希望は絶望のはじまり
その頃、日本では。
“異例の大ヒット‼今の時代一家に一台ヒロインは当たり前?!買うしかない‼”
と、過剰とも思える広告。ここは渋谷交差点前にある特大スクリーン。
人がまるで働き蟻のように群がり互いにすれ違うこの場所での宣伝はかなり有効であり経済を揺るがすことの出来るであろう人数。
そんな人々は今日も仕事に追われ、それが終わればまた仕事に追われる。これを人は社蓄という。そして、現代社会の問題でもある核家族の増加、それに伴う少子高齢化問題。それに未婚者、晩婚者も増えている。そんな未婚者の人々は癒しを求めているのであろうか? いや違う。誰かに自分を認めてもらう、即ち居場所の確保。自分は隠れて頑張っているということを認めて欲しいのである。
そんな欲求を満たしてくれるのがこの機械だとスクリーンは言っている。
一般的な、未婚者サラリーマンの視点から見てみよう。
まず、通勤。次に行うのは端的に言えば仕事と言われるもの。そして、帰宅。
大まかに分けてこのような物だろう。どうだろうか、どこに癒しがある。帰宅してから次の資料の制作やなんやかんやで自分の好きなことはできたであろうか。
しかーーし! ある商品を手にした未婚者サラリーマンの視点から見てみよう。
まず、通勤。ここでの変化を見てもらいたい。なんと電車で座った両隣がなんと見覚えのあるヒロインだったら!
次に、仕事。 またまた、変化を見てもらいたい。なんとあなたの同僚は見覚えのあるヒロインだったら!
続いて、帰宅。 はぁーまた一人飯か......なーーーんて思ったあなた。いや早とちりは良くない!実に良くない。ドアを開けてみてください。そこにいるのは......
実際は買ってからのお楽しみ! ではお値段の方がこちら! 二百万九千八百円!! ねぇお安いでしょ! お電話の方はお掛け間違えないようにお願いします!
などといったテレビCMまで。
悠一の夢見たのは正夢になろうとしていた。人々は余程に餓えていたからこそ釣れたといっていいだろう。実際は悠一本人が一番釣られているのだが。
過剰広告などもありながら着実に進行していた。
それはもちろん、神々にも知りわたることと同じ意味を指していたのだが、それを知るのは少し後の事。
高い金額でも売れ行きは鰻登りに上がっていたとか。
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一方、ニューメキシコでは。
殺す前に聞いといた方がいいのか殺した後に聞いた方がいいのか分からないがあいつらも気になるのでさきに聞いておくことにする。
「あ、あのヘルメスさん」
「なにどうしたんすか、そんなに改まって。前みたいにヘルちゃんでいいっすよ?」
すごい恥ずかしい。羞恥心で日焼けした顔がとろけ出しそうだ。いったい昔の俺はどんなんだったんだ?
「遠慮しておくよ。じゃあ......ヘルでいいかな」
流石にと思いとっさに変えるがさほど大差が無いので恥ずかしいのは変わらない。なんか付き合いたてのカップルみたいだな......
まぁ付き合ったこと無いのだけれど。
「ホントころころ変えるっすねぇ。まぁいいっすよ。それで、用件はなんっすか?」
一瞬、何をしたかったのかを忘れそうになった。
なんだろう、このギャルゲー感は。自分の選択で今後が変わる見たいな。
そんなことはどうでもいい、聞きたいのは
「俺以外に居た三人は知らないか」
ヘルメスは少し考え込むように下を向くがすぐにスイッチで点く証明のように顔をぱっとあげる。だから俺は、
「知ってた?」
彼女は満面の笑みでこう答える。
「いや、全然わかんねぇっす。」
知らないんかい。なんださっきの笑みは。
彼女は笑みを解き、続ける。
「あ、そーいやあの子返すっす。心配しなくても可愛いがってあげたからダイジョブっす」
といって彼女は両手にはめていた手袋の内右だけを外しパチンと鳴らして使いに指令をする。
「あの子持ってきてくださいっす」
と言ってから数分経ってから更に地下の方だろうか。ガチャンと、鉄格子を閉める音が聞こえた。
「じゃあ感動の再開っすね」
と言って使い二人に連れてこられたのはテムリン。だがしかし、絶対に違う点がひとつ。満身創痍。何故だ......さっき可愛いがったって
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふはははははははははははははははははははははははは」
狂気の雄叫び。否、嗤い声である。どこからそのような嗤いが出来るのか知らない、誰が嗤ってるのかなんて知らない。
「どうしたんだ? ヘル」
「やめて、その名で呼ぶな。私の名が汚れるわ」
きっとこれは何かの間違いだ。そうに違いない。だってさっきまであんなにも幸せだったのだから。
「え?」
驚嘆するしか出来なかった。先程までの優しさを帯びたような人が一八〇度豹変してしまったのだから。
「一つ答えてやろう。先程の質問だが、あの三人は良き香りに誘われて今頃バーベキューの具材だろうな」
信じては無いの恐怖心が先行して、膝が地につく。絶対嘘だ、そう思っている自分がいるのにそうじゃないと思っている自分もいる。
「うそ、だよな?」
これしか発することを脳が許さなかった。
「それと、私を殺すとか言ってたわよね。ふざけないで、殺すのは私、死ぬのはお主だ。必死だったよ。ありもしない過去を植え付けてそれをあったかのように泣く姿。笑いを堪えるのでそれはそれは辛い思いをしたわ。滑稽で腹がつるところだったわ。そ、れ、でぇ、最後に言い残しておくことある?」
いよいよ意味が分からない。そもそも俺は町中を夢で溢れされたかったただの思春期真っ盛りのただの男子。こんなことになるとは思ってもなかった。でも、この経験をして分かったことがある。だからなんとしても抗うこの運命に。
「じゃあ、言わせてもらう。あれは嘘じゃない。」
怖い。恐い。死ぬのが怖い。でも、でも、でも
「ほう、死に際になってまだ戯れ言を言うとは趣もない。あれは嘘だ。信じろ」
だからなんだ、知ったことじゃない。そんな思いで、この身が滅ぶ勢いで立ち上がる。こんなにも地球の重力は重いのか。
「ぜってぇに信じねぇ! 君は嘘をついていない。君と話した時に分かった。君の辛さが、君の嬉しさがこんな感情は隠そうと思って隠せるものでもない。だから君は嘘をついていない!」
「黙れっ!」
彼女の額に血管が浮き出ているのが分かる。相当な怒りをかっているが構わない。ここで止まってしまったら結果は変わらないから。だから俺は続ける。
「いいや黙らないっ! 絶対に黙ってなんかやらない! 確かに君は僕に何かをくれた。言葉で表せないほどに熱くて苦しいものを! それを君が忘れたというのなら俺は君にそれを与えるために、何度でも君に話してやる」
沸騰石を入れても沸騰の収まることのない溶液がついに吹き零れる。こぼれた液体は戻ることを知らない。
「黙って聞いていればぺちゃくちゃと喋りおって!殺すっ! 何としても殺すっ! 殺してお前の座を頂くっ!」
そして、彼女は神である為に使える権能。神能力を発動する。それと同時に彼女には誰かに向けるわけでもない憎悪を放っていた。
「それぐらい君のくれたものは大きいっ。喋ろうとすれば勝手に言葉が出てくる。会って間もないのに涙を流すことが出来るっ!それぐらいに君のくれたものは大きいっ、だから、だから絶対に」
喉が張り裂けるのを我慢して必死に伝えたい言葉を口にする。
「確かな物を取り戻すために俺は君を殺すっ!!!」
いつも本当にありがとうございます!




