満月に咲くことなかれ
更新遅れてすみません。不定期投稿ですが、お許しください。今回もどうぞ楽しんでください!
せっかく外に出たのだ今日は遠回りをして帰ろう。
良いことなんてないのだろうけど。人の本当の姿はどんなに優しいと思える人格者であろうとそれは表面上だけであり、心底は醜い。けして信じられるものではない。けれどもそれは俺の固定概念なのかもしれない。長い間引きこもり続けた結果なのかもしれない。それから目を背けているだけなのかもしれない。そして変化が怖いだけなのかもしれない。
けれども俺は自らの意思で、いとおしい存在を作り出し変化を産み出した。彼女を作り出した、俺には幸せにさせる責任があり、それを苦に感じるなどあってはならない。まずはその第一歩を踏み出さなければ。
「あ、あのそれくれますか?」
「おうよ!150円な」
周囲の音に負けないぐらいの屋台のおじさんの元気な声が鼓膜に響く。でも流石に最初からこの場所はキツいな......
ここは神田川沿い。秋葉原の研究所からの帰り道で納涼祭が行われていたというわけだ。当然、沢山の人で賑わっていた。
秋葉原よりも道が狭いということもあって人口密度が高い。
「ありがとうございます」
屋台のおじさんの手から伸びてくるのは細長い果実の上に甘い香りを周囲に撒き散らす茶色い粘性のある液体。
初めて見る食べ物の甘い香りに手を出さずにはいられなかった。
玩具をもらった小学生のような目の輝きを見せ一口パクリと食べる。
「うまい! おっさん、これなんてやつなんだ?」
「お前さんチョコバナナを知らねぇのーか?」
店主が呆れ顔で返答する。
「知らなかった、こんな上手いもん初めて食べたよ! おじさん十本くれ!」
「おまけしといてやるよ。長い間この屋台やってるがチョコバナナごときでこんなに喜んでくれる客はお前さんぐらいだよ」
よく見るとパックの中には十二本のチョコバナナ。そして悠一はお金を払ってこの場を去ろうとする。
「お前さん、今日は友達と来たのか?」
突然の問いに足を止められる。そして、チョコバナナの時の興奮を失い答える。
「友達なんかいませんよ。一人です。それじゃあ失礼します」
と言ってから振り返り、足を踏み出そうとしたとき視線に入ったのは見覚えのある制服姿の三人組。心臓の拍動数が急上昇。破裂しそうだ。
そして少し離れたところからこちらを指差して
「あれ悠一じゃねぇか?」
気付かれたーー。
「あっ!本当だ!何年ぶりだろー。会いに行こうよ!」
く、くるな。
「引きこもりの犯罪者予備軍ね」
うるせぇーよ。聞こえてるからな? というか久しぶりに会って最初の発言それかよ!
「もうなんでいつもアカリンは悠ちゃんのことそーゆー風に言うの? 普通にオタニートって言えばいいじゃない」
お前は俺を一番傷つけてることに気づけ。
「そうだぞ、明莉。あいつは確かに巨乳好きのスケベ野郎だったよ。けどな、俺だって好きなんだよ!」
お前に限っては意味わかんねぇよ! 何言ってるの? バカなの? アホなの? まじでもう我慢できねぇ言わせておけばペチャクチャペチャクチャ
いよいよ沸点に達する。そして三人組に自ら近づいて行く。全員おっという感じで見守る。
「お前らな言わせておけば......勝手に公共の場でネガティブキャンペーンすんじゃねぇーよ!まずなんだよ犯罪者予備軍って!それと俺は巨乳じゃなくて美形派だよ!」
「それが犯罪者予備軍と言われる理由でしょ? まだ分からないの?」
ごもっとも過ぎて何も言えないのが悔しい。いっそのこと逃げ出したい。口を詰まらせると屋台のおっさんが一言。
「お前さんも友達いないなんてジョーク言うなんて面白いな。それにしてもいい友達をもったな。ほら皆にもあげな!」
そしてチョコバナナを三つ差し出す。売上の方は大丈夫なのであろうか。
「どこがですかっ!それにこいつらは、友達なんかじゃ......」
悠一は否定をするがそれ以外の三人は何も否定せずに
「じゃ、ありがたくいただきまーす!はむはむ......んーーおいしーーー!」
先程、俺の心を絞め殺した凶悪犯である。何がオタニートだよ。
「私も頂こうかしら」
整った顔立ちにスラッとしたスタイルと艶めく長髪の黒髪。毒舌さえ無ければ完全に惚れている。
「店主さんありがたく存じます」
主人公感溢れる美青年。これまた頭がおかしい。
「それで悠ちゃん。オタニートがこんなとこで何してるの?珍しい」
「やめろそれ。別にいいだろ何でも」
「よくねぇーだろ。高校入ってから急に来なくなったんだから。気になるに決まってる」
しつこい質問に堪忍袋がキレる
「だから何でもな......」
言っている途中に他の声が混ざる。
「無くないわ」
気付いた時には体の前面に温もりを感じていた。両肩を通り抜け、後ろの首で何が交差している。昔に感じたことのある何か。そして再び何かに気付いたが、それは自分の頬を涙が流れていることだった。
あれ、何で俺はこんなことぐらいで......
「ここじゃ、話しにくいわね。人気のない場所に移動しましょ。おじさんありがとね」
「お、おう。なんかよくわかんないけど頼んだ」
そして、四人一行は移動を開始する。
「悠一。肩貸すぞ、ほら」
肩を差し出してくる美少年の東郷秀助。
「大丈夫だ、一人で歩ける。ありがとな」
そして、五分位歩いただろうか。正直言って気まずい、大分気まずい。なんで誰も喋らないんだよ。やっぱり俺はいない方が......
「大丈夫よ。俺がいるからこんなに喋らないんだとか思ってるなら思うだけ時間の無駄ね。いつもこんなんだから気にしないように。気にしたら殴るわ」
ご名答。からの完璧なまでの毒舌。
「わーったよ。んでどこに行くの?」
はっきりいってどこが目的地なのかが不透明であった。
「どこって......悠ちゃん家に決まってるじゃない!」
でたな凶悪犯。いやまてそれ以上におかしい。なんで俺の家!?
「いや待ってくれよなんでなんでなんで?ええぇ?さっき人気のない場所って」
「だからそうじゃない。あなたの家は人気なんてもの皆無じゃない。何を言ってるのかしら」
いや、そーだけども今は違うんだよ!まてどーしよどーしよどーしよ!!!!!
「そうだ!近くに公園がある。そこにしよう。な?」
「おい、もう着いたぞ悠一」
東郷に言われて気付いたが着いてたー。完全に視野が狭まってたよ。ヤバイどうにかして止めなきゃ。
「おっ邪魔しまーす!」
「いや、まてまてまてまてまてまて、待ってぇーーー‼ いやまてよ冷静に考えて開くはずが無い。俺が鍵を所持してるからな。っふざまぁみろ」
そんなことも気にせず凶悪犯こと朝比奈恵を筆頭に残りの二人が突撃。そしてドアを開けようとするとあちらから開けてくる。
いやオカシイおかしい。
次の瞬間、怒号が聞こえてくる。
「おっそそそそそそそそーーーーーーい!!!!!」
頬をパンパンに膨らまして腰に手をあて怒る美少女を見て、毒舌女 不知火明莉が鼻でハッと嘲笑うのが満月の夜空の下に散った。
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