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第五話 水族館大激闘

「すげー、森だ。こんなの森は日本にあるのか」

 メリサに連れ出され館の外に出てみると、目の前に道らしい道はなく、もの凄く深い森の中のようだ。

東京でも千葉でもこんな森があるなんて聞いた事がない。

見回す限り、うっそうと生い茂った木々。

なんか不気味な魔界の森みたいだ。

 そして後ろを振り返ると、ちょうど今、出てきた建物を確認できる位置にいた。

「なんじゃこれ?お城だ」

 そう、それは古いレンガ作りで作られた1800年代のヨーロッパのお城そのままの建物だった。

「でけー。これじゃ中で迷子なるはずだわ」

「いいでしょ、作りはヨーロッパ・ゴシック建築のジャーマン系。高さは無いけど横にゆったり空間を取るように作ったの。出来るまで結構時間が、かかったんだから」

「そりゃあ素晴らしいですが・・・日本に西洋のお城があるなんていうのはデイズニーランドぐらいで・・・ここはいったい何処なの?東北の秘境か北海道の原生林?はたまた遠く海外に・・・」

 と、疑問をくちにしながら、俺はメリサに引きづられて数歩、歩かされる。

すると今、目の前にあったそのお城が一瞬で消え失せ、無くなってしまった。

「あれ、城が・・・」

 あるのは森の木々。自分達は360度森の中で、瞬間に木々に囲まれてしまった。

「消えた。どういうこと?」

 すると俺の腕を弾きながら、楽しげにメリサがいう。

「素敵でしょ。これもミラー効果。何枚も重ねるように電磁波を流し屈性する様に配置されている。つまり空気を歪ませて蜃気楼のように横を見えるような鏡を作り出し、周りからは見えない空間を確保する。だから森に館を作っても、それで隠くして人が入ってこれないように張り巡らしてある」

 これも超能力か?凄いな何でもできるみたい。やっぱり魔法だな。

しかしこうなると自分が出てきた場所が全く判らない。こりゃあ、一人では絶対に戻れないだろう。これじゃ遭難すること確実だな。

「そういえばドイツに黒い森とかいうのがあったが、こういうの?」

「あれは密集して木々が生えているため、中や外から黒く見える。それが黒い森の由来。そうね。そう意味では黒い森を真似ている」

 やっぱり?道理で気持ち悪い訳だ。まるで異次元空間の迷路の入り口みたいだよ。

などと想像しながら、森を進んでいると、急に周りが明るくなり、なんだが違う場所に出た。たかだか3~40歩ぐらいで森からでてしまったのある。まことにあっけなく黒い森を抜けれてしまった。




「ハイ到着」

 ありゃま、ここの黒い森はこんなに狭い森なの、しかも出たここ、俺がよく知ってる所だし。

「あれ?ここは、葛西臨海公園だよね?」

「そうです。正解。ここがメリサデス城の領土です」

 メリサは腕をほどくと、手を広げて公園を挿し微笑む。

そう俺たちは、まさに葛西臨海公園の木々の中に居て、その雑木林の中から出て来たのである。

「え、これはどういうこと?何処か知らない地方のどこかだとばっかり思っていたのに」

 戸惑う俺の頭を、マルシアが抜きざまに軽く小突く。

「おまえ、質問ばかりだな。ここでいいんだ。ココを観察するために作った空間なんだから」

「じゃ行くわよ。観覧車まで道案内、頼むわよ。出発!」

 メリサは楽しげに俺の手を握り歩き出す。

でも公園の林から観覧車なんてすぐ。実際、ここから見えてるし、道案内なんか必要無いんじゃないか?


 林から出ると、俺とメリサとマルシアの3人は、右の真っ直ぐ進み、観覧車に向かう。

メリサに手を握られて歩きだしたのだが、メリサの手の暖かさに気が付き、つい握られている手を見つめる。

 デート?手を繋ぐ?

こういっちゃなんだが考えてみると、学校行事以外で母親と妹を抜くと、女性の手を握るのは初めてだと気がつく。

 なんか女の子の手って小さくて柔らかいくて、いい感じだ。それもこんな可愛い子の手を繋いでいるなんて、ちょっと嬉しい。

 チケットを買い、止まらないで動いてる観覧車の扉を開けてもらい、滑りこむように乗り込む。

おー!これは本当にデートみたいだ。

 観覧車のゴンドラが上に登るのにつれて、こちらの気分も盛り上がり出す。

するとメリサがすり寄ってきて、優しくささやく。

「見える?ほら、・・・あそこ。・・・・虫の死骸」


「え?」

「台車の通路に3匹」

 メリサは楽しそうに指差し微笑むが、全く意味がわからない。

「戸口に5匹虫が死んでる。扉に3匹。向こうのフェンスにも」

 虫?何の話だ?なんでゴンドラに乗って虫の死骸を探しているのだろうか?

「あれ?これってデートじゃないの?」

「デートよ。敵の基地の入り口を探すデートなの」

 なんじゃそのデートは。

「おまえ虫の習性ってしってるか?・・・虫はフェロモンで集まる」

 向かい側に座ったマルシアが俺に質問してくる。

「それは聞いたことがあるけど、それが何か意味があるんですか?」

「虫の居るところには、必ず他の虫が集まる。虫達は互いにそうやって共生している生き物だから、虫は虫の居る所に行く。だから虫の管理する人間は、他の雑多な虫が入らないように、自分たちが出入する場所にトラップや殺虫剤を巻いて駆除している。つまりその入口付近には必ず虫の死骸がある」

 なるほど虫の死骸がある。・・・

しかしその意味がわからない。

 でもまた質問すると怒られそうだな。とりあえず納得しておきましょう。

そうしているうちに観覧車のゴンドラは一番上に上がる。いい景色だ。

 でも二人はホテル横の入り口のプレハブで付くられった守衛室にターゲットを絞ったようで、見つめている。

しかしここからあれが見えるのか?

 豆粒になった扉や守衛の人間。それよりもはるかに小さい虫の死骸なんて。

「通路はあそこ。こっちから向かった方がよさそね」

 などと、話しているメリサとマルシア。どんだけ凄い視力だ?これだと二人とも20.0の視力。いや30.0か40・0ぐらいあるだろう。


 ゴンドラを降りるとメリサとマルシアは目星をつけたホテル脇の戸口に向かう。

当然俺も強制的に連れて行かれる。こんなデートってあるのか?

 ホテル脇には、プレハブで付くられった守衛室があり、その入り口を守衛が見張っている。どうやらそこの入り口の奥に、地下に入っていく階段があるようだ。

「たぶん報告にあった工場の入り口があそこだと思う。あそこにスパイのように潜入して、証拠を掴んで破壊して潰していくの。それが私たちの任務。・・・ダーリン、あの人に聞いてみてよ。ここがなんの入り口か。私たち日本語うまくないからお願い」

 メリサが俺に頼むが、そんだけ喋れて何処がうまくないだ。

なんて聞けばいいんだ?と聞こうかと思ったがマルシアが睨む。

 分りました。質問は減らします。奴隷です。なんでもします。


 少々、当たって砕けろ気味で、守衛に近づき質問しようとすると、近づく俺を確認するが、早いか走って寄って来て問答無用で、

「何だおまえ。こっちは立ち入り禁止だ。向こうへ行け」

 あーあ怒られた。でも一応、質問する。

「ここは、何ですか?」

「お前にいう必要はない。来るな。近寄るな」

 凄い剣幕だ。尋常じゃない。警備員の言葉じゃなく軍隊の命令的な言い方だ。

と、思ったけど、こちらは単なる通行人、言い返す言葉がない。

「でもここは葛西臨海公園の敷地内で自分は疑問に思った次第で・・・・」

 後ろをみると、メリサたちが2人から『もっと、言って』と手を振られて応援されたので、一応食い下がってみたけど・・・

 その言葉に反応して、守衛は怒って物凄い力で俺の肩を掴んでくる。

ヤバイ、この人、キレてる。いきなり実力行使にきた。

「おまえに関係ない。そうじゃないか」

 守衛は興奮して荒い息、とても普通の状態じゃ無くなってきている。

「はい。ごもっともで」

 あまりの剣幕でそれ以上は、やっぱり俺には無理。引き下がろうとすると、それを見計らってか、こちらの脇を素通りしてメリサとマルシアが戸口に向かって通過して行く。

「駄目だよそこの人。駄目だ入っちゃ」

 俺を揺すりながら大声て2人を制止する。

しかしメリサとマルシアもそんな言葉を聞きわせずに、戸口へ向かって進んでいく。

「ほら、あいつらを止めて」

 守衛は興奮して掴んでいる俺をもっと揺すり言う。

「すみません。俺は彼女たちの奴隷なので、彼女たちを止められないんですよ」

 と、一応は弁明するが・・・・俺の言葉なんて聞いちゃいない。

「駄目だ。入っちゃ駄目なんだ。なんとかしろ」

 そう叫ぶと目が見開かれて壊れ始める守衛。

どうしたんだこいつ。普通じゃない。キチガイか?

「やめろ。入るな・・・ゴボゴボ」

 俺を掴んでいる守衛、喋りながら、口からゴキブリのような虫を数匹出してくる。

「うわー。うわー、なになに?どうなってんのよ」

 俺はあまりの驚きにその守衛を突き飛ばし離れる。

「毒虫よ。気をつけなさい」

 メリサが笑いながら言うので、地面に落ちた虫をとっさに踏み潰し殺す。

すると守衛は、口から虫を吐きながら入り口に向かっていたマルシアに掴みかかって行く。


 一撃。

掴みかかったマルシアの振り向きざまパンチが腹に入り、守衛は20mほど後方に飛んだ。

 まるで人形を投げたように、クルクル回って地面に落ちた。

スゲー、やっぱりマルシアのパワーは凄まじい。

「行くわよ道案内。ついておいで」

 戸口の扉を蹴り破り、入るマルシア。続くメリサ。

俺は壊れてた扉を跨ぎながら、

「何処がスパイだ。これじゃ殴り込みじゃないか」

 と、思った。


 ドアを開けると地下に降りる階段。そこをなんのためらいもなく階段を降りるマルシア。その後を続くメリサと俺。下に降りると意外に広い通路に出る。

地下1F、通路の脇には左右にドアがいくつもあり、部屋がいっぱいあるようだ。その一つをマルシアは開き、中に入る。

部屋の中には、いくつも積替せねなれたガラスケースがあり、電気で照明を当てられて暖められいる。保温機のようだ。

「なんだここは?実験室?」

 中を覗くと、ケースの中に葉っぱとか植物が詰め込まれ、その中をゴソゴソと動き回る無数の黒いものがある。

虫であった。

「ビンゴ。ほら見て。虫がいっぱい」

 メリサはガラスの中身を確認して納得している。

「これは何の虫?」

 蠢いている虫をみるが、日本では見たことものない虫なのだ。甲虫なのだが、カブトムシやクワガタとは違う、何かカナブンのようなやつで黒く光っている。

「これは、ブナガ。精力がつくと言われてる虫。でもここにいるのは品種改良されて、強力な異物になってる。・・・情報では、この虫を使って、自分の体の何十倍もの物を持ったり動かしたりする力を抽出、人間の火事場の馬鹿力のような作用の出せる薬を作り出していると聞いている」

 壁際にはたくさんの引き出し。その一つを促しマルシアは俺にいう。

「その引き出し、開けてみな」

 言われてその引き出しを引っ張ると、中は、びっしりとひき詰められた虫の卵が白く並ぶ。

うわー、キモ。

「ここは虫の卵の養殖工場。水族館の魚のエサと共に孵化させて育てている」

 マルシアの説明を聞きながら、なんとなく隣の引き出しを開くと、メリサが止める。

「動かないで。そこに居るのは毒虫系よ」

 俺は、手を離し引き出しから離れると、メリサがそれを閉める。

「ここは幾つもの虫を育てている。人を殺す毒虫。力を強くする火事場の馬鹿力の虫。そして人間を支配する微生物ワーム。それらを大量に生産する工場なのよ」

「なんでそんなのものが、ここに?」

「それは必要だから」

「必要?誰が?ーーーあ、痛て」

 マルシアに軽くでケツを蹴られる。

「質問多すぎ」

「そうね。知りすぎると、あなたを殺さなきゃいけなくなるかもしれない」

 あ、すみませんです。それは勘弁です。

「了解です。静かにしてます」

「じゃあ、サッサと片付けましょうか。やっちゃってマルシア」

 そう言うとメリサが部屋の隅に移動して光り、自分の周りを歪ませてフィールドを張る。

あれ?なにが・・・

 と、思う間も無くマルシアが、部屋の中にあそしてガラスのケースたちを軽く押すように動かすと雪崩のように崩れ、それが将棋倒しのように連鎖して部屋中のガラスケースが砕け散る。

 そして隅にある大きめな空調の機械を持ち上げて、引き出しの方に投げる。

砕ける引き出しの数々。

「ほら逃げて。毒虫くるよ」

 メリサに脅されて、俺は部屋から出た。


 マルシアは、ドアから出ずにそのまま壁を殴る。厚さ3cmもある壁がひとたまりもなく穴が開く。

そして右手、左手で相撲の張り手のように打ち込むと、最初の穴から綺麗に繋がって50~60cmの大穴になる。次にその下を、右、左と膝蹴りを入れるとひびが広がる。

そこを左右の足で蹴り上げると、高さ160横幅60cmぐらいの楕円形の穴を作り出し、それをいりぐちにして、隣の部屋の中に入っていくマルシア。

「まるで壁が紙か発泡スチロールで出来てるようだな」

 簡単に壁が壊されてしまった。


 そしてマルシアが入った隣りの部屋はボイラー室。各部屋の虫の成長育成の環境管理をここの空調で行っているようだ。

マルシア、壁にある空調の機械につながるパイプを掴み、引きちぎる。

 吹き出す蒸気、高温だろうと思えるがマルシアそれを物ともせずに、機械を持ち上げ、そして同じように並ぶ空調機械にぶつけ、互いに破壊する。

大音響と共にそこから熱い蒸気が湧き出してくる。

 ぶつかった拍子にイロイロな部分の破片が飛び、その一つが偶然に俺の頬に当たってしまった。

「痛てえー何だよ。すげーいてえ。」

 殴られたような衝撃を受けて、頬を触ると、ザックリ切れているようで血がベットリ。

「まじかよ。血が出てるよ」

 メリサは防御フィールドの中で笑っている。

「何やってるの?防御は出来るんでしょ。フィールドを張らないと巻きこまれて死んじゃうよ」

 確かにそうだ。こんな離れていても部品で顔を切る位だ。マルシアの破壊力は半端じゃない。本当に危険な女だ。

 マルシア、他の空調機には、壁を破った時に出来たコンクリートの破片を思い切り投げてぶつける。

コンクリートは加圧タンクに当たって内部まで破壊する。突き破った穴からは熱気が吹き出し、熱風が吹いて部屋を蒸気で満たす。

 熱い蒸気は隣の部屋、廊下と、順番に満たし、拡散し始めた部屋の虫を殺していく。あっという間に全ての虫達がムシ焼きにされていくのだった。

「なるほどね」

「感心して場合じゃないわよ。そこは危ないと思うよ」

 確かにメリサの通り。こっちにも蒸気が来ている。

蒸気の熱さは凄まじく、こちらも退避気味に下がっていくと、火災報知器が反応したのか、サイレンが鳴りだした。

「やばい。さっさと逃げなきゃ」

「何を言ってるの?これからが本番よ」

 あれ、やっぱりスパイのように隠れて調査じゃない。完全な殴り込みだなこれは。

サイレンを聞きつけ、何人もの警備員たちが各場所から向かってきているようで、通路の奥から走って湧いて出てくる。

「来たよ。マルシア」

 メリサの呼びかけにマルシアは部屋から出ると、俺たちの前に立ち、その警備員たちを迎える。

警備員達は一様に、伸びる金属警棒を出し、マルシアに殴りかかってくるが、軽くカウンターで、相手の顔や腹にパンチを入れる。

警備員達は紙くずのように吹き飛ばされるか、その場に崩れ落ちるかして倒れていく。、

 圧倒的な力の差。

マルシアのパンチは相手の頬を殴る。相手は防御するが、防御した腕は折れ、そのまま壁まで飛ばされている。

見ようによっては滑稽だ。

 突き進むマルシアに、向かっていく警備員が殴られ、ことごとく床に倒れていく。まるでワラ人形のが積み重なるように倒されて行くのだから。

 

 しかしこれって・・・怪我?気絶?いや、・・・

向かってくる警備員を何人も殴り飛ばすマルシア。目を開けたまま転がる警備員たち。

 そのやられた相手の首は違う方を向いて倒れていたり、腕がまったく逆に向いていたり、とても人間の構造上無理な状態で転がっているのだ。

闘いではない。力の違いがありすぎる殺戮。

 そう彼らは死んでる。虐殺。。マルシアが殺しているのだ。

今、目の前に起きていることは、これは本当に起きていることか?、

 俺は怖わごわ倒れている警備員をゆすってみる。

「本当に死んでる。マルシアは・・・こ、ころしているのか?」

 恐る恐る隣にいるメリサに聞いてみる。

「当たり前でしょ戦いだもの」

 メリサはいつものようなことだ言わんばかりに、倒しながら奥に進むマルシアに続き、歩いていく。

「これは本当に、本当に、本当に起きているのことなのか?」

 顔がつぶれていたり、腹から何かはみだして倒れている警備員たち。

「・・・」

 何か、臭い匂いがしてくる。そりゃあそうだ。頭の中身や胃の中、腸の中のものが飛び出して巻き散っているんだから、色んな匂いがして当たり前だ。

しかし俺は、そんなもの嗅いだことない。言い知れぬ恐怖が体を這い上がてきて、身がすくんでいく。

「あら、顔が青いよ。びびってるの?」

 言葉が出ずに頷くしかできなかった。

「そのうち慣れると思うよ」

「え?・・・慣れる?」

「奥にいくよ。離れないでね。襲われるから」

 メリサはそんな彼らを跨いだり、横目で見たりして通路を進んでいく。

恐ろしくて膝がガクガクしてきたが、立ち止まる訳にはいかなかった。

いくら怖くてもここに置いてかれるよりはいい。俺もメリサの後に続き、死んでいる人間を跨いだりして進むしかなかった。




「ここら辺りが中心部のようね。ここから、どっち行こうかしら」

 通路を抜けると少し広くなった場所に出て、何本か通路と上下に降りる階段の場所に出た。

メリサは何かを探すようにうろつき始め、奥へ単独で歩き始めた。

え?どうすんの?

「ここは分岐点だ。色んな方面から襲ってくる。きをつけろ」

 そういいながらマルシアはマルシアで違う方に向かって歩き始める。

「え、ちょっと、俺はどっちへ行けばいいの?」

「好きな方に進めばいい」

「なにいってんだ。好きな方なんてある訳ないじゃん」

「じゃあお前はあっちだ。繁殖場か倉庫見つけたら呼べ」

「そんな・・・殺されちゃうよ」

「それならおまえも戦え」

「どうやって?」

「撃て。さっきメリサに教わったろ。その通りやればいい」

「さっきは出来なかった・・・」

「そうかい、なら死にな」

 マルシアが言う通り、各方向から、警備員たちがわらわらと集まってくる。

ヤバイ、ここにいたら挟み撃ちだ。仕方なく言われた方に進む。


 それによって 挟み撃ちは避けれたが、前から警備員が数人向かってくる。

階段を上がってきた警備員は警備棒を出し俺に殴りかかってくる。

とっさに顔を狙って打ってきたのを普通にそれを腕で受けてしまった。

「痛え」

 こちらが体制を崩したので、すかさず相手は腹を殴ってくる。それがモロに俺の腹に入り、腹を抱えうずくまる。

痛い。ジンジンくる。駄目だ動けない。

警備員、倒れた俺に振りかぶってトドメに殴りかかっきた。

「助けて。殺される」

 こんな訳の判らない事に巻き込まれて、そして殺される。こんなのって普通じゃない。

「助けて、助けて。ころさないで。・・」

 打撃に耐えようと頭を抱え丸くなったが、その後の衝撃がこなかった。

「なにやってんの?寝てるばあいじゃないよ。殺されちゃうよ」

 見ると俺を殺そうとした警備員は、メリサの足元に倒れてる。メリサが助けてくれたようだ。

「無理だ。助けて」

「嫌よ。自分でなんとかしなさい」

 メリサ構わず、周りの調査をしている。

「さっき防御は出来たでしょ?」

 そう言われても自分でコントロールして出したわけじゃないし。

階段からは、なおも続く警備員の男たちがくる。みんな俺の顔面をめがけて警備棒で殴りかかってくる。

「防御」

 と、手をかざしてもなんか出るわけでもなく、警備員達はこちらに迫って来る。

俺は体を守るため、叩きに来た警棒を掴む。すると向こうはパンチをいれてくる。それが鼻に決まり鼻血がでてくる。

 くそ、もうダメだ。俺には駄目だよ。

俺は防御しながら、相手を殴る。なんとか向こうは当たったが、全然、怯まず再び攻撃をしてくる。必死の防御の俺。

「くそー殴ると手が痛い」

「痛い?手が痛いなら、足で蹴れば?」

 メリサが笑って、俺の独り言に突っ込みをいれるので、なおも襲ってくる警備員にけりを入れてみる。

蹴っても足が痛い。

 サッカーをやっていたおかげで、蹴りが綺麗に相手の太ももに当たったのだが、格闘技経験無い奴がやれば、うまく蹴れても脛が痛い。

「痛い、痛い。本気で痛い。」

 殴っても蹴っても痛い。しかし殴られればもっと痛い。止める訳にはいかない。

これは本当に行われている殴り合い。戦うしかない。

しかし相手の方が強い。何度も金属棒が俺の腕や腹に当たる。苦しい。気絶しそうだ。

警棒の衝撃は痛い。懸命に防御するが殴られる。

くそー、なんで俺はこんな目にあっているんだ。

 笑っているメリサ、こっちが不利なのを見て、俺を襲う警備員に触る。その警備員は一瞬で動きを止めて崩れ落ちてしまった。

なんだ?電撃か?

みると警備員は沸騰して煮えたように真っ赤になって死んでいる。

「殺されるわよ。戦うのよ」

 鼻血を出し膝をつき戦意消失している俺の前に立つメリサ。真剣に見つめているようだ。

「理由もなく、戦いなんか出来ない」

「正当防衛」

「でもこちらが進入してるんだぜ」

「殺されてもいいの?」

「いや、それは嫌だが・・・俺、今まで喧嘩もしたことない。そんな俺に出来るわけない。なぜ殴るの?何故殺すの?俺には無理だよ。相手を殺すなんて」

「じゃ、死になさい。」

 メリサは関心なくしたようで、自分の仕事らしい調査を始めた。


 俺は・・・俺は死にたくないので、逃げまわることにする。なおも集まってくる警備員。俺は必死に逃げる。

「これはゲームやアニメじゃない。無理だ、あんな風にかっこ良く戦えない。本当に痛いだけ。お願いだ。助けて」

 そんな叫びは届くはずもなく、続く警備員が、戦いに加わってくる。

そしてついに俺は、3人の集団に囲まれる形になり、殴られ放題でうずくまるしかなかった。

「なにやってる?死んだか?」

 マルシア来て、その3人を一瞬で蹴散らし、俺を引き起こしてくれた。

「おまえ命がかかっているんだ。相手を殺しな。相手の手を折る。足を折る。そして頭を潰す。効率よく相手を仕留める。これが戦法」

 そこにちょうど警備員が襲ってきたので、まるで見本を見せるように、マルシアその警備員の顔を殴る。

その衝撃の凄まじいさ、壁に張り付くように吹き飛ぶ警備員。

「戦いの仕方。相手より早く、こちらの攻撃を当てること。すべておいて先手必勝。防御なんていらないんだ」

「なんで?」

「そもそも戦いにおいて防御なんて存在しない。殴る。殴られる。殴る手も痛いし、顔を殴られるともっと痛い。所詮、喧嘩とか戦いは我慢して、より多く相手を殴り、倒したほうが勝ち。それが戦いというもの。そしてそれが殺し合い」

「そういわれても」

 マルシア、目が光る。なんか雰囲気が変わっていく。猫の夜行性に変わったようで、肉体が変化が始まりだす。

体が一回り大きく筋肉質になったマルシアが、襲いかかってくる警備員を腕を振るだけで突き飛ばし殺していく。

 すげー、もう次元が違う。それに引き換え俺は何も出来ない。

本気で・・・本気で逃げまわるしかない。

 この場はマルシアにまかせて、俺は後ろへと・・・下がると、メリサとぶつかる。

「なによ?邪魔。向こうに行って」

 と、言われて、横に行くと、そこにマルシアが投げた虫保管のケースがここまで飛んで来ていたようで、壁にぶつかり虫の卵を撒き散らす。

「やべー。気をつけなきゃ」

 と、後ろに下がると、

「そこ邪魔何やってんの?そこ見えないの、どいて」

 調査しているメリサに怒られる。

じゃあこっちと横にずれると、どんと何かにぶつかる。

それはマルシアが殴リ飛ばした警備員で、こちらに飛ばされて俺に当たった。

「どけ、巻きぞえ食うぞ。」

 そうだな下手にマルシアに近づくと間違われて殴られる。あのマルシアに殴られれば・・即死するだろうな。

どっちへいこうかと、戸惑っていると

「そこも見えない。邪魔なのよ。もう消えて無くなれ」

 メリサから、めちゃくちゃの言われ方。

慌てて、もっと離れると部屋を這う配管に頭をしたたかぶつけ、あまりの痛さにうずくまる。

「駄目ねやっぱり使えないか」

 そんなドジな姿をメリサに見られ、ため息をつかれる。

仕方ないじゃん。戦いの場所なんて、初体験なんだよ。逃げるので、精一杯だ。

 闘いながら・・・いや俺は逃げまわりながら、人が上がって来ない下に降りる階段を見つけ、そこを伝って地下2Fに降りた。




「助かった。ここは誰もいない。上に出払っているんだろう」

 ココも遠くでブザーがなっている、警備兵の徴収をしているんだろう。しかしここはとりあえず襲って来る奴はいない。一息つけた。

一応、急に襲われても困らないように、辺りを見回し、ドアを開き、中を確認したりする。

 廊下を進んで行くと、結構広めの部屋に出た。

そこは一番広い作業場のような部屋で、ここも保温器が縦横に並ぶ。

 巨大な虫の製造工場だと思われる。

保温器の蓋を開くと無数の卵。日付がついいている。いつから入っているかわかる。

地下何階あるのか判らないが、どうやら一番下から順に置かれているようだ。

部屋の隅のエレベータにて、孵化すれば順に上に運んでくように成ってことが判った。

「電気を切れば、保温器が止まり卵は死ぬな」

 一応メリサやマルシア側の人間として、少しでも役に立とうと考え、その保育器の電気を止めようと試みる。

保育器から下に伸びる電源コードを伝い、壁の方に進むコードをたぐり寄せて移動していると、いきなりマルシアが現れ、俺を横から突き飛ばし転がす。

「何をするんだ?・・・」と、口に出そうとした時、

 今、俺が立っていた場所に刃物のようなものが飛んできて刺さる。

マルシアは俺を突き飛ばして逃してくれたのだった。

危なかった。刃物が・・・いやそれは・・・刃物ような形のものが、一瞬で消えて水になり、床を濡す。

なんだ?何が飛んで来たんだ?・・・氷だったのか?

「さがりな。水の能力者のようだ」

 マルシアは嬉しそうに奥を見つめていると、廊下の門から声が聞こえ、男が一人現れる。

「俺のタマゴなんだおまえら、俺のタマゴをどうするつもりだ」

 水の能力者と言われた男は、ガタイのいい体で、180cmぐらいある。太っているというか丸いというか、筋肉か脂肪か判らないが、ズングリしており、まるでミュータントタートルズみたいな外見をしている。そして顔も丸くてゴツゴツしており、ジャガイモ顔。本当にタートルの一人といわれても信じそうだ。

「オラの卵どうすんだ」

 明らかに命令区口調。きっとこいつは司令官なんだろう。

そしてその容姿、出てくる登場の仕方。こいつはどうやらボスキャラのようだ。そんな現れ方をして俺とマルシアの目の前に来た。


 そのジャガイモ男、こちらを見ると、いきなり口からツバを飛ばす。いやそれは、今、飛んできた水のカッターのようなもんだった。

それが飛んできて、俺に迫る。あまりの不意打ちで俺は何も出来ず、見つめてしまった。

 避けきれない俺を、マルシアが手で庇って受ける。

カッターはマルシアの肘まで長く切り傷を作る。流れてる血。肘を伝って下に垂れ落ちる。

「ぼけっとしてんじゃない」

「ありがとう」

 なおも、ジャガイモ頭は、再び口からカッターを飛ばす。

マルシア、再び俺を突き飛ばし、そのジャガイモ頭に飛びかかって行く。

 俺は横に逃れてマルシアを見ると、マルシアが弾いたカッターが、床や壁にガツン、ガツンと刺さり、水になって消えていく。

「俺の鉄砲水を受けて、避けるなんておまえら普通じゃねえな」

「こんな陳腐なのもの誰でも避けられる」

 マルシア、不敵な笑いを浮かべてその、ジャガイモ頭の男の前に立つ。

「ムキー、おまえ許さない。殺してやる」

 ジャガイモ頭の男、部屋の一角にある魚用の水槽の所に行き、それを割り、水を床に撒き散らす。

そして何やら手を動かすと、その水が立ち上がるように、下から上がってきて、人体の大きさぐらいな竜巻を作りだし、ジャガイモ頭の男は、そこから、ピッピッとさっきより大きな5cm四方の手裏剣を飛ばす。

 避けるマルシア。

手裏剣は壊れた部品に当たり刺さる。そしてこれも刺さったあと水になる。

「少しは遊べそう」

 マルシアが微笑むと大きな牙が光る。結構、迫力がある。

そこにメリサも下に降りてきたようで

「ここは分類地区か、卵の孵化順をコントロールしているのね」

 無造作に戦いの中に、侵入してくる。

気が付いたジャガイモ頭が、メリサに向かって手裏剣を打ち出すが、メリサまったく気にせずに防御。

 見もせずに電磁の球体を浮かべるとその球体から雷を出し手裏剣を撃ち落とす。

何枚も飛んでくる手裏剣。メリサ防御。

そしてメリサは卵の成長や、機械、パソコンデーターの調査を続行している。

 メリサは凄い。水を操る男の攻撃に、まったく関せず、手裏剣を打ち落としていく。格の違いってヤツか。

「ムキー!もっと、大きな奴をぶつけて・・・」

 ボコって音がしてジャガイモ男が飛ばされ壁に叩きつけられた。

「よそ見してんじゃないよ。相手はこっちだよ」

 マルシアの一撃を浴びて、ジャガイモ頭の腹がザックリきれて、血を流している。

やったか?

 しかしさすがボスのようで、毅然と立ち上がり

「もう絶対許さないかならね。コロス」

 動くマルシアに、ジャガイモが手裏剣を打つ。そして俺やメリサに手裏剣を巻き散らかす。

マルシアは、もう慣れたようで、その手裏剣を横から叩き弾く。どうやら水手裏剣は、縦には強いが横からは弱くバシャと一撃で水になってしまう。

しかしそれはマルシアほどのスピードがあってのやり方であって到底オレには無理。

 俺は・・・逃げ惑うだけ。

俺はできるだけ距離を稼ぎ、かわして、避けて、しゃがんで逃げまくる。

「よく当たらないわね」調査をしながら俺を見るメリサは面白そうに聞く。

「昔、ドッチボールで最後まで残っていたほうなので」

「なに?ドッチボールって?ドーナッツのように揚げたお菓子?」

「いやそうじゃなくて・・・」

 ジャガイモ頭、三人相手に苛立って来たようで、攻撃を切り替えてきた。

「当たらない。クソ―。喰らえ」

 残った竜巻の水を、まるでジェリーのような個体にして、綿飴を巻き取るように水を手と足につけ、こちらに向かって走ってくる。近づいて接近戦に持ち込むようだ。

「喰らえ」

 手に水グローブのようにして殴るパンチ。

あっさりとマルシアに避けられ自分で自分たちの機械を破壊。

なるほど、水のグローブのようなパンチは、まるで氷の出来たように重いパンチになっている。

 そして続いてキック。

それも避けられ機械を破壊。キックも相当な破壊力で蹴った保温器が真っ二つに割れて、機械が蒸気を上げている。。

水も集まると重さも強さもある。それを活かしての攻撃だ。しかし、敏捷性を誇るネコ科の獣人は飛び跳ねて避けてしまう。

「くそ、なんで当たらない」

 もう止まらないジャガイモ頭、連続で殴る。どれも避けられ、機械に当たり、壊れる機械。

 そんな踊りを踊るような攻撃をしてるジャガイモ頭に、マルシアが狙いすまして一撃加える。ジャガイモ頭、とっさにその腕で受ける。

バチャバチャと音がしてグローブが飛ぶが、水の塊は防御にもなるようだ。

そしてマルシアの攻撃で散った水は、すぐに集まり映像の逆回転のように登っていき、またジャガイモ頭の男の手に溜まる。

「おい、おまえ、ジャガイモ頭。おまえ面白いよ。手品のようだ」

「ジャガイモだと?俺にはれっきとした朱馬という名がある。馬鹿にするな」

 殴りかかるジャガイモ頭にの攻撃を避け、反撃でケリを入れるマルシア。それを防御するジャガイモ頭。

殴る蹴るの肉弾戦になっていくマルシアとジャガイモ頭の男。

 それを見越してメリサ、俺を階段の下に促す。

「下を終わらせましょう、下は卵の貯蔵庫のはず。行くわよ」

 と、歩き出し、そして戦っているマルシアにいう

「下に行くわ。上からの人間を止めてね」

 出て行くメリサ。残される俺はここに居ても危ないだけなので、メリサに続きもっと地下へ降りる。




 地下3F、コレより下に階段は無し。つまり最下層ということだろう。

「もうここでおしまいね」

「そのようだ、しかし暗いな。そして寒い」

 急に広くなり、天井も高くなり、空間が大きく採られている。広さは厳密に言えないが50m四方の大きめな倉庫ぐらいの容量があるのだろう。

そこに木のケースが並び積み重なっている。まるで酒場のビールケースのように積かせねられ、次の工程に行くのを待ってるかのように、整理されて並べてある。

 風が冷たい。

ここは上とは違い卵の成長を止めるためなのか寒く冬の状態を作っているようだ。

「なるほどこれが最初の卵の状態ね。どうやらすべてここに集めてあるようね」

「何個あるんだ?数えきれない」

「どうでもいいわさっさと片付けちゃいましょう」

 メリサは倉庫内を見回すと頭が光りだす。若干、髪の毛が浮き出した。

あ、これは・・・・俺が食らった電撃の時と同じだ。

「行くわよ。自我を持ってね」

「なんのこと?」

「あまり広くないないから、一撃、全破壊」

 自我って、どういうこと?それにここあまり、広くないっていっても、柱や廊下とかあって、四隅には部屋らしきもあって、結構大きいような気がするが・・・

と、思ってるいる間にフラッシュのように輝くメリサ。

 メリサの身体から雷に似た光りが出て、前に走る

その光は枝別れして稲妻となり、走ってくいく銀の雷光。

走る雷は、物を伝って走り、木の箱の全てに通電して走る。そして一瞬の煙が上がり、ありとあらゆる電気系がショート。火花や炎を出す。

 そのフロア丸ごと、火花が散る。

「すげぇー」

 メリサ、ケースを煮えたぎらせ、虫たちを一瞬で蒸し焼きにしたようだ。湯気が出て沸騰する卵たちが盛大に燃え出す、

すげえ、すげえー。

 蛹もあったようで、バチバチとはじけた毛虫たちも火が出て、燃え上がる。

続いて保温機や水槽のヒータなどの機械類が一斉に壊れて爆発したり、炎を上げ始める。

 まるでイリュージョンを見せられているように、あちこちから火花が上がっていく。

「何に見惚れてるの。逃げるわよ」

 そういうと上の階に戻っていくメリサ。

「え?うん・・」

 と、言うのがきっかけのように火災を感知したスプリンクラーが天井から水を撒きだした。

おお、土砂降りの雨だ。しかし地下3階のこんな地底で水を撒かれたらどうなんだ?

いや、きっと排水で流れていく・・・とおもったが、流れて溜まった水に、多量の焼け死んだ虫が流されてきたのをみて、恐くなって水から上がる。

「すぐに足元いっぱいに水が溜まって動けなくなる。水遊びしたければどうぞ」

 子供じゃないんだから、そんなのは御免こうむりたい。メリサに続いて階段をあがる。




 階段を上がってみると、地下2階では、派手な音が続いていた。

戦っているマルシアたちに、まだ決着がついてないようだ。

そんな状態と判るのに、意を関せず

「終わったわよ。下は片付いた。上にいるね」

 と言い放ってメリサは、上の階段を上がっていく。

するとその返事というか何かわからないが、機械の塊がドア突き破り階段に飛んできた。

 その機械の大きさに、驚く。

まじかよ。こんなもの投げ合う戦いってどんな戦いだ?と、一瞬興味が湧いたが、巻き込まれたら大変だ。近寄らないに限る。


 コンクリート打ちっぱなしの階段をそのまま上に上がって行くと、今、登っているのは避難通路らしい。避難灯と案内が出ている。

地上と地下の階段とは繋がっているようだ。

 そこをゆっくりと上がって行くと、まだいる残党の警備員が、横の扉から突然出てきて襲い掛かってくる。

 メリサはまるで暖簾をどかすように軽く雷を一撃。

たったそれだけで警備員は即死。崩れ落ちて、俺の所に転がってくる。

うわー、死んでる。

俺はその死んで倒れている男を跨ぎながら、メリサの後を続いていく。

 マルシアもそうだが、メリサも簡単に人を殺す。信じられない。

「どうしたの驚いてるようね」

「どうして相手を殺すんだ。俺には殺す意味が判らない」

「私たちは仕事をしているの。その仕事をするのためには殺す。・・・まあ感覚としたら殺すということより、邪魔な障害物を排除するという感じかしら」

「でも、これだけ力の差があるのなら・・・」

「気絶せて、生かしておけというの?」

「まあ、やり方はいろいろあるけど・・・」

「相手は殺しに来ている。だから殺す。こちらは殺されるのも覚悟の上。だから殺せる」

 ・・・俺には殺すとか理解出来ない。判らない。でも殺しにくる。どうしたらいいんだ。


 階段を昇り切ると一階に出た。

自分達が上がってきた来た階段は、職員が使う階段で、通路にある同じ壁紙を張られた目立たないドアから水族館の内部に出れた。

 ドアから出て、明るい照明が点いた出口らしきほうへ進むと、ここは水族館の中央部付近だと判った。

海の生き物、貝や甲殻類が水槽に入れられ展示されていて、行くも戻るも大きな水槽を巡る道になっているようだ。

 臨海公園にある水族館は巨大で、マグロの回遊する水槽もあるほどで、通路を伝わって見て回る回廊型アメージングイベント施設である。どうやらそこと地下でつながっているようだ。

「出口どっち?」

「多分こっち」

「何故?」

「通路の矢印がこっちだから」

「バカじゃないの。単純ね」

 とにかくメリサと館内にある案内にそって進むことにする。


 水族館は海の中なので、暗めの照明。水槽ごとに通路が作られているので、細くなったり、曲がったりして入り組んでいる。

しばらく歩くと、メリサと俺は、途中で砂利のように足元の地面がゴツゴツした所に出て歩きにくくなる。

「なんなの~なんかの作り物?地面に何かある」

 よーく下をみると、何か動いている。

暗闇に目が慣れてきたので、じっとみて見てると、地面を虫達がゆっくりと動いていることが判った。そしてゴツゴツして歩きにくいのはその虫たちで、自分たちが踏んでいたのは、砂利ではなく虫達だったのだ。

「気色悪」

 しかし進まなきゃいけないので虫を踏み潰す。

道はなんとなく明るくなり出口に向かってるように感じた。通路案内通りに左折れて進む。小さい水槽の横を通り、大きなも擁し物を過ぎて、どうやら終わりに向かっているようだ。なかなかいい調子で、左に曲がる。

するとそこは・・・・

 虫が床一面這いまわり、埋めつくされていた。

地下で殆ど殺した虫たちだったが、どうやらまだ生き残りの虫がおり、地下から水と蒸気から逃げながら、通気口を伝って、1Fのここに、這い出してきているようだ。

それが後から後から湧きだして、壁は勿論、地面を虫が埋めて拡大している最中だった。

「やばい。こりゃ不味い」

「逆、反転」

 踏み潰しながら戻って、一番、手前の通路の方に折れる道を選ぶ。とにかく進路を変えて逃げることにする。

だがその戻る道は踏み潰した虫達の体液で、ヌルヌルと通路の床を濡らしている。そしてそこを踏むと少し滑るな。と気付いた時には、メリサが、転んで尻餅をついていた。

「大丈夫か」

 メリサに手を貸し起き上がらせるが、 『う、』と、言ってうずくまってしまう。

見るとくるぶしに、何か背中が赤い虫がいて、その虫がメリサを刺したようだ。その背中に赤い虫をあわてて、払い落とすが、固まったまま動かないメリサ。

「どうした?」

「足が、・・・毒虫っぽい」

 メリサは、祈るように足を見つめ、しばらくすると普通に体を起こす。

「足を麻痺して血の巡りを止めた」

 どうやら身体の一部を止めて、毒が行かないようにしたらしい。凄い。万能だな超能力は。

「これで毒は大丈夫。でも歩けない。ダーリンお願い。おぶって」

 さっきまで『邪魔。消えて無くなれ』と、邪険にされてたが、どうやら甘える時は、ダーリンと呼ぶようだ。

仕方ない。オンブするしかないようだ。まあ普通、か弱い女の子は守らなきゃ駄目なのだから、助けるが、・・・か弱いかどうかはちょっと疑問かな。

「でも俺の脚は?毒虫からどうやって守るの?」

「もう判っているんだから、足に電気の網を張ればいいの」

「どうやるの?」

「・・・疲れる。足に意識を持っていき、捲くの」

 俺は靴をイメージしてそれを履く、その靴を伸ばして足いっぱいまで伸ばしてブーツのようにしてみた。

「どう、出来たからかな?」

「入ってみれば判るわよ」

「えー、人体実験?」

 虫を踏み潰し歩いてみると、確かに足に上ろうとする虫が、痺れて落ちてるようだ。

「なるほど、こうやるのか。」

「イメージが大事。それが空間に物を生み出す。・・・まあ今、貴方が履いてるのは、私が作って上げているだけどね」

 通りで。今まで何度失敗してるのにいきなり出来るわけないっつうの。ただ凄いな。こやってガードが出来るんだ。

水の防御も驚いたが、電子もこういう防御も出来るのか。

「出口に向かって行きましょ。ココも虫で溢れると思う」

 俺は頷き、メリサを背負って歩く。


 メリサをオブって歩くが、メリサの軽さに驚く。

あれ?女の子って軽いもんなんだな。・・・・そのうえ甘いいい匂いがする。女の子っていいな。・・・あれ、気にしてなかったけど、コレって女の子の太もも触っているんだよな。すべすべして柔らかい。いい感じ・・・

などと、ふんわりとした感触を楽しんでいると、いきなり耳を引っ張られる。

「ちょっとグズグズしてるとヤバイかも。走って!」

 やっと我に戻った俺はメリサをおぶって走る。

「ダーリン、右よ。右」

 通路の分岐点が来る度、メリサが俺の耳を引っ張り、方向を示す。

「やめろ。耳を引っ張るな。馬じゃないんだから」

 笑っているメリサ。

「いいわね。なかなか働くわね」

 進んでいるうち出口に行かず、なんだか奥にいってしまい、水族館の中央部の巨大なマグロの回遊の水槽の場所に出てしまった。

ありゃりゃ、こうなりゃ、本来の入り口から出た方が、はやいのか?

なとど迷っていると、自分の後ろの壁の一部で、判らりづらくされている従業員用の扉から音がする。

「あ、来た、逃げて」

 メリサが耳を引っ張るので、背負ったまま、そこから離れると、そのドアからマルシアが、突き破って出てきた。

そこに居たら、危なく弾かれたドアの破片にどつかれる所だった。

 まったく危ないな。と見ていたら、次にその扉のあった場所から、水のカッターが当たり構わず飛びだしてきた。

「うひゃ~。まだ戦闘中なのね」

 ドアから離れ、そのカッターから、逃げ惑う事になってしまった。


 ジャガイモ頭の男が、戸口から出てくる。そしてまた口から水のカッターを吹き出す。

マルシアは体を横にずらして避け、避けれないものは手で払う。カッターは水になり、弾けて落ちる。

「水の男か」

 逃げる俺の背中でメリサが独り言をいう。

「体のうちの70%は水、それを対外に出す。そしてその体液を呼び水として使い、他に浮遊する空気中の水分や環境にある水など導き、その水を動かす」

「空気中のH2Oを水分にして使えるの?それじゃ資源は無限じゃない」

「空気のない所で戦えば枯渇するわ」

「そんな所ない。空気がなければ自分が死んじゃうじゃない。それに水って・・・・まさにここ水族館。水だらけじゃない。やばい」

「そうね。だから奴はここを基地にしたのかも。でもね水を操るとき、自分の体内の水分を呼び水として使用するのよ。おのずと体内の水分は体内しかないので限界がある。それはいくら水分補給しても、すぐには体液にならない」

「それで?」

「あまり使いすぎると、ミネラルを消費する。塩分が不足する。体に変調を及ぼすことなる。ならば消耗させるように、撃たせるようにしたらいい」

 戦闘中、隣に跳ねてくるマルシア。

背中のメリサが聞く。

「どんな状況?」

「もう無理だな。以外にあいつタフなんだよ。力が強い。超能力に虫の効果も使ってるみたいだ」

「仕方ない。全破壊ね」

「ヨーロッパの奴、後始末で怒るぞ」

「でも私たちこんな所で死にたくないもの」

「じゃあメリサ頼む」

「オッケー」

 頷いて手を開くメリサ。何かが空間の中を動いたように走り。一瞬で周りが歪む。

「え?何が起きてるの?」

 メリサが広げた手を下に下げると、足元から黒い蔦らしきものが部屋全体に延び、そしてそれは草のようなシルエットになり、そして黒い成熟した木の影が地面から立ち上がってくる。

そしてジャングルになるかのように部屋が変わっていく。

「あ、これは学校の校庭で起きたことと同じ現象」

「擬似的に作るの。こうやって空間に電子を放ち、大気を揺らし、暗い部分と明るい部分を作り、それらしく見えせる。大事なのは森林の雰囲気、木に囲まれた空間。それらに似せて大気を作る。獣人に有利になる背景や強化する空間にするのよ」

 なんだか鳥の鳴き声が聞こえた気がした。それほど、周囲はジャングルになっていく。

「ここからは私の本気」

 マルシアの体が変化を始める。身体が、数倍に膨れて行く。

「そうだ獣人なのだ」

 体が変身するマルシア。毛が生える?いや色が変わり、太く剛毛になっているようだ。肌の色も変化してる。

目は釣り上がり、牙が生え、耳がとがる。顔や体に斑の紋が浮きあがてくる。

 あっと思っていると、学校で見た、あの顔になっていく。

特に印象的なのは左頬の紋。しっかりとジャガーの斑紋が浮き出て、まるで刺青のように迫力がある。

 ジャングルの中で生きる獣。ジャガー。その力を発揮させることが出来る体型へと変化していくのだった。


 マルシア手を床に着く。すると体も少し細まったようにしなやかになる。それでもまだ足や腕は膨らみ、けっして弱まった雰囲気はなく、何か巨大な力の権化のような獣になって見える。

「かっこいでしょ獣人変化。四足になり、大型猫ジャガー。強さでなく敏捷性も加わったわ。私を乗せて4速歩行が出来るくらい凄いのよ」

 ジャガイモ頭も何かを察知したかのようで、水のカッターを飛ばしてくる。


 しかしマルシア、軽く手を振って叩き落として捌き、跳ねてジャガイモ頭の所に向かう。

そして簡単に相手の所に近寄り、アッパカットのように突き上げる一撃を加える。

回遊しているマグロの水槽に叩きつけられるジャガイモ頭の男。

「凄い。まるで次元が変わった」

「畜生」

 ジャガイモ頭、水のカッターを出し、近づいくるが、マルシアそれを体を揺するだけで避け、今度はジャガイモ頭の男の背後に飛ぶと、腕を掴み肩に噛み付く。

「ギャー」という叫び声を残して、ジャガイモ頭が崩れ倒れる。

 そして数回、首を振ると、起こしたマルシアの口にはジャガイモ頭の腕が、もがれて咥えられていた。

「あら、マルシアたら、腕、もいじゃった」

 マルシア、その腕をこちらに向かって投げる。

「あとでこいつに含まれる、虫の成分を調べたほうがいい」

「おっけー。じゃ腕を拾って」

「え、俺が持つの?」

「当たり前じゃない。貴方は奴隷なんだから、主人の持ち物は持つのよ」

 あれ、今度は奴隷に格下げか。歯向かっても仕方ないので腕を拾い上げる。

まったくメリサをオンブしながら、腕を拾わせて、やりづらいたらありゃしない。

「お、結構重い。腕というのは自分の体に付いているので判らなかったけど、3~4kgはあんのか?」

 しかし、血が流れている腕というのは、なんとも不気味だ。血抜きのために切り口を下にして・・・

「畜生、ゆるさん。ゆるさん」

 ジャガイモ頭の男、地面に転げまわりながらポケットから笛を出す。そして吹く。非常に高音の音色の笛。

すると、部屋の床に充満していた虫が活発に動き出しはじめる。羽のある虫は、羽を広げだし、水族館の中を飛び始める。

「なに?どうしたの」

 みると水族館にいる虫がココに集まって向かっているようで、虫がギチギチと動作音を出しながら来る。部屋の虫の量は増し、空間は飛ぶ虫だらけ。虫の上を虫が歩き、足の踝まで埋まる量になり始める。

「こりゃあヤバいぞ」

 素早く3人ともメリサが張った電子空間に入っため、飛ぶ虫にタカられるのは避けられたが、飛び交う虫が部屋を満たしだし。虫で足が動かなくなりそうなほど埋まりだす。

参った。どうすればいいんだ?そのうち俺たちはこの虫に食われてしまうのか?

 しかし背中のメリサは喜んでいて、

「ラッキー集めてくれた。だったらこいつら全滅させなきゃなね」

 メリサ、マルシアを見てマグロを指さす。

「えー・・・これ、しんどいな。・・・・まあやるか」

 そう言うとメリサは電子の空間を開き、マグロの水槽に稲妻固めたような球体を当てる。

さすがマグロの水槽、マグロがぶつかって大丈夫なように、アクリルガラスが27cmの厚さある。表面を焦がす感じで傷ついてる程度しか行ってないようだ。

 その当たった場所にマルシアが取り付き、何発もパンチを入れる。虫にたかれなかながら、渾身の力を入れたパンチを何発も叩き込む。

「これで行けるか?」

 アクリルガラスの一部の欠けたのか、傷がついたようでマルシア、ガラスから離れる。

「やってみる行くよ」

 こちらも虫にたかれながら、メリサが今度は鋭い雷光をその場所に叩きこむ。

するとビシっという音共に厚さ27cmあるアクリルに亀裂が入った。

 その亀裂はもっと大きな音を発し、幾重ににも、亀裂の量を増やしていく。

「おー。崩壊する。こりゃあ大洪水だ」

 するとマルシア、俺の背中にいるメリサをヒョイを掴むと、飛び跳ねて、壇の高くなっている観客席の後方に避難していってしまった。

「え?何?」

 と思った瞬間、水槽が破壊。

何十トンの水こちらに向かって溢れてくる。

「うおー」

 濁流に飲まれる俺。

飛ぶ虫も床の虫も一瞬で濁流に飲まれる。マグロの入った水の流れに巻き込まれて洗濯そうの中にいるように混ぜられる。

 さすが水の能力者・ジャガイモ頭、、水の中で立ち上がり、高らかに笑う。

「馬鹿め、これで俺が有利にたったぞ」

 水が来なかった観客側の最後尾に立つメリサとマルシアを見つめ、水の中に渦を作り水を空中に巻き上げる。

部屋の中溢れていた水は、強大な水柱のような竜巻を作り、ジャガイモ頭がコントロールし始める。

 俺は竜巻の中の一つの中にマグロと虫と一緒に回転に巻き込まれてしまった。

そうだよな。水系の超能力者は、周りに水があると、水を動かすことで強力な攻撃出来る。これってジャガイモ頭が有利だよね。

 でもメリサは笑って、ジャガイモ頭に近づき、足まで水の中に入ってくる。

「バカね、水は電気を通しやすいの。小学生でも知ってるわ」


 マルシア、天井まで飛んで捕まり、とにかく水がまったくない場所に避難。

そしてメリサ、太ももまで水に入りジャガイモ頭を見る。

「さようなら」

 メリサが光り、エネルギーが放出された。建物全体が光るぐらいな強力な雷光。

ピシャ、

 まるで鞭か何かが叩いたような鋭い音が全てが光った。

そしてジャガイモ頭は、白目を向く。一瞬で感電死したようだ。

 そのアオリを受けて水全体に流れた電気のせいで水の中にいた物が全て煮える。

虫はもちろん、マグロが一瞬で煮えてしまった。

 俺も煮えかかったが、やっぱり本当に電子系の能力を持ったようで、電気は俺の体に入ってくれ、死にはしなかった。しかし全身が痺れてしまい、まったく体が動かなくなってしまった。

避難した天井から降りてきたマルシアが、水に浮かんで流されていく俺を、だらしないと見下した目でみる。

仕方ないんです。体が動きません。

 水は出口から流れて外に出ているようで、出口の排水溝に向かっていく。

煮えて流れる虫とマグロとオレ。

 ペンギンのエリアのドアから流れてやっと念願の建物の外に出れた。

しんどい、本当にしんどい。普通じゃない。

 隣の死んでいるマグロと目があって、そう思った。





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