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第16話 ビースト


また避けられた。

何発目のプラズマ球だろう。打ち終わったメリサは、ふら付いて片膝をついた。

「どうしました?疲れたようですね」

 焼却炉パイプや計器が並ぶ中で、隠れるようにして、ボスがメリサをあおる。

メリサは、片膝をつきながら、荒い息でボスを睨みつける。

「それほど、彼が死んだのが、悔しいとみえる」

「うるさい。喰らえ」

 メリサの電光は稲妻で、ボスの顔面に飛ぶが、避けられてしまう。電光はそのまま、後ろのごみ集積場に当たり、一瞬で爆発したよう吹き飛ばす。威力は、まだ絶大だ。

「素晴らしい。本当に凄い威力だ。・・・・でももう今のが、最後かな?」

片膝から手も床につけ、体を支えるのがやっとのメリサ。

「エネルギーを使い果たしたようですね。見境なく攻撃するからですよ」

距離にすると20メートルあるが、ボスはメリサの正面に立ち、自分の頭上に炎の球を作り、大きく膨らませていく。

 荒い息をしながら、ボスを睨みつけているメリサ。

「逃げないのですか?・・・もう何も出来ないようですね。・・・・伝説の少女もここで終わりだ。死んでください」

 ボスが不敵に笑い、頭の上の炎の球を、メリサに叩き落とそうと振りかぶった瞬間、影が走った。

マルシアがボスめがけて飛び掛かり、ヤガーである爪の一撃をふるう

「なに?」

反応は素早い。自分に迫る圧力を察知し、体をそらし、かろうじてかわしてボスは逃げた。そしてメリサにあてようと作った炎の球体を、マルシアに向けて投げるが、半獣人に化したマルシアの速さでは、当たるはずもなく、軽くそれをかわす。

そこからマルシアは身体を反転させて、あらためてボスに突撃。

慌ててボスは、横に転がって避け、いったん後退し、離れて身構える。

「野蛮な獣人の登場ですか、どうも獣人とは相性が悪い」

「ほざけ。私も能力者なんて大嫌いなんだよ」

 マルシア、ボスに対峙して獣化した腕を立てて言い放つ。

「仕方ないです。二人同時にやるまで」

 また手のひらを広げ、黒いパチンコ球を出す。そして指弾の準備をした・・・その所を・・・

横から肩にガツンと俺の拳をお見舞いする。

一撃喰らい吹き飛ぶボス。

しかし俺の攻撃は、ボスにあまり被害を与えることが出来ず、数回転がるとあっさりと体制を整えてしまう。

「何?左右にジャガー?2匹になっている」

 失敗した。横から回った俺は死角になれたので、一撃を当てることが出来たが、どうも獣人の身体は扱いずらく、うまくチカラが入らなかったようだ。殴ったぐらいの破壊力しか与えれなかった。畜生。

「一撃で仕留めろサトジュン。ヤガーの名前がなくぞ」

そんなこと言ったって初めてのジャガーだぜ。うまく使えこなせないよ。それにさっきまで死んでたんだし。

すると俺の後ろにいたメリサが立ちあがり、そして俺を撫でる。

「サトジュンなの?」

「ガウ」

そうだ。と言ったが吼え声になった。

「良かった死ななかったのね」

 うなずく俺。

「よかった」

「喜んでる場合じゃないよ。メリサ、奴をやるよ。」

 飛び出すマルシア。こちらも出る。

ダッシュで、左右から回り込み、ボスへの距離を一気に詰めて、2匹で躍りかかる。

「獣人が2匹か、厄介だな」

 マルシアを襲う炎。でも立ち上がったメリサが防御幕を張りバックアップ。互いに呼吸はあっている。エネルギーは無くなるギリだけど、それぐらいは出せるようだ。

そして一息ついて充電を始めているメリサ。

炎が止まった瞬間、もうマルシアそれを乗り越えて飛び降り、ボスに肉薄し、横殴りの攻撃を加える。

ボスは腕で防御。でも獣人のパワーを跳ね返すことが出来る訳もなく、あまりの圧力の強さにボスはすっ飛ぶ。

そこのすっ飛んで落ちる所に目星をつけて、俺はパンチを叩き込む。

転がりながら脚で俺の腕を蹴り、飛び逃げるボス。

「たまらん。3対1か」

ほざけ、散々おまえにやられたのだ。少しぐらいお返しをしないと気が収まらん。


 マルシア、メリサの横に行き、聞く。

「大丈夫か」

「疲れた。もう歩けない」

「ボロボロだな。任せろ」

 肉体変化をさせて、4つ足歩行のほぼジャガーになり、メリサを乗せる。

「サトジュンは?ジャガーにならないの?強くなるのに」

「変身の仕方教えてない。下手に教えると・・・喰われる」

「喰われる?」

「話はあと。今は奴を倒すのが先決」

 メリサとマルシアの合同の攻撃。相手の攻撃をマルシアの機敏な動きで避け、メリサは電光を飛ばす。

メリサの雷光は弱いながらも、相手の攻撃を止める援護射撃になっている。

そして俺のパンチ。

ボスの避けた後ろの機械に当たり、へこます。身体の使い方が分かって来て、叩き込むパンチの威力が、段々と増してきている。

「いいぞ。行ける。ぶっ飛ばしてやる」


 ボス、動き回る俺たちを見て、急遽、焼却炉の炎を使って自分の有利な環境設定を始めた。焼却炉の蓋を開き、炎を呼び寄せる。そして防御と攻撃を兼ねた太さ3mほどの炎の柱を何本か立て始め、環境を変えた。炎の柱に身を隠し、雷光をかわし始める。

 こちらは不意に出来た障害物のため、超能力による長距離の攻撃が出来なくなった。俺は柱の周りを走り、ボスへと攻撃のタイミングを図る。しかし攻撃しようとするとボスがそれに気が付き、炎を打つ。

 それはこちらも炎の柱の影に隠れられるので攻撃を避けられるのだが、結局は向こうのテリトリー内だ。まったくこちらの攻撃が出来ずに走り回るしかない。


 獣人の得意とする範囲は近距離なので、ありがたいはずなのだが、この炎というのは、よくない。

動物は、熱いのが苦手なので、動きがゆっくりになってしまう。そして炎というのは自分の毛に火の粉が飛び移ってきそうなので、知らず知らずのうちに、柱から離れてしまう。

ボス、それをみてもっと柱の数を増やす。

「困ったね。どうも捕まえるのが困難になってきたね」

むやみに追い回さず、ゆっくりと状況確認に入るマルシア。半獣人に戻り、メリサを背中から肩に回し、肩車で歩く。

メリサも段々と回復してきているようで、逆立った髪も降りて来て、いつもの感じに戻っていた。

「どうだサトジュン。奴の姿が見えているか?」

マルシアの声が炎の向こうから聞こえた。

確かにボスの姿を追っているのだが、見えているのは一瞬。すぐに炎の柱に隠れてしまう。一応は追っているが、追いすぎると黒い炎を固めたパチンコ玉が飛んでくるので、下がる羽目に陥る。

マルシアも俺も、ボスの姿を見失いそうになるので柱を回るのだが、それはドンドンと迷路の中に取り込まれているようだ。

 そしてそこに新しく壁をいきなり導入してきた。炎の壁だ。

「おっとあぶねえ。これ以上ここは進むなということ?」

柱と柱の間に炎の幕が張られ、壁となり、次々と柱の隙間を閉鎖していくボス。ますます迷路になってきた。

「まずいわ。逃げてサトジュン」

そういうメリサの声がして、メリサを肩車したマルシアがジャンプで飛び上がり、炎の壁を飛び越えて後退したのが見えた。

ヤバいと思い、俺もジャンプして壁を乗り越えようとしたのだが、もう柱と柱の間にあった壁が上まで上がり、全面の壁になってしまい、離脱できずに残された。

「あなたは逃がしませんよ」

どうやら分断して個人戦にするつもりだったようだ。

見事に俺はその罠にはまり、メリサとマルシアのチームと離されて、俺はボスの近辺に残されてしまった。

「大丈夫かサトジュン」

 炎の向こう側からマルシアの声が聞こえた。しかし離れてしまったので炎の音で、聞こえづらい。

やばいね。また独りでボス戦かよ。そう思った瞬間、中間の壁がふいに無くなり。目のまえにボスが笑って立っていた。その距離20メートル。

「一匹づつ片付けてやる。まずはおまえ。半獣人の男」

 どうも分が悪い。こんな奴、一人で倒せるはずがない。まいったな本当に。

「焼き殺してやる」

 ボスはまた黒いパチンコ球を出し、指にセットして指弾を放つ。

「ヤベー。またパチンコ球だ。また殺されちゃう」

俺は懸命に、目の前に電子の壁を作ろうともがく。・・・・・・するとどうしたことだ?奇妙な感じに囚われだした。 指弾がすぐに来ると思ったが、発射されてゆっくりと飛んでくる。

「何が・・・何が起きてる?」

俺の動きが素早くなり始めているようだった。

向こうのボスの動きより、・・・というか今まで自分で経験してきた動きから、今の俺の動きは、だいぶ加速されだしているようだ。つまり周りの動きが遅くなってゆっくりに感じるのだった。

「なんだ?この感覚、スローモーションを見ているような感じだ」

 そうか、これがジャガーのスピードなのか。

段々マルシアの早さに近づいていってるのだろう。なんだか動体視力も上がりだし、動きも機敏になってきたような気がする。

俺は電子の壁をやめ、電光を飛ばし、ボスの指弾にぶつけて破壊する。俺の電光は遠くまでは飛ばないが、近くなら防御のようにして使えるのだ。

「え?」

 俺がパチンコ球を電光という能力で処理したので驚くボス。

「能力を使えるのか?」

 俺は自分でも驚きだね。獣人スピードと超能力、両方が使えるじゃん。みんなは両立しないと言ってたけど、やれるじゃん。

「おぉー俺は、無敵に成った」

「大丈夫?サトジュン」

炎の幕を回り込み、マルシアとメリサが、炎の壁の2~3層向こうの所までやってきた。炎の壁で互いに見えないが、自分の横にいることは声でわかる。

「ガウ。ガウ」

 俺は返事をしたのだが、完全に吠え声になっている。

「まだくたばっていないようだな。しかしこれは、これはどう周れば、そっちに出れるんだ?」

マルシアも迷路に悪戦苦闘している。

声を聞き、ボスは合流されて不利になる前に、こちらをつぶそうと必死になる。ここが勝負とパチンコ球を何発も飛ばしてくる。

俺の方はドンドン加速が付いてきて、飛んでくるパチンコ球が掴めそうな気分になってきた。まあ掴むと爆発するので掴むわけには行かないのだが、俺はそれを避ける動きでかわしたり、電子の攻撃で破裂させて少しずつボスに近づく。

「バケモノが」

ボスは炎の火炎放射を放ち、後退して柱の角を曲がる。逃がさないと追っかけて近づくと、角から飛び出したところにパチンコ玉が来る。罠だ。

「あぶねえ、あぶねえ。まだまだ調子に乗ると足元すくわれるぞ」

まだだ。ゆっくりジャガーの能力が来ている。それを確認しながら奴を追いつめる。

俺はどんどんと距離を詰めていく。ボスは後退しながら攻撃するが、破壊したりかわしたりして少しづつ近づく、

そんな近づくを俺に苛立ち、色んな炎攻撃を繰り出す。 パチンコ球、炎のメトロ弾、火炎放射。

しかしそんなもの、パチンコ球は雷光で弾けさせ、メトロ弾はジャンプでかわし、火炎放射は電磁壁で防ぐ。

「何故だ?ビーストのくせに、超能力を使えるってありえん」

 そう叫ぶが、俺にもわかんないよ。でも出来るんだから、やらしてもらう。だって楽しいんだもの。


 俺はリズムを感じ始めた。電子を飛ばし、肉体ジャンプ。壁で受ける。なんかジャンケンポンのように防御する。あまり深追いはせず、ボスに近づいて行く。

「なんだ。こいつ。ならばこれで・・・」

 突然、ボスが攻撃を変える。パチンコ、メテオの次にパチンコが来て火炎放射。それも長い火炎放射。

タイミングが狂い、パチンコ玉が肩にかすり破裂。「お?」と思ったときに火炎放射を浴びて吹き飛ばされた。

「やったか?」

おっとと、本当に調子に乗っては駄目だ。15メートルくらい飛ばされて離れたが、俺は死んではしない。生きている。顔や体の前の部分が、こんかり焼けて燃えて狐色になったが、ジャガー半獣人になっている俺はこれぐらいでは死なないようだ。

「コレぐらいでは駄目ですか」

 ボスはため息をついた。


またボスの攻撃が始まり、それを防御する俺。また最初からやり直しだ。

「・・・しかし奴を倒すとしたら、どうすればいいんだ?」

遠くから、パチンコ、近くによれば火炎放射。これではどっちにでもやられてしまう。「俺の超能力は遠くに飛ばない。ならば近距離戦だ。近くでは獣人のチカラが発揮できる。ならば近づいて奴を捕まえればこっちの勝ちだ」

 ボスの撃つパチンコ球を雷光で打ち、そしてかわして一歩近づく。ボスの方も、こちらが近づこうとしているの察知し、さっきとは違うタイミングで攻撃を変えて、火炎放射を打ってくる。

遠い火炎放射は攻撃力は落ちるが、広範囲に攻撃が広がる。これは避けようがなく、少々浴びる。身体の表面がチリチリ焦げる。

「くそー、まどろこっしい。本当になんとかならないかこのパチンコ球」

 ボスの撃つパチンコ球を右に左にかわし、近づいていくと、もっと自分のスピードが上がっていく。獣人の能力が上がりだした。

「いいぞ。すげえー、いい感じだ」

 どんどんと動作スピードが上がれば上がるほど、俺はなんとも言えない高揚感に包まれだした。身体の動きが速くなるにつれて恍惚感を感じ始めている。

「超能力より獣人能力は俺にあってる。行きそうだ。もっと高みに行けそうだ」

もっとスピードがあがる。獣人の能力がアップする。すると今見えているものが本当にスローモーションになり、リアル感が遠のいて行く。

 気持ちいい。もっと早く、もっと素早く。・・・相手を倒す。相手を殺す。そう相手を壊してやればいい。俺の頭のなかはそれだけでいっぱいだ。

「なんだこいつは?もっと変身している」

 自然に手足が延びて、肉体変化が起き始め、身体がジャガーになっていく。4本足にはならなかったが、エジプト神のような獣の化身のような人間になっていく。

そして腹の底から「ガオー」という叫び声が出た。


「マズイ。サトジュン。行くな。変身するな」

途中で合流した雅夜の導きで、迷路を回り込んだマルシアとメリサは、ボスの後ろ側に出た。そして俺とボスの戦いが見える場所に来ていて叫んだ。

 マルシアの声が響いたが、俺にはその言葉の意味が理解できない。・・・いや言葉を理解する能力を失い始めてるというか、もう俺は自分の意識を失い始めていた。

 ボスが近距離で、再び強力な火炎放射の火を出す。

「死になさい。野獣」

火の玉に比べれば、大したことはないが、それでも触れれば焼け焦げる。でも俺は逃げない。そんな火炎ぐらい大したこと無い。

 投げられた火の玉を身体に受ける。焼けただれていく皮膚。しかし獣人のジャガーの身体が、コゲた箇所をみるみる回復し始める。

「なんだそれは?いくら獣人といっても、そんなはやく回復は出来ないはずないだろう・・・・なんだおまえは?」

そう何故か、回復が早い。マルシアが直るのを見たが、今の俺はマルシアよりも早いかもしれない。マルシアを超えた獣人なのかも知れない。

「ならば爆発させてやる」

パチンコ球を集中的の連発して打ってくる。

スピードが上がった今の俺には、簡単に避けることが出来るが、俺は、あえて飛んでくるパチンコ球を手で叩き落とす。当然、爆発する。手のひらの肉が吹っ飛んだ。

「・・・本当に何なんだこいつは?」

ボスに恐怖が走る。 

破裂して俺の顔が切れたり、腕にやけどを負う。だが今の俺にはどうでもいい。目の前にのターゲット。こいつをどう殺すか、それだけが頭にある。

 こいつを殺す。捕まえてボロボロに引き裂いてやる。頭の中に言葉が響く。


ボス、パチンコ球を打つ。構わず手で払う。爆発する。手がもげそうだ。手だけじゃなく、二の腕にも当たった。当然、肉が飛ぶ。あ、肘が動かなくなってしまった。でも構わん。進撃だ。

ボスは、どんどんと突っ込んできた俺におされ、俺が掴もうと伸ばした手をかわしそびれ、肩をかすめる。

ほんのかすっただけ。しかし獣人のパワーは、ボスを飛ばして転がし、壁に叩きつけるほどの威力を持つ。おお、ジャガーのチカラ。俺の威力は抜群だ。

そしてボスが壁際で立ち上がった時には、俺はもう目の前にたどり着けていた。そしてついにボスを捕まえた。

「ひぃ」

 ボスの見開かれた目に恐怖が走る。嬉しい。

俺はボスの腕を持ち、喜びで、それを振りまわした。腕を掴まれたボスは振り回されて、抵抗も出来ない人形のようになっている。俺はそれを、壁に叩きつけてみる。

感触が変わった。

人形だったボスの身体が柔らかくなり、もっとグニャグニャのヌイグルミのようになった。今度は床にたたきつけてみる。するともっと柔らかい毛布のような手応えになった。

ぺらぺらだ。つまらん。引き裂いてやる。

左手でボスの身体を掴み、持っている右手を引っ張る。すると簡単に腕が取れた。

「やめてサトジュン」

 見ていた雅夜が声を上げる。

あ、反対側に、腕がもう一本在る。今度はそっちを引っ張ってみる。

「ダメよ。やめて」

 そっちも簡単に取れた。フニャフニャだ。

残りはとみると、首がある。それを引っ張ってみると・・・

 顔を背ける雅夜。

血まみれの首が手の中に残った。

勝った。俺は勝った。あいつを壊してやった。

俺は手の中の物を投げ捨て、勝利の雄叫びをあげる。

「・・・・・・」

 メリサもマルシアも無言でみつめている。




 相手を倒したことを喜び、絶叫の吼え声。それは獣の鳴き声。体から沸き上がってくるチカラの声。

力がほとばしる。体が燃え上がる。なんでもいい破壊だ。近くある何かの計器である機械を掴み引きちぎり、もぎ取って投げる。飛んだ機械地面に落ちて潰れる。

隣にある他の計器も壊す。柱に這うパイプなどを引きちぎり破壊してやる。叫び声あげて、破壊していく。俺は破壊神になっていくのだ。

「やめなさいサトジュン。もう終わりよ」

 振り返るとそこにいる雅夜がいる。目が合う。

「駄目。雅夜、逃げて」

メリサの声が飛ぶ。

「え?」

 雅夜に近づくと不安の表情が走る。獣というは相手が怯んだ所を襲うものだ。当然、ダッシュして雅夜を殺す。

雅夜に飛びかかった所で強烈に横から衝撃を食らった。なんだ?

飛ばされながら衝撃の原因を見ると、マルシアが横から俺に体当たりを食らわしてきたのだった。そして俺は壊れた機械や計器の中に吹き飛ばされた。



「どうしたの?サトジュンは?」

「恐れていたことになった。暴走だ。獣に身体も心も乗っ取られている」

マルシアが冷たい目で、機械の中でもがく獣人と化したサトジュンを見つめながらいう。

「喰われるって、獣の血にのまれることなの?」

「獣に取り込まれた姿。奴は完全にビーストになっている」

「そうなると、どういう事になるわけ?」

「獣として暴走する。全て破壊する。死ぬまで物を壊し続ける」

「当然、そこにいる人間を殺すということ。味方だろうと何だろうと殺し尽くす」

メリサの言葉も冷たく、哀れんだものを含んでいた。

 飛ばされた機械の中から出てきたビーストは、3人をターゲットと定めたのか、咆哮を放つ。

「やばい。こっちにくる感じ」

「どうすればいいのかしら?」

メリサがマルシアに聞く。

「仕方ないんだよ。殺すしかない」

「そうよね。それしか方法ないものね」

 マルシアは、メリサと雅夜を自分の後ろに回す。ビーストから見えないようにした。

するとビーストはマルシアを見つめて、動き出す。ターゲットを決めたようで叫び声をあげ、歩いてくる。

「突っ込んできたら。後ろに逃げろ」

マルシアの陰に隠れて、メリサと雅夜は離れて距離をとる。

突然、スピード上げ、突っ込んでくるビースト。マルシアも正面から突っ込み、体当たりを食らわし、互いにはじける。

 しかしビーストは、数歩はじけたところで体勢を立て直し、再び殴りかかってくる。

受けるマルシア、防御した腕を殴られて耐えるが、

「きつい。半端じゃない」

 マルシアも殴り返し、相手の顔にヒットさせるが、ビーストは全然効いた風ではない。構わず何発もぶち込むが効いておらず、平然とマルシアに殴りかかる。

やはりマルシアが防戦になり、次第に顔に腹にビーストのパンチが決まりだし、耐え切れず、後ろに飛んで逃げた。

 咳と共に血を吐くマルシア。

ビースト、そのマルシアを追おうとジャンプしようとするが、その背中に回り込んだ雅夜が飛びつき、背中の肩口から袈裟懸けに会心の一撃がはいる。

水刀青龍の刃がビーストの肉を裂く。

さすがに背骨を断ち切ることは出来なかったが、白いものが見えるので骨までは達している。しかしビースト、まったく何事なかったように、背後に腕を振る。

「きゃっ」

水刀青龍刀を持つ雅夜に当たり、弾かれるように壁の方に飛ばされた。

ビースト、転がった雅夜を見つけ、襲いかかろうと体を縮めて飛び掛かる体制に入ったタイミングでメリサの雷光が走る。

見事に横顔に決まり、雷光でビーストの顔が焼けただれる。

 さすがにコレは効いたようで、その場で膝を付くビースト。

頭を振って、脳みその痺れを吹っ切ろうとしているが、ふら付いている。

「駄目か同じ属性だから、私の能力では殺す事が出来ないようだ」

「どう?どうにか元に戻す方法はないの?」

転がった雅夜は体制を立て直し、身構えて聞く。

「無い。いままで何人も獣になって、いろんな方法を試したが、誰も戻れなかった。殺すしかない。こちらが殺される前に」

 マルシアの言葉に、雅夜も決心がついた。

「じゃあ、どうすれば殺せる?」

「獣人は、少々の傷なら死にはしない。やるならクビだ。首を切り落とせ」

 マルシアに言われて、これは私の仕事かと、雅夜は水刀青龍を見つめ頷く。

そしてすぐさま滑るように近づき、まだ痺れているビーストの横から、上段に構えた水刀青龍を叩き下ろす雅夜。

しかしビースト、意識が混沌としていても、攻撃に反応。雅夜の水刀青龍の刃を、左腕を上げて防ごうとする。

だが腕で刀の攻撃を防げる訳もなく、左腕が肘から見事に切り落とされる。

「まずは戦力を削いだか」

ビースト、左腕を不思議そうに振る。振る度に血が飛ぶ。無くなった事がよくわかってないらしい。

「サトジュンは完全に獣と化しているのね」

「あのバカ、脳まで獣になっていると思う」

「じゃあ電子の能力は使えないと考えていい訳か」

メリサ、ビーストの行動を見て分析している。

「能力を持っていること事態、忘れてしまっている。それほどビーストに食われているな」

「でも変ね。こんなに早く、獣人の能力って発揮できるものなの?」

「輸血したばかりだから、ここまで変身すること自体、驚いている。それに随分と戦って傷を受けている。いくら獣人がタフだとしても、もう体力を使い果たして、動けなくなっていてもおかしくないのだが・・・」

 そう、マルシアも長い時間、半獣化して戦っていた。息が荒くなって疲れが来てる。

「じゃ今動いているのは獣人だけのエネルギーじゃなく、電子能力の可能性が強い訳か」

「電気仕掛けのビースト」

「ならそのエネルギー吸い取ったら?・・・雅夜、サトジュンビーストを生け捕りにするわよ」

壁際でビーストから隠れている雅夜が聞く。

「首切りは?」

「ちょっと試したいの。捕まえて頂戴」

「無理よ。こんな怪獣。捕まえられるわけない」

 ビースト、頭を振りながら、見える片目で敵を探す。

ビーストに近づくメリサを見つけ、身体の向きをメリサに合わせる。

メリサ、自分の前で手を合わせる。そして開くと黒いボールが浮かぶ。それをビーストに向けて発射。

ビースト、素早い動きで後退。それを避ける。

ボールはビーストの居た場所で破裂。すると黒の中は、まるで光が詰め込まれたかのように強烈な光を放つ。

眩しそうに目を隠したビースト。

その腰に横から突っ込んだマルシアが猛烈な勢いのタックルで体当たりし、そのまま、走りこんで壁に叩きつける。

ビースト、壁にめり込み、マルシアに腰をホールドされて壁に張り付き動けない。

雅夜、水刀青龍を水平に掲げ、ビーストの胸を貫ら抜こうと突きをいれる。

しかしビースト、動物の反射神経で、雅夜の突きの白刃を右手で掴む。

「え、うそ」

 白刃を掴んだまま、ビーストは咆哮をあげる。

「まずい。刀を折られる」

 とっさに判断した雅夜は、渾身のチカラで引き抜く。すると白刃を掴んだビーストの指が切れてボロボロにと床に転がる。

「壁に串刺し出来なかった。・・・マルシア逃げて」

 雅夜、ビーストから離れながらいうが、ビーストの動きは早く、腕が欠損している左腕と指が無くなった右手でマルシアを掴み持ち、そのまま上に放り投げて、天井に叩きつける。

「うぐー」

 落ちて床に崩れるマルシア。

ビースト、その地面に転がるマルシア頭を狙って、渾身のパンチを叩き落とそうとする。その寸前、メリサの雷光が胸に当たり、身体が止まるビースト。その間にマルシア、転がって離脱する。

胸をかばい、息を整えるビースト。相当効いたようだ。震えながら、その撃ったメリサを睨みつける。

メリサ、それに応え、笑って指招き、

「ほら、来るなら来なさいよ。サトジュン」

 ビースト、咆哮を放ち、ターゲットをメリサに決めて、ジャンプで一瞬で近づき、メリサに掴みかかる。しかし指がないので、メリサの首を手のひらで押して床に叩きつける。そして口を開き、メリサの首筋に噛み付こうとするが、ビーストの牙は届かない。

マルシアが、ビーストの両足を掴み引き、そのまま引ずる。部屋の真ん中あたりの床にうつ伏せにされているビースト。

雅夜は倒されているビーストに向かってジャンプ。そしてその背中に水刀青龍を突き刺す。水刀青龍はビーストの身体を突き抜け、床まで達し、床のへりの隙間にささり、刀でビーストを串刺しにしたようになる。まるで昆虫採集の標本にされた虫のように、床に刺さって動けなくした。

すかさずマルシアは暴れて動く右腕捻じ曲げ、動かないように固める。

もがくビースト。だけど動けない。すると先ほどマルシアに渡された水晶がポケットから落ちて床に転がる。メリサ、その水晶を拾うと、叫び声を上げているビーストの口にねじ込み、そしてビーストの頭を抱えておさえる。

「お願い水晶、悪い気を浄化して」

そういうと一気に体を光らせるメリサ。

 ビーストの頭からをプラズマがほとばしり、それはメリサの体をもっと光らせた。

身体からバチバチと電磁が飛び、痙攣を始めるビースト。

「キャー」

水刀青龍を刺したまま、ビーストの身体に上にいた雅夜が電磁に痺びれてビーストからの背中から転がり落ちる。

「うわーたまらん」

 右腕を掴んでいたマルシアも痺れて、手を離し転がる。

「消えて無くなれビースト」

 メリサ、踏ん張り、声を上げると、もっと光りだす。

光り輝くビースト、なすがままに痙攣していた体が次第に小さくなっていく。

身体にあった斑紋が消え、胸板の厚みは薄くなり、手足が縮んでいく。獣人の肉体が変化して元に戻っているのだった。

 メリサに頭を抱えられ、身体を痙攣させ、ビーストはサトジュンになっていく。

そして痙攣が止まり、身体がぐったりして静止すると、メリサの輝きも消えていく。


雅夜、ビーストの身体に刺さった刀を抜く。抱えた頭を離し、ビーストの顔を見るメリサ。

ビーストの顔は焼けただれ、片目になって、頬の肉さえ無くなってしまっているが、サトジュンの顔に戻っていた。

 背中から血を流し、片腕になって、焼けて消し炭のようになっているサトジュンを、雅夜とマルシアが見下ろす。

「死んだの?」

雅夜が覗き込む。

「なんかそんな感じになっちゃった」

メリサも立ち上がり見下ろす。

「これで、いいんだっけ?」

「さあー判らない。これからどうしましょ」

「なんだよそれ」

 呆れてマルシアが、笑った。





 どこからだろう。記憶がなかった。

そう楽しかった。とにかく楽しくて面白かった。でも何があったのかは覚えてはいない。

温かった。優しく包まれていたことは確かだ。とても静かで、ゆったりとして、浮かんでいるかの如くに快適だった。

でももう、それが無くなってしまうことは、判っていた。


 目を開いた。

「ここは?」

目の前に何かキラキラした物が見える。あれこれは・・・天井から吊るされたガラスの・・・なんだ?・・・シャンデリア。

 あ、この西洋的なものがあるということは、ここはメリサ達の館だろう?

そして自分の目の脇に見える木の感じ。見間違えはしない。これは棺桶の中だ。

あ、俺は死んだんだ。・・・でもまた生き返ったのか?でも死んだよな?・・・そして生き返った?

 よくわからん。・・・で、体を動かそうとしたら、動かない。・・・・え、やっぱり俺は本当に死んでるの?・・・

と、よくみると俺は、何か白い物を着せられている。

これは・・・拘束服だ。手から腕を服に通し、服ごと体に巻かれて動けないようにする服。よく精神病患者が暴れたり、自分を傷つけようとするのを防ぐために着せる服だ。しかしなんでそれを俺が来ているの?

 かろうじて動く首を動かし、自分の体を見てみると、拘束服の上からさらに身体を鎖でまかれ、それを南京錠と鋼鉄ワイヤーでガチガチに固定されている。

「なんじゃこれ?これじゃ動けないは当たり前だ」

 どうしたらいいのか分からず、ゴソゴソを蠢いていると、メリサが棺桶を覗きこんできた。

「あ、起きた。サトジュンが生き返った!」

 その言葉でマルシアや雅夜も覗きこんでくる。

「大丈夫そうか?」

「判らない。ナイフかなんかで刺してみればいいんじゃない?」

「こうか?」

 いきなりマルシアにビンタされる。

「何するんですか。痛いです」

 まったく動けない俺に容赦ない仕打ち。不意な行為に苦情をいうが、みんな聞いてない。ニコニコ笑って見つめている。

「勘弁してください。奴隷でも召使いでもしますから、お許しください」

「戻ったな」

「大丈夫そうね」

「なんですか、いったい?」

「生き返ったサトジュンが、まだビーストだったら、このまま焼き殺そうと思って待っていたの」

「ビースト?・・・・・・けだものでしたっけ?」

「そう、男はけだもの・・・(一人笑うマルシア)・・・でもまあ、よく戻った」

「本当、生き返ってよかった」

 みんなの優しい眼差しで、なんだか少し照れくさい。

「ありがとう・・・ございます?」

 何か苦労をかけたような気がするので、お礼を言っておいた。

「しかしサトジュンは脅威ね。本当に死なないね」

 雅夜が南京錠を外し、ワイヤーを抜いて行く。

「どうせ死んでいるからって、私の獣の血を垂らしたら、おまえは吸収した。獣のDNAの血を体に入れて復活しやがった。獣の血を輸血して狂って死んだ奴は何十人といる。たとえそれが同じ種族の獣人同士の輸血であっても、拒絶反応おこし、ほとんど失敗する。そんな獣人DNAを簡単に受け入れやがって。いったいなんなのだ?おまえって奴は?・・・なんの汁でも吸い取る高野豆腐か?」

「本当に、不思議ね。根本から獣の血と超能力とは成り立たないはずなのに、両立している。どういうこと?もしかして、長年ペアを組んだ私とマルシアの血は、もしかしたら混っても平気になったのかしら?」

「サトジュンって普通の人間だったのが良かったんじゃない?元々どちらの要素も取り込める資質がサトジュンにあって、それを何もないパーシャル状態から取り入れて、その取り入れた期間が短かったのが幸いして、まだ体質が出来ていなかったため、どちらにも染まってなく、ぎりぎりどちらも取り込むことが出来た。って具合?」

 みんな何を言っているのか、さっぱりわからないが、雅夜が俺を分析していることは分かった。やはり頭が良い奴は違う。

 

マルシアが俺を起こし結束服を外す。

腕が相当長く固めてられていたようで、痺れて動かない。

「じゃあ雅夜も、私とマルシアの血、取り込んでみる?」

「いやよ、人体実験なんて。やるならこういう、どうでもいい奴が一番よ」

 はい、俺はどうでもいいナンバー5の男ですよ。

「でもね。両方持てるというのは、弱い証拠だとおもう。よくいう器用貧乏ってタイプで、どちらもそこそこで終わり。スペシャリストになれない半端ものになってしまう」

「メリサ、あの・・・俺・・・スペシャリストにはならないよ。だって俺、普通の高校生だもの」

「両方の能力があることで、電子エネルギーを貰い、マルシアの輸血を受けて、生き返れたんだから、二人に感謝しなさい」

結束服を外した裸の俺に服を投げ渡す雅夜。

「あ、そうだったんですか。メリサさんマルシアさん。本当にありがとうございます」

 そういうと、なんだかメリサもマルシアも少し照れてはにかむ。あまり褒め言葉を聞いたことないようだ。

「でも本当、凄い。まさしく復活よ。・・・ちょっと手を見せて」

 雅夜、俺の手を掴み、握ったり振ったりしてる。

「あ、本当に動く。脅威だね」

「どいうこと?」

「この左手、私が刀で切り落とした。右手の指もほとんど切り落としちゃたんだから」

「えー、マジで」

「そう、でも現場で拾ってね。死体にくっつけて置くと、もし生き返ると元に戻るってマルシアが言うから、付けて置いたんだだけど。・・・・凄いね。本当についてる。粘土みたい」

 マルシア、大きく伸びをすると窓際に進む。

「さてと、これでヨーロッパに戻れるな。出発するか」

「え?なんでそんな急に・・・・帰っちゃうの?」

「とりあえず報告をしなければならないわ。それに次の対策も考えとかないと。逃げた芽衣もダニャも気になる」

「そうだね。結局、ダニャって謎のままだしね」

「いや駄目だよ。帰っちゃ。だって約束したじゃないか。終わったら遊びに行こうって。あの約束を破るのかい」

「う~ん。忘れたわけじゃないんだけれど・・・」

 横からマルシアが来る。

「おまえ、何日死んでいたとおもう?」

「え、俺、そんなに何日も死んでたの?」

「まるまる4日間、棺桶に入りっぱなしだよ。エネルギーを注がなきゃ駄目だから、メリサは、ずうっと付ききりだったんだぞ」

「え?そんなに本当?」

 微笑むメリサ。

「マルシアも輸血のためにね。毎日、頑張ったんだぞ」

 雅夜に言われて少し照れるマルシア。

「だったら、尚更あと一日。2人にお詫びとして、俺に・・・・」

 と、棺桶から出てメリサに近寄ろうとすると、身体がおかしい。チカラが入らず、そのまま転がる。

「痛ててて。どうしたんだ?俺の身体」

 床に転がり、まるで生まれたばかりの仔馬の赤ちゃんのように立てない俺の姿を見て、笑うみんな。

「バカね。サトジュン。今、生き返った所よ。まだ身体が治ってるわけないじゃない」

「そりゃそうだ。足の肉は削げ落ち、腹は3分の一喪失。肩はもげていた。その上、メリサに顔を焼かれ、雅夜に背中切られ、最後には床に串刺し。いくら獣人になれたとしても、たった数日で治るほうがおかしいんだよ」

「ひどい。みんなにそんなボロボロにされたのか。・・・でもこうして生き返ったんだから、もう一日だけ一緒に・・・」

「これが仕事。仕事といっても私はこれのために作られた人間。これを休むことなんかできないの。宿命なのよ」

 微笑むメリサだが、何か寂しそう。

あまりにも特異な生き方をしてきたメリサ。普通の生き方を知って、やりきれない悲しさを感じているのではないかと思う。

「羨ましい。日本が・・・いいな私も普通の人間で育ちたかった。学校にいって、勉強して、私もそんな生き方をしたら、どうなっていたかしら。なまじ超能力の素質があったばっかりに・・・」

 本心の声だろう。

 そんなメリサを楽しく笑って過ごさせたい。そう思うのだが、やはり俺は普通の日本の高校生でしかない・・・子供の俺には、何をどうすることも出来ない。

「ほら、いつまでも座ってないで、もう行きなさい」

 メリサが、手を出して引き揚げ、肩を貸してくれる。

俺に比べてメリサは相当身長が小さいので、まるで寄りかかるように身体を預ける。

マルシアが近ってきて、握手を求めてきた。

「たのしかったよ。サトジュン。お前の優柔不断さも、変にこだわる頑固さも、そしてエロいけど何も出来ないとこも、私は好きだ」

「ありがとう。・・・でもそれって褒めている?」

「褒めているに決まっているだろ。おまえの真面目さだけは尊敬しているよ・・・・・どうだ。サトジュン。一緒にヨーロッパに行かないか?」

「え?俺がヨーロッパに?でも俺が行って何をするの?」

「きっといい実験材料になれる」

「・・・・・・考えておきます」

「歩ける?」

「なんとか」

 頷くメリサ、歩き出す。

「すぐにでもここを閉めます。ヨーロッパで緊急の事案が発生しているの。そこに合流しなければいけない」

「判った。じゃあ行くね」

 俺たちの後ろを歩く雅夜、名残惜しそうに室内の調度品を触って歩く。

「助けてくれてありがとう」

「こちらも守って貰って嬉しかったわ」

 俺を見て微笑むメリサ。

「さようなら。貴方の事は、忘れないわ」

「ああ、俺も、絶対に忘れない」

 メリサに促せれて、エントランスに向かう。


 館から出ると、今度は雅夜が肩を貸してくれる。

「男の子って結構、重いのね」

「すまない、足にチカラが入らないので相当寄りかかっている」

「まあ仕方ないわ」

 戸口から外に出ないメリサとマルシア、入口で手を振ると扉を閉める。

何度か振り返りながら森を進んだが、館の扉は再び開くことはなかった。

一緒に歩く雅夜も感慨深げである。

「この森の中にこんな城があるなんて誰も思わないわね」

「あの二人がいないと、もうこの城にはたどり着けないんだろうな」

「私達のような一般人に知られたから、次に来たらもうココは無いのでしょうね。そういえば言ってたわね。サポートがいるって。きっと彼らが処理するんでしょう」

 そして俺と雅夜はトリックの仕掛けられた短い短い森を抜けた。

 するとそこはいつもと、まったく変わりのない葛西臨海公園だった。




エピローグ

 電車に乗り、東陽町の駅で降り、家に向かう。

雅夜に肩を借りて歩いているのだが、その雅夜からいい匂いが流れてくる。

本当に、なんて女の子っていい匂いがするんだろう。花のような、お菓子のような甘い匂い。不思議でならない。

「ねえ、サトジュン。」

「なに?」

「貴方、いまエロいこと考えてない?」

 ギクッ。・・・・・・なんで察知した?

「そんなことないよ」

「そお~かな?・・・いつもマルシアをみる時、大体そんな顔している目線は、オッパイやお尻を見つめていたからね。だからまた、エロいこと考えているかとおもったわけ」

 ヤバイ、だいぶ観察されていたようだ。本当にこの女は気が抜けないな。一応、言い訳しておかねばならない。

「こんな身体じゃ、そんな余裕ないよ。さすがに節々が痛くて、そんな方面に気が行かないさ」

 なんて答えたのだが・・・・・そういえば、マルシアのオッパイをモミ損なった事を思い出した。・・・失敗したな。あの時、みんなの目を無視して揉んじゃえば良かった。もうあれだけ見事なオッパイを揉むチャンスなんてないんだろうな。もったいなかったな。

などと、妄想していたら、いきなり雅夜が言い放つ。

「でもサトジュン。今、マルシアのオッパイ揉んでおけばよかったって、後悔してるでしょ?」

 えー!なんで?バレた。新しい能力の発動?

「・・・あの・・・テレパシーを使えるようになったの?」

 その一言がいけなかった。墓穴です。いきなり、雅夜に肩を振りほどかれ突き飛ばされて床に転がる俺。

「あ、駄目だ。身体がまだ駄目です。助けてください」

「当てずっぽうで言ったら、本当に考えていたのね。本当に男子ってスケベなケダモノだわ。マルシアのいうとおり」

「ごめんなさい。誤ります。もうすぐ家なのでそこまで手を貸してください。エロいこと考えません、お願いします」

 本当に女の子って、感が鋭い。気をつけなきゃ。


 団地に戻ってきた。そして我が家にたどり着く事が出来た。

「あ、直ってる。」

 もう既に直ってる団地だった。そして家の前も綺麗さっぱりと元通り。

ほんの数日まえに、某国人の3人の処刑組の壊したものとか、虫の死骸とか、細々したものが壊されていたが、全く形跡なし。綺麗に修復されているのだった。

「これもあのヨーロッパの結社がやったわけだ」

「密かに暗躍しているサポートの仕事なのね。・・・ダニャは恐れていた。ここに裏切り者がいるって。・・・まあ、私達には関係ないからどうでもいいけど、サトジュンは、能力受け継いじゃっただから、せいせい気をつけるべきね」

え、そんな奴らが、来るの?なんか前に指名手配された気がする。俺はどっちからも狙われるわけなのか?


家の玄関の扉を開き、ドアに捕まり、

「雅夜、送ってくれてありがとう」

お礼を言うと、

「じゃまた、新学年で。次も同じクラスになれたらいいね」

 雅夜は手を振って帰って行った。

・・・と、いきなり思い出した。俺はまだ。進路の書類をまだ提出してない。

ヤバイ。これじゃ二年生に上がってもどこのクラスにも俺の名前がないことになるぞ、チョーやばいぞ、こりゃ。




翌日、学校から連絡が来て、久しぶりに学校に登校することになってしまいました。

3月も終わりになってきたが、校門にはまだ桜が咲いている。

「やっぱり桜が咲くというのは、すべてが始まる気がする」

 色が華やかになり、風が匂い、草木は生え、虫が飛び、・・・・(この前ので、少し虫は怖いのだが)これから良いことが起きる予感がしてくる。

そんな爽やかな気持ちに包まれて、職員室の扉をあけると、

「よ、サトジュン。チョー久しぶり」

 職員室の担任の前に、堀口と石塚がいた。・・・・爽やかな気分、消滅。

「ヤバイな。おまえも呼び出しか?進路のことだろ」

 進路指導の最終日。まだ春休み中だが、進路指導の書類を提出してないバカたちが呼び出しを食らっていたのだ。

呼び出されたのは同然、俺、石塚、堀口の3人、担任の前に並んだ。

「何やってんだお前たち2年に進級させないぞ」

と、担任の教師はと脅してくる。でも先生、俺はまだ高校1年だぜ。自分的には進路を決めるのは「まだ早いよ」と思っている気持ちがある。

「いいか、高校2年は、もう進学の準備期間に突入しているんだ。大事な選択なんだぞ。そのため2年生は文系と理数系にクラス分けをし、専門の知識を学ぶんだ」

担任はそう言うが、進路の見えてない自分には皆目見当がつかない。(想像できない。いや考えるのが面倒くさいというのが本当かな)

だが、その答えは昨日出した。俺は理数系を選択することにした。

 今、現在の自分の能力が気になり、本来の人間の能力の限界とは、どんな物なのか知りたくなっている。つまり、ちょっと科学に興味を持ち、勉強をしたいかなと思い始めた。だから理数系で届を出した。



「お前たち、どっちにした?」

一応、一緒に解放された堀口や石塚に、進路を聞いてみた。

「俺はチョー理数系」

「え、おどろき。何故?」

「そりゃあチョー、人が少なくて競争にならずに大学に行けそうだから」

「馬鹿だな。難しいから、みんな行かないんだよ」

「えーそうなの?チョー知らなかった」

「石塚は?」

「おれ、国語や英語ヤバイだろ。苦手なんだよ。だから理数系」

「理科や数学は?」

「それなんだけど、そっちもヤバイ。本当、両方ヤバイくて、どうせならよくわからない理数系にした」

「どうせ解らないなら、チョー偶然が起きる理数系だね。数字入れれば当たったりする、まぐれは起きるからね」

「そうそう。まぐれは起きる。奇跡は起きる」

笑い合う堀口と石塚。呆れて二人をみてしまった。

「まじかよ。こいつら」

 こんな質問をした俺がバカだった。


3Fの職員室から出て、階段を降りる俺たちは、階段の踊り場とか工事中の柵とかの脇を通過する。

これはマルシアがぶっ壊した場所だ。その破壊された箇所を建築業者が来て、直し始めている。

「それにしても地震ってそんなにヤバかったのか?」

「あれだろ、この学校、チョー手抜き工事だって、いう噂だぜ」

「やばいよ壊れたら。落ちて死ぬじゃん」

 と、その工事の場所を通過しながら話す。

「馬鹿だな。これはお前たちも一緒に壊した場所だぜ」

 と、言いたかったが、この堀口と石塚にとって、麻生先生に操られて、記憶に無い時のことの話だ。言っても仕方ない。

壊れたのは、学校が老築化しているため壊れたことで、みんな納得しているのだから、それが最善策だ。知らぬ奴はそれでいいのだ。

「あれヤバイぞ、サトジュン。おまえ普通って言わなくなった」

「え?そうか?」

「そういえば、あんだけ言っていたのに、チョー聞かないな」

「そうだったか?覚えてないな。まあそんなに言わないのが普通だよ」

余りのくだらないダジャレで笑いながら、二人は更衣室に向かい、クラブ活動に出て行く。そんな二人と別れ、一階廊下を独り、下駄箱にむかう。

そう俺の中で、普通はもう無くなった。今まで普通と思っていたものが、裏側ではまったく違った姿をしていることを知った。

田舎に帰った麻生教師。そして隣のクラスのサトジュン。二人は引っ越したり、転勤ということで、すべて普通に片付いている。

「誰も本当のことを言わなければ、誰も本当のことなど知らない。知る必要がなければ、知らなくていいのだ。真実なんてものは、脆く儚い幻想なのである」

 と、麻生先生である芽衣が言っていた。

「みんなが望むものが望むように進めば、例え真実でなくてもみんな喜んで受け入れる。そんな事はどうでもいいこと」なのだと。

 学校を乗っ取る。学校が壊れる。それを騒がなきゃ誰もしらない。

大量に人が殺害されたとしても、地震や災害が起きたと説明されれば簡単に信じる。

 それが普通の、この国の人たちだ。

何が大事か、何が重要か。自分で判断つけられれば、それは普通の事になる。

たとえ裏側があっても、どうでもいい。ただ自分を信じるだけの事である。


「あら、サトジュン。元気?」

 下駄箱で靴を履きかえていると、雅夜が校門玄関から来た。

「どうしたの?春休みなのに」

「そっちこそ、クラブとか入っていないんだから、まだ休みだろ」

「進学の進路、最終の日が今日だから、来たの」

「なんだよ。雅夜も出してなかったのかよ。俺らと同じじゃん」

「違うわよ。進路変更にしにきたの」

 進路希望の書類の入ったA4封筒をピラピラと振る。

「文系で日本の歴史を探求しようと思っていたけど、今回の事で自分の知識のなさを痛感したので理数系に変えようと思って」

 なるほど、俺と同じ理由か。

雅夜、見渡すと壊れた校舎の壁がある。

「他人から襲われたら、自分の体を自分でコントロールし、防衛する必要があるのよ。そのためには科学で世界に追いつかなくてダメと分かったから」

「でも文系から理系にだなんて、そんな突然、進路変えていいのか」

「全然、平気。だって私、東大合格確実だって、みんな言っている秀才だから、どこでも入れちゃうんでしょ?」

 そうだ、こいつ頭良かったんだ。俺らとはまったく違った人間だった。すげー嫌味。

「それでサトジュン。暴走って、どうして起きるの?」

「ビーストモード?あれはなんだ。電子?・・・いやDNA・・・・心理なのか?・・・・とにかくメリサやマルシアに攻められて、敵に攻撃されなければ、俺はあんなに不安定にはならずにビーストにならないだろ」

「そんな簡単なものかしら。まあメンタルの部分が大きく作用しているはわかるけど」

 なんか目つきが代わってくる雅夜。

「あのね。私が思うに、もっとあなたは練習を積まなきゃ駄目だと思うの。いい?能力というのはね。芽生えた時に、しっかりと把握してそれを・・・・・ねえ聞いてる?・・・駄目よ。貴方の事なのよ。・・・・もういいいわ。任せておいて。これから私が調教してあげるから」

 マズイ。メリサと同じこと言ってる。

「逃がさないわよ。特訓だからね」

 俺を指さし、目をギラつかせている。こちらの反応を無視してやる気満々だ。

「あぁどうしてツインテールは気が強いのだろう。いや気が強いからツインテールにしているのか?」

 その言葉が俺の頭の中でリフレインしてきた。





                                終わり


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