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第六話 襲撃者

 ハクショーン。

クシャミが出た。寒い。寒いぞー。

 水族館から出た俺は、メリサとマルシアの後に続き、森へ向かって進んでいた。

 あれ?俺ってよく見ると、球技大会からずーっと続いているのでトレーニングウエアのままだ。

今年が、いくら暖かい春だといってもコレじゃ寒いはずだ。その上、マグロと一緒に泳いで水浸し。

こんなずぶ濡れだと、体の心から冷えて風邪をひくこと必然。

朱馬とかいうジャガイモ頭の腕を持たされて、凍えながらそう思った。

 一応、ダメ元で、前を歩くメリサとマルシアに向かって聞いてみる。

「身体がぬれているから、寒い。チョーやばい。なんとかしたいんですけど・・・」

「私たち平気だ」

「それはマルシアさんが、化け物だからですよ」

「何かいったか?」

「いえ、・・・それでちょっと濡れた服を着替えてこようと思い、家に帰ります」

「ああ、ご自由どうぞ。いってらっしゃい」

「・・・・えっ?いいの?帰っていいの?」

 メリサの意外な答えに戸惑ってしまった。

さっきまでは、私たちの情報が漏れないように、一緒にいろと言われ、逃げたら殺すと脅されて、グイグイと引きずり回されてきたはずなのに、いきなり解放、好きにしていいと言い出してる。

「本当に、いいんんですか?家に帰って?」

「お前みたいな戦力にならないやつが一緒にいても足でまといなんだ。消えてくれた方が助かる」

「あ、そうですが、それなら、お言葉にあまえて・・・」

 やった。これで逃げれる。

なんだか、超能力だ、獣人だとか、やっかいな事件に引きずり込まれていたけど、ここで別れられる。これで普通の生活にもどれるんだ。

と、嬉しくなり喜んでいると、

「でもなぁ・・・私たちと離れないほうが・・・・いいと思うんだけどなぁ」

 と、メリサがぽつりと言う。

「え、どうして?」

「今まで私たちと一緒にいたのよね。向こうは貴方の事をどう思っているかしら」

「いや別に、俺は彼らを殺してないし、向こうが俺のこと知ってると思えないし・・・」

「うん。そうだよね。そうだと思うけど・・・でもなんか危ない気がするなあ・・・」

 ダメだよ。そんな事いっちゃあ。結構俺は、ビビリなんだから、怖くなっちゃうじゃない。

「じゃあ一緒に行ってくれない?服だけとって来るだけ」

「何を言ってるのかしら、奴隷のくせに」

 あれ、急にピシリと返された。そして今度は奴隷まで格下げか。

「行きたきゃ勝手にいけ。もし捕まっても、こちらことは何も言うんじゃないぞ」

「え?捕まっちゃうの?捕まると拷問だよね?・・・・やっぱり行くのよそうかな・・・」

「なんだよ。おまえハッキリしないな。それなら、ここで殺して口封じしてやろうか?」

「あ、すみません。行きます。行かしてもらいます」

 ヤバイ、マルシアは気が短くていけない。とにかくこの場から一刻も早く・・・と、行きかけて気が付いた。

「すみません。これ・・」

 持たされていたジャガイモ頭の腕だ。もう血がなくなり硬直して、冷たいバットを持っているようだ。

それをどうしていいか、処理に戸惑っていると、メリサがそれを受ける。

「バイバイお元気で」

 ジャガイモ頭の腕で、バイバイと手を振るメリサ。

去りながら、ちらっと二人を振り返って見た。するとメリサが俺に向かって十字を切るのが見えた。

 なんか嫌だな。と、思いながら見送られるようにして、臨海公園の出口から、駅への道に出る。


 結構あっさりこちらの意見が通り、あの二人と別れることが出来た。これで一連の変な出来事からオサラバするのだ。

少々、腑に落ちない点もあるだが、こちらは寒さに凍えているので細かいことはどうでも良かった。少しでも速く家に帰り、温まりたい一心で家路に急ぐ。



 葛西臨海公園は、うちの銀杏山学園のすぐ裏にあり、西葛西駅を使って家に帰れる。

いつものよう西葛西駅から地下鉄に乗って、2つ向こうの東陽町で・・・と、体を探ると、いつもある物がない。

あ、定期がない。無くしたか。きっとあの濁流にのまれた時に、すべて流されたのかも知れない。

 財布は?それもない。ジャージのポケットはすっからかんだ。

ヤバイ、これじゃ電車乗れないじゃんかよ。うそー、歩きかよ。

駅で待っていても、どうなるもんじゃ無いので、仕方なく清砂大橋通りに出て、歩いて家路を目指す。

 ここいら一体は、非常に風が強い。

風が強くて砂が舞い散るので、地名が砂町と呼ばれるくらい有名なところだ。

 砂町近辺で売られている傘は、普通の8本の骨のやつより、俗にいう鎌倉傘のような16本の骨の傘が人気で、メインで売れている。それほど風の強さは半端ない。

 まだ3月だ、風は冷たい。それもこの辺は海に近いので潮風になる。その吹きすさぶ風の中を、長く遠い清砂橋を渡り、荒川を越えていく。


 さみ~。死ぬ。凍え死ぬ。・・・・とにかく家に帰ろう。

 家に帰れば暖かいシャワーを浴びて熱い食べ物。甘いステーキなんかじゃなくて、体が暖まる汁ものがいい。

鍋?それは無理だな。だがラーメンがいいかも。カップ麺でいい。それもなければインスタント味噌汁であってもいい。

 何か温かいものを食べたい。なんでもいい温かいものがあれば・・・

風に吹かれて呪文のように『温かい食べ物』の名前を連呼した。




 団地の階段を上り、家の前につく。一応はこの前のように待ち伏せは怖いので見回しながら、

「今度はいないよな」

 風呂の通気口に置いてある鍵を取り、背後は見せないように鍵を開けて中に滑り込む。

「やはり取り越し苦労さ。大丈夫。家に入れれば」

 玄関のカギを締め、もうひとつチェーンロックもおろし、万全。

とにかく風呂にと考えながら、靴を脱ごうと屈み込むと、突然目の前に赤い物体が、立ちはだかる。

「ひゃあー助けて殺さないで」

「何驚いているの?私よ」

「へえ?」

「いままで何処でなにしてたワケ?ずっと待ってたんだから」

 それはマルシアやジャガイモ頭の男のような化け物ではなく、普通の人間で、赤いワンピースを着たクラスメートの久宝さんだった。

「何故、久宝さんがここに?・・・・どうやって入ったの?鍵はどうやって?」

 ドアにへばりついて、腰を抜かしかかっていた俺は、ようやく言葉を絞り出す。


「私が来た時には開いてた。不用心なので一応、閉めておいたけど」

「あれ?そうなの?おかしいな。・・・でも何故、久宝さんがここに?」

「あなたね、説明するっていってから、何日たってるのよ。メールしても返事来ないし、電話しても繋がらないし」

「色々あって連絡できなかったんです。申し訳ないです。あ、お茶をお出ししましょう・・・」

「お構いなく。それでどうしたの?濡れてるようだけど、川にでも落ちたの?」

「まあ、一言では言えませんが、そんなようなもんです。」

「ひどいわよ。唇が紫色になってる。シャワー浴びてきたら」

「ありがとうございます。それを求めて帰って来たしだいで」

 冷たくなったジャージを脱ぎ、そして体操着のシャツを脱ぎ始めると、

「レディの前よ。服は脱衣所で脱いで」

「すみません。とりあえず風呂浴びさせてもらいます」

 自分の家なのに恐縮して風呂に向かった。


 湯船の中で、手を見つめる。

「超能力ってなんだ?サイコキネシス、テレパシー、瞬間移動はテレポート?」

 俺に超能力?そんな事が・・・指を開き、メリサに言われたように移動させるように念じてみると、右手から左手に電子が飛ぶ。

「出た」

 続いてメリサがやっていた、両手を開く方法を半信半疑で試してみる。

すると真ん中に微かだが丸い弾のような物が存在した。大きさはパチンコ玉程度だが、ジリジリと電子を放出している弾のようだ。

「何で俺が出来るようになったんだ?・・・、一体、何が起きた?」

 湯船に立ち、自分の体を見ると傷がある。これは警備員に殴られた傷や、破片が当たって出来た傷。その他邪険に扱われて、いつのまにか出来ていた傷。・・・・しかしそれらが治りかけているように見える。

何かが、俺の体に起き始めている?

「最初は出来なかった。しかし、今、出来始めている。何故だ?何がきっかけだ?・・・あの水浸しの感電か?」

 ダニャは言っていた。『超能力のきかっけがあり、それを強化する』

無理やり考えていくと、どうもあれが一番臭い。

「そういえばバッテリーとか蓄電池のものって、最初に充電してからお使いくださいとか言うもな。それか?」

 俺の中に電気も取り込まれ、発電が始まったようだ。

しかし発電された電子は何処に溜まるんだ?

メリサは頭に溜まると言っていた。俺は何処だ?胸か?お尻か?

と立ち上がって自分の体を見回していると、いきなり風呂のドアが開く。うわあああー、久宝さんだ。

「失礼するわ。聞きたいことがあるの?」

 久宝さんの突然の登場に湯船に隠れて返答する。

「なんでしょう?」

「パセリって何処にあるの?」

「パセリ?・・・冷蔵庫?いや・・・野菜チルド・・・」

「判らないのね。探してみる」

 何だ?何をしているんだ?・・・いや、それよりいつまでもお客を待たせるのは、おかしい。早々に出て、服を着る。


 脱衣所から風呂場を出るとキッチンの方から、いい匂いが漂ってきた。

その匂いに釣られるように進んで行くと、ダイニングテーブルにはなんとオニオンコンソメスープが出来ており、暖かそうに湯気を上げていた。

「これは?」

「体冷えきって居るかと思って温かいものでも思って作ってみた」

 久宝さんのそんな言葉に、涙が出そうになった。

「ありがとう御座います。そう俺は・・・俺は、これを求めて帰って来ました」

「大げさ。早く飲んで」

 飲むと美味しい。その上、スープの中に浸したパン。そこにトロけるチーズも乗っていて空腹のお腹も満たしてくれる仕上がり。

本当に涙が出てきそうだ。

 久宝さんって本当に完璧な女性だ。どんだけ凄い女の子なんだ。最高だ。

「それより、あれからどうしていたの。話しなさいよ」

「・・・」

 この言い方、やはり怒られているようで、ちょっと怖い。


 スープを飲みながら久宝さんに、あの『ナイフ』を返して貰ってからのあらましを話した。

電撃の少女、獣人の女。虫工場。そして葛西臨海公園・マグロ水槽の破壊など、など。

「・・・そうなの?あれは貴方たちなの」

「え、世間ではどう言われている?」

「地震被害。この所、偶発している地震で、地盤沈下したため、葛西臨海公園の水族館は立ち入り禁止になっている。でもそんな惨劇になって、人が大勢死んでいるのに、ニュースにならないって、どういうこと?」

「俺にはよく解らない。誰かが判らないように隠したか、その情報をつぶしているかということ。だたわかってることは外国の人間がココ葛西に入ってきて何かを計画している。それを阻止しようとして他の外国人が来てそれを阻止しようとしている。ゆえにその外国人同士が、今、殺し合いの戦いを、やっていると言うこと」

「まどろこしいわね。・・・でもここ一年、体が火照る原因はそれだったのね。私にも少しは、予知能力あるみたい。それが教えてくれていのたのかも・・・それで、これからどうなって行くの?戦況は?」

「判らない」

「何故?」

「着替えると言って別れたんだけど、逃げてきんだ」

「逃げるって、なにから?」

「戦いだよ。あんな戦いはオレには無理。俺は怖くて逃げて帰ってきたんだ」

「何を言ってるの、貴方馬鹿?外国人が暴れているのに、私達、日本人がそれを許しちゃ駄目じゃない。奴らをやめさせなきゃ」

「久宝さん冗談じゃない。人が死ぬんだよ?どんだけ凄いか。久宝さんは解ってない」

「久宝さんって、なんか耳障りね。・・・雅夜でいいわ。雅夜と呼んで。・・・ねえサトジュン、今、日本が他の国の人間に戦場にされているのよ。それを許していいの?」

 雅夜、言葉に力が入ってくる。


「外国人が勝手に、この国に来て破壊して居るといるのに、自分の国である日本人の貴方は逃げたというの?それを放置して戦いから逃げ帰ったとゆうわけ?」

「口で言うは簡単だよ。雅夜さん・・・雅夜がいうのは判る。もっともな話さ。しかし現実を体験してから言ってくれよ。戦場は、酷くて、恐くて、悲惨な物だ。俺は震えて身体が動きもしなかった。・・・・怖かった。本当に怖かった。人間があんなに脆く死んでいくのかと知ったら、怖くて怖くて、普通で、いらなれなくなったんだ」

 俺はマルシアに腕を噛み切られたジャガイモ頭の叫び声を思い出し、震えた。

「俺も簡単に、殺されてしまうんだとわかった。今までテレビとか漫画を見て、ヒーローになった時の事をいつも想像していた。格好良く颯爽と行く自分。ヒーローは次々と悪を倒していく。しかし目の前で起きたことは違う。血を流し、腕が取れて、頭が潰れて、死ぬ。のたうちまわって死んで行くんだよ」

 俺は喋りながら潰れた人間の事を説明したが、それでも雅夜があっさりという。

「そんなの当たり前じゃない戦いなんだから。戦いってそんなものよ」

「何を言うんだ。見たこと無いからいえるんだよ。血が出て骨が出て、目や内臓が飛び出し、生臭さい匂いで充満するんだ。そんな中で戦うなんて、異常な人間が出来る行為なんだよ」

「戦意喪失ってこと?」

「そうさ、その通り。おれはただ巻き込まれたんだ。俺には無理だ」

「戦えないということ?」

「殺し合いなんだよ。俺に出来る訳ない。」

「・・・」

「苦しんで死んでいくのが戦場さ。・・・もう二度とそんなもの見たくもない」

「・・・なんだ。期待していたんだけどな。その様子じゃ駄目なようね」

 急に雅夜の声のトーンが落ち、目を伏せる。


「雅夜は・・・何をしようとしてるの?」

「日本を壊そうとしてる奴がいるなら戦うのみ。それが日本人としての当然のおこない」

 雅夜、噛みしめるように言うと、立ち上がって家から出ようとする。

「ねえ超能力って何?」

「よく判らない。でも努力して掴むものとわかっている」

 俺は風呂で出したようにして、両手を閉じて開き、パチンコ球のような電子をテーブルに落とす。飲み終わったスープのカップに落ちると弾け、カップがパカっと割れる。

「これは?電気?」

「いや電子みたいだ」

「どう違うの?」

「判らない。でも身につけたようだ」

「違うわ。貴方はまだ身につけていない。それは単なる始まり。そこから努力して役に立つまで伸ばして、初めて掴んだと言うものなのよ。それは」

 雅夜、キッ、とこちらを睨むと、手の平を開く。すると部屋の中で突風が巻き起こる。

部屋の中を中心にして風が回り、リビングにあったクッション、雑誌、洋服などが空中に巻き上がる。

グチャグチャになっていく室内。しかしこれは仕方ない。雅夜が、逃げる俺の態度に、苛立ちを見せつけている物だから。


 だからって・・・俺が出て行ってもどうなるものでもないんだ。

彼らの行動、考え、あれを身に着けなきゃ、とても戦えたもんじゃない。異常な精神を持たなきゃやっていけないんだ。

だって人を殺せないと戦いにならないのだから・・・

「わかった。レベルが違う。これは出来るだけ頑張って練習するよ」

 すると雅夜もやりすぎたことに気が付き、竜巻を消し、風を止める。

「ごめん。・・・お邪魔しました」

 と、頭を下げて玄関に向かう。

「家まで送るよ」

「何言ってんの?こんな弱い男に送られる筋合いはないわ。独りで十分」

 と、いつもと同じように言い返してきたので、普段の雅夜に戻ってきたようだ。

「まあ、そうかも知れないけど、いちおう男として・・・・」

 俺は送ろうと玄関口まで来ると異常に気付く。数十~百匹の虫が、玄関の郵便受けから入ってきて、壁や天井を伝っている。

雅夜もそれに気が付いたようで、

「あら?虫。かまきり?こんな春先に異常発生なんて」

「虫・・・・やばい」

「どうしたの?」

「敵対するもう一方の外国の方が、虫を使って日本を攻めているんだ。だから、虫がいるということは・・・逃げろ」

 靴を履いて、玄関の扉を開き、外に出る。

みると自分の家の前、通路の廊下の地面と壁一面に無数のかまきりが這っている。


 うわー、気持ち悪い。カマキリの絨毯とカマキリの壁。それがずっと俺の家の前に出来ている。

「団地から出るんだ」

 俺は雅夜を先導して4階の通路を階段に向かって進んだ。

通路にはおびただしいカマキリの数。それをぶちぶち踏み進む。

「気持ち悪い。もう嫌ね。これ」

 柔らかなフニャフニャした踏みごこち。そして踏んだカマキリの体液で、足の裏が滑る。

下手するとそのカマキリの中に転んで、ダイブしそうだ。

「もうやってられない」

 そういうと雅夜が俺の手を掴んで来た。

「え、なんで?ここで手を握るの」

「何、照れてるのよ。手すりを乗り越えるわよ」

 と,手すりに手を掛けると、俺を引っ張り引き寄せる。

「ちょっと待って。ここ4階だよ」

「飛ぶわよ」っと、言うが早いか、有無をいわず、浮きあがり、腕を引っ張って手すりを越えて外へ。

「うわー」

 当然落下。雅夜は足から飛び降りていくが、引っ張られる俺は頭から落下。

それも学校の屋上から飛んだようにフワーっと降りた訳じゃなく、本気で落下。

「落ちる。チョー落ちる」

 地面に付く寸前、空気の層に当たり、それがクッションになり、地面に軟着陸。

雅夜は足から、俺は頭から。

これは恐い。バンジージャンプのようだ。


「何だよこの降り方。落ちてるだけじゃん。普通じゃないよ」

「この場合、しょうがない。緊急離脱は必然よ。・・・それで、いつまで手を握っている気?」

「あ、・・・・すみません」

 と、気が付き、手を放した。・・・でも考えてみたら、そっちが握って来たんじゃないか。

でもこんな突っ込みいれるとまた怒られそうなのでやめておく。

「私、虫が大嫌いなのよね。・・・あの感情のない目・・・」

    そりゃ虫だから感情ないでしょ。当然です。

「…機械のような口・・・・」

    まあ虫だからそんなもんです。柔らかい唇って見たい気もする。

「・・・がさゴソ、這い回って気持ち悪いたらありゃしない」

    まあ、虫ですから這いまわります。

「なんか、生きてる可愛さっていうか、温かさをまったく感じ無いのよ」

    そんなこと言われてもしょせん虫ですから無理ですよ。そんな温かい虫っているんですかね?

 と、何度も突っ込みを入れたかったが、怖いのでやめておきます。

それに、こちらも水族館で虫にたかられ、嫌っていう目にあわされたばかりなので、見るの勘弁だったので頷いておきました。


 それよりとにかくここから離れた方がいい。

何処かに奴らが潜んでいるはず。こんな所で、襲われたら、逃げることが出来ない。だから出来るだけ安全な場所に移動しなければ。



 雅夜に『どっち?』と聞かれて、建物の右方面を指さす。

この辺は人が多い住宅街なのだけど、ちょうど向かいに学校が建っていて、その横が駐車場になっており、昼間は人が絶えることがないのだが、陽が暮れると極端に人通りが無くなってしまう。

 敵から逃げるためには、出来るだけ人通りが多いほうが良い。

当然、人が多ければ襲う方も世間の眼もあり、仕掛けるにはタイミングが必要になる。

 奴らだって今、活動はまだ秘密にしているようだから、人目のある所で堂々と戦う意思はないだろう。

人が多ければ、中に紛れて逃げることも可能だし、とにかく襲われないためには、出来るだけ人通りある場所を目指すべきだ。


 団地の裏にある1階の自転車置き場から、明るい大通りを目指して駐車場をショートカット。

そして次の棟の建物から、大通りに出る建物の脇を通り、角を曲がり・・・・と、行こうとしたら

「ちょっと待って」

 と雅夜に首の裏側の襟を捕まれ止められた。

嫌な止め方だな。マルシアと同じ止めかただ。・・・と思っていたら、何かが目の前を通過した。

「ん?なに?」

 その通過したものは、直径4cm長さ40cmの棍棒。その端には鎖がついており、もう一本同じような棍棒に繋がっている。俗言うヌンチャクって奴。

角の向こうから、それが振られ、壁にあたり、壁を少し削った。タイミングを合わせて、不意に攻撃をしかけられたのだった。


「おー、アブねえ。・・・今の予知能力?」

「かもね。・・・なんかヒュンヒュン音がした」

「耳がいいだけか」

 そんな会話をしていると、二発目の攻撃が来た。

今度は安全マージンをとって、後ろに下がって体制を整える。

 角から出てきた男は、筋肉質でタンクトップを着たスポーツ刈りの男で、身体に巻きつけるようにしてヌンチャクをヒュンヒュン振り回し、俺達をとうせんぼするように、立ちはだかる。

「誰?」

「さあ?・・・でもあの女のコンビではない方の、もう一方の外国人の方だと思う」

「変な言い方」

「だって正体が判ってないんだもの」

 すると背後にいつの間にか長髪、青いシャツをきた細い男が近づいて来ていた。何も持ってないように見えたが、雅夜が警戒を発する。

「そいつの手に気をつけて。・・・こいつトンファを使う」

「トンファ?」


 髪の長い男、近くまでくると、後ろにいた雅夜にパンチで殴りかかる。

よける雅夜を見ていて、大きく避ける距離を取ったので、結構腕が長いのかな。と思っていると、その腕の脇から、クルッと長さ30cmぐらい四角い棍棒が回転して出てきて雅夜を襲う。

しかし雅夜は、そのためのマージンだったらしく、もう一歩下がってそれも避けた。

 よく見るとトンファとは、四角い固い拍子木のような木の片方に、棍棒を貫通させて取手にした木製の道具。握った拳の中で取手を支点に回し、回転を利用した打撃武器のようだ。

アメリカの警官が持っている警棒に似ているが、向こうは素早く抜くためと、防御するための丸い警棒なのでちょっと違うが、奴の持っているのは、固そうなブロック状の木材だ。

 おのずと破壊力があるにように見える。


 なおも仕掛けてくる髪の長い男は、両手のトンファを立てに回したり、横に回したりして多彩に繰り出す。それはまるで海老に似た海の生き物のシャコのパンチに似ている。

普通のパンチで、そこの拳から30cm棍棒のパンチが繰り出されるのだから、間合いがとりづらい。雅夜も避けるのでせいいっぱいで、自分のタイミングが取れず防戦になっている。


 こうなりゃとにかく雅夜の方に参加して2対1で先に潰してしまおうと行きかけると、トンファの後ろから来た小柄なメガネの男が、出てきた。そして俺の前に来る。


メガネの男、ニコニコと微笑みながら立っているで、その脇の通って雅夜に近づこうとすると、それを察知して行く手を阻んでくる。

「なんだこいつ」

 こっちが動こうとすると、素早く前にくる。近寄られすぎると嫌なので、ずれるとまた前にくる。

それが素早く、まるでサルの様にすばしっこい。

そしてそのメガネの男に追い込まれるように、建物を背にして、右ヌンチャクのタンクトップの男。左をトンファの髪の長い男。そして前をメガネの男に囲まれるようにして追い込まれてしまった。



「どうするつもり?」

 本当は逃げたいのだが囲まれては仕方ない。不本意だが受けるしかない。

「これは防御するしかないでしょ」

「戦うっていいなさいよ。・・・でも見た感じ超能力者はいないようね。ならばこちらも反撃させてもらうわ」

 雅夜は両手を開くと、何か持つような動作をして、構える。


格闘技はやったことないので、はっきりと言えないのだけど、その構えの形は合気道か少林寺拳法のように柔らかい構え。俺もどうにかしなきゃいけないので、あのジャガイモ頭の男がやったの思い出し、手から肘までを、電子の膜で覆うということをやってみる。

「あ、出来た」

 自分の手の周りに何がジリジリした電気膜の手袋がついたような雰囲気である。足の方も、ブーツの様に膝まで何か装着された感じである。なんとかやっていけそうだ。

すると正面のメガネの男が、不意にちかづいて来た。


 どう来る?何をする?

他の2人は武器を持っているこのメガネも持っていると思っていいだろう。しかし判らない。このまま殴りにでるか?

 するとメガネ男の袖から何か滑り出て、手の中で金属のものが光った。それが手の中で回り、突き出される。

俺はスエイバックで後ろに体を引き、避ける。

 ヤバイ、行っていたらカウンターでやられていた。かろうじて距離をとり、体制を整えられた。

「十手?」

 突き出されたのは、30cmぐらいの尖った丸い銀の棒。いやその横に小さい尖った棒が2本正面を向いて、牛の角の様に出ている。

雅夜がこちらをみて言う。

「サイっていう殺人用の武器、両手武器のはずだから、気をつけて」

 サイを武器にしているメガネの男は、もう見せてしまったので、ニコニコと笑いながら、手の中でクルクルと回し、突き出すタイミングを見てる。

クルクルとまるで曲芸のように綺麗に回している。

凄いな。と思った瞬間、再び突き出された。気の緩みを突いてきた。

 俺は下がって避け、その突き出された腕に被せるようにパンチを出したが、メガネの男は空いた左手の袖からサイを出し、右手を引きながら、左手の突きを突き出す。2弾攻撃を放ってきた。

 慌てて大ゲザに飛び退いて逃げたが、雅夜に両手武器と聞いてなかったら、左手のサイに串刺しにされていただろう。



メガネの男、今度は両手に持って、ニコニコ笑いながらクルクルと回してみせる。

 厄介な奴らだ。

でも逃げられないなら、出るしかない。仕方ない。このメガネの男をまず倒して、と考え、前に出ると、メガネの男が何故か後づさり、離れ始める。

 あれ?なんだ。こいつら。今度は距離を開けだした。

ならば今か、と打ちに行こうと出ると、また雅夜に服の首襟を引っ張られ前に出ることを止められた。

またこの止められ方、よほど俺は、首後ろが掴みやすいらしい。子猫か俺は。

「何?」と、聞こうとした瞬間、きらめきが目の前を走る。何かが通過した、風でと音でわかった。

 何かの銀色の金属製の物が目の前を通過したのだ。


「何か通った。大きくて光る何か」

「本当、格闘のオンチね。相手が引くのは何か理由があるの。やみくもに近づかない。ほらあれ」

 雅夜が促す方向には地面につきそうなほど大きな片刃の剣を両手に持つ男が立っていた。

「斬馬刀。戦場の馬の首を切り落とすのほどの大きな刀」

 どうやらその剣が今通過したものだろう。

その斬馬刀と呼ばれる剣は、昔の床屋で使うカミソリのと同じような形をした四角い刃で、柄から刃先に向かって太くなっている。

そのため振り回して遠心力で斬る刀ようだ。しかしあの太く頑丈に出来ている刀だから相当な重さのはずだ。振り回すには相当な力が必要だろう。

「こんばんは。君たちに聞きたいことがあってね。お邪魔しましたよ」 

 その斬馬刀を二本持った男はニコニコと笑いながら近寄って来た。

身長は高く、長いコートを着て細くヒョロっとしている。家の前にいたカマキリにどことなく似ているので何か関係があるのかも知れない。

面長で顎が出ていて微笑んでいるので、見た目にはひょうきんな感じがするが、

「危ない。もっと下がって」

 雅夜には、何か感じるのだろう。3人の時とは違い、警戒を強くしている。

「葛西の臨海の工場、あれを全滅させたのは君たちかい?凄いね。どうやったの?見せてくれよ」

 近寄ってくる斬馬刀の男に、雅夜が早々に攻撃を仕掛ける。

小さいピンポン玉のような丸い空気の球を作り顔めがけて飛ばす。問答無用の対応だ。

斬馬刀の男は、飛び退きそれを避けた。

球は地面に植わった街路樹に当たり、弾けると風の渦巻きを生み、街路樹の幹はねじれて折れた。

斬馬刀の男はその攻撃の効果を見るとニャリと笑い、斬馬刀で攻撃の体制を作る。

 その姿はボクシングの顔面を防御する姿勢に似ているが、その姿こそカマキリが獲物に攻撃仕掛けるあの揺れる態勢の姿と同じだった。

ユラユラ揺れながら、イッキに間を詰めて仕掛けてくる斬馬刀の男の攻撃。


 雅夜、それを防御として球を出し当てようとするが、斬馬刀の男、すーと引くと球を流し、再び接近する。寄っては引く。寄っては引くを、繰り返す戦闘方法。

そして最接近するとニターと笑い、斬馬刀をフり下ろす。

 雅夜、空気の壁を作り対応しようとしたが、向こうのスピードが速く、発動している最中にヒットされ、防御が吹き飛んだ。

逆に空気の壁が雅夜を弾く事になり押されて後ろに飛ばされる。

後ろにいた俺にぶつからなかったら、そのまま建物の壁まで飛ばされて叩きつけられていただろう。

「早い。段違いのスピードと速さ。並みの力じゃない」

 雅夜、力の差を感じ、とりあえず逃げようと考えたようで、俺の首をつかむと右横に飛ぶ。

しかしそれは読まれていたようで、着地したら、もう間を詰められて前に立ちはだかる斬馬刀の男。

「おいおい、逃げちゃうのかい?戦おうよ」

 雅夜、近距離から掌底の空気砲を打つ。

素早く飛び退き避ける斬馬刀の男。それも余裕をみせて身体をのけ反らせる避け方。オチョクられている。

「サトジュン。貴方も撃って」

「俺も?超能力攻撃?」

 確かに、奴は簡単に避けているように見える。

しかし俺に出来るか?やっと出し方が判った俺なんかに。

 だが目の前の危機。逃げられない。やるしかない。とにかくやってみるのみ。

「出ろ。電子砲」

 あの時、メリサがやってみせたグルグル腕を回してアンダースローを投げるようにやってみたら、出た雷光。

だが斬馬刀の男、後ろに飛び退き、俺の雷光は届かず消えた。

「おしいね。もうちょっとだ」

 斬馬刀の男にそう言われておちょくられた。


雅夜、腕を振り大きな渦を作り、トルネードを起こす。

中に相手を入れて渦が縮まれば、カマイタチのような真空きりだ。

しかし男は閉まるより先に、渦の中心なから、飛び出してくる。

凄まじいスピードを持っているようだ。

雅夜、舌打ちする。

「それで終わりか?もっと出せないのか?」

 問い詰めながら、斬馬刀をユラユラ揺らす。かかって来いよと誘っている。

こちらは、懸命に空気弾や、雷光を発するが、相手は避けるか斬馬刀で弾く。駄目だ。次元が違いすぎる。


「こんなものか。これでおしまいなのか?」

 斬馬刀の男は、ふいに攻撃体制を解き、背中に鞘があるようで斬馬刀をしまってしまった。

「大工場を壊した人間というのが、どれだけ出来る奴か期待したけど、どうもあてが外れたな。こんな奴らが破壊したのか。どうかしてるぜ朱馬のやつも。あ~あ、つまんねー奴ら。もういいよ。おまいら殺しちゃって」

 斬馬刀の男がつまんなそうに下がると、最初に攻撃していた3人が再び俺たちの前に立つ。


 まずはタンクトップの男のヌンチャクの連続攻撃。払う様に雅夜が空気の層で防御する。

 ほぼ同時に横の髪の長い男がトンファで俺に攻撃してくる。

右手をパンチのように繰り出し、そしてそのトンファを回転させての攻撃。

それを俺が電子の層で包んだ手で、繰り出されたトンファの攻撃を受け止める。

痛くない。ぶつかる衝撃も電気の手袋が止めてくれる。とりあえず防御が出来るようだ。

 しかしただそれを普通に防御して受けていては駄目だ。硬い乾燥した樫の木で作られたトンファは、岩をも砕く破壊力がある。電子層が無い所を攻撃されるかもしれない。

やはり防御だけではなく攻撃が必要になってくる。


 ボクサーではないので綺麗にはいかないが、スエーバックでそれを避け、攻撃に移って前に出る。

 長い髪の男、掛かったとばかりに、ニヤリと笑い、後ろに下がると、横から出てきたメガネの男のサイが正確に俺の首を狙って突き出されてきた。

とっさに頭を下げてかわしたものの、二発目の突きは転がって逃げるしか出来なかった。

しかしそこはトンファの範囲内で、取手を回転させて攻撃にくる。

もう頭を抱えて逃げるのでせいいっぱい、二の腕に軽く食らってしまった。

「痛え、痺れた」

 二の腕に微かに触れただけ、なのに骨が砕かれぐらいの衝撃を味わう。

再び腕全体に電子を巻いて防御したが、トンファを逆に回して、ボディに突きあげるように打ってきた。

それが見事に電子の巻いてない腹に食らい、

「クハ、息が出来ない」

 崩れ落ちそうだったが、なおも横から狙ってくるサイから逃げるため地面に転がり攻撃をかろうじて避けた。


「何、遊んでるんだよ。もういいから、さっさと殺して済ませてよ」

 斬馬刀の男は飽きたようで、腕を組んで傍観している。

俺は必死に立ち上がって防御態勢をとったが、痛い。

肋骨が折れたか?息が出来ない。もう俺は動けそうにない。

「逃げろ、雅夜。もう防御出来ない」

 見ると雅夜もヌンチャクを腹に食らって呻いていた。懸命に後ろに下がり、連続技だけは回避した。

ダメだ。あっちももう限界のようだ。

 3人もどうやら、こちら状況を判ったようで、畳み込むように最後のフィニッシュに持ち込んで来た。


 突き出すメガネのサイの攻撃をなんとか避けれたが、もう次のトンファの攻撃が間に合わない。

「まずい、避け切れない」

 トンファの攻撃が迫ってきて、食らうであろう衝撃を覚悟した。・・・が、何かが目の前を遮り跳ねた。

「何?風?・・・いや影が走った」

 すると俺を攻撃しようとしていたトンファが空中に飛んでいる。

いやトンファだけでなくそれを握っている腕ごと血を撒きながら、飛んでいた。

 何かとてつもなく強力な力によって一瞬で胴体から毟りとられたのだ。

モガレた髪の長い男も状況がまだ把握できてないようで、肩から血を吹き出しながら、ぼんやり立ち尽くしている。


 その影は、それだけで留まらず、雅夜を襲おうとしていたタンクトップの男のヌンチャクも破壊した。

パキンと音とともに、振り回されているヌンチャクの片方を破裂させて消滅させてしまっていた。

折るのではなく破裂。

どんだけ凄い圧力をかければそうなるのだろうか?それがこちらと雅夜の所を通過しただけで行なわれた。


 そして影は斬馬刀の男の所へも飛びこむ。

攻撃を仕掛けたのだが、さすがスピードが早い斬馬刀の男は、反応して後方に逃げた。

影はすかさず2段3段とパンチを繰り出し追う。

斬馬刀の男は、溜まらず無様に大きく飛び転がり、大きく距離をとった。

 

 影が止まった、そこには一匹の獣。

獣人・マルシアが、無様に転がり体制を整えようとしている斬馬刀の男をみつめ、笑う。

「お、これはカマキリじゃないか。ひさしぶりだね。まだ生きたのかい」

 カマキリと呼ばれた斬馬刀の男、その声に驚く。

「マルシアか、なんでマルシアがここに?」

「私も聞きたいよ。なんで、こんな所に派遣させるんだろうね。働きづめだ。少しは休ませてほしいよ。・・・・それで、どうだい?カマキリ人間・虎曹。ココでもゴミ掃除係なのかい?」

「そんな見下した言い方しないでほしいな。こちらには特別処理部隊と言う名前があるのさ。お願いしますよ。・・・っていうことは、なんだよ臨海公園を壊したのはあんた達なのか?」

「さてどうだろう?」

「違うのか」

「別に壊してないよ。元に戻しただけ」

「チェチェン以来、また邪魔をしに来たのなら、今度こそ許さない」

 一気に飛んで、間を詰めて抜いた斬馬刀で、マルシアの胴を払う。

マルシア、体をずらしたが、カマキリ男・虎曹の斬馬刀が微かに速く腹を捉える、浅く斬られる。


 マルシア、カウンターで肘うちを返すが、虎曹飛び跳ねて下がっており、空を切る。

切れた腹から血が流れる。それを手で擦って、マルシア、確認すると微笑む。

「震えるね。やはり、戦いってやつはこうでなきゃ」

 マルシア、軽くネコ科の動物のように肩を落として飛びかかる体制を作る。それはまるでアメフトのプレイ開始のような姿勢。

「傷をつけあって、どちらかが先に倒れるか試そうじゃないか・・・・きっちり殺してやるよ」

「今日こそは首を切り落としてあげますよ。それなら、いくら獣人でも元に戻れないでしょうから」

 虎曹、両手に斬馬刀を持ち、カマキリのような戦闘体制の構え。するとサイを使うメガネの男がマルシアを挟み込むように挑みかかる。




 俺と雅夜、こちらは再びヌンチャクとトンファに襲われる。

ヌンチャクは片方ないが、警棒の様に打ち下ろしてくるタンクトップの男。トンファの奴は、片腕を無くし血を流す重症の患者になっているが、なおも攻撃をしてくる。

2人とも戦力が半減しているのに、構わず俺と雅夜に攻撃を仕掛けてくる。

 俺はその凄まじい闘争心に恐怖を覚えた。


「待たせたわねダーリン」

 建物の奥から、ゆっくりと近づいて来るメリサ。

戦闘が行われているエリアに構わず侵入してきて、こちらに普通に話しかけてくる。

「大丈夫?死んでない?」

「なんでここが?」

「後をつけてたの。そしたらね。こいつらが集まってきたというわけ」

 到着したメリサに気が付き、髪の長い男は一本の手でトンファを振って襲いかかるが、メリサ、バックハンドに振った電撃の一撃で、男を5mほど吹っ飛ばす。

 地面に落ちた髪の長い男は、首が回るはず無い所まで廻っているので、たぶん即死だろう。


 ヌンチャクの男もメリサに打撃を入れよとする。しかしまったく気にしてないように、こちらに話しけるメリサ。

「だから言ったでしょ。襲われるよーって」

 振り下ろされるヌンチャクの棍棒。

そのヌンチャクに電子砲を当てるメリサ。

 バチという音と共に、まるでヌンチャクに雷が落ちたように通電して、身体が焦げるタンクトップの男。そのまま崩れ落ちる。

メリサ、何もなかったように、にこやかに雅夜に挨拶。

「はじめまして。綺麗な方ね。恋人かしら?」

「違うわよ。恋人じゃないわ。単なるクラスメートよ」

「それは残念」

「それにもう学校で会っているわ」

「あら、そうでしたかしら。私、物忘れ激しくて」

 メリサが来てこちらの二人は排除したが、マルシア、うざそうに突き出すメガネの男のサイを避けて、カマキリ虎曹に飛び掛る。


 カマキリ虎曹、メリサも揃ったのが分かり、分が悪いと判ったようでこの場から逃げる。

それに続いてサイの男も一緒に逃げていく。

 マルシア、こちらに一瞬、目配せをすると、カマキリ虎曹の後を追い、街路樹の茂みの飛び越えて消えていく。

「一緒に追わなくていいのか?」

「まかせている。あんな早く動く奴は私、追えないもの」

 本当にあっという間に気配さえない。

「まあ、こっちは待機。待っていればいいの。それで何処か、この辺に良い所ない?」

「ここから近いのは俺の家、・・・いや、また襲われるのは嫌だから、ひと気のある所にしよう」




 俺は、雅夜とメリサを先導する形で、暗い建物裏から出て、広い幹線道路に出る。

人通りがあり、車の往来もある。

 まさか向こうも、こんな通行人に目撃されるような所で、おおぴらに襲って来ることもないだろう。ひとまず安心が出来る。

「出来るだけ人が多いほうがいい。ここいらで人が多いといったら・・・」

 見わたすと通りの向こうに、明るめの照明に照らされている店が見えた。

カラオケボックスとファミリーレストランが並んであり、明るくなっていたのだった。

結構、人の出入りも確認できたので、

「ファミレスに移動しよう。あそこならいいかな?」

 雅夜、メリサ、俺の3人で、信号機の所から向こう側に渡る。


 するとメリサが『ファミレス』という言葉が判らないらしく質問してくる。

「ファミレスって何?ダイナやドライブインみたいなところ?」

「ファミリーレストランの略。家族揃って気軽に食べられるレストランということ」

 と説明すると

「私達ファミリーじゃないけど」

「いいの。知りあいどうしでいけばいいの。そんな手軽なレストランなのよ」

「私、貴方をよく知らないわ」

「いちいちうるさいわね。いいから別にそこはこだわることじゃないの」

 雅夜は少々苛立ち、勢いよく、ファミレスのドアをあけた。



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