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具現化ヒロイン。  作者: 橘コウヘイ
第二章  記憶との対峙
14/23

オガタ=エル

水上都市ワンノックアイランド編

「あの......どゆこと?」


と真っ青になった顔を傾げたのは悠一だった。ヘルメスとの戦いを終えてからというもの気絶して何も覚えていない故にこの発言である。いや、覚えていても大抵の人はこの反応であろう。少し座っているような、ねっころがっている感覚に襲われたのは恐らく飛行機の少し高いクラスにでも乗って日本に帰っているのだろうと思っていた。が、考えが浅はかだった。


「どゆこと? ってなんすか。どゆこともなにも帰ってるんすよ日本に」


すっかり口調が戻っているヘルメスは血の気の引いている悠一とは裏腹に悠然としていてにっこりと語りかけてくる。


「そーゆーことじゃねぇーよ! 何で飛行機じゃないんだよ! 助けてくれぇ......死ぬ......」


上空何千メートルだろうか。雲はこちらを見上げ、太陽は近づいて見下ろしてくる。突き刺さる風は霰のように固く冷たくとても痛い。端的にいって最悪である。


「だってお金ないじゃない」


とこれまた悠然としている不知火が呆れ顔で答える。言われてみればそうだが、もっと他に方法はあったはずなのだ。例えばヘルメスの空間を移動できる能力であったり。


「お前の能力使えただろ!?」


「二つ目のやつっすか? なら使えないっすよ。あの技は自分が知らないやつだったんすよね」


とさらっと衝撃的な事をカミングアウトする。二つ目の能力はかなり有能で使い方によれば今後の神討伐はかなり迅速かつ効率良く終了を迎えられたのだが。


「は!? なんで!?」


「てかゼウスっちを殺したくなったのも急にだし、技に限っては知らぬまに行ってたというかなんというか」


良く分からないが計画が散ったのは確実だった。それ故か少しだが悠一の形相は苛立ちを帯びている。その形相を横切るように風が少し長めの前髪を揺らし悠一は何か考え出すようにして顎を触る。そして先程までの苛立ちでは無く腑に落ちない顔で三十秒程放置した会話を取り戻す。


「まぁ、その話は後でゆっくり話そう。今はそれより気になることがある」


「なんすか?」


「どうしたんですか?」


「どうしたの?」


「どうしたんだ?」


「なにがよ」


と、先刻の戦いで加わった二人を除き全員が聞き返してくる。一人刺があったので一瞬首を引き驚くが咳払いをして再び話し出す。


「いや俺もしばらく考えてみたんだが理屈が分からない事がある。今俺らは普通に話してるだろ」


「あたりまえじゃないですか」


と、久しぶりに自分専用ヒロインの登場。容姿、表情、声、どの観点からも満点。目がとろける。


「久しぶり! まじで会いたかった」


そんなヒロインの登場で話の方向を捩じ伏せ二人は進路を失い完全に二人の空間に入り込む。


「ほんとだよ! 私、悠一に何回も何回もメールしたんだよ!?」


「悪かった......君を一人にさせてしまったこと謝るよ。それと後で一緒にあのサイコパス野郎をぶん殴ってやろうな?」


「あぁ、能力使いたいっす。まじぼっこぼこにしてやりてぇっす」


完全に薔薇とキラキラで周囲の見えなくなった二人に殺意を覚えたのは少なからずヘルメスだけでは無かったはず。だが殺意を表面化させたのはヘルメスだけであり、それに対して東郷は大人な対応を見せる。


「ほら二人とも戻ってこい。俺の体験したことの無いリア充はお家で満喫してください」


大人の対応に思春期の未開拓地領域を組み込み、辺りを静けさで包ませる。


「いや、その悪かった東郷。まじでごめんな」


「うるさい、もういいから。そういうの一番辛いから」


「分かった。ごめんな」


「いま、分かったって言ったよな!? なんで謝るんだよ!?」


と自分で埋めた地雷にかかり弱味を刺激する。それを悠一に問いかけるが意味が無い。自分で脱線させた話をレールに戻すために突っ掛かる東郷に見向きもせず話しだす。


「えぇとそれでだ、何が不自然と言われればあたりまえに聞こえているこの会話自体が不自然なんだよ」


全員が何を言っているのかと言いたそうな顔をして見てくるが何も言わないのでそのまま続ける。


「だって考えてみろ、この天使のスピード。遮蔽物の無い状況下においてこの速さの中には当然生じる物がある。それは風が空を斬る音。ビュービューと聞こえるはずだ。それなのにその音は一切聞こえない。おかしいと思わないか?」


すると、ここまで口を封緘されていたかのような天使が初めて声を発する。


「私の名前は緒方依流。私は天使じゃなくて堕天使よ、宜しくね。それとその例のやつだけど」


「何か知ってるのか!?」


大人びた口調で話している最中に割り込んでくるのはもちろん悠一であり手には力が入り思わず乗っている大きな依流の翼を握ってしまう。すると依流はあっと小さい吐息を漏らす。


「その......翼はそんなにさわらないで......っん」


顔を赤らめ擽られた子供のように身体を少しうねらせ、乗っていたの全員はバランスを崩し全員で両翼を掴む。すると今度はさらにバランスを崩し視点がひっくり返る。耐えに耐えられなくなった依流は、


「やめ......やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


と雄叫びをあげ、雲に向かって急降下を始め髪も服も柳が風を受けて音を立てる。頬も風が入りパンパンに膨らみ乾燥をもたらす。


「何!? お前の翼そーゆー系のあれなの!?」


「うるさいっ! うるさいっ! うるさぁい!」



降下中でも何故か通じる会話に違和感を感じながら、また右半身に喰らう翼で殴られる衝撃を感じながらまた、加速してドライアイになる。そして身体を器用に依流に向ける。


「何すんだよ! いてぇだろ!」


「わたしの......わたしの翼を掴んだのが悪いんでしょ!」


ただ怒る悠一に対し依流は涙目になりながら両翼で自らの身体を抱き反抗する。


「ふーたーりーとーもぉ! 何してるのこのままじゃ死んじゃうよ!?」


と今まで何も喋ることの無かったもう一人の紅蓮を纏った美少女がここになって登場し、まともな事を忠告する。


「大丈夫。この翼好き変態男以外は私が何とかするわ」


「翼別に好きじゃねぇし、掴んだの俺だけじゃないから! 変態は......否めねぇ......。まぁとにかく俺も頼むよ? なぁ? 」


必死に乞うがその話に聞く耳を持たない依流はそっぽを向いて両翼を羽ばたかせている。


「し、しぬぅ......あ、俺死なないんだった。」

 

降下する力には摩擦は一ミリも加担せず空気抵抗さえも物ともしない進みかたで見知らぬ街へと飛ばされる。

 

***********************


口の中は砂埃でパサついており、地面から感じられる感覚は以前のようにさらさらとしたような砂漠感は全く感じられずに剛性の高いコンクリートのように思える。それが角張った膝の骨と頬骨を痛めつける。ということは今この状態はうつ伏せだろうか。

 うつ伏せの人、兼神に両サイドの建物から影が落ちる。そして暗闇に支配されている路地の出口には街灯の光が射し込む。その光の中には何本もの脚の影が投影されしきりに動き続ける。さらには波の音であろうか。波が寄せては返り、返っては寄せて岩にぶつかるがその打ちつける力はは蟻ほどに小さく心臓に優しく語りかける子守唄のようであった。それ故であろうか。こんなにも浮わついた街中で唯一静けさを帯びているのは。


咳き込む。また咳き込む。そして影を纏ったまま立ち上がり口元を袖で拭う。腕に力の入らないままふらつかせ歩く。そして、光を目指して歩きだしふと建物に挟まれた路地の上を向き星を見る。特に意味は無かったが、


「星が綺麗だな」


しばらく見つめてから再び歩きだし光の射し込みの少し手前で驚くべき光景を目にする。


「どうなってんだ!?」


興奮が溢れ口に出してしまい道に広がる人混みの視線を集めてしまい手を頭の後ろに手をあて少し首を前に倒す。視線は元に戻り再び人混みは動き始め足音が轟く。が、その音に負けないぐらい川のせせらぎが聞こえる。というのも水路地が見る限り全てに繋がっている。それに地面に流れるだけでなく、上にもつまり水路地を二次元と捉えれば三次元だろう。そして、ぼろぼろの服を身に付けたまま通行人に聞く。


「すみません。ここどこですか?」


「ここかい? ここは水上都市ワンノックの二十六番水道地だよ」


水上都市ワンノック。聞き覚えの無い地名に顔を傾げるが、考えたとこで分かるわけでも無いため悠一は繋がり続ける水路地の水と共に仲間を探すべく街中へと歩きだした。




今回からしばらくは水上都市ワンノック編です!

今後も宜しくお願い致します。

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