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第九話 学校・麻生先生

 我が母校、銀杏山学園高等学校につく。

メリサたちには校外で待ってもらって、学校のグラウンド側から裏門を入って校庭に出る。

今はもう学校は春休みだから、部活の生徒など数えるほどしか・・・あれ?

クラブ活動の生徒が以外に多く、校庭が賑わっていた。

陸上、テニス、野球、その他、確かに春の対抗戦があるクラブもあるだろうけど、進級なので、それほど練習が盛んになるはずないので、なんか変な感じがした。

 雅夜と二人、みんなに邪魔にならないように外周を回り、クラブの部室と反対方向の校舎へ進み、このまえの地震で・・・・(メリサたちが西校舎を壊したことを地震のせいにした)・・・東校舎から、階段で3階にあがることにする。

 

 東校舎。こちらは3年の教室が主で、1年生は立ち寄らない上級生のクラスが有る場所。あまり来たことないので、こっちはいささか違和感がある。

 東に面しているので午前が明るく、午後は暗くなる。正午も過ぎた今だと、少し薄暗くなり、それなりの独特の雰囲気がある。雅夜に何かあると聞いてしまったためか、何か不気味に感じてしまうのだ。

 何かが待っている静けさ。そんなものを勝手にイメージして、怯えているかも知れない。

「サトジュン。サトジュンね。」

 並んで階段を歩いているといきなり雅夜が言い出した。

「何?いきなり俺のアダ名を繰り返したりして?」

「サトジュンは、結構、女子の間で名前はよく出てくることを思い出したの。まあ、それじゃなきゃあだ名はつかないわね」

 女子の話題に?なになに?ちょっと嬉しいかも。

「でも何で出てくるの?俺の名前なんか」

「そうね。基準というか、比較対象というか・・・」

「基準?なにそれ?まったく理解できない」

「あのね。女の子は、好きな人や気になる人に対して、『自分の中の1番とか2番とか』順番をつけるの。私の中のベスト何位ってね。男子をそうやってランク付けして見ているの」

「え?品定めかい?」

「男子も同じことやってるでしょ」

 はい、ごもっともで。

「それで頭がいいとか、顔がいいとか、各自の自分の好みを決めるのだけど・・・その時、スポーツ万能が好みだったら、石塚君、堀口君とかを1番にする子もいると思う」

「え、あんな奴らを?」

「例え話よ。たとえ話。・・・それでね。その時にいつもサトジュンの名前も出るの。でも、その時サトジュンの名前出る順位は1番じゃなくて・・・ベスト3にも入らない。・・・」

「そうすると補欠の4位?」

「・・・でもない」

「それじゃあ何位?」

「・・・というと、ナンバー・ファイブ。5位あたりというのが妥当の線かな」

「それ?・・・褒めているの?けなしてる?」

「褒めてるわよ。じゃあ無きゃ言う訳ないでしょ」

 そりゃそうですね。はい。

「それでいつも名前が挙がるのよ。だいたい名前が出ない奴が多いのにサトジュンって出るのよ、十分喜んでいいわ。・・・それと骨折しているもグット。女子は構ってあげたいと思う母性本能を持っているので、そこをそそられる女子も結構いる感じ」

「・・・・でも5位なんだよね。石塚や堀口に負けて五位なんだよね?」

「だから石塚くんや堀口くんは例え話よ。でもサトジュンは誰もが、なんとかなく好いという感じね。まあ、しいて言うと決め手に欠けるという部分は否めないけど」

「待った。それ以上言わないでくれ。とても褒めてくれてる気がしない。傷をもっと深くエグって塩を塗り込んでる気がする」

 はぁ、ため息が出た。いい話かなんて思ったら、なんかがっくりくる話だな。

でもまあ、さっき感じていた不気味さは忘れていた。雅夜もそんな変な空気を感じたので、こんな話を始めたのかも知れない。

 けど自分がどう見られているか知るというのは微妙なもんだ。相手の気持ちだからどうにも、ならない。・・・いや、相手の気持ちだから変えることが出来るかもしれない。 それじゃいったいどうすれば一位になるのか?それはやっぱり・・・

「どこ行くつもり。行き過ぎ」

 あら、考えごとしてたら、雅夜を追い抜いて階段を上がってしまった。戻って雅夜の横に並ぶ。



 東校舎から3階に到着。正面校舎に向かって渡り廊下を進む。

まっすぐ行くと曲がり角。右に行くと視聴覚教室。雅夜は何も言わず、廊下を左側に進み、そこで左に向いて立ち止まる。

「ここよ」

 なにもない所を指さす雅夜。

「左から廻る道があるの」

 あ、そう言われれば、何か記憶を呼び覚ます何かを感じた。

「あ、そうだ。ここに廊下あった。・・・あれ?あった気がする」

 雅夜は壁に手をつき、

「空間の屈折がここにはあるの」

 といい、雅夜はエネルギーを入れて手を押していくと、腕が壁にめり込んでいく。

「あ、入っていく」

「この壁はダミーなのよ。思念のエネルギーで閉じているようだけど、廊下は続いている」

 雅夜に続いて壁を触る。めり込んでいく身体。

そして壁を越えて入って行くと奥に何部屋か教室があった。そこの教室に立てかけられた表札には、第2美術室と書いてある。

「第2美術室?初めて見たかも」

「そうね。そんなものあるとは知らなかったわ。・・・まあ推測でいえば、こういう部屋は物置になっているのが相場。現に廊下に、デッサン用の彫刻や余ったイーゼルなど置いてある」

 奥まっているの角部屋の第2美術室のスライドドアを、ゆっくりと開けると雅夜。

そこは廊下にも外にも窓が無く薄暗い小部屋。

教室の半分ぐらいの広さ部屋の奥に。誰かがいる気配がある。

電気をつけると、椅子に座った人間がこちらを向いていて微笑んでいる。

「いらっしゃい。見つかっちゃったね」

 奥に潜んでいたのは間違いなくダニャだった。

「お待ちしてましたよ」

立ち上がるるダニャ、お辞儀してこちらを向かい入れる。

「なんだよそれ」

 警戒しながら中に進む俺と雅夜。

「ここには長らく、ご厄介になってます。」

 ダニャが部屋の隅にある学校のパイプ椅子を2脚持ってきて、それを置くと、こちらに椅子を勧める。

「立っているのもなんだから」

 俺も雅夜、勧められるまま座った。


「久しぶり。アンド初めましてかな。ミス銀杏山学園、久宝雅夜さん。・・・もう聞いていると思うけど、改めて自己紹介するね。1年C組のクラスに転校してきたサトウジュンイチです。でも本名はダニャ・ロン・シェルパといいいます。ネパール人です。・・・僕はメリサやマルシアたちと同じアースリカバリーユニットARU。ヨーロッパ戦線にある世界の安定と安全に力を注いでいる組織です。・・・その組織が僕を某国からの侵略を阻止するため、日本に送り、そして僕はこの学校に来ました」

 まるで懐かしい友達に合うかのようにニコニコと俺達に話しかけてくる。

屈託のない笑顔につい釣られてしまいそうになるが、こいつを俺の名前を語って生贄しようとしたやつだ。騙されちゃいけない。

「そういえばやっぱり勝手に俺の名前をかたったそうじゃやないか。話が違うだろ」

「(笑って)ゴメンナサイ。だってあの場合仕方ないんですよ。一緒に来た獣人が・・・ラルフ・シェパードっていうんだけど、入国してまだろくに活動もしてないうちに拉致されて殺されてしまい、あまりにも早い攻撃に、これは内通者・・・つまりスパイですけど、いると判断しまして、これはこちらの情報やサポートは使えないとして、全ての連絡を絶って僕は身を隠す事にしたんです。・・・その時、内通者をも騙す必要があったんで、一番多い苗字のサトウにして、・・・そしてここで、たまたま見つけたジュンイチの名前を使わせてもらって、完全に自分をブラックアウトにさせてもらいました。本当にありがとう」

「何が、ありがとうだ。こちらは訳の判らない事に巻き込まれて、人生メチャクチャだ」

「それはすみませんでしたね、謝ります」

 あくまでもにこやかなもう一人のサトジュンに、どうも調子を狂わされる。

「まあそんなことはどうでもいいわ」

 え?どうでもいいのかい?俺の人生なんだぜ。

聞き役になっていた雅夜が質問し始める。

「今、この葛西において何かが起ころうとしているわよね?」

 ニコニコと微笑んでいるダニャ、頷く。

「貴方は、その内容を掴んだか、もしくは情報を掴んだはず。私達はそれが知りたいの。それを教えて欲しいの」

「僕がまず、ヨーロッパから聞いていた情報は、某国が日本に向かって侵略を始めるというもので、その確認と調査を行いました。拠点が東京ということなので、東京を4分割して、世田谷と渋谷の第一地区。練馬と新宿の第2地区。足立、と上野の第3地区。江東と銀座の第4市区と決めて調査を始めました。まあ他の多摩地区は繁華街が少なく古くから住む住民が多く侵略するには目立過つという理由でパスして調べ始めました」

 ダニャは明快に話し進める

「調査は、その地域での某国人の住所、移動経路。某国人の経由地、そういうものを重点的に調べていくもので、これで注目されたのが江東区でした。この江東区には某国人が異常に多く入植していることが判ったからです」

 そういえば、今更ながら俺は思い出す。本当に江東区に某国人が多いと思っていたんだ。スーパーとか安売りの店にいくと物凄い数の某国人がよくいるのを目にしていたから。

「江東区は都心までのアクセスがいい。そして新しく開発されていく町には、人が沢山移動してくる。だからくる人間にあまり警戒心がない。そこに移民が紛れ込んでも見つかりずらいという利点があるんです。」

 顔が判りつらいので判別つかないけど、飛び交う言葉が日本語ではなく、ここは何処だか疑ってしまうほど某国の言葉が溢れているのは確かだ。

「某国のやり方は大量に人間を送り込み拠点作りです。その地域を拡大して、さらに多くの人間を送り込むという方法です。彼らはその国につくと拠点を作り、リトル某国いう町を作り上げて、ネットワーク作りを始めるんです。もうアフリカ、南米、ヨーロッパで、社会的不安な場所に某国人は大量投入されて問題になっています。ヨーロッパではその脅威を知り、過剰な移動は潰しているけど、まだ日本は気づきもしない」

 確かにニュースでアフリカに某人労働者が溢れているって言っている。ODAの名前を借りた移民だって。

「他の国ではまだ未開発な所が多いので土地が余っているから出来るのですけど、日本ではそういう土地が少ないんです。あったとしても都心から離れているので活動しにくいのが現状です。日本はなんといっても東京なのです。首都集中型。これは東京を崩さないと日本は美味しくないのですね。だから彼らはやり方を変え、東京をぶんどる作戦。もとからある江東区をそのまま使い、人間を追い出し、自分たちが入るやり方にしたのです」

「え?それって何?押し出すってヤドカリとかと同じこと?」

「バカねそれは侵略ということよ」

「その通りです」

「その話は、メリサたちにも聞いたわ。具体的にどうするわけ?」

「基本、彼らの主な兵器は虫です。虫を使ってやるということです」

「兵器が虫?あれがあの虫が武器になるのか」

「銃や爆弾を兵器に使うと、すぐに問題になるでしょ」

「お、そうか」

「江東区に入った某国人は何処へ行くかというと。ほとんど肉体労働のある江戸川や千葉に働きに出て行くんです。・・・某国はこれを利用しました。都心に出れば目立ちます。だから江東区から下って、江戸川の、この葛西に工場建設していったです。サトジュンさん、あなたはこの工場を破壊したから判りますよね?」

「葛西臨海公園の水族館潰した工場は、虫の育成工場だった。何十万個という虫の卵や幼虫を随時育成していた」

「超能力と虫。ヨーロッパが獣のDNAを使ったに対し、某国はより簡単で大量生産のきく虫を選びました。虫の特性や習性などを利用するため、虫のエキスを抽出し、人間に効果をあたえて虫人間を作り出す。その人間で攻撃、動乱、それらを引き起こし、自分の国の有利になる事をしでかそうとしています。これは前々の調査で分かっていましたが、今回僕が調査して得たものはもっとドメスティックなものでした。それは某国がこの日本に大規模な侵略計画をもう発動していたことでした」


 今までニコニコしていたダニャの笑いが消えた。より真剣な話になったようだ。

おのずとこちらも話に身が入る。

「でも某国人たちはどうして侵略してくるの?今とても調子がいいじゃない」

 雅夜は的確に質問をする。

「それは某国にいても仕事がないからです。外に出ることによって働けて、食べて行けるようになります」

「某国に仕事が無い?」

「あれだけの人口が、常時仕事が有る方が珍しいです。世界に輸出なんて言っても工場の量が少ない。何億人も働ける場所はそうそう確保出来ません。そしてその商品ですが、世界に出すだけの品質と値段のバランスが、もう取れなくなってしまっているんです。ですから作っても売れません。当然仕事も減ります。国に出来る事はとにかく国内が崩れないように武力で抑えるしかありません」

「近代化して潤うっているようにみえるけど?」

「その近代化が問題なのです。機械が増えれば人が余ります。とにかく人間が多くて、まかないきれないのです。農地は汚染されて、海は採りつくし、計画も何もなく、贅沢だけを求めている人ばかりです。そんな自分たちが飢えて死なないためには、それを支える奴隷を必要とします。他方から搾取しなければ、自分が生きていけないのです」

「そうね。某国人は、自分の国の食べ物を危険すぎて食べないとも聞くわ。それを海外に求めていたら膨大な食料を必要とすることになるわね」

「自分の国内でやっている分には貧富の差ですむけど、国外にそれを持っていけば、植民地や侵略になる。国はもう賄えないからそれを推進している。そして某国人達は世界征服を目論んでいいます」

「世界征服?悪の結社?なんか子供じみているわね」

「笑い事じゃないです。それをしないと、自分の国の人間が餓死して、崩壊してしまうのですから」

 意外にリアルな話し。

日本にいる俺達は別にそんなの知らない。ただ向こうがちょっかい出して来るのがうざいと思っていたが、国の内部では崩壊が始まっていたようだ。

「某国の侵略プロジェクトの柱は3つ。一つは、能力発動計画。虫のエキスを抽出して、それを人間の体に注入して、人間の体をフルに使えるようにします。これは今までもやってきた強人間を簡単に作り出す方法と同じでここでも主軸にしています。これによって侵入させた某国人の兵士化を進める計画です」

「ああ、食らったよ。そのチカラ。ジャガイモ頭の力と警備員達の力の強さはそのせいだったのか。強烈なパンチだった。ボッコボコに殴られた」

「そして、もう一つは、地域住民の人間を操る計画。言う事を聞かない人々を自由にコントロールする。コレによって、侵略した場所の征服を達成させる役割。先住住民、つまり日本人を奴隷化しようという計画です。そして今ここで行われているのが、その実験という事なのです」

「今、ここで?」

「そうですよ。ここが虫の力を利用した人間をコントロールして奴隷作りをする実験室。その名も銀杏山学園高校」

「え、この学園が?コントロールの実験室?」

「ええ、この去年の4月あたりから、虫の実験がずっと行われています」

 驚く、俺と雅夜。

「それはどうやって行うわけ?」

「ココで使われているのは寄生虫です。これを相手に服用させて、操っていきます」

 ダニャ、ポケットから、小さなビニール袋を出し、その中に入っている粉のような顆粒を見せる。

白い小麦粉パウダーのような粉が少量、入れられている。

「これが卵、これを水にといて混ぜる。まったく見えなくなります。これの入った水を体内に取り込むと、卵はそこで孵化して虫になります。これが血管を通り、脳まで進行して宿主に働きかけ、宿主を動かす寄生虫になります」

「ツツガ虫ね」

「そう、よくご存知。あれの仲間で、脳に生息してアルカロイドを分泌させて、快楽を見させて従う人間を気持ちよく働かして従わせる寄生虫です」

「それをどうやって?操縦するの?」

 意外な話で懸命に理解しようとする俺と雅夜。

「この虫は音に反応します。ですから研究しまして、この虫を音で操縦出来るように改良したのです」

「誰がそんなことを」

「音といえば音楽。・・・もう判りますよね?音楽の教師・麻生先生。本名は芽衣ヤーイーという某国人。あの人が学園を実験場所にしている虫のプロジェクトリーダーで、この高校を支配しています」

「まさか?麻生先生が?」

「もともと芽衣は音の使い手、超能力者のようです。それを利用して人に聞こえないような超音波を出したり、微妙な声、微かな指音。そういうものも活用して操っているようでした」


 そんな時、ノックの音がした。ドアを誰かが叩いている。

「あ、どうやら気づかれたようですね」

 緊張して見つめているとドアがゆっくりと開かれ、今話題の主である麻生先生が微笑みながら入ってきた。

「やっと見つけたわ。何処かに何かあると思っていたけど。こんな所に隠れていたのね」

「残念だな見つかっちゃったようですね。でもどうしてここが判りました?某国超能力者用の封印をかけておいたのに」

「あら、今日は開いてたわよ。ぽっかりと」

 麻生先生は俺たちを指さす。

「え?」

「ありがとう。やっと入れたわ。でも開けたら閉めなきゃダメだと思うな」

 どうやら俺たちが開けて入った事で侵入できたようだ。

「よくできた場所ね。さすがだわ。貴方が1年C組の方のサトウくんね。いままで会えなかったけど私が麻生・・・いえ芽衣というの。ヨロシクね」

 腕を組みながら、ゆっくりとダニャの方に近づく麻生先生。

近づくのに合わせて、椅子からたち、後づさリするダニャ。

 麻生先生が、敵?まだどうも信じられていないのだが、それにつられて俺と雅夜も麻生先生から後づさりして離れてしまう。

「これは、どうもやばそうな雰囲気ですね。追い込まれて外に出れない感じなのですよね」

「うふふ。感がいいみたいね。ここからは出れないわ」

 しかしまたダニャはさっきの微笑みを取り戻し、俺達に向かって話す。

「もう少し話はあったけど、悪いけど行かせてもらいますね」

「行くって何処に?」

「それはいえません。そこに芽衣がいますし、メリサさんたちも外で待っているんでしょ?きっと外に出たら襲う手はずですよね?」

あ、ばれてる。

「まだ殺されたくないから、ここで消息を絶ちます。それでは失礼します」

 と、言うと一気に部屋の隅まで飛ぶ。

麻生先生は気が付き、手を広げ、掌底のように突き出す。

しかしそれより早くダニャは、ジャンプして逃れる。

いなくなった場所が音波の衝撃波のせいで、壁に2mの円形の凹みが出来、そのなかは無数にひびが割れた。

 ダニャは、そのまま天井の一箇所に向かい跳ね上がる。

すると天井の板が中に外れ、ダニャは、中に吸い込まれたように隠れてしまった。そのまま脱出口があるようで、脱出した様子。

「おお、あんな所に抜け穴が。凄い忍者屋敷かここは?それで俺たちはどうする?」

「追う?」

「逃げれるなら?」

「無理だと思うな。だって怖い目で麻生先生がこっちを見てるのもの」

「あら、これでも優しく見つめているのよ。戦いたくないから」

 また微笑みながら腕を組み、こちらを見つめる麻生先生。


「彼はどんな話をしてくれたのかしら?素敵な提案はあった?・・・そうね。私は戦いがあまり好きじゃないの。出来たら平和的な解決をしたいと思ってるわけ。どう?こちらを手伝ってくれるなら、それなりのお礼するけど。・・・ねえ、こういうのはどう?断言は出来ないけど東京を抑えることが出来たならこの江戸川区あげる。どう?いいでしょこれ。・・・ここは貴方の土地になるの。住民はみんな下僕。王様に成れちゃう権利、素晴らしいでしょ」

「抑えるってどういうこと?」

麻生先生の言葉に反応する雅夜。

「それは決まってるでしょ。東京が某国の一部になるということよ」

「えっと、某国の植民地になってしまうっていうことですか?」

 よく判らないので聞きなおしてみる。

「違うわよ、某国の一部よ。某国人が入ってきて、人間がまったく入れ替わることになると思う。なにもかも某国と同じシステムで動くようにする。素晴らしいでしょ?・・・もうこんなアイドルとアニメと娯楽に興じる退廃した世の中から決別して、新しく生まれ変わちゃうの。悪い話じゃないでしょ?日本も某国の力によって幸せになれるんだから、感謝してくれなきゃ」

「感謝ですって?勝手に侵略してきて、何に感謝するのよ」

「当然、進化じゃない。発展こそ、未来なのよ。判らないのかしら?」

 俺たちの戸惑いをぬぐうかのように麻生先生は教師らしく説明を始める。

「こんな何もない無気力な人間たち、子供が生まれず、高齢者だらけになり、何も出来ずに滅びるの待つだけの民族。世界に取り残され、自分が最高といい、周りとの関係を拒絶し、もう落ちるだけの国家を私たちが再び繁栄させてあげようというのよ。喜ばしいことじゃない」

「日本人を踏みにじってそんないいかげんなこと通用すると思っているの?」

「下等民族は滅びても仕方ないものなの。安心していいわよ。生き残れた人達は、私達が正しい方向に導いてあげるから」

 優しい麻生先生の仮面が剥げ、きつい言葉で言い放つ。

なんだろう。この上から目線は?絶対の自信にみちている。何を根拠に言っているんだろう。

「もっと世界をみなさい。世界は動いています。外国はみんな幸せを求めて羽ばたいているの。もっと世界と向き合いなさい」

「先生それは幸せを求めて戦うということですか?」

「まあ戦いも必要なときもあるわね。世界はある程度飽和しています。富や幸せを得るには他から搾取しなければいけない時もあるはずです。しかしこの世は弱肉強食の世界なのです。強い奴が奪い取り、弱い奴は食われなきゃならない。自然の摂理ですよね」

「先生は日本が滅びるという。果たしてそうかもしれない。だけど滅びる結構。繁栄も結構、どちらを選ぶのも自由。それが私達の国なのですよ。勝手に自分の欲の論理で侵略してきて、勝手に価値観押し付けられて、従えるようには日本人は出来てないの。日本人は自由を愛している。自由は渡さない。自由を守るためには戦います。それが日本人よ」

「駄目ね。助けてあげるチャンスを与えているのに、それさえも理解出来ずに拒絶しちゃう。あとで感謝するに決まっているのに。・・・バカは判らないから従わない。面倒臭いわバカの相手は。・・・出来るだけ楽に終わらせたかったけど。断るななら排除の手間はしかたないか」

 麻生先生は戸口に向かって歩き出す。一瞬出て行くのかと思ったが、

「ここまで行くと、もう会話が成立しなくなってる。互いに主張をするだけのこと。悪いけど消えて頂戴」


 そういうと麻生先生は廊下から人を招き入れる。

数人のジャージを来た学生が部屋に入ってきて立ち止まる。グランドでクラブ活動していた生徒たちだ。

生徒達は無言で立っている。目がおかしい。瞬きせずぼんやりと前を見ている。

「何?」

「なんだよ?」

何が起きているのか判らず戸惑う雅夜と俺。

「せいぜい頑張って戦って頂戴。自由を守るためにね」

 そいうと麻生先生は指をならす。

その途端、数人の生徒が突進して殴りかかってくる。どうやらスイッチが入ったようだ。

 雅夜、手を前に出し、風を起こし、躊躇なくその生徒達を弾き飛ばす。

「操られているのよ。ダニャが言っていたでしょ。虫によって人間を操るって」

 あ、これがそうか。

「あら、凄い。でもいつまで持つかしら?頑張ってね」

 麻生先生はまた数人を部屋に入れると、自分は出て行く。

その生徒たちも俺たちを見つけると、飛び掛ってくる。

「まずいわ。ここでは押しつめられる。外にでるわよ」

「ダニャが出た場所から?」

「行きたきゃどうぞ」

 雅夜、空気の壁を作り、かかってくる生徒を部屋隅に押しやり、戸口前に居る生徒も吹き飛ばして、部屋から出る。

俺は風使いじゃないから、天井までジャンプ出来ない。仕方ないので雅夜についていくしかない。でも嫌な予感がするんだよな。


 廊下に出てその予感が的中しているが判った。

廊下にはグランドいた運動クラブをやっている生徒たちが沢山、集まっている。みるとクラスメートも混じっている。それらがゾンビのように無表情で立っている。

うわー、チョーすごい数。ヤバイぜ、これは。

奥で麻生先生が笑う。

「これほどの数の人間と戦って。どれくらい持つかしら」

 そういうと指を鳴らす麻生先生。

襲い掛かってくる生徒たち、ゾンビのように群れて突撃してくる。

俺は飛びかってきた同じクラスの陸上部の女子を背負投で投げて床に叩きつける。

「おい、大丈夫か?目を覚ませ」

 懸命にゆすってみるが、その目は相変わらず瞬きしない目。

「無駄だとおもうよ。神経系を抑えているから。今、彼女らは気持ちよく、何もわからない状態で、私の口や音に反応して踊るだけだから」

 陸上部の女子は起き上がってくると、また俺に組み付いてくる。まさしくゾンビと同じ行動をする。

「寄生虫によるに快楽エキスで脳を支配すると快楽の中で泳げるの。気もちいい夢を見ている気分。言われるまま動いて、自分の友人でさえ、楽しく殺してくれる。これが操るということよ。いいでしょ?」

 麻生先生はみんなの後ろに陣取りこちらを見つめている。指をクルクル回す虫操り音波を、麻生先生が出し、命令しているようだ。


「どうやって、こんな大量にみんなを感染させたのんだ?」

「たぶん学校の水道ね」

 雅夜は前から来る生徒をさばきながら、

「ここの学校の水は、全て一度、屋上の貯水タンクに集められるの。そこにさっきの卵を放り込めば、水にまじり、配管を通って、蛇口から流れでていく。そうやって感染させられたと思う」

それを聞いて、麻生先生は答える。

「さすがね久宝さん。現役東大合格確定だけあるわ。そうまさにその水で感染させたの。身体に入った卵は孵化して虫になり、3~4日で脳に達し、効果を発揮する。まあ1周間程度で下僕たちの集団が完成ということ。凄いでしょ? 」

 あれ?でも去年4月からやっていると言ったけど、俺と雅夜はなぜ感染してないんだろう。

それを聞いてみると、麻生先生は答える。

戦いの最中に答えるって、どんだけ、余裕だというんだ。

「この虫、脳内の高温に耐えきれず3日ぐらいしか持たないの。何日も同じようにしていれば、それは続くわ。でもね。学校の水ってそれを飲む生徒は少ないの。だから一般生徒にまんべんなく行き渡せることがこれからの課題ね。その点、クラブ活動している体育会系はみんな水を飲んだり、浴びたりする。水に接触しているので、メンマクに付着して感染って言う具合、私のしもべになって貰ってるわ」

 だからクラブ活動を、もう半年離れている俺や、まったく運動クラブにタッチしてない雅夜などは感染してないということか。

麻生先生は、傍らにいるサッカー部の石塚をみつけ、こちらに向かわせる。

「ほら、お友達よ。石塚君。貴方もクラブに出てれば、あなたもこうやって一緒の仲間になれたのに」

「あ、石塚」

 石塚も目がぼんやりとうつろ。しかし行動は素早い。俺をめがけて蹴りを入れてくる

俺は脚を合わせて防御するが蹴りが早い。俺の脚を何度も蹴ってくる。

防御しても蹴られれば痛い。

「目を覚ませ」

 思いっきり顔を殴り、後方に飛ばすが、快楽のために脳が痛みを感じないらしい。すぐに立ち上がってまた、蹴ってくる。

「素晴らしいでしょ。痛みを感じない兵士。相手を殺すまでやめないわ」

 俺は石塚とその他、襲って来る生徒を突き飛ばし逃げる。

雅夜の方も、きりがないらしく、俺の方に続く。

 廊下を移動。でも何処にも人間は配置してあった。特に窓のある階段、窓のある教室、窓のある廊下。そちらに行く方には身動きできないほど生徒がいる。俺たちを外に逃がさない配置のようだ。

 そして俺達が移動すると麻生先生が、今まで止まっていた生徒たちが動きだす。廊下のゾンビや階段からゾンビが上がって来る。

「どうする?」

「どうするも何も、殺しに来るものを倒すしかないじゃない」

「駄目だ。友達だぜ。逃げよう」

「だからこうして逃げてるんじゃない。でもここまで外に逃げるルートを塞がれていると・・・」

 まとわりつくゾンビを倒したり、飛ばしたりして逃げる俺たち。

廊下を抜けて視聴覚室にフェイントで入り、ゾンビが入ってきたら閉めてまた逃げる。

「広いところは、疲れる。狭いところに移動しましょ」

 階段を降りて逃げるが、下から密集して上がってくる生徒で降りれなくなって上に戻される。

「段々囲まれている」

「そうよ。逃げるにしても限度があるわ」

「無理だよ。オレには戦うことが出来ない」

「じゃあ何とかしなさいよ」

 俺は、不意に走るのを辞めて、一度止まり、

「こないでください」

と言ってみた。すると生徒の後ろにいるのだろう。麻生先生の笑い声とともに、

「簡単よ。殺されればいいのよ」

 と、声が聞こえた。

「参ったな。何もできない」

「バカじゃないの?もう私、飽きた」

 わらわらと進んで来るゾンビをはじき、奥に微かに見える麻生先生を見つめる。

「あいつさえ倒せればればいいんだけれど・・・たどり着けると思う?」

「判らない」

 ふとみると陸上部の堀口もいる。

「お前もか」

 陸上部の堀口が足の裏で蹴るようにキックをしてくる。

陸上部の靴は、細く鋭いスパイクが打たれていて、まともに受けたら防御する脚や手に穴をあけられてしまう。

これは受けられない。相手を倒すしか、この攻撃は避けなれない。

 雅夜をみると野球部がバットを振り、雅夜を襲っているのが見えた。

雅夜、野球部は風圧で吹き飛ばしたが、あとは空気の壁を作り、入れないように遮断を始めた。

「武器を持った奴は困ったわね。どうやら麻生先生を捕まえるのは無理ね。ここは本当に逃げましょう」

 階段から場所を動かし、女子トイレを見つけ、扉を風の球を飛ばして破壊。

トイレを奥にある窓ガラスを吹き飛ばして、脱出口を作る。すると階段下からメリサとマルシアが、密集する生徒をかき分けて上がってくる。


「もう始まってるの?教えてくれる約束だったじゃない」

「あ、忘れてた」

「ダニャはどこだ?」

「逃げちゃいました」

「なんだよ。逃がすなよ。これでまた探すのが面倒になる・・・それであいつは誰だ?」

 生徒達の後ろでこちらを見てる麻生先生を指さすマルシア。

「麻生先生。音楽の教師だったんですが、本当は某国人でして・・・」

「ここのボス。今、このゾンビ達に命令をだしているのはあいつ。生徒たちに寄生虫を飲ませて脳内分泌でゾンビ化して、音で操っているの」

「ここはゾンビの牧場にされたか」

 雅夜の説明で嬉しそうに笑うマルシア。

「学校全体が実験室というわけね」

 メリサ、電磁の防御で、飛びかかってくる生徒を弾く。

「なかなか、いい女ね。私より劣るけど。・・・・それじゃ行かせてもらいますか」

 メリサ、マルシア突っ込んでいくと、ゾンビが掴みかかってくる。

「邪魔だ」

マルシアがはねのけようとすると、マルシアの前に電子防御の幕がはられる。

「なに?これは電子・・・・」

 防御に触れて痺れ顔を歪めるマルシア、振り返る。

そう俺がマルシアの前に防御を張ったのだった。


「おまえ、なにをしている」

「彼らは操られているだけだ。彼らを傷つけないほしい」

「関係ないね敵だ。気を抜いたらこっちがやられる」

「俺の友達なんだ。傷つけないでほしい」

 もっと防御を厚くするとマルシア、横にずれる

「おまえ本気か?」

「友人なんだ。やめてくれ。殺さないで」

「襲って来ている奴は仕方ないが殺すのみ。じゃないと自分が危ないんだよ」

「だったら彼らを守る。殺させない」

 睨みつけるマルシア

「先にお前を殺してやろうか?」

 メリサと雅夜、言い争う俺とマルシアの間に入る。

「なにやっているの?どういう事」

「このまま行ったら石塚や堀口が殺される。ここにいる人間は罪のない人間だ。彼らは操られているだけだ。操っている奴をやっつけてくれ」

 メリサ、光りだす

「邪魔だわ」

「なにするつもりだ?」

「簡単なことよ。学校ごと吹き飛ばす。仕事というのは効率よくすまさないと。間違えると自分の命が危なくなるの。ごめんなさいね」

 メリサ、下から上にぐるっと手を回す。続いて上から山なりにして手を回す。

その動きは葛西臨海公園のあの地下3階を一瞬で焼いたときの攻撃態勢の動き。

この後、一瞬で雷光が全てに走る動き。

「やめてくれ」

 俺は光るメリサから光を奪うように、メリサの上に電子の球を作る。

「え、なに?」

 光るメリサから電子が俺の作った球に吸い取れて行くように飛ぶ。中和させて吸収しているようだ。

「なにしてんのサトジュン」

 雅夜に怒られるが、友人が殺されるのはやはりダメだ。

「・・・友人が殺されるのは見ていられない。やるなら俺は守る」

 と、中間に入る感じで立ち、メリサ達の三人の前に対面する。

笑う麻生先生、喜ぶ。

「いいわ。こちらの味方になってくれたの?守って、お願いね」

 肩に羽織っていたカーディガンを落とし、髪止めを外して揺らして髪を解き、きっちりとした先生の仮面を脱いだ麻生先生。芽衣となり色っぽく指を鳴らし、ゾンビたちを行進させてくる。

 メリサ、自分の回りに3mぐらいの電気の半円を作り、近づくゾンビはそれに触って、バチッと音をさせて弾き飛ばせされていく。

少し撤退する感じで後ろの廊下を奥に下がっていく。


「なにしてんだ?あいつは?」

 怒り気味のマルシアに雅夜が説明する。

「友人を殺されたくないのよ」

「敵に操れているんだぜ。敵の一味だ」

「人の命は尊い。人は殺せない。殺すには理由がいる。もしそれでも殺したら、それは罪になると、日本人の基礎道徳に組み込まれている考え方なの。だから殺人なんてもってのほか。まして友人の命だから、なんとしても失いたくと思う」

「話にならない。『やられたら、やり返す』は当然の行為だ。いや出来れば、『やられる前にやれ』いうのが世界の考え方だ」

繰り返す雅夜。

「専守防衛か、防御防衛の違い。同じ防衛でもやり方が違う」

「また防衛の話?もういいわ。本当に日本人という民族は、やられるのが好きな国なのね」

メリサも呆れる。

「日本は昔から、海に囲まれた狭い土地の中で暮らしてきている。まずは公平に分け合って誰もが生きていくことを考える。海外のような狩猟民族のように、奪うだけの考えはない。だから相手を殺すというのは、自分も殺されると同じ価値観で向き合うことなの」

「我々は戦いの中にいる。命は大事だ。だがそれは自分の命だ。相手の生命など関係ない。優先順位は命令実行。敵の殲滅」

「ココが某国の実験室なら、壊滅が私達に命令されていることです。潰します。実行の障害になるのなら、人も学校もすべて、焼いちゃうわ」

「でもサトジュンは友人を守るため、防御すると思う」

「雅夜、なんとかしろ。でなきゃあいつごと殺す」

 雅夜、しぶしぶメリサの防御エリアから出て、ゾンビを飛び越えて俺の所に来た。

「無理よ。諦めなさい」

「いやさせない」

「どうすればいい?」

「麻生だけを殺してくれ」

 見渡してゾンビたちの後方、はるかな彼方にいる芽衣を見る。。

「見てみなさいよ」

ゾンビの奥で笑っている芽衣。

「無理よ。こんな中であいつだけを落とすなんて」

 雅夜、指差す。それをみて芽衣、楽しそうに手を振る。



 ニコニコと笑いながらメリサはマルシアに話しかける。

「やってみる?」

「まあ私達なら出来ないかこともない」

「まあ、過去にも条件付きのミッションは幾つもこなしてきたもんね。まあ、ちょっとやってもいいかも」

「なら、あいつ一人を速効で殺そう。たのむメリサ」

「判った」

 3Fの校舎の廊下が、薄暗くなってくる。

 あ、これは・・・と、思っている間に校舎の廊下に蔦が生え、物凄い勢いで草木で覆われていく。ジャングルの様相を呈してくる。そしてその中でマルシアが変身。巨大な獣が現れる。

「雅夜、前を開いて」

メリサが叫ぶ、その声をきいて雅夜、空気の道を廊下の真ん中に作る。

そこにいたゾンビは左右に弾かれて行く。

「やめろ」

 と俺は雅夜の前に立つが

「邪魔」

 風の力でゾンビと一緒に吹き飛ばされた。

雅夜、出来る限り、その空気の道を延ばしていくと、メリサを乗せたマルシアのジャガーがその上を走っていく。

残念なことに芽衣の所までは届いておらず、止まってしまっているが、そこからマルシア、ゾンビの頭を超え、横の壁に飛ぶ。

そしてその壁を蹴り、逆の壁へと飛び、また逆へと、ゾンビの頭を越えたまま、ビリヤードのクッションのようにジグザクに飛んで一番奥の芽衣の所まで突っ込んでいく。

「行った!」

 鮮やかに進むメリサとマルシアの動きを見て、雅夜、感嘆の声をあげる。


 芽衣の所、メリサとともに突っ込むマルシア

芽衣、とっさに後方にジャンプ。マルシアのスピードに乗った突撃の一撃目を避ける。

メリサ、マルシアから飛び降り、芽衣の着点を目測して電子弾を2発撃つ。

芽衣、着地点を音の波動を撃つことで体を横にずらし、メリサの電子弾を避ける。

 そこに反転したマルシアの振りかぶった一撃。

逃げ切れず両手をクロスして顔の前に出し、音を出して相殺しようとする芽衣だが、マルシアの攻撃力は凄まじく、その音の砲撃ごと壁まで飛ばされる。

「きゃー」

 そこをメリサ連続攻撃。雷光を放ち、芽衣を感電、即死。・・・したかと思えたが、雷光は芽衣の体を素通りした。

「なに?幻覚?」

 壁前に倒れ込みそうになっている芽衣が薄くなって消えていく。

そして横の女子トイレの入り口から、超音波砲のような波動がマルシアを襲う。

「マルシア、避けて」

 マルシアも気がついて居たようで体を逃がすと、マルシアのいた後ろの壁が50cmぐらいの円形でひび割れて奥に砕け、穴が開いた。

「芽衣?」

女子トイレの前に芽衣が浮かび上がってくるが、微笑むとまた消えていく。

「音波で大気を揺らし、空気を歪ませる。・・・蜃気楼のようなものか」

 素早く分析を始めるメリサ。


 マルシアは芽衣の消えては現れる姿を追い、攻撃を繰り出す。

芽衣に翻弄されているかにみえるが、芽衣も必死に対応、音波弾を撃つ。

マルシア、飛んだり、スエーバックしたりして音波弾をよける。

 音波弾は直径5cmぐらいの野球ボールぐらいの斑目模様の球だが、当たったもの方向に拡散して被害を与える衝撃波の球のようだ。壁に当たると、ズンという音とともに大きくその部分が削られている。

それを見てマルシア、触れないように避ける。そして芽衣の実体化した体に向けて近寄り攻撃を加える。

 しかし芽衣、素早く移動。マルシアの攻撃が届いたかに見えるが、それは残像。手応居なく空を切る。

「基本的に音の能力は防御を持ってないようね。逃げるのみか」

 メリサ、小さいプラズマのボールを5~6個、投げて転がす。

「マルシア、ジャンプ」

 その声でマルシア天井に張り付くとプラズマボールが炸裂。

微弱だが一帯の床に稲妻が走る。

 そばにいたゾンビの生徒達は通電して、しびれてしゃがみ込む。

そして廊下にある水道の流しにいた、消えて見えなかった芽衣も食らい、姿を出す。

 そこを目掛けてマルシアの一撃。

かろうじて転がり逃げる芽衣。

マルシアの一撃は流しを粉砕。水道管まで割れたようで水を吹き出す。

そして転がる芽衣にマルシアの第2撃。

転がりながら芽衣、片手で音波砲を撃つ。

 あまりの近距離の攻撃で、マルシア攻撃体制からとっさに顔を隠して防御。力の入ってない音波砲だったが、受けた腕の皮膚がひび割れて血を吹き出す。

 しかしマルシア怯まず、転がっている芽衣を踏み潰す。

だが芽衣はそこにおらず残像のみ。地面に衝撃を与えるマルシアのキック。

「なるほどね」


 メリサ、何かひらめいたようで、現れる芽衣の場所を予測して、天井を這わせた落雷を落とす。それは天井から床に落ちる雷の柱だが、真下にいたら落雷を食らう。

それは結構当てずっぽうで打っているので何も起きない。しかし何個目かで、芽衣が現れて逃げる。近くで落雷のため、次のが食らいそうなので体を見せても逃げたのだろう。

「やっぱりそうね。蜃気楼は光が無いと見えない。残像の奥側の180度の何処か、光のある場所にいる」

「了解。私は追っかけて陽動する。メリサ撃て」

「オッケー」

 芽衣に向けてメリサ、小さい電子弾をいっぱい出し撃つ。

一つはマルシアにも当たるが構わず撃つ。

窓際の何もない空間に悲鳴が上がる。移動した芽衣が食らったようだ。

「ビンゴ。マルシアそこよ」

 マルシア、ジャンプして姿を表しだした芽衣に襲いかかる。

「駄目だ。やられる」

 ゾンビの中に逃げこむ芽衣。

芽衣は身長が引くため、運動系の体格のいい生徒の中に紛れると見えなくなる。

マルシア生徒たち、突き飛ばし、追って中に入るが、ゾンビの生徒がマルシアを掴む。

「くそ、うっとおしい」

 しかしその芽衣よりももっと身長の低いメリサ、その隙に芽衣の背後に回り込む。

芽衣の気づかない背後で光り、電光を放とうとすると、俺はその横にいる堀口を見つけた。

「このままじゃ堀口が・・・」

俺は堀口の前に防御壁を張った。

するとメリサの電光は俺の防御壁に当たってしまい芽衣に届かず、芽衣は背後のメリサに気に気づいてしまい、背後にもゾンビを立たせてから逃げる。

「サトジュン!せっかくのチャンスを!」

 雅夜、俺を叩いてくる。


「あんたね。何してんの」

「駄目だよ。堀口は友達なんだ」

「馬鹿馬鹿しい。それぐらいの被害は仕方ないじゃない」

「友人だろ。どうして殺せるんだ」

「そんなこと言ってる場合じゃない戦いなのよ」

「でも俺には、殺せないし、だから、守ることしか出来ない」

「そんなことしてたら自分は死ぬわよ」

「解ってる。でも罪のない友人が、堀口、石塚が死ぬぐらいなら、自分が死んだほうがましだ」

 笑う芽衣。

「いいわ、友達思いで。それでこそ青春ってもんよね」

 芽衣、指を鳴らしゾンビたちを、整える。

「このままいくわ」

 そして自分の周りに人を立たせ

「進め。奴隷ども。私の盾になってすすめ」

 波のごとくに進む生贄の前進。

メリサ、ため息を漏らし、攻撃をやめて少し後退する。マルシアも奥からジャンプしてメリサの横に来る。

「もうダメね。邪魔が多すぎる」

「周りを蹴散らさなきゃ今度はたどりつけそうにないな」

「引いたほうがいい。撤退しましょ」

 メリサの提案で、マルシア、不本意ながら同意する。

雅夜、ゾンビから離れてメリサたちの所にいく。

「引くわよ。サトジュン。何してるの撤退よ」

 動き出すみんなを見て安心した。

「ありがとう」

 みんな廊下の窓に近づく、窓から撤退するようだ。

マルシア、窓を含めた壁の一部を粉砕。外に飛び出せるように開く。

「逃げるのか。なら役目ご苦労。お前だけでも死ね」

 芽衣、俺に向かって音波砲を発射。背後からの攻撃だったので全く判らなかったが、ブーンと音に振り返り、気がついたがすでに遅し

「あ、」

 棒立ち、もろに正面から迫って来る。


 間に合わない。体全てがひび割れて粉砕すると思った瞬間、はじかれる音波砲攻撃。

俺の脇にきてくれたメリサが、それを防御してくれた。

「気を抜かないで、撤退の時が背中を見せるため一番危険なの」

 メリサが、メリサが俺を守ってくれた。

「あ、ありがとう」

感謝してお辞儀をしたところをゾンビに襲われる。

俺は腕を捕まれ、メリサ、生徒に足を掴まれて止められてしまった。

「もらった」

と声と共に一瞬体の自由を奪った芽衣は、メリサに向かって音波弾を放つ。

「キャー」

芽衣の攻撃がメリサの腹にもろに命中する。その破裂の勢いでボロ布のように吹き飛ぶメリサ。

「あ」

「ああ」

芽衣の弾に腹を射抜かれ、そのまま壁まで飛ばされて叩きつけられるメリサ、だらりとした人形のように一度、壁に張り付き、そのまま力なく頭から地面に落ちる。

「・・・」

 床に落ちたメリサは、血を流しながら意識なく倒れている。

「死になさい」

 芽衣、再び音波砲で、メリサにトドメを刺そうと撃つ。

「まずい」

 マルシア、飛び、倒れたメリサに体をかぶせるようにかばう。音波砲はそのマルシアの背中に当たり、ごっそりと肉を削って破裂する。

周囲に飛び散る肉と血。

 そして衝撃でメリサを抱えたまま転がるマルシア、ゾンビの中に転がり込んでしまう。

マルシアも意識を失い転がってしまった。

 芽衣、号令と共に指を鳴らして指示。

「襲いかかれ。引き裂くのよ」

 みんな四方から襲いかかって行くゾンビの生徒達。

雅夜、飛んできて、倒れて転がるマルシアの横に立つと、

「エア、ボム」

 そう叫ぶと雅夜達を中心に空気の衝撃波が広がる。襲いかかろうとした生徒達は、その空気の波に弾き飛ばされていく。


「雑魚は邪魔しないように」

 芽衣が音の球を続けて3つ放つが雅夜の防御は崩れない。全て当たるが、どれも破壊することが出来なかった。

雅夜、負傷するメリサ二人を守るために、空気の壁を強くする。

「何してんの?サトジュン。麻生を止めろ」

 やっと我に帰った俺。

芽衣が次の命令の出さないように、電子弾を打つ。

「うざい」

 芽衣が俺に向かって撃つが、俺は防御なんかしない。当たっても構うもんか。俺はとにかく撃つ。

 駄目だ。メリサ達を攻撃させては駄目だ。

俺は何度も撃つ。何でも撃つ。電子弾。稲妻を固めたもの。プリズム弾。なんでも出せもの。構わず撃つ。

とにかくメリサを攻撃させちゃだめだ。メリサ達に時間を与えたい。時間を稼ぎたい。撃つ。撃つ。撃つ。

 するとマルシアから、咆哮が上がった。意識が戻ったようだ。

獣人変化の4つ足体型の前足だけを手に戻し、その右前足でメリサを抱え、3本足走行。生徒達をジャンプで越えて、先ほど開いた廊下の窓際へ。

「逃すな」

 芽衣の命令で生徒達が立ちふさがるが、そんなものをものともせず、弾き飛ばして窓際にメリサを抱えてマルシア走る。

マルシアに並びかけ、近寄る生徒に空気弾を打つ雅夜。

「後方を守って」

 雅夜に言われて、俺も走り、メリサたちを追う生徒を電子の弱い球で飛ばし、追手を潰していく。

背中から血を流しながら、マルシア、メリサを抱えてジャンプして破壊された窓の場所から外に脱出する。


「良かった」

 校舎から逃げ延びたマルシアを見て安心する。そこに雅夜が飛んでくる。

「安心している場合じゃない。こちらも撤退よ」

雅夜に腕を掴まれ上にジャンプ

「逃げるわよ」

雅夜、茫然としている俺を抱え、一番近い窓を空気弾で破壊して脱出口を作り、外に飛び出す。撤退。

 俺は雅夜に抱えられて学校から脱出、出来た。




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