快楽の彼方
ーーー死んでしまったのだろうかーーー
そんなことがふと頭を過る。
この温もりに抱擁されている感覚、そして全身がふわっとした心地よい脱力感。これが、人間の言う死というものならばいままで想像していた事は全て無駄になるだろう。
このようなことは夢想だにもしなかった至福よりも強い快感、そこから来る死んだという実感。
それが繰り返される落差があるからこそくる快感の増大。
これを味わってしまって人間界に戻れと言われて戻る奴がいたらバカだと嘲笑する。
にしてもこれはいつまで続くのだろうか。視界だけでなく、五感すべてが失われた状態では例え死んだと言っても怖さというものはある。などと思っていたとこで重い瞼は開くことを拒む事無く、ゆっくりと幕を開ける。まぶしい。
あちらこちらに存在する瞬間的な閃光は両目を光の矢となり撃ち落とす。
そんな中で感じられたのは穏やかな風と赫灼の太陽から出ているのか分からないがいい匂い、また木々の葉と葉が擦れてさっさっと優しく共鳴し音が音を追いかけるようにして耳に入ってくる。
そして、光の矢の部隊は遂に滅び目の前の景色を確認する事に成功する。
「花畑......か?」
目の前に広がっていたのは背丈の低い赤褐色やオレンジ、白や黄色などの花達。今も癒しを分け与えてくれているのはこれらが原因らしい。アロマのような効果だろうか。甘過ぎず雑過ぎず鼻に残る嫌な臭いでもなく、ただただ丁度良いとしか言えない。
「黒百合に永良部鉄砲百合、小鬼百合に博多百合まで。多分ここにある全部は百合科だな」
現実世界では確実に出会うことの無い場所にまたも死んだのだと実感させられる。これは本当に最高の場所だと悠一は思う。そういえばなんだっけ、
「百合の花言葉って」
ーーー純粋、洗礼された美ーーー
「あ、そーそー」
百合の花言葉。まさにぴったし......ってあれ?
俺今だれかと......
「あ、そーそー。......じゃねぇよ!起きろ、アホ」
そんな太い聞き覚えのある、声が聴覚に届き中枢神経に行き届く前に目眩に襲われ立てなくなる。
「おいっ!はやくっ!」
という声と同時に強制的に覚醒が促される。さっきまで鮮明に見えていたがぼんやりとして物が抽象的にしか見えない。そして体に付きまとっていた疲労は無くなり残る嫌な感覚と言えば左胸付近、だがけして痛くは無い。
「離せっ......雑魚神がっ!」
理解した。
快感に浸され忘れていた記憶が呼び戻り、理解に到達する。壁に押し付けられながら左胸には物騒な武器、それを必死に抜かれなように手を血だらけにしながら抑える。
視界はまだ完全に戻ってはいないがうっすらと見える狂神とその後ろに立つ三人。その三人が持っているのは計四本の鉄の塊。
ーーー紛れもなくあの鉄の塊は、いやあの武器は....ーーー
「今だっ!俺ごと殺れ!」
釘付けにされている上半身を置いていき顔を前に出し唾を飛ばしながら叫ぶ。
「それじゃあ悠ちゃんが......ダメだよそんなの!」
普段声を張らない性格で感情を表に出さないタイプの恵だったが今回ばかりは顔を紅くして激しく抵抗してきた。
「大丈夫だっ! 俺は死なねぇ、絶対に死なねぇ! だから、だから早くっ!」
「この雑魚の握力はどうなってやがるっ......」
こんなもの気合いだと言わんばかりに歯を食い縛り抜かせないようにする。それに限界が来るのは目に見えていた。
だからこそ早く殺って欲しい。これまで死にたいと思った事はあったが殺されたいなんて思った事は微塵もないから少しわらけてくる。
「不知火......頼むっ!早くしないと持たねぇ」
と、言うと少し顔をひきつり視線を逸らす。普段は毒舌で変わり者の不知火にその表情をされて物凄く心が苦しかった。
「ーーーーーー」
目を少し瞑った瞬間に聞こえてきたのは自分の悲鳴と自分以外の誰かの悲鳴。
そして目を開けるそこに映る下腹部から噴水のように勢いよく吹き出る血潮。それを認識すると痛みは飛躍的に増大する。
「悪いな悠一。恵っ!回復魔法を!早くっ!」
意識が朦朧とするなか片手に血に染まった一本の刀を持ち荘重の表情で回復を促す。この場一番の理解者であり良判断を下してくれた。
「わ、わかった!え......っと“リカバリーポイント”っ!」
そう言って目を背けながら棍棒のような物をこちらに向ける。そうしてから数秒後に来たのは急速に元気になる、などというものではなく、あくまでも元通りでありそれ以上でもそれ以下でもない。痛みはすっと消え立ち上がろうとするが、目の前には人影が。
「君の仲間は君に似てバカでアホでおたんちんでおたんこなすで雑魚で小物でゴミで不調法者で......言えば止まらないし言わなくても脳内が騷めくよ。味方を回復する筈が敵であるこの私まで......類は友を呼ぶとはまさにこの事だね」
と自分に背を向けながら両手の肘を少し曲げ指は全て第二間接で折られ天を向いている。そして、見えぬオーラと言うのだろうか、それとも端的に狂人と表すのがふさわしいのだろうか。
「ごめん......悠ちゃん。ちゃんと見ておけば......」
「今は後悔してる暇なんてないぞっ!策を考えろ!」
「うふふふふっ」
東郷がフォローをするが、それを掻き消すように嫌な笑い声が聞こえてくる。それに東郷は反抗して一言発する。
「何がそんなにおかしい」
「いいねぇ。そうだよ。そうこなくっちゃ面白くないよ。抗え、抗え、この現実に抗え。抗い続けて負けると分かっても抗い続けろ。そして充分私を楽しませて死ね」
何がおかしいと問われて尚、人を笑いそして要求する。死ねと。
「さっきからゴチャゴチャうるせぇよ」
「いい抗いかただよ。最初に殺されに来たのは君か。ゼウス様、いいや雑魚と呼んだほうがお似合いだね」
「お前さっき言ったよな、類は友を呼ぶって。その通りだよ」
「遂に仲間を売って媚びときたか。悪くないね。だけど君は何処までグズなんだ」
と、ニコニコしながら後ろで手を組みながら話の内容に一回一回突っ掛かってくる。それは先程の発言を聞いていた味方陣営もそうであった。
「悠一お前......いい加減にしろよっ!俺がどんな思いでお前を刺したか分かってるのかよ!」
と、血管を浮き出させて激怒する東郷。
「酷いよ悠ちゃん......助けてあげよって絶対に助けてあげよって思ってたのにっ!」
と、歔欷と共に聞こえてくる。
「またそうやって......」
と、呆れられた。
でも全部違う。違う意味でしか捉えていない。しかし、これで良い。これもまた違う。これでなければダメだった。
「あーらら、味方も居なくなっちゃったねぇ。滑稽滑稽。良い展開だね ウフフ」
薄気味悪い笑顔をしているのだろうと想像しながらこう呟く。
「ホントに滑稽だな」
「そうだねぇ。君は流石に......」
「ちげぇよ。お前がだよ」
といってから立ち上がりその勢いを利用して飛び付くようにし、そして自分の腰から何かを取り出す。
「類を友を呼ぶ。これは俺とお前のことだよ」
「天地の差があるこの私と貴様を一緒にするなっ」
「お前の敗因は人を雑魚だ雑魚だと喚き、俺に対する気持ちの持ちようを底辺に置き人を見下したことだ」
そういって腰元にあった短剣で心臓をぐさりと刺す。確実に殺せてれば楽である。刺した場所は慥かに左心房辺りをついている。だから絶対にーーー
「やっぱ簡単にはいかねぇか」
「君みたいな雑魚に私を殺すなんて何千年かかっても不可能。この能力さえあればね」
と続けて高笑いをするヘルメスに一喝する。
「だから言っただろっ!見下したことが君の敗因だと!今だ来いっ!」
そういってから最初に爆裂魔法で吹き飛ばした天井から見えてくる二つの影。
片方は大きな翼を広げて両手には暗紫色の高エネルギーの塊を、もう片方は殴りかかる状態で右手に紅蓮を纏い急降下する。そして辺りを天使の見た目をしている方は辺りを焼き尽くしもう片方は殴りかかるところまでは見えなかったが、殴っただろう。
そして爆風に負けずその場に立ち、今まで向いていたヘルメスの方向とは逆の向きに回転し転がり落ちている自分の武器を拾い上げそのまま横たわる奴に近づく。
「こりゃあの機械の注意事項に加えなきゃいけないな......」
「ーーーーーー」
「これで終わりだ」
と言って今度こそ心臓を貫き、短いながらに濃い戦いに幕を下ろし、そのまま全身の力が抜けるようにフラッと倒れこんだ。
ーーーミッション完了ーーー
ヘルメス死亡。残りの神あと八体。
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具現化ヒロイン(グゲヒロ)
注意事項
一つ、どうなっても責任は一切負わない。
二つ、使用用途は可、不可を問わないものとする。
三つ、本体及び、具現化されたヒロインの売買を禁ずる。
四つ、具現化できるのは文庫化、小説化、アニメ化されたものに限り自己創作は不可とする。
五つ、本体の分解、複製を禁ずる。
六つ、具現化された時点でヒロインには人権が存在し、それを否定することは認めない。
七つ、不正アクセス、ウイルス系統のものは法的に厳重に対処する。
八つ、設定の改編は行えないが行い自体でその後は変わります。
“新” 九つ、ヒロインの能力は作品のものと決して変わらず消えることはない。
十、以上のことを注意して行動すること。
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