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プロレスラー、異世界で最強無敵の剣闘士に転生する!   作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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フライング・メイヤー

 剣闘祭【エメラ12歳の冬】


 ヤマトさんの頑張りのお陰で、無事剣闘祭に出場出来た。


 人数がまだまだギリギリなので、ヤマトさんとクレイドルさん、ハッチさんは皆休み無く試合に出るのだけれど、皆嬉しそうだった。


 しかし、若い剣闘士が多いマット剣闘士団は、ヤマトさんとクレイドルさん以外殆ど負けている。


 頼みの綱のハッチさんも勝ったり負けたりだ。


「うわぁ……! ごめんよー!」


 気絶していたハッチさんが目を覚まして最初に言った言葉は謝罪の言葉だった。


 試合から戻って来たヤマトさんに向かって謝るハッチさんに、ヤマトさんは笑いながら手を左右に振る。


「仕方ないことだ。剣闘祭は選りすぐりの者達が集っているのだからな」


「う、うぅ……団長ぉ!」


 ハッチさんは泣きながらヤマトさんにしがみ付き、そんな声をあげた。


 すると、ヤマトさんは笑顔でハッチさんの頭を撫でる。


「だが、勝てる試合は何度もあったぞ。相手に有効打を与えられないからと焦ったのが敗因だ。明日から心に余裕が出来るまで特訓するぞ」


「はい!」


 ヤマトさんがそう言うと、ハッチさんは涙を拭って返事をした。


 おかしい。あの場所は私のものの筈。


 私はモヤモヤしながら見つめ合うヤマトさんとハッチさんの横顔を眺めていた。


 そして、マット剣闘士団の予選落ちが決まった次の日、トルベジーノ王子様がヤマトさんを訪ねて来た。


「特別試合?」


 ヤマトさんが首を傾げながらそう尋ねると、王子様は凄く綺麗な銀色の髪を揺らして頷く。


「ああ。王が是非ともマットの戦いを観たいと仰るのだよ。悪いが、頼む」


 王子様はとても親しみやすい雰囲気でそう言って帰っていった。


 ヤマトさんは相手がメイヤーさんであると知り、難しい顔で唸る。


「スペシャルマッチか。何か盛り上がる仕掛けが欲しいな」


 ヤマトさんは何かを企んでいるようだった。






【対メイヤー戦】


 闘技場の真ん中で獣のような咆哮を上げるメイヤーさんに、私は苦笑する。


 試合前にヤマトさんなら頼まれたことを忠実にやってくれているのだ。


 凄いツノが付いた兜に長い黒髪を振り乱した格好のメイヤーさんが吠えると、かなり迫力があった。メイヤーさんが剣闘祭でも目立つくらいの強さを持っていることを知っている観客の人達は、そんなメイヤーさんを見て歓声を上げて手を叩いている。


 そして、メイヤーさんが勢い良く反対側の扉を振り返った。


 すると、それを合図にして扉が開き、奥からヤマトさんが姿を見せる。瞬く間に最高潮の大歓声が闘技場を包んだ。闘技場内で響く太鼓の音も激しくなっていく。


 二人は闘技場の中で顔を見合わせると、同時に走り出した。


 助走を付けて剣を振り、激しい音を立てて剣を打ち合わせる。


 いきなりの激しい攻防に観客達は総立ちになって声を上げた。


 ヤマトさんが剣を振り、メイヤーさんが盾で受けて反撃したと思ったら、ヤマトさんはそれを紙一重で回避して足を突き出す。


 メイヤーさんが剣を突き出せばヤマトさんが剣を振って弾き、メイヤーさんと同時に盾で殴り合う。


 息をつく間も無い激しい応酬だ。


「マット! マット! マット!」


「メイヤー! メイヤー! メイヤー!」


 二人の名を叫び観客達と太鼓の音が重なる。


 と、ヤマトさんの剣を弾き飛ばしたメイヤーさんが、その場で跳んでヤマトさんを蹴り飛ばした。


 助走もつけていないのに、メイヤーさんの飛び蹴りでヤマトさんはゴロゴロと地面を転がっていく。


 いつもとは逆の光景に観客達から驚きの声が上がる中、ヤマトさんは片手を地面に付いて顔を上げた。


 片膝を付いて肩で息をするヤマトさんに、観客達は声援を送る。


 すると、メイヤーさんは見せつけるように剣を掲げ、地面へと投げ捨てた。


 ざわざわと観客の戸惑う声が響く。メイヤーさんが試合を放棄したと思ったんだろう。


 それを見て、ヤマトさんが顔を上げてメイヤーさんを見て苦笑し、同じように剣を捨てた。


 そして、困惑する観客達が見守る中、二人は試合開始の時と同じように同時に走り出した。


 そこからは思い切り力を込めた拳での殴り合いだ。二人は一発一発を全力で殴り合う。


 剣で戦うよりも地味な気がするのに、不思議と観客達はどんどん興奮し、大きな声で声援を送り始めた。


「マット! マット! マット!」


「メイヤー! メイヤー! メイヤー!」


 大声援が響き渡り、二人は笑いながら殴り合った。


 この流れは、ヤマトさんがメイヤーさんに頼んだ通りだ。


 メイヤーさんは前回の戦いで負けたことが相当悔しかったらしく、ヤマトさんから素手で思う存分やり合わないかと聞かれて了承した。


 剣で戦うことへの拘りがあるのかと思ったら、メイヤーさんはヤマトさんに殴られて気絶したことが一番嫌だったらしい。


 なので、今度は俺が殴り倒してやると豪語していた。


 そのメイヤーが、ヤマトさんの腕を掴んで思い切り振り回した。


「ぬぉお!」


 メイヤーさんの叫び声が聞こえたと思ったら、ヤマトさんが投げ飛ばされて地面に倒れ込む姿が目に入る。


 すかさず、メイヤーさんは倒れたヤマトさんの頭目掛けて足を振り下ろした。


「あ!」


 思わず、私も声を出してしまった。観客達も同じだ。


 しかし、私達の心配をよそに、ヤマトさんは地面に倒れたままメイヤーさんの踏み付けを避け、反対にメイヤーさんの両足を掴んで立ち上がった。


 メイヤーさんが地面に背中から倒れ、ヤマトさんはメイヤーさんの足を掴んだまま回り始める。


 次の瞬間、驚くべきことにヤマトさんに振り回されるメイヤーさんの身体が浮いた。


 グルグルとメイヤーさんの身体がヤマトさんの周りを回り、ヤマトさんがメイヤーさんの足を離すと、メイヤーさんは空をブワッと飛んでいく。


 何メートル飛んだだろうか。


 地面に背中から落ちて転がったメイヤーさんはフラフラと立ち上がり、ヤマトさんを睨んだ。


 そのメイヤーさんに向かってヤマトさんは走り出す。


 メイヤーさんはフラフラしながらもヤマトさんを殴ろうと拳を突き出し、ヤマトさんはそれを避けながらメイヤーさんに飛び付いた。


 メイヤーさんの首を腕の真ん中で叩き、そのままメイヤーさんの首に両腕を巻き付けて背後に周り込んだ。


 そして、メイヤーさんが背中から倒れるのに合わせてヤマトさんが跳ぶ。


 一瞬でグルリと場所が入れ替わったヤマトさんが、首と胸の辺りを押さえながらメイヤーさんを地面に叩きつける。


 低くこもった音が響き、メイヤーさんはまたも気絶し、動かなくなった。


 ヤマトさんが両手を振り上げて勝利を観客達に知らしめると、観客達が大きな歓声を上げてヤマトさんを讃える。


 後で、剣闘祭は負けてしまったけど、盛り上がったので満足したとヤマトさんが語っていた。王様からも褒美としてお金や防具などを貰ったので良かったと思う。


 ちなみに、またも気絶して負けたと知ったメイヤーさんは歯を嚙み鳴らしながらヤマトさんを睨んでいた。


 メイヤーさんは怒ると凄く怖いことを知った。



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