この世界では勇者も聖女も優遇されないよ
教皇スティングが勇者の男を感激の表情で見ている中、ユリア王女は異彩を放つ4人のことを気にしていた。
周りが勇者のことを尊敬の目や嫉妬の目で見る中、勇者のことなんか目に入らない様子で4人で笑いあう彼らのことがどうしても気になり、話してみようかと近づいた。
「あ、あの」
あまりにも楽しそうな4人だったので、間に入るのは王女であっても勇気がいった。
しかし、彼らは王女を快く迎え、いつもの妹自慢を始めた。
王女は、まさか異世界のことやステータスのことでもなく、彼らの妹の自慢がいきなり始まるとは思わず初めは困惑していたが、心の底から妹のことを愛して自慢する兄たちと、そんな兄たちを尊敬し慕う妹たちを見て、ついつい王女も妹自慢に加わってしまう。
兄たちは、おっ王女様もいける口じゃないかと心から喜び、教皇スティングが呼びに来るまで妹話で盛り上がった。
王との謁見が行われることとなり、歓喜した者は2人居る。
1人が勇者の称号を持つ坂崎康太、もう1人が聖女の称号を持つ平原潤。
坂崎は自分が勇者に選ばれることを当然のように思っていた。通っていた高校ではイケメン・運動神経抜群・成績優秀と高校中の注目の的であった。もっとも、性格に関しては褒められるものではなかったのだが。
そんな彼は王にユリア王女との結婚を勧められるものだと確信していた。
当のユリア王女は兄妹たちとひたすら話していたのだが、それに気付くことはなかった。
もう一方の平原も通っていた学園で毎日のように告白されるほどの美少女であったが、そんな彼女もまた乙女ゲームのように逆ハーレムが出来ると、美少女にあるまじき荒い鼻息をふんすふんすしていた。
この2人は2人ともが自分は選ばれた存在で最高のステータスを持っていると信じていた。
坂崎康太
種族:人族(異世界人)
職種:勇者
レベル:1
HP:200
MP:150
STR:150
VIT:150
DEX:100
AGI:150
INT:100
MND:150
LUK:50
スキル:【剣術:5】【光魔法適性:6】【闇魔法耐性:5】
称号:【勇者】
平原潤
種族:人族(異世界人)
職種:聖女
レベル:1
HP:150
MP:200
STR:100
VIT:100
DEX:150
AGI:150
INT:100
MND:150
LUK:50
スキル:【回復魔法適性:5】【聖魔法適性:5】【闇魔法耐性:5】
称号:【聖女】
だが現実はこんなものである。一般兵士の平均ステータスが20程度ということからすると格段に強い。ただ現時点では仕方ないが兵士長には余裕で負ける。
そんな彼らに王は望み通りの言葉を掛けるわけはない。
「召喚した理由は先ほど述べた通りだ。さて、これから1年掛けて訓練と勉学を行い魔王との戦いに挑んでもらいたい。指導役として王族専属の教師を付ける」
坂崎は王女との結婚話がなかなか出ないことに疑問を持っていたが、まずは別の恋愛かと意識を変えようとしていた。平原はまずは教師との恋愛かと期待に鼻を膨らませていた(誤字ではない)
そんな彼らに王は国で最も優秀な者たちを招集して指導にあたらせた。勇者である坂崎に付いた指導役は40代の王国騎士団長と50代のベテランメイド長が、聖女である平原には60代の魔法師団長と70代の元学園長が付いた。勇者と聖女が意識を飛ばしたのも無理はない。
なお、兄妹たち4人はまとめられたのだが、彼らの指導役にはユリア王女が立候補し、ユリアの妹であるシスティ王女と共に教えることとなった。