手短に要件だけを伝えた。

 少女の胸に押し当てていた形態変化を解いて傷口を見せる。その時に止めていた血液が零れるように溢れた。

 九重は傷口を確認すると茶々に二、三指示を出し、少女の服を剥ぎ、傷口周辺の血を拭う。茶々が何かを持ってくると九重はそれを少女の傷口へと押し込んみ、そのまま傷口を塞ぐ。

 その様子を見ていた一樹は困惑するが医療の知識なんてほとんどない一樹にどうこう言うことは出来ない。元々まともな治療などあてにしていなかったので黙ってい見ている事しか出来ない。

 九重たちは色々やっていたが一樹には終始理解が出来なかった。ただ普通に治療したんじゃダメなんだということだけは理解している。

 治療が終わったのか、少女を茶々に任せ、九重は一樹と向き合う。


「単刀直入に尋ねよう。アレは何をどうやったんだい?」


 九重のいうアレが少女なのか、技なのか、状態なのか、何を指しているのか分からなかった一樹は少女との戦闘の報告をする。

 短く、けれど詳細な説明を聞いた九重には何が起こったのかおおよその推測が出来たのか一人「成程、成程」と呟いていた。一心地付いて、一樹に少女の容態を伝える。


「少女の状態だけどね、かなり酷い物だった。はた目からはただの刺し傷にしか見えなかっただろうけど、問題は魂を通す道だね。無理矢理注がれた魂によって逆流し、あちこち穴が開いた状態だ。だけど何より驚いたのは彼女にあるはずの異世界因子が見当たらないことだね」


 魔法少女たちの力の根源である異世界因子は肉体と魂の繋がっている部分に埋め込まれ、そこからちゅうちゅうと魂を吸い上げらることでエネルギーに変換される。変換されたエネルギーが体内に巡ることで順応し、筋肉のように負荷をかけ、傷つき、修復されるたびに強く、より強靭なものへと作り替わるそうなのだ。

 だから長生きの魔法少女程強い力を扱えるが、当然身体に納められるエネルギーには限界があり、それが魔法少女の寿命になる。

 しかし、一樹が運んできた少女には異世界因子が見当たらず、体内に巡っていたはずのエネルギーの通り道がめちゃくちゃになっていた。

 損傷が一番酷いところに異世界因子は埋め込まれていたのだろう、と九重は言う。

 九重が言うには、魂とは体内にあるものではなく身体と繋がているもの。そしてその身体を体外にある魂が動かしているんだとか。

 分かりやすく例えれば、ゲームのキャラクター。

 肉体は画面の中だが精神、魂は画面の外側にある。だから画面の中のキャラクターをどんなに解剖しても魂が見つからないのと同じように、自身の身体にも魂はなく、身体の外、世界の外側にある魂が身体と繋がってはじめて身体を動かせるのだとか。

 事故などで意識不明の植物状態になる人はその繋がりが完全に断たれてしまった人が多いという。

 この世界の外側、魂があると言われているところは、星の記憶やアカシックレコードなど様々な名前で呼ばれているが、九重は便宜上『魂の在り処』と呼んでいるらしい。

 九重の理論では魂とは記憶や感情、自我や自意識、精神や欲求といった様々な物質化されていないモノを全て纏めてしまっているからそうなるんだとか。

 よって 「アカシックレコード ≦ 魂の在り処」 となり『魂の在り処』の中に星の記憶やアカシックレコード、はたまた輪廻転生や地獄や天国といった機能が備わっていることになるらしい。

 この時点で何が何だか分からなくなった一樹は話を一旦中断し、少女の方へと焦点を当てるように頼んだ。

 九重は「大事な話なんだけどなぁ」とどこか呆れた雰囲気を放ちながらもしょうがないと少女の容態をあっさり要約して話した。

 一樹が運んできた少女は正にその繋がりがボロボロの状態だったと。

 どんなに肉体を修復しようとも魂との繋がりが切れてしまった者が動くことはなく、接続の切れたコントローラーでは操作が出来ない。

 九重はその繋がりをどうにか補強し、自然に修復するのを待つという。目が覚めるのは一ヶ月先か一年先かは定かではない。

 以上が少女の容態について、

 そして九重の所見


「人の魂は他人の魂では干渉することは出来ない。自分の魂以外は弾く性質を持っているからなんだけど、一樹君の場合はこの性質を無理矢理に使ったね」


 通常であれば弾かれるはずの他人の魂が、妖刀を介して直接体内に駆け巡ったことでその圧力に耐え切れず、彼女自身の魂は押し返された結果、体内で破裂したということらしい。


「強制的に魔法少女の寿命を迎えさせたようなものだよ。自身の魂で破裂しようものなら物凄いエネルギーとなり、街をメルトダウンさせるような状況にもなったんだろうけど」


 今回のは一樹の魂がほとんどだったから留まらず、纏まらず、圧縮せず、収束もしないで拡散したということらしい。


「いやー発想の逆転だよねー、他人の魂には干渉できないって性質を逆手にとってより大きく強い魂を流して相手の魂を追い出すとか。僕みたいに干渉できないことを知ってしまったらまず試さないことだもん。実験して正解だったよ」


 一樹としては留めを使うと気配でバレるので、丁度いい具合に突き刺さっているしということで流しただけだった。

 けれど九重にとっては新たな発見なのでプラスになったとご機嫌なわけだ。

 しかし、例えご機嫌であっても九重の気配は明るいものではない。


「それで、どうして彼女を連れて帰って来たんだい?そのまま捨て置いても良かったと思うんだけど」


 先程隠した暗い光が九重の瞳に宿る。

 一樹は適当な理由を並べた。何せ一番の目的である少女の治療は既に完了している。他の理由など特に大したものではない。


「目的の幾つかは既に果たしているんだけど、一番の理由は彼女の中でどんな反応が起き、どういう状態なのかを聞きたかったってところだな。もう聞いたけど」


「どうしてそれを訊こうと?」


「昨日戦った魔法少女とは感じが違ったから気になったんだ。物凄い悲鳴をあげて気を失ったからな」


「なるほど、それはおそらく異世界因子を無理矢理剥がしてしまったことに原因があるだろうね」


「さっきも聞いていて思ったんだが、異世界因子といえば魔法少女の源だろ?そんな簡単取り外しできるもんなのか?」


「普通は無理。さっきも言ったけど魂は自分の魂以外の魂を弾く性質を持っている。一樹君がやったように体内に直接流すなんて荒業は出来ないし、出来たとしても出力が足りない。一樹君の性質が『life』よりで人の三倍近くあるからできた力技だね」


 九重の話を聞く限り魔法少女にとってあまりよろしくない技という認識でいいだろう。ぶっ刺して流すだけなら魂の禊より簡単だし使っていこう。死んでしまったなら自己責任ということで諦めてもらう。俺はラノベの主人公のように美少女みーんな救いますってキャラじゃないからな。

 


――――――――



 一樹が九重と拉致した魔法少女について話していた時、魔法少女・風音は第五世代魔法少女との戦闘に勤しんでいた。

 何故戦闘にまで発展したのかと言えば、それは昼休みの一樹との会話が原因だった。

 後輩の魔法少女たちは学校をさぼってまで風音の周囲を嗅ぎまわり「風音は魔法少女の敵である」という構図を構築出来るようなネタを探し回る頑張り屋さんだった。

 そんな彼女たちに昼休みの会話を聞かれてしまった。そしてあれよあれよと彼女たちの頭の中で都合のいいストーリーが描かれ「風音は裏切り者、風音討つべし」となってしまったのだ。

 三人ほど倒した後に増援が着て、二人倒すとさらに増援が。いったい何人で来ているんだろうと思いながらやっていたら五十人は始末してしまった。思わず「来過ぎだろ!」と突っ込んでしまったぐらいだ。

 過剰とも思える程の人数を寄こす後輩の魔法少女たちを前にしながら風音の心配は「この分じゃ一樹の方にも行っていそう」というものだった。風音にとって後輩の魔法少女とはその程度の脅威でしかない。自身よりも幼馴染の心配が出来る程余裕なのだ。

 もっとも昨日戦った鎧武者が本当に一樹であるのなら、魔法少女が二十人いても大丈夫だろう。それくらいの差が一樹にはある。

 風音と同規模の襲撃を受けていたのだとしたらスタミナ的な心配はあるものの、基本的には大丈夫だとそう思えるくらいには強かった。

 どうしてそこまで強いのかは甚だ疑問だけれどそれは今はいいだろう。

 風音は魔法少女の死体に腕を突っ込みぐちゃぐちゃにかき回す。そうすることで体内の魔力の流れを探り、コアの位置を見つけ出し回収しているのだ。コアの位置は人によって異なるので脳ミソから肛門までかき回さなくてはならないのが辛い。


「あった」


 この少女は心臓の中に、あの少女は眼球の中に、そっちの少女は子宮の中に。一度に大量の敵に襲撃されるとコアの回収に時間が掛かってしょうがない。

 といっても戦闘中に回収作業を出来るぐらいのんびりとした戦闘に風音は少々苛立ちを覚えてきていた。

 第五世代の魔法少女は数ばかり多いくせにろくな連携をとってこない。そのくせ数に任せた物量での制圧もなし、誰かに行かせて漁夫の利を得ようというしょうもない奴等ばっかりだ。そのため攻めは散漫で守りも薄い。ちょっとフェイントを入れると油断し、ガラ空きになったところに風音の魔法が直撃する。

 周囲の魔法少女は風音に集中しないといけないのだが、他の魔法少女の魔法に巻き込まれるのが怖くて集中出来ていない。烏合の衆とはまさにこのこと。

 風音が銃口を向けて引き金を引けばそれで頭に風穴が空く。

 目の前で繰り広げられている殺戮ショーは既に犠牲者は五十人以上に達しているというのに、未だに誰一人として風音の魔法を凌げる者がいないという現状が逆に怖ろしく感じる。これで良いのか魔法少女と叫びたくなる。この現状が、惨状がこれまで第五世代が如何に何も考えてこなかったかを証明している。

 相手にするのも馬鹿らしくなるのだが、あからさまに攻めようとすれば逃げるし、放っておくと攻撃してくるしでとても鬱陶しい。大技で一掃したいが発動兆候があるせいで、撃つ前に逃げられてしまう。

 地道に潰していくしかないという結論が風音に更なるストレスを与えていた。

 そんなこととは梅雨知らず、相対する魔法少女たちは風音の苛立ちが焦りから来るものだと信じて疑わなかった。

 優位にいるのは自分たち、粘れば勝てる、などと都合のいい希望を抱いて戦意を失わない。その結果既に五十人以上が犠牲になっていても、これだけやったのだからもう少しで風音の魔力は底をつく、そう幻視してしまうのはある意味仕方がないことだと言えた。

 だがそんな状態が続いて、更に五十人ほどの犠牲を出したとき、ようやく彼女たちの中にも何かがおかしいと疑念が浮上する。

 開戦してから既に一時間以上が経過し、その間の犠牲者は百名を超えた。年末からの魔法少女失踪事件の被害者数など、この数時間で超過している。

 ここに集まった魔法少女たちは風音が別勢力の者と手を組んだ裏切り者だと聞かされていたが今に至ってそれは本当なのだろうかと疑問に変わりつつあった。

 もし本当に風音という魔法少女が裏切ったのだとしたら自分たちはとっくに殺し尽くされているんじゃないか、とそう思うからだ。

 そういった疑念もあり魔法少女たちの戦闘は更に散漫となっていた。誰にも気づかれることなく戦線から離脱しようと考えているのだ。

 しかしその動きが逆に風音の注意を引いてしまう。逃げ出そうとする魔法少女は風音から見れば増援を呼びに行くための伝令に見えてしまうからだ。

 一人、また一人と魔法少女の額に風穴を空けていく風音。

 逃げ出そうとする者への的確な攻撃のせいで逃げ出したくても逃げ出せない魔法少女達。

 こうなってしまえば後は早いか遅いか、やるか、やられるかしかない。

 風音の殺意が少女たちの絶望を塗り潰していく。

 もう駄目だ。

 誰かが叫んだ。

 その叫び声が引き金となり一斉に逃げ出す魔法少女達を見て風音は思った。

 今なら一網打尽だな、と。

 風音の動きは速かった。腰から大口径のリボルバーを引き抜き、腰に巻いている色取り取りなバレットベルトから太陽のマークが刻まれたオレンジ色の弾丸を装填する。

 逃げ惑う魔法少女たち目掛けて引き金を引いた。

 暴力的なまでの激しい光が世界を埋め尽くす。

 光に遅れてショアアアアアアアアという、まるで何かが勢いよく溶けだしたかのような音が轟いた。

 光が晴れてみればそこには何もなく、ただ液状化した何かがポコポコと茹って地面に広がるだけだった。

 振り返れば射線から逃れた魔法少女達が血塗れになりながら地面に転がり目や耳を抑えていた。風音の魔法で目と耳を潰されたのだろう。地面に転がりひくひくと蠢く様は正に虫の息と呼ぶに相応しい。

 風音はバレットベルトから波線の刻まれた青色の弾丸を引き抜くと手に持つリボルバーに装填する。

 最早逃げることはおろか声を発することも出来ない少女達を纏めて始末する魔法を放つべく風音の足元へと銃口を向ける。

 引き金を引き魔法を発動させるだけで地面に転がった百人近い魔法少女を始末できる。

 こんなもんかと思いながら引き金に指をかけたその時、結界に何者かが侵入した気配を感じ取った風音は引き金を引いた。侵入者はほぼ間違いなく増援なのだから合流される前に減らすのは考えとして至極当然。

 銃口から放たれた弾丸が地面にめり込むと魔法陣が現れ光りだす。

 魔法陣の放つ光がより激しくなると今度は更に大きな魔法陣が現れる。

 そうしてどんどん魔法陣が拡大していき全ての魔法少女を魔法陣の中に納めると地面が液体のように変化し、転がっていた少女達を飲み込んでいく。

 その間に侵入して来た者達が風音の前へと辿り着いた。

 現れたのは亀と蛇。

 どちらもぬいぐるみの様なデフォルメされた可愛らしいデザインでありながらその材質は本物のそれっぽいぬめぬめてかてかしいものだった。

 亀は初めて見たが蛇の方は風音の担当マスコットの蛟で間違いないだろう。

 ふよふよと浮かぶ蛟が開口一番言ったことは


「風音、やりすぎ」

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