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剣闘士(グラディエーター)

書きたくなって書いてしまいました!

一週間建国、社畜ダンマスもしっかり書きたいと思いますので、ご容赦ください…!




 歓声が響き渡る闘技場(リング)……。


 木板を並べた粗末な入場ゲートの向こう側から光が漏れ込み、さながら天国への扉のような雰囲気を醸し出している。


 石や歯の混じった砂を裸足で踏み締め、俺は軽く肩を回して口の端を上げた。


「……さぁ、行こうか。これ以上待たせるわけにはいくまい」


 俺はそう口にすると、熱気溢れる扉の向こう側足を踏み出した。


 木の板の留め金が外され、俺は顔を上げて胸を張る。


 闘技場(リング)に上がり、俺は片手を挙げて観衆に応える。


「マット! マット!! マット!!!」


 大地を揺らすような歓声が響き渡り、俺の名が叫ばれる。俺の名は(ヤマト)だが、何故かマットと覚えられた。


 まぁ、良いだろう。


 その方が叫びやすいなら、そちらの方が応援も盛り上がる。


 俺が身体を回して観衆の声援を煽っていると、反対側の入場ゲートが開かれた。


 途端、闘技場の中で驚き、困惑する声が広がっていった。


 顔を向けると、そこには人一人分くらいはありそうな巨大な棍棒を手にした巨人が立っていた。


 いや、人では無いか。


 身長三、四メートルはありそうな不自然に長い手と肉厚な身体つき。毛の無い灰色の肌と白く濁った瞳と尖った耳。


 確か、トロールとかいう人型モンスターだったか。


 最近では俺の強さが徐々に露見してきてしまったせいで、まともに人間の相手をすることが無くなってきてしまった。


 だが、(ギャラリー)がいるなら其処は俺の戦場だ。


「掛かってこい。この俺が相手をしてやろう」


 俺はそう言って、トロールに向かって自らの両拳を打ち合わせてみせた。






【過去】


『おぉっと! リングアウト! ヤマトが外に弾き出されました!」


 マットが引かれた床を転がり、息が止まりそうになる衝撃を堪えながら、俺は片手を床について顔を上げる。


 リングから対戦相手が降りてきて、俺の髪を片手で掴んで観客にアピールをする。


 その力に、対戦相手の若さを感じる。


 もう四十を越え、動きにメリハリをつけるのが難しくなってきた。


 だが、王者として簡単には負けられない。


 俺は自分の頭を掴む手を握り、相手の肘が内側に曲がるように捻る。


 相手はわざとらしく痛がりながら地面に膝をついて仰け反った。実際には本当に痛いだろうが、逆に演技をしているな。


 俺は若者の見栄を張る姿に口元を緩め、立ち上がった。


 跪く相手に覆い被さるようにして胴体を両手で掴み、持ち上げる。


 勢いを付けて持ち上げた相手を、反動をつけて地面に叩きつける。


『や、ヤマト! 場外でパワーボムだーっ! チャンピオンが怒っている! 怒りのパワーボム!』


 相手は地面に倒れ込み、動けなくなる。


 俺は怒ったふりをしながら、辺りを見回してからリングへ上がろうとした。


 リングに足を掛けてロープを両手で掴んだその時、今倒れたばかりのはずの相手が俺の両足を抱くように持った。


 ちょっと待て。それは受け身が取れないだろうが。


 俺がそう思った瞬間、景色は反転。


 流れ星のように流れる天井にぶら下げられた照明。


 階段状になった観客席を埋め尽くす観客達。


 そして、パイプ椅子と移動式フェンス。


 それらの映像が流れ込んできたと思った次の瞬間、世界は暗転した。


 鼻や口の中で血の味が広がり、体の感覚が失われていく。


 最悪だ。大体こうなった後は、控え室か病院のベッドの上だ。全く、こんな歳になっても……。





 目が覚めて、俺は薄っすら瞼を開いた。


 革製の靴や木の匂いがする。


 指先が触れるのは、布などでは無く草のような感触。


 天井は丸太のような木が剥き出しになった天井だった。


「……何処だ?」


 俺はそう呟いて、ゆっくりと上半身を上げた。こういう時に普通に起き上がると眩暈に襲われるのだ。


「目が覚めたか」


 低い男の声が聞こえ、俺はそちらに目を向ける。


 石と木の板を組み合わせたような不思議な壁を背に、半裸の男が立っていた。


 暗い茶色の獣の皮の悪趣味なパンツを履いたその男は、片眼に眼帯をしていた。短い金髪と筋骨隆々というべき見事な体躯が特徴的な美青年だ。身体中に大小様々な傷があり、それが迫力となって俺に威圧感を感じさせる。


 俺が男を見上げていると、男は腕を組んで鼻を鳴らした。


「……逃亡奴隷にしては健康的過ぎる。お前も剣闘士(グラディエーター)か?」


「……剣闘士? 違う、プロレスラーだ」


 俺はそう答えて、思わず自分の喉に手を当てた。自分の声と思えない、若々しい声がしたのだ。


 手を見てみると、瑞々しい肌とハリのある筋肉に覆われた腕頭が目に付いた。脚も全盛期の頃の鍛えに鍛えた太い脚に見える。


「……どういうことだ」


 俺が立ち上がって自らの身体を確認していると、男は首を傾げながら眉根を寄せた。


「……なんだ? 服か武器でも盗られたのか? 諦めろよ。行き倒れていたのを発見したのが奴隷商人だったのが運の尽きだ」


「え?」


 男にそう言われ、俺は思わず生返事を返す。


 奴隷商人?


 そんな存在がこの日本にいまだに存在していたのか?


 それとも、ある種の隠語なのか?


 俺が男の言葉の意味を理解しようと頭を捻っていると、男は息を漏らすように笑い、壁から一歩こちらに近づいた。


「……ふ、悪い奴では無さそうだな。盗賊の類でも無さそうだ。俺はクレイドル。剣闘士をしている。このノア王国の中でも上位の実力を持っている。俺に教えてもらえる事を幸運に思えよ」


 クレイドルを名乗るその男は、そう言って笑った。


「あ、ああ。俺は倭だ……ん? ノア、王国?」


 俺は自己紹介を返しながら、クレイドルの台詞の内容に混乱した。


「マト? やっぱり下民の出か。まぁ、殆どが下民の出だ。気にせずに戦えよ」


「いや、ヤマトだが。ちょっと質問していいか?」


「なんだ?」


「ノア王国とはどの辺りにある?」


 俺がそう尋ねると、クレイドルは心配そうな顔で俺を覗き込むように見た。


「……大国の一つであるノア王国を知らないのか? 何処の田舎の出だ?」


「日本だ」


 俺が答えると、クレイドルは肩を竦めて首を左右に振った。


「全く知らないな……ノア王国ってのは、ニューサン山脈とドラゲート海に挟まれた場所にある世界最大の領土を持つ王国だ。本当に知らないのか?」


 クレイドルはそう言って、俺の反応を眺める。


 俺はそんなクレイドルの言葉に答えることも出来ずに、ただ呆然と立ち尽くしていた。


 クレイドルが嘘を言っているとは思えない。


 だが、そうなると、俺はいったいどうなったんだ?



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