プロローグ
コミュ障とはコミュニケーション障害の事である。
言葉を交わそうにも言葉が出ない、人の目を合わせることができない、声を出そうにも自分でも何を言っているか訳が分からない、その上頭の中では文句や罵倒しか出てこない。まさに生活において最悪な病気である。
何を言おう自分はその病の患者であった。
コミュ障といえど友達などできないわけではない。中学高校と少なからず1人以上は友達と呼べる者はいた(自分ではそう思っていただけかもしれない)が、卒業してからは全く連絡もとっていないので現在では0人といっても良いのだろう。
高校を卒業してからは、母がパートで働いていたライン工場でほぼコネのような形で入社させて貰っている。そのおかげで面接もどもりっぱなしであったが受かる事ができた。入社してからもひたすらラインから流れてくる物をチェックしたり組み立てたりするだけなので、人と話すこともほとんどなくできて比較的自分に合っている仕事であると思った。
作業しては家に帰り、起きて出社して作業をする、この毎日が自分にとっては生きていることの証であった。恐らく他者から見た自分は只のロボットにしか見えないだろう。だがそれでもいいのだ、生きていることに意味がある。生きる事に価値がなければ自分はもう自殺でもしているに違いない。だがこうして生きているので価値を見出しているという証になっている、それだけでよかった。
ある日私は熱が出てしまった。生まれてほとんど熱が出ていなかった私を母が少し驚いて慌てて近くの病院に連れていき医者に診て貰った。医者は只の風邪だと言って処方箋を出し薬を受け取って家に帰った。おかゆを食べ薬を飲み、布団でゆっくりしていると自分でも熱が引いていくのを感じた。母も安心したのか私の近くから去り、夕食の支度をし始めた。私は帰って布団の中にいた間は目を瞑っていても全く眠気を感じずにいたが、突然睡魔が襲ってきて脳がシャットアウトした。
暗闇、辺り一面はほとんど真っ暗であり、私はその中に立っていた。すぐに夢だと分かったが、ここまではっきりとした状態で夢の中にいるということが珍しいと思った。
少し歩いてみると、突然前から2つの光が差し出してきた。
「どちらか一つを選べ」
どこからか聞こえてきた謎の声に驚き、私は尻をついてしまった。辺りを見回しても二つの光と暗闇しかないのでその声は恐怖でしかなかった。
「さあ選べ」
また聞こえたが今度は驚くこともなく立ち上がり2つの光を見つめた。2つの光をじっと見ても何が違うのか全くわからず、選ぶとどうなるか聞こうとしたが、何と質問をして良いか2~30秒程考えているうちに
「選べ」
また声がした。少しづつ台詞が短くなっているので早く答えなければと急ぎ、適当に右の光に震えた腕を伸ばし指を指した。
「よかろう」
一体何が分かったのかは知らないが聞くに聞けないので腕を降ろし立っていると左の光が消え右の光が大きくなり始めた。忽ち暗闇を覆い尽くすと私も目の前を直視できずに目を瞑ってしまう。
眩しさが消え目を開けるとそこは辺り一面が草原であり、服をよく見ると夢の中ではパジャマであったが、生地が少し硬い茶緑色の服に茶色いズボンを着ており、右手には自分の肩から腰までの刃がある剣と木でできた盾を持っていた。