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魂のアリカ  作者: 白鴻 南
1:魔法少女と異世界人
17/88

01-16

 水色に輝く魔法少女から這う這うの体で逃げ出した一樹たちは九重の元へとやって来ていた。魔法少女と戦うのは厳しそうだという正直な感想を言うために。あれと敵対していては命が幾つあっても足りはしない。場合によっては戦線からの離脱の旨を伝えに来たのだ。

 報告を聞いた九重は「成程、そいつは困ったな」と呟いて遠い眼をしていた。


「いや、困ったのは俺だって。家で寝てたらいきなり魔法をぶち込まれたんだぞ?身バレしてたらどうすんだ?」


 それこそが重要なことだった。一樹は魔法少女を捕らえ、一樹のことをどれくらい調べ上げたのかを聞き出そうとしてあの水色に襲われた。音速以上の速度で以て自由自在に駆け回る水色の魔法少女は一樹の攻撃を全て躱してみせた。

 それだけでも脅威だというのにあの水色は山だろうが消し飛ばすミサイルみたいな魔法を放つ。正面から構えれば発動兆候を加速された思考で捉えられるが、不意の一撃相手ではされるがままだ。

 一樹は情報戦に既に負けている。安全を期すならばもう自宅には帰れない。そのことを心配しているのだが九重は「大丈夫、大丈夫」と他人事だ。


「君が逃げだした魔法少女の名は風音。最強の魔法少女にして、今の魔法少女が使っている魔法の開発者だ」


「それを聞いてどうして大丈夫って結論に至るんだ?」


 相手が分かれば対処が出来るとかそういう次元じゃないだろうに。

 しかし、九重は「それが出来るんだよね」と自信満々だった。


「だってあの風音って君の幼馴染だもん」


「へ?」


 九重は何を言っているんだ?幼馴染?俺に魔法少女の幼馴染だと?

 混乱する一樹が黙ったまま固まっていると、九重は焦れたのかとっとと話を進めるべく魔法少女の正体をバラす。


「だーかーらー、魔法少女・風音は君の幼馴染、風間四音だ」


「んー?」


 風間四音といえば小学生のころからの付き合いで、傍から見れば俗にいう幼馴染という関係に見えたのかもしれないが、一樹の意識としては同い年の姉の友達だ。それでも時たま挨拶や世間話をするせいか近しい存在に見えるのだろう。

 そんな姉の友達のクラスメイトは才色兼備な学校一の美少女。何をやらせても全国大会で上位を狙えるリアルチート。その正体が魔法少女とはむしろ納得がいった。


「それじゃあ何か?俺を助けたのって」


「一樹君のことを知ってたからだろうね。だからこそ、一樹君にはリスクを冒してでも賭けに出てもらう必要がある」


「賭け?」


 おいおい、ここでも賭けに出ないといけないのか?一日に一体何回命を賭けさせられるんだ?カイジだってもう少し間隔空いてただろうに。


「風音に正体を明かそう。そうすればあの風音を敵に回す可能性がぐっと下がる」


 九重の言いたいことは分かった。けれど


「いや、それ負けたら死んじゃうよね?俺死んじゃうよね?」


 問答無用で山事消し飛ばすような魔法を虎視眈々と狙ってくるような奴だ。存在を確認した段階で攻撃してきても一向に不思議はない。果たして正体を明かしたからといって見逃してくれるだろうか。

 一樹と四音は幼馴染の様で幼馴染ではないのだ。そこまでしてくれるかはかなり微妙といえる。

 それに何より四音はやると言ったら必ずやる女だ。その四音が一樹を敵に回すというのであればそれは絶対に敵になるのだ。

 しかし九重は「だからこそだよね」と一樹を否定する。


「明かさないならそのまま敵として処理されるよ?なら自分から明かして敵対する意思はないことを伝えておいてもいいんじゃない?」


 九重の意見も分からなくはない。しかし、既に身バレしていた場合は関係ないんじゃなかろうか。

 とにかく今日は一旦帰って襲撃がなければ正体を明かす、襲撃が来たら即逃げる、で落ち着いた。

 その夜、魔法少女からの襲撃はなかった。



 一晩明けた学校での昼休みに幼馴染を呼び出した。人気のいない体育館裏まで呼び出すと一樹は声に出さずにスマフォに『結界の中で話そう』と打って見せた。

 それを見た瞬間、四音から放たれた殺気に今すぐ逃げ出したくなった。四音は一樹を睨みつけたまま無言で結界を展開し、その中へと飲み込んだ。


「一樹、これは一体どういうことか説明してくれる?」


 久しぶりに四音が怒っているところを見た。最後に見たのは小学生の時だから実に四年ぶりか。その怒気は静かに、けれど確かな威圧感を与えてくる。

 殺気を放っている当の四音は見た目平穏そのもの。だがきっとこれは殺気を制御しきっているとかそんな感じなんだろう。

 殺気に気圧されながらも一樹は言葉を探す。


「何から説明すればいいか悩むところだが、掻い摘んで説明するとだな」


「掻い摘んで説明すると?」


「魔法少女に命を狙われている、と言って通じるか?」


「何故命を?」


「ほら、俺、記憶消去されたはずじゃん?」


「そうね」


「消えてないじゃん?」


 四音はそこまで聞いて盛大に溜息を吐いた。一樹が四音に何が言いたいのかを察したのだろう。


「それで昨日、お前と戦ったんだよ。危なく死ぬところだった」


 一樹がぽっとなんてことないようにカミングアウトをしてみれば、言われた四音の表情は固まった。それから少しして「あの鎧武者は一樹だったの?」と問うので首を縦に振って肯定する。

 四音は腕を組み何かを考えるようなポーズを取った。

 一樹は構わず話を進める。


「それでな、あの水色がお前だって聞いてな、俺は別にお前と殺し合いたいわけじゃないんだ。だからどうしようかと思ってな」


 それは偽らざる本音。一樹と四音は小学生の時からの付き合いだ。中学に進学してから疎遠にはなったものの、それは一樹の姉の死や四音の親の事故など様々な理由からで、別に二人に何かがあったわけじゃない。

 それに一樹は一度、魔法少女の四音に助けられている。命の恩人を殺すような真似はしたくない。もっとも殺せるような気は微塵もしないのだが。


「四音には四音の事情があるだろうから、助けてくれとまでは言わねーよ。でも、アレは俺だと言っておきたかった。それでも俺を殺しに来るっていうのなら殺し合うしかなくなるが、それはそれさ」


 そう、やり合いたくはないが四音には四音の事情がある。話したうえでそれでも四音がやるというのであれば一樹も覚悟を決める。

 しかし、四音の方はそれ程気にした様子はない。むしろ事情を話したことですっかり怒気が失せている。


「そう、なら言っておくわ。いつ来るかは分からないけど一樹は魔法少女に狙われている。まだ身バレはしてないはず。というか昨日の魔法少女たちの襲撃ね、厳密には一樹を狙ったものじゃなかったのよ。アブダクターっていう、まあ、魔法少女が駆除するやつが一樹の家に突っ込んでね、それを攻撃してたのよ」


「は?」


 固まる一樹をよそに四音は展開を更に一転させる。

 

「でも、昨日の一樹の戦闘で魔法少女達は鎧武者姿の一樹がここ最近起こっていた魔法少女失踪事件の黒幕か何かだと思い始めているわ」


 四音から聞かされる情報は全く覚えのないもので一樹の情報処理能力は一時停止した。

 まず魔法少女失踪事件って何?と思考したところでどうにか言葉を絞り出した。


「何それ、俺全く知らないんだけど」


「でしょうね。私も昨日知ったばっかりだし」


 一樹の知らないところで話は勝手に大きくなっていた。

 ていうか昨日の襲撃は、俺を狙っていたわけじゃなく、たまたま俺ん家に攻撃が当たっただけだと?それなのに俺が出て行って魔法少女を殺したりしたもんだから、魔法少女失踪事件とかいう訳の分らん事件の黒幕と勘違いされている?どうしてそうなった。完全にごか⋯⋯

 そこまで考えて一樹は一人の男のことを思い出した。

 一樹と出会う前から魔法少女と敵対してきた男。

 一樹と魔法少女が戦うことになるだろうと予測し、自分に都合のいいように巻き込んだ男。

 妖刀の作者にして使い手の男。


 その名は九重刀仙(ここのえとうせん)


 確か九重って一人で魔法少女を潰してるって言ってたな。それか?それなのか?俺がそれと間違われたのか?

 よく考えてみれば共通点が多くなるのも肯ける。一樹の戦闘は九重から貰った竹千代、九重はおそらく何かしらの妖刀を使っているだろう。どちらも特殊な能力を付与した刀だ。血痕なんかを調べても刃物によるものとしか判別できない可能性もある。

 何かそんな気がしてきた。犯人が九重のような気がしてきた。

 一樹が知り得る限りの情報をかき集めると犯人が九重以外に考えられなくなっていく。

 一樹は初めから事件の渦中にいたことに気付いた。しかしそれは他人からは分からない。黙っておけばいいだろうと蹴りを付けた。

 問題は今後の魔法少女対策だ。


「魔法少女って何で戦ってるんだ?」


 九重の話では適当な嘘で騙されて戦っているに過ぎない。戦う動機をどうにか出来れば戦いを回避できるかもしれない。よしんば出来なくとも相手のモチベーションや信頼を揺るがして仲間割れでもさせればその隙を突いてどうにか出来るのでは、と考える一樹。

 しかし、四音の話は一樹が想像していたような簡単な話ではなかった。

 もっと単純な話だった。


「単純に魔法が使えるからでしょうね」


 魔法が使える。ただそれだけのために彼女たちは己の魂を異世界人に差し出したというのか。

 しかし考えてみれば一樹も似た様なものだ。他人のことをとやかく言うことは出来ないと考えを切り替える。

 魔法が使えるから魔法少女になった。それはいい。けれどそれだけでは何の手掛かりにもならない。一樹はもう少し何かないか「それだけ?」と問い返す。

 それを受け、四音は溜息を漏らすと魔法の有用性をいくつも上げてくれる。


「それだけっていうけど、魔法少女になるって学校生活ではかなりのアドバンテージなのよ?綺麗になるし、成長はしても老化はしないし、成人した元魔法少女は自分の意志で年老いていくの。美魔女ってやつね。

 それにムカつく奴はぶっ殺せるし、大抵のことは魔法でどうにか出来るし、ならないという選択肢がないわ。なり得る素養があるならなりたいでしょうね。むしろ素養があってなりたくないなんて言った子はいないんじゃない?

 インターミドルの出場者なんて魔法少女ばっかよ?」


「マジで!?」


 これはインターミドル出場者のことじゃない。魔法少女は魔法が使えるようになる、ただそのためだけに魔法少女となり魔法を使って好き勝手しているということを指している。

 しかし、当の魔法少女からしたらそんなことは当たり前なので話の流れはインターミドルの方へと繋がってしまう。


「マジマジ。中学生の時は全国出場で凄かったのに高校では続けなかったとかってあるじゃない?あれの半分は元魔法少女ね。魔法少女じゃなくなったから出来なくなったというのが真実でも、事情を知らない人間への説明は「止めたからブランクが」とか言っておけば何とかなるのよ」


 それからも色々と話を聞いていたが、魔法少女に高尚な理由や物語の登場人物のような背景があるわけでもないことがショックだったと同時に怒りが沸いた。そんな奴らに命を狙われるとかふざけんな、と。

 絶対に死んでなるものかと決意を新たにする一樹。

 そうなると気になるのは目の前の四音のことだ。彼女は小学生のころから何をやらせても最上位に位置してきた者だ。今の話の流れだと彼女も魔法で今日までの輝かしい成績を叩き出してきたのではないのかと疑ってしまう。

「それじゃあ四音も?」と訊けば「それは違うと」否定された。


「私の場合は学校がやれやれ煩かったのよ。警察にも通報したんだけど、話が通用しなくてね。それだけ凄い才能があるんだからやらないともったいないよ、とか。君のことを思ってのことなんだからとか。余計なお世話だっていうの。無視してたら嫌がらせしてくるし、ほんと何度ぶち殺してやろうと思ったことか」


 おぅ藪蛇だった。

 それからしばし愚痴が続き、相槌を打ちながらそういえばと中学時代を思い返す。一時期、四音がやたら不機嫌な時期があったこと。その当時の担任はやたらと生徒にスポーツを強要していたと問題になったこと。

 魔法少女が如何にして自身の障害を排除するのかということを聞いた一樹は考えることを止めた。

 ⋯⋯もう過ぎたことだ、忘れよう。


「そうか、お前も色々大変だったんだな」


「まったくよ。ここの学校は歌恋がいるから煩くなくて助かってるわ」


「歌恋って、まあ歌恋だしな」


 歌恋とは二人の共通の知り合いで一言で言えばやばいところのお嬢様だ。傘下グループの会社だけで経済が回るほど大財閥の一人娘。帰国子女で海外の大学を飛び級で卒業したのに何故か四音と一緒に高校に入って来た変わり者。

 授業中にパソコンで商談したり、企画書書いたり、たまに決済書類にハンコを押してたりしていて学校ではぶっちゃけ浮きまくっている。

 しかし生徒でありながら複数の会社を経営する現役JK社長の社会的な地位で既にそこらの大人を凌駕している。彼女が黒と言えば白であっても黒になるだろう。つまりそういうことだ。

 そんなすごい奴とどういう繋がりなのかといえば、歌恋の父が財閥の総帥で、四音の母がその元秘書。そしてどういうわけか俺の姉が総帥とお知り合いという繋がりで、俺も歌恋と知り合い。そんな奇妙な人の縁だ。

 歌恋のことは今はいいだろう。問題は魔法少女の方だ。


「まあ、何でもいいや。四音は俺と敵対しない、戦わない、それでいいんだよな?」


「ええ、私は関わらない。それでいいのよね?」


「ああ、それだけで十分だ。他の魔法少女は襲ってきてもどうにかなるだろう」


 というよりも四音さえいなければどうとでもなりそうというのが九重と一樹の見解だった。昨日戦った感じでいいのなら十分にやっていける。というか一樹にしても九重にしても四音の強さがどうかしているという認識だ。

 

「でもいいのか?魔法少女を裏切るようなことして」


 ここは確認しておいた方がいいだろう。四音は騙し討ちをするような性格ではないが何かと面倒臭がる女である。一樹を殺すよりも放っておく方が面倒臭くなったらきっと殺しに来るに違いない。

 そう思っての質問だったのだが当の本人はあっけらかんと言い放つ。


「ああ、その辺はどうとでもなるの。魔法少女は強さが第一だから」


 魔法少女は魔法少女で想像以上に殺伐としていたことに軽くショックを覚える一樹であった。

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