十二神創
いつ寝たのだろうか?あぁ、あの後か。
昨日は散々泣いたうえほとんど何も飲んでいない。それ故、喉の完全なまでの砂漠化は悲鳴をあげ全身に覚醒を促し、俺は跳び跳ねるようにそして悪夢に飲み込まれるのを拒むかのようにして起き上がる。
息はあるが喉がやられていた。そして体が鉛のように重い。
「ーーーーーーーー」
ゴクンッという音を何回か鼓膜を通して感じる。
するとすぐに体内の水分メーターは通常運転切り替え、喉の方は完璧とまでは言えないが声は普通に出せるまでに回復した。
特にすることもなく、何かをしたいとも思わなかった。このまま死んでしまおうかとも思った。
“遣る瀬ない” こんなものが血液中を流れているのかと錯覚するぐらいに活力を見いだすことが出来なかった。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
ただただリビングのソファの上で座り目の前の机を眺める。
本当に死のうか、そう思い始めた頃に机の上の携帯がバイブレーションで机と共鳴する。
「はい。誰ですか」
興味のない返事をする。
「おぼっちゃま! 何故電話に出なかったのですか! 何回も何回もかけているのに!」
「それで何が言いたいんです? 電話にでろと? 分かりました。それでは」
もう脳も何も働かなかった。脳は愚か携帯に出るだけで極端な倦怠感に襲われる。
「お待ちくださいませ! おぼっちゃま。とりあえず基地まで来てください。早急に!」
「来ればいいじゃないですか」
「分かりました、こちらが向かいます。その場に居てください。それとプログラミング出来る準備を」
そこに返事は無く。電話を切った後の音が響いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーピーンポーンーーーーー
もう来たのか。
ガチャン
あぁ、開けたまんまだったか。泥棒とか入ってきたりしたらどうしよう。
あぁ、殺される。いいね。いいじゃないか。いっそのこと殺してくれ...... え?
「悠ちゃんの事が心配で....その、来ちゃった的な?」
いや、ありがたいけどお前じゃない......なんで
「悠一。いくら寝ぼけてても鍵はしめろ」
なんで
「そうよ、杉田くん」
お前が居るんだよ。昨日あんなに酷いことまで言って、自ら突き放しておきながら、なんでなんで......何故
「なんで......だよ」
「あら、来ちゃ駄目だったかしら?」
「そうじゃねぇよ。なんでお前は......俺があんなにも酷いことを言ってここに......」
孤独感とは怖い。しかしそれを抜け出したときのスパイスになることも今日で分かった。あんなに泣いたのにまだ出てくる涙をありがたく思った。嬉しかった。辛かった。
この感情が脳内を行ったり来たり行ったり来たり。
「違うわ。あなたの為になんか来てないから。そこの充電器を取りに来ただけよ」
「あぁ、それでもいい。ここにいてほしい。辛かった。泣きたかった。共有したかった。もっと遊びたかった......」
どんな理由でも、そこにいてくれれば。それだけで......
「ゴホンッ。大切な局面を崩してしまい、申し訳ありません、おぼっちゃま」
いつから居た? 背筋に戦慄が走る。
全く気付かなかった。戦場であれば瞬殺であったであろう。
「い、いつからそこにいたんですか?」
「それはこちらが聞きたいですよ。なぜここにいて携帯もあるのに出ないのですか?まぁいいです」
仕方なかったなどと自分を誤魔化して正当化しようとするのはもう懲り懲りだった。
「すみませんでした。それで用件は?」
「あなたの大切な方が拐われました。しかもこの案件は警察には相談できません。あなたにしか解決出来ない問題なのです」
ウソ......だろ? まて、俺が昨日あんなことを言わなければ....テムリンは......でもまだテムリンと決まったわけでは......
「また杉田くん後悔? やめな。今は解決する方法を考えるしかないでしょ?」
不知火には何もかもがバレている気がする。いい意味で。
「それでどうすればいいのですか?」
「犯人を殺すしかありません」
何を言っているんだ? 殺す?殺す?そこまでしなくてもいいんじゃないのか?
「なんで殺さなきゃならないんですか?捕まえればいいじゃないですか?」
「捕まえてどうするおつもりですか?言ったでしょう、警察には言えないと。それに犯人の目的はあなたです」
また、俺が回りに害を及ぼすかもしれないと思うと鼓動が早くなる。
「ボクですか......分かりました。ですが、殺す理由を教えてもらわない限り殺すことなんて出来ないですよ」
それはそうであった。いまからやろうとしていることは自分にとって不確定要素の塊である対象の破壊。意味もなく殺してはホントにただの凶人である。
「ここで話を聞いたからには今回の作戦に参加してもらわないと困りますよ?そこの三人の方々」
「席を外してもらえるか?」
心底から失うのが怖かった俺は素直にうんと肯定を促して欲しかった。だが、
「覚悟はできております。何せ俺らは悠一の友達だからな!」
残りの二人も無言で肯定する。
これ以上やめろと自分の口からは到底言えなかった。
「では、時間も無いので端的に説明しましょう。
今では幻、伝説のヒーローとなっている悠一総統だが彼は実在した。その彼はあの戦争の真の勝利者。しかもたった一人だけでの。そんな手駒の少ない彼が勝てた原因というのが今回の事件にもつながる彼の異能力“十二神創造”。この名前の通り十二の神を作り出す事が出来たんだよ。そしてその中の一人、全知全能神として造り出されたのがそう」
指を前に突きだし指したのは紛れもない悠一であった。
「俺がか?......続けてくれ」
何も言えなかった。あまりにも唐突な宣言であり理解には時間がかかるということが瞬時に分かる。
「よろしくて。おぼっちゃまの全知全能の異能力はそのままでは発動しません。残りの十一の神の全てを倒した時にのみ分かる永続的な能力です。彼は戦争の時にいかにして今の記憶を残すかを考え全知全能を産み出しました。
そして、なぜ今回のような事件に発展してしまったのかを言いますと、おぼっちゃまのように同じタイミングで産み出された神々はやがておぼっちゃまに芽生えた孤独感や喜怒哀楽、つまり自我が芽生えだしたからです。神々に欲が生まれれば神の掟に反して闇落ちしてしまいます。それが原因です。」
大体は把握できたが一つ分からない。別に俺が殺さなくても良いのではないか? 例え俺が神であろうと殺す理由が見当たらない。
「大体は分かりました。ですが、俺が殺す理由が見当たらないです」
すると旗佐浜さんは
「造り出された神々は事実上死にません。」
なおさら意味が分からない。
「と、言いますと?」
「全知全能神は確か最高神じゃなかったか? それに関係する何かとか?」
これまで沈黙を貫いていた東郷秀助が発言する。
俺も薄々感じていた。ギリシア神話のオリュンポス十二神との関連性について。
「いかにも。最高神である君が他の十一の神の心臓を止めた時にあなたの体内に神の魂だけが収納され人に戻るはずです」
やはり関係があったか......
「じゃあ悠ちゃんやることが決まったね!」
さぁ始めようと促す恵であったがその直後に割ってはいる低い声。
「だがな、そう簡単に倒せるものではない。そのために悠一おぼっちゃまにはプログラミングをするようにと準備を促したのですが」
「プログラミングで何をするんですか?」
「武器だよ。生身で乗り込んで神に勝とうなど百パーセント不可能じゃよ。なんせ約十万人を一週間で皆殺しにしたグループの一員だからのぉ」
さらっと怖いことを言われたが気がするので聞き流すことにしたが入ってきた。いや、怖すぎだろ。そんなやつにテムリンが....などと思うと焦りが募る。いやもっと早くに焦るべきだったんだ。
「それでどんな武器を作れば?」
「それはお主らに任せるわい。それじゃわしは帰る」
そして、電話に出なかったことにすこし苛立ちが見える旗佐浜さんは玄関に向かおうとする。
「ちょっと話したいことがあります。東郷達、俺の二階の部屋を探してプログラミング機材の起動を頼む! 手順は教科書通りだ」
分かったと短く頼った甲斐があったと思える返事を聞いて安堵する。
そして、
「旗佐浜おじいさま。一つだけ聞いてもよろしいでしょうか」
「一つにだけじゃぞ」
満面の笑みで答える。
「なぜこんなにも詳しく知っていられるのですか?」
先程までの笑みが急に消える。
「知りたいかい?」
「もちろんです」
口を開くのがスローモーションに見えて音の振動が伝わってくる。
「“英雄”悠一の父で師匠でもあった。」
そして、次の一言で全身が固まる。
「息子を殺したのは紛れもない俺だ」
と、まるで当時の若さを取り戻したかのような力強い声で言い放し、悲しみと怒りをその場に残して風の如く見えなくなる。
コメント、レビューお待ちしております。
今後、更新遅れると思いますが内容としてはどんどん加速しようと思います!