神生
暑い。暑いというより熱い。肌に突き刺さる陽射しが細胞一つ一つを駆逐しているのが分かる。足元はきめの細かい砂で覆われ、その上を歩くことによって塵が舞い上がり喉元に突き刺さり水分を枯らす。
殺す勢いで迫る自然に人が順応できているのはやはり生まれた土地に慣れようとするからであり、他地域になんの知識も持たず踏み込んだ者は最悪、死にまで追いやられる。
俺たちは今、死まで残り数歩。助けに来たはずが助けを求めひたすらに歩く。完全に砂の迷宮に迷い混んだ。しかもニューメキシコの夏の砂漠に。何処に建物があるのか、何処に人がいるのか、何故ゆえあんなにもアバウトな場所を教えたのか、あー考えるだけ酸素の無駄遣いだな......
「ま......ち......?」
ついに幻覚を見始めたようだ。あんなにいつもは強気な不知火が、よりによって......
「今までありがとな......不知火......」
文化祭での悲劇のヒロインの役者のような大根演技。少しでも希望を持たしてくれた君に感謝してるよ。ありがとう。
「いや、勝手に殺すなよ。本当だぞ悠一。ちゃんと見てみろ」
お前まで......東郷、お前はいつも俺達の為に男気を見してくれてサンキューな。
「来世会おうな......」
「おい、殴るぞ?、お前にも見えるよな恵」
何故か悲しみに満ちた目で東郷を見つめる恵。両手を胸の前で合わせながら一言。
「本当に頭が暑さでパーンしちゃったのね......」
「パーンはしてねぇし、死んでねぇよ。え?何反抗期なの? お前ら二人の頭をパーンしてやるよ。ふざけてねぇで見ろや。お前ら二人の頭が既にパーンしてることに気付くから」
「はは、何を言っているのか分からないなー。あははってええええ!」
目を通常の二、三倍は見開かせて口を開けたまま指でひっきりなしに指す。それ見てまたも両手を胸の前でがっしりと合わせながら感動する大根ヒロイン恵。
「アホだな。さっきから言ってるだろ」
途方に暮れ呆れる。悠一はまだしも大根ヒロインの方は根っからの天然。そして極度のアホ。
「今さらって感じね。というか、杉田くんと恵ちゃんはもっと緊張感を持ちなさいよ。これだから彼女なし、どうて」
「やめろ、それ以上言うな。“い”って言うな。悲しくなる」
雨の中に長時間さらされた犬のように小刻みに震えしゃがむ悠一に「ほら」と、手を差し伸べる。
「え? 急展開。もしかしてツンデレだったりして」
ニヤニヤしながらからかう悠一に頭の中の爆弾の導火線に火が点く。三ミリぐらいの。
「うるさい、黙れ童貞。ろくに生きてこなかったオタニートめ。覚悟しなさい」
次の瞬間、誰が放ったかも分からない速度でストレートが飛んでくる。いや、まあ想像はつくのだが。
そんな、崩れてぐちゃぐちゃになったお豆腐メンタルと頭上にたんこぶを乗せた、お豆腐チェリーboyと町を見つけた感動に未だに浸る大根ヒロイン、そして正統派?の二人を合わせた四人は“神討伐ギルド”として誕生した後、小手調べに確かに見えた見知らぬ町に突入する。
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ーーーーー来てはみたもののーーーーー
「店、どこもやってませんね」
困ったように恵は話しかける。
「店どころかさっきから人すら見かけねぇぞ」
「この暑さじゃ出てこれないわよね。でも頑張りましょ」
不知火はホントに読めない。清楚なのか、ツンデレなのか。
「お前時々キャラ変わるよな」
無視。
「え?ひどい。素直に泣きそう。あ、でも家で俺になんか言ってたよね。“私の気持ちもっ察してよっ”みたいな」
お豆腐メンタル発動。だが、お豆腐メンタルとは思えないほどのアグレッシブな発言。
「今の私の心を察しての発言かしら? あ?」
右手の拳に血管が浮かび上がるほどに力を入れて顔の前に。そして目元がサイコパス。
「あのなお前ら、俺達の状況を考えろ。水も食糧もろくに無い。それに一文無しだ。一刻も早く人に会わなくちゃだめだろ」
「東郷はいい旦那さんになりそうだ」
「なんか言ったか?」
少しふざけたが東郷の言うことは全て正論であり、生きるために必要な事である。
ーーーーーそれからしばらくしてーーーーー
おそらくここまでであろう最端地点に着いた。全然嬉しくないし収穫ゼロ。水と食糧は今夜分のみ。
絶望だ。絶望は飯を不味くする。非常食であるご飯は水気が多くべちゃべちゃ。おかずの缶詰が鯖の水煮。いや、合わねーよ。せめて味噌煮が良かった、このお粥よりゆるーいご飯はなんだ? もはやご飯じゃない、こんなんご飯の水煮みたいなもんじゃないか。あ、狙ってないぞ。そんなことじゃなくてだ、どーすんだよマジで。もう二日目だよ、この生活。もう、いいのではないか?私は十分頑張った。メロスも十二分に頑張ったよ。あーでもダメダメ。助けなきゃいけないんだよな。そろそろ解決......ってあれ? めっちゃいい匂いしね?
有機物が燃えて香ばしい薫りとみたらし団子のような甘くて少し塩気のある香り。しかしみたらし団子のタレだけでなく食欲をさらに煽り立てるニンニクの隠し味。食欲は加速を始める。そんなことも知らずに香りは嗅覚を満たしていく。他の三人は気付いただろうか? 教えてあげよう。
「みんな助かるかも知れんぞ! このクソ飯生活から......」
気付いてたぁぁぁぁ。既に見えねぇじゃん。俺も連れてけや。
スタートダッシュをミスった時のやるせない気持ちに駆られる。
「あいつら......」
本能のままに香りの道筋を辿り走る。そして、しばらくしてから少し賑やかな声が聞こえてくる。
刹那、左脇腹に痛みを感じる。腹の虫が泣き出した訳でもましてやただの腹痛と言うわけでもない。明らかな外部からの干渉であり損害である。
そして悠一は恐る恐る前方に向いていた顔を痛覚のある方向に向ける。
滲む血、染まる服、刺さる弓、刺さる弓、刺さる弓。
一点に集まるように刺さる弓は合計三本。
それを理解した時に最初に来たのは心拍数の極度なまでの上昇。そして、動揺。目の視点は定まらず揺れに揺れ、そのまま下半身の力が抜ける。意識はぼやけるばかり。前にもこんな経験をしたことがあったような気がする。いつだったろうか。あぁ、あの時だーーーーーーーーー
ーーーーー所詮、雑魚は雑魚だな。ーーーーー
「善意をもって戦場に来ただと? 某の力を分かっての事か。某を愚弄するのもそこまでにしろ」
ここまで来たのに。死ななくて済んだ人だっていた筈なんだ。それなのに何故......何故彼の回りには死体がこんなにも......
「アレスっ......もういいだろ。我にはこれ以上殺す理由が見当たらない! 自分が何をしているのかを分かっているのか」
「黙れっ! 某の神能力 “城壁の破壊者”っ!」
次の瞬間、十二神の内の一人、アレスの目が狂気のめで埋まる。そして、其処らに山ほど落ちていた建物の壁であったコンクリートや屋根などが中に浮かび上がる。さらにアレスは身に纏っていたコートの裾から手を抜き出し対象者の姿に手を重ねる。すると、彼の手からは邪気の塊とも思えるほど黒い何が放たれる。
その邪気が我の体を纏っている......だと?
そう気付いた瞬間には既に体は中に浮いており、物凄いスピードで中に浮いている瓦礫にぶつかる。
「ぐはっッ!? ッペ。口の中がぁぁあ?」
急に邪気に解き放たれるのはあまりにも不愉快であり、吐き気に襲われそして吐血もする。
体は完全に使い物になら無い。
「所詮、雑魚は雑魚だな。某は疑問だ。何故、力を持たぬ貴様が最高神なのか。某には分からぬ。何故、某が最高神で無いのか」
何が最高神だ。成りたくてなった訳じゃない。
これ以上に己の弱さを恨んだのは初めてだ。こいつを倒さなくちゃいけないんだ。いつか必ず、こいつの息の根を潰さなければっ......
「何故、我を殺さない」
「おぉ、まだ生きておったか。何故かと聞いたか。それは雑魚を殺しても趣が無いからな。貴様が強くなって某を殺しに来たとき、必ず圧倒的な力で貴様を粉砕してやる。まぁ所詮、雑魚は雑魚だがな」
また、それか。だが、雑魚は雑魚なりに生きてきた。人々を救おうと生きてきた。死んでいい人なんていないんだよ。ただお前のような冷酷な神を生かしておいたは駄目だ。必ずこの手でお前を殺すっ。
「アレスっ!」
「おやおや目覚めたっすか?ゼウスっち」
え?今なんて?
「どうしちゃったっすか、そんなに怖い顔しちゃって」
だから何がだ?今俺はどこに?
「お久し振りデース。元気にしてたっすかゼウスっち」
ゼウス?なにをいっているのか......
「ちなみに起きて早々アレスっちの名前を叫ぶなんてどんな夢見てたんすか」
アレス? 憎い奴だ、そうだ憎い奴だっ
「アレスっ......お前を必ず」
「オーイ。ちゃんと見て!覚えてないっすか?私ですよ私。ゼウスっちの唯一無二の友達っすよ?」
憎しみをぶつけようと立ち上がる俺の目の前に居るのは......女性?か?
「ホントに覚えないらしいっすね。ちょっと悲しいけどもう一回友達になりましょ」
ホントに分からない。俺にはただの女性にしか見えない。
「んじゃ、改めまして。私は十二神の内の一人、
伝令神 ヘルメス というものっす。よろしくっす」
そんな自己紹介を受けたのはなにもないコンクリートで出来た地下室だった。
早いですが二章突入です!二章は長くなると思います!