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第15話 焼却炉決戦

 アリーナを破壊し、駐車場上近くの道が戦場になっていた。

長引いた戦いは、次第に体力の消耗を招いたカマキリを追いかけるマルシアの構図になっていた。

必死に繰り出すカマキリの斬馬刀。マルシア、カマキリの攻撃を左腕で流すように避けて、右手の拳を突き出す。

カマキリは身体を沈みこませ、それを避ける。防御して受けてしまうと、マルシアの拳の威力で吹き飛んでしまうからだ。

しかしそれはマルシアのフェイントで、カマキリが姿勢を低くしたことを確認すると、自分の重心をずらし、自由になった左足の伸ばして横に払う。

 カマキリは気がつき、足を上げて払ってきた足を避けるが、ほんの数ミリだが、掠ってしまう。そうほんの少しかすっただけ。

だが、かすっただけの威力はすごく、3~4メートルほど飛ばされて転がるカマキリ。

そこにジャンプしたマルシアは、踏みしめるようなスタンピングキックを見舞う。

かろうじてかわしたカマキリは、転がって逃げる。 

マルシアはなおも続けて踏むが、踏み潰されるの避け、転がりながら道の端にあるガードレールの下に身体を転がし、マルシアのスタンプピングからカマキリは逃げた。

追いかけて来たマルシアは、そのままガードレールを踏み壊して破壊。しかし下のカマキリに被害はなかった。

そしてマルシアは、壊れたガードレールの二本の棒に足を挟み、抜こうとして態勢を崩し、地面に転がってしまう。

カマキリの目の前にマルシアの首。

「チャンス」

カマキリ、歩道に立ち上がると、斬馬刃を振りかぶり、地面に転がっているマルシアを切断しよう振り下そうとした瞬間、不意に白い棒が延びて来てカマキリの腹部を貫く。

「うぅー」

 マルシアは転がりながら、踏み潰されて外れたガードレールの棒を掴み、突き立て、カマキリの身体を串刺しにしたのだった。

反射的に刺さった棒を掴んでしまうカマキリは、身体の動きが止まってしまう。

転びながらガードレールをさしたマルシアは、止まったカマキリの足首を掴み、カマキリを地面に引き倒す。そして地面に転がるカマキリに馬乗りになった。

「やっと捕まえたよ。カマキリ男」

 斬馬刀を持つ両腕を両足で押さえ、頭を掴むマルシア。

「身近で見るといい女だな」

「あなたも中々の男前よ」

「そう言ってもらうと、照れるな」

「冗談よ。・・・最後は気持ちよく、逝ってほしいからね」

 マルシア、カマキリの頭を両手でひねる。

グギっと、いう音と共にカマキリの首が90度以上、曲がってひねられる。

絶命して動かなくなるカマキリ。

「ふぅー。手間かけすぎだぜ」

深い息を吐き、立ち上がるマルシア。




 炎が来る。俺とメリサは、機械の裏に隠れて、やり過ごす。

「隠れてばかりでどうしたんです?もう攻撃は終わりですか?」

そう向こうは焼却炉から火を、貰って賄えるので、エネルギーは無尽蔵になっている。

「調子に乗って来ているわね、ボスちゃん」

ARUナンバー1の超能力者のメリサでも、やはりエネルギーは消費している。そう簡単には元には戻れない。

息が荒いメリサ。やはり疲れているのだ。休む時間がほしい。

「いや、すぐに行かなくていい。むやみに行けば、向こうの思うつぼだ」

行きかけるメリサを止めて、何か方法ないかと考えていると・・・・ものすごく焦げた目に染みる匂いが、漂ってくる。

「・・・・うん?これは・・・・」

周りをみると、重油が燃えると出る黒い煙が、地下の階段を伝って奥の廊下から漂って来ている。

「なんです?この黒い煙は?」

ボスも気が付き、攻撃の手を止めると、焼却炉建物内に、ゴーっという音がしているのに気が付く。

地下から煙が上がっているのを向こうも知った。

「雅夜が、地下を焼いているようだ」

「まあなんとか最優先条件は処理できたようね。目的は達したわ」

「逃げるか」

「言葉が悪いわ。後退して立て直しよ」

 疲れて始めた俺とメリサは、出来ればこの辺で逃げたい。機械の陰を利用して、シャッター出口の方に、位置をずらす。

そこに足止めのボスの黒い球の攻撃。

地面に当たってかんしゃく弾のように破裂して火花が上がる。

「おっと逃げる気ですか?そんな自分勝手は許しませんよ。計画を潰しといて、この責任はとってもらいますよ」

 再びボスの攻撃が開始される。

防御をしている俺に、更に多くの黒いパチンコ球を飛ばしてきた。

 あまりにも小さいので撃ち落としたり、壁防御は難しいので、ドームの防御で守っているのだけど、俺の防御は心もとない。

若干、メリサに援護射撃してもらい、機械の後ろに隠れて位置をずらす。

「君達は本当に失礼だよ。勝手に入ってきて、人の計画を邪魔して。こちらは長い間準備をしてもうすぐ決行と言う時に乱入してきて破壊して。とっても迷惑なんだよ」

「何をいってるのかしら。そうやって少数民族を侵略してるくせに」

「侵略?みんな私達の国に成れて喜んでいますよ。今までは貧困に苦しんできたり、迫害されたりして苦しんでいたのを、私達が運営してあげて、普通の人間の暮らしを営めるようにしてあげているのです。感謝していますよ」

「そのために、武力で占拠するんですか?」

俺とメリサは、防御に力を入れて、位置をずらし、ゴミ収集車の広場の方に移る。

「多少の犠牲は仕方ありません。その後の生活が大事なのですから」

「でも占拠したら、そこに君臨するんですよね」

昔、麻生先生だったころの芽衣が言っていたことを聞いてみた。

「優れた指導者が必要です。その人間によって、更なる進歩していくのですから」

ああ、芽衣と全く同じ答えが返ってきた。まったく相手の気持ちを考えない。某国人はみんな、そう思っているのか?自分勝手な奴らだ。

「勝手な言い分ね。占領した人間の言い草ばかり」

「大事なのは未来に続く繁栄。私達は50年100年を見据えて計画しているのです」

「そのためには、他の人間をふみつけていいはずない」

あまりにも某国人の一方的なやり方がむかつくので、叫ぶと、何故か、ボスが急に攻撃をやめる。

防戦していた俺もメリサも一息つけた。

「判ってないですね。この世の構造はピラミッドですよ。全ての人間が裕福には成れないのです。自分の位置を掴むためには戦いも必要なのです。破綻しない競争。安定した戦い。それは生きて行くことに大事なことなのです。・・・・・貴方がたは本当に判ってない。だからこそ優れた指導者が必要なのです」

 なんだ、演説ぶつために攻撃をやめたのか?でもまあ、これで状況が把握しやすくなっている。

 雅夜が焼いている地下の煙が凄くなってきている。重油で焼いているようで、黒い煙が立つ。一階のこの焼却炉の施設内部に、煙が充満してきている。

「どうやら、地下の解放も失敗したようですね。放流させられず、焼かれているようだ。やはりアリ部隊の人間には荷がおもかったか。・・・・おしい。実におしい。あと数週間で発動出来たのに。・・・もうゆるせませんね、あなたがた全員、死んでもらわなきゃ吊り合いが取れない」

 そういって、こちらを睨みつける。するとボスの上半身が火に包まれる。

体が燃えているように見える。スゲー、炎の男・ファイアーマンだ。新しい攻撃をするために、能力のレベルアップか?


そしてファイアーマン、腕を上げて下ろす。

 すると手から火を放ってるように、こちらに飛んでくる。それはまるで火炎放射のように噴射しているかのよう。

「この火はヤベー、スゲー強い」

とにかく壁の防御で防ぎながら、後ろに下がって距離を作る。

「メリサに少しでも休ませる方法を取らなきゃ」

 続けて本命の黒い破裂するパチンコ玉もくる。防ぐためには防御の壁を2重3重にしないとならない。

俺の弱い防御じゃ耐えきれないので後ろに下がって防ぐ。

しかしなんか変だな。

「なんだかやけに、こちらの足を狙って攻めてくる」

しかも前にいる俺に向かって打ってくる。まあそれでメリサを休ませることが出来ているのだが。

「これは何かの罠か?」

ヤバイ、考えるな。不意にリズムを変えて頭を狙ったものが来る罠かも知れない。先ほども、それを仕掛けられたばかりじゃないか。

ボスは、火炎放射のファイアーマンになってから力押しになってきた。こちらは防戦で下がるのみ。まあ出来れば、休むか、この戦闘から離脱したところなので構わない。

とにかくメリサの体調回復の休憩になればいいのだ。 冷静に、状況判断の出来る後退で避ける。

すると運搬所の端のトラック止めの際まで後退して来た時に、俺の張っていた壁の防御が突然消えた。

「あ、なんで?」

そして炎がいきなりオレを襲う。 ヤバイ。後ろにいるメリサを抱え、俺は転がって逃げる。

「なぜ、急に?」

 慌ててまた壁の防御を作ろうと腕を振り、掲げてみたが・・・

 あれ?出ない。何故?エネルギー切れ?エンプティになったか。

なおも攻撃が続くので、メリサを後ろに押して逃がす。

炎は俺の足を焼いた。

「あちー。大丈夫か俺の足?」

燃えるズボンの灯を消して、確認してみると、何とかかすめただけなので、消し炭になっておらず、こんがり焼けている。

「チョー、あぶねー。しかしなんで急に能力が消えたんだ?・・・・あれ、メリサ」

後ろに逃げたはずのメリサが、立ったまま固まっている。それが奇妙である。

 何故か、両手が広がって上に上がり、頭をあげ胸を反らし、まるで十字架に貼り付けられたように体を固めている。

「どうしたメリサ」

「判らない。体が急に」

顔だけは動くが、もがいても体自体は全く動かなくなったメリサ。

「何が起きている?」

するとボス、勝ち誇ったように笑い出した。

「やはり効果があるようですね。ここはトラックから金属を降ろすための待機所。そしてメリサデスさんがいる所はまさに荷降ろし所」

ボスの指さす上には、いくつも丸い平べったい円盤状の金属がクレーンに吊り下げられている。

金属ゴミを持ち上げるあの磁石。見るとその一つがメリサの真上にあり、それに吸い寄せられるように両手が上がっていて固まっているのだった。

「磁石は金属を吸い付けます。そして磁石は磁場を産み、電気や電子も歪ませて吸い取るかなと思ったんですよ。・・・もしかしたらと思って、あなたたちを追い込んだら、見事に、この通り。・・・なんでも、やってみるもんですね」

笑いながら、こちらに近寄ってくるファイヤーマンのボス。

 「あれが今、オンで、強力な磁力を発生させているのか?」

そうか俺の能力が止まったのはそのせいか。そしてメリサもあれのせいで固まっている。

俺はあまり能力が高くないので動けるが、強力なエネルギーを持っているメリサは、磁石?磁場?に吸い付けられて、動けない。吸い寄せられて固まって止まるという反応が出てしまっている。

「計画を邪魔して基地を壊滅させて、本当に困った存在なので責任を取ってもらい、処刑させていただきます」

ボス、手を開くと黒いパチンコ球が数個の手の中で転がる。

「まあ、ARUのナンバー1をここでつぶせるなら、これからの展開でこちらに有利に働きそうですね。それじゃメリサデスさん、さようなら」

 それを握って親指で指弾のように弾きまくるボス。

駄目だ。防がなきゃ。でも俺も地場のせいで、能力自体がまったく停止している。

メリサは、体が固まりまったく動かない。

ヤバイ。どうにもならない。そう思った時には俺は、メリサの目の前に立っていた。

飛ばされた指弾が、まず俺の肩にあたり破裂。肩の肉と骨が吹き飛び、腕がもげそうになった。・・・痛え。

 爆発の勢いで吹き飛びそうになったが、脚に力を入れ踏みとどまる。だがその脚の太ももに黒いパチンコ球が命中して弾け、尻の肉と太もも肉がちぎれ、骨が見えた。

駄目だ。転ぶ。・・・いやそれはもっと駄目だ。まだ転べない。

なんとしてもメリサを磁場から出さないと。そして振り返り、メリサに向かって手を伸ばし、押そうとした瞬間、次の弾が俺の腹に当たり、破裂。吹き飛び。腹に穴が開き、内臓が飛び散った。

「サトジュン」

やられた。横の腹が吹き飛び、力が抜けた。 しかしふっとばされた勢いで、そのままメリサにぶつかり、メリサ共々後ろに吹き飛ばされた。それでメリサは円盤型の磁石のクレーンの真下の地場から出ることに成功した。

「ち、邪魔な」

 ボス、改めて指弾を飛ばす。

 俺を抱き抱えるようにして座りこむメリサ、必死に電子の防御の膜を張る。

なんとか真下の磁場から出れたので、防御を張り、黒いパチンコ球は防ぐことが出来たが、まだ地場が近いのだ。影響がある。弱くしか電子の膜を貼ることが出来ないようだ。不安定に点滅している。

 ボスは、それを察知し、大きな炎の塊を作り、こちらに投げよう構える。

「逃しはしない。一気に潰す」

メリサ、防御の幕を強くしようとするが、電子が歪む。出来れば磁場のあるここを離れて体制を立て直したいが、肩、脚、腹、それらを失った動けない俺を、地場から出そうと引っ張る。

「ここじゃ不利だ。ココを離れるんだメリサ」

 しかしメリサは逃げようとしない。俺を気にしている。必死に俺の残った左腕を引っ張り、引っぱるが非力なメリサには出来るわけない。

「まずい。このままだと二人共、食らうことになる。逃げろメリサ」

  しかし俺を引きずることをやめないメリサ。

「燃えろ」

ボスによって空中に浮いた超強力な炎は、投げつけられ、メテオのように、俺たち目掛けて降り注ぐ。

「メリサ、逃げろ、逃げてくれ」

燃え盛る火の玉メテオ。

だが、それが俺たちに届く寸前、目の前に2m前にエアドームが張られて、メテオはそこにぶつかると、大きく歪み液状化してエアドームの下に流れていった。

「何やってんのよ。やられちゃうわよ」

 雅夜が戻ってきた。

ボスと俺たちの間に入り、超強力な空気の壁を作り、防御してくれたのだった。そしてそのまま青龍刀を振る。

風の衝撃波がボスに向かって放たれる。

不意の攻撃に、素早く対応するボスは、後ろに飛びのき、雅夜の攻撃をかわして一定の距離を取る。

「風の能力者が戻ってきたか、風には磁場は効かないようだ」

「もうすべて終わり。あんたの虫たち燃えて無くなったわ」

剣を構えて振り、続けて雅夜の攻撃。スライスのように薄い竜巻。ダニャのやつより大型の手裏剣を水刀青龍から発生させてそれをボスに投げる。

明らかに変わった攻撃に戸惑い隠せないボス。舌打ちしながら避ける反応で、距離を持ち、様子見をするようだ。

雅夜、後ろを振り返り、こちらを見て叫ぶ。

「何してるの?メリサ。危なかったわよ」

「ここの磁場のせいで、電子が思うように出せないの」

「あ、本当だ。私にも感じる。そうね。特に電子は磁場に影響受けるからね。今のウチにここから離れましょう」

「出来ない」

「なんで」

「サトジュンが、やられた」

「え」

 後退して、こちらに近づき、俺の姿を見つめる。

「・・・・」

「雅夜、教えてくれ」

「なに?」

「どうなっている俺の体?まったく力が入らないんだ」

 顔を歪める雅夜。

「なんだよ~。そんなにひどいのか」

 残った左手でお腹を押さえる。横腹が半分なくなっているのが判った。手がそのまま、腸を掴んだ。

「うへ、気持ち悪いもの触った。これが内蔵か」

 目をそむける雅夜。

「痛いんだけど、何処が痛いかわかんない。」

 俺、死ぬんだと判った。

雅夜、顔をそむけ、再び来るボスの攻撃に対応するため、俺たちの前に前進していった。

メリサが、俺の手を握って見つめている。

「俺はこのまま、ここで死ぬと思う。このまま放おっておいて、逃げてくれ」

 そうだよ。俺はヒーローになりたかったんだ。誰かを守るために戦って、そして誰かのために死ねるなら、それはヒーローの宿命なのだ。

「マルシアが、もうすぐ来るわ。マルシアに運んでもらう」

「駄目だよ。俺はここで死ぬ。こんな奴にかまっておらず、いつものようにリスクを避けて、ここは撤退するべきだ。それで・・・ごめんメリサ」

「なんであやまるの?」

「最後まで守れなくてごめん。これが終わったらいっぱい遊びに連れて行こうと思ったのに。日本のいいところ、いっぱい教えてあげようと思っていたのに」

「ダメよ。私は仕事なんだから遊びになんて行けないわ」

「でも期限決まってないでしょ?だったら一日ぐらいなら、いいでしょ?」

「そうね。どうしてもって頼んでくるなら、一日ぐらい空けてあげる。美味しいもの食べに連れてって。だから死んじゃ駄目」

「でも何も出来すに、ごめんねメリサ」

「サトジュン。」

 少しでもメリサの顔が見たくて、身体を起こそうとしたが、

あ、全然、力が入らない。駄目だ、体が1ミリたりとも動かない。全ての感覚がなくなり、海に沈んでいくように感じた。

「ごめんね。メリサ。ごめんね。」

「何を謝っているの。生きなさい。」

 冷たくなってきた。

「ごめん。メリサごめん。」

「あやまらないで、あやまっても何にもならない。行動で示して」

寒い。

「メリサ。ごめんね。ごめんね」

 沈んでいく俺、意識がなくなる。

「貴方はいつもあやまってばかり。どうしてあやまるのよ。生き返りなさい。そして私を守りなさい」

 死んでいく俺。メリサがしがみついて揺すってくるが反応出来ないよ。

「駄目だよ死んじゃ。」

 死んでいく俺を見つめ、メリサの目から涙が落ちる。



 雅夜、風で受けるが、炎が火炎放射器のように噴射されて、その中から黒いパチンコ球。

それが固い空気の壁で受けて破裂して、また炎でいたぶられるという、波状攻撃。

「これはキツイ。私の風じゃ防ぎきれない・・・・・撤退。引き上げましょう。メリサ」

 雅夜、メリサをみる。

するとメリサが光りだしている。髪の毛が浮き上がる。頭が銀色に発光しはじめる。

「なに?・・・メリサ・・・」

 メリサの髪の毛が後ろに流れ、鷲の翼ように形、ヴァルキリーになる。そして体全体がひかり始め、体中に細かい電子が走る。

「殺す、あいつを殺す。」

 立ち上がるメリサ、フルブースト。体中にジリジリとプラズマが立ち上る。体中に電子を走らせながらボスの方へ向かって行く。

「雅夜、どいて。危ないわよ」

 進んでくるメリサの体からプラズマが出ており、黒いパチンコ球はそのプラズマによってメリサの数十センチ手前で破裂させられる。

「お、グレードアップでもしましたか」

「許さない。貴方を殺す」

 ボス、なおも黒玉を撃つが、メリサまったく寄せ付けない。

「怖いですね。強力だ」

 メリサ、手を上げると、メリサの頭上に歪みが起きる。

それは球になり、プラズマを放つ巨大な電子球が頭上に出来る。

「マズイ」

 ボス、気が付き後ろに逃げる。そして角を曲がるように飛び込み逃げる。

メリサ、それを地面に叩きつけると、大きな電磁ボールは地面で砕け、その破片が地面を波になって進んでいく。

ボス、異常に気づき、もっと曲がって隠れる。

 その電子の波は床を這い、床にある全ての物を津波のように飲みこんでいく。毒虫で死んでいる某国人の死体などが一瞬、沸騰して煮えて行く。

機械類は、ショートして火を吹き、金属類は溶接されたかのように、火花を散らす。

 しかし波はまっすぐに進むため、角は曲がらず、ボスの隠れた角を過ぎ、そのまま抜けて行った。

「凄まじい力」

 あまりの凄さに驚く雅夜。

「逃がさない」

 逃げたボス追う。メリサ。

「ダメよメリサ。そんなフルパワーの全力アタックは」

 メリサ、雅夜の言葉をまったく無視して角を曲がり、ボスを追う。

 メリサはボスである劉王江を追って進んでいった。




取り残された雅夜は、後ろを振り向く。そこには血だらけの焦げたぼろきれのような死体が横たわっている。

雅夜、その死体に近づき、見下ろしてポツリとつぶやく。

「本当に死んだのか、サトジュン・・・」

 動かないサトジュン。

「確かにヒーローだと思う。・・・でもヒーローは死なないはずじゃないのか?・・・」

 顔は穏やかで満足そうに笑っている。やり遂げたのだろう。

「後で供らってやる。だが今は・・・これを終わらせること」

 雅夜、水流刀・青龍をしっかりと握り直し、メリサが進んで行った方向に歩き出す。

すると、その雅夜に並んでくる影。

到着していきたマルシア。シャッターから入って来て雅夜と並ぶ。

「雅夜、どうなってる状況は?」

 見ると奥で、光と音が炸裂している。ボスとメリサが戦っているのが伝わってくる。

「メリサか?」

「残っているのはボス一人。炎の能力者で、もの凄く手ごわい」

「たしかに伝わってくる音と光が凄まじい。メリサの奴、相当やりあってるようだ」

「違うわ。メリサが一方的に攻撃しまくっているんだと思う・・・」

「・・・うん?どうした?何があった?」

 なにか雅夜がいつもと違うのを感じたマルシアが、聞く。

「今、メリサはフルブーストで戦っている」

「フルブースト?」

「怒りに振り回されてる。メリサが、初めて感情をむき出しに挑んでいる」

「どうして?」

「・・・」

 雅夜、苦虫を噛み締めたような表情で、倒れているサトジュンを指さす。

近寄るマルシア、それがサトジュンだと判り、眉間に皺が寄る。

「死んでるのか?」

 雅夜、無言で頷く。

近づくマルシア、サトジュンを蹴る。まったく反応しないサトジュン。

「腹が半分、吹き飛んでいる。肩も・・・足もか・・・これはムリだな」

「まあ、彼は彼なりに頑張ったんだと思う・・・」

「何を?」

「メリサを守ったの。メリサに当たるはずの攻撃をすべて一身で受けて・・・」

「・・・」

 マルシア、じっと見つめていたかと思うと、

「やっぱり、おまえってやつは・・・」

 マルシア、自分の肩にかけていた鎖を引き、ポケットに入っていた超能力避けのナイフを出し、なんと自分の左腕にそれで突き刺す。

「何度言っても、ひとのいう事、聞かねえーで・・・」

 多量の血が流れ出し、腕を這って下に溢れ落ちる。

「なにしてるの?マルシア」

 マルシア、流れ出る血をサトジュンの身体にダラダラと落とす。特に傷口である肩、腹、脚に注ぎ落とすように浴びせる。

「こいつはメリサの能力を吸収した。ならば、獣人の血も吸収するかも知れない」

「でも超能力と獣人の血は交わらないって」

「死んでいくのを見てろってか、やだね。こいつは常識外だったんだ。だから、やってみるだけだ。ほらジャガーの血だ。お前はジャガーになれるか?」

 ボタボタ流れるマルシアの血、サトジュンに振りかける。

そしてビシャビシャになった手で、サトジュンの腹の傷口に手を入れるマルシア。流れている血を混ぜるように握る。

「こんな所で死んでんじゃね。生き返ってこい。もどってこいよサトジュン」




 何か熱いものが、かけられている。

寒かった身体が温められていくようだ。

でも熱い、熱過ぎる。熱くて溶けてしまいそうだ。

だが今、・・これを受けて立ち上がらなきゃ駄目なんだ。

頭の奥底で誰かが叫んでいる。立ち上がるんだ。起き上がるんだと。

 そうだよ。今、メリサがピンチなんだ。寝てる場合じゃないんだ。

身体を動かせ、起き上がれ。行け、行くんだよ。行かなきゃならないんだよ。

と思っていると、激痛が走る。

腹が・・・腹が・・・痛い。俺の内蔵がのたうち回っている。

痛てえ、死にそうなくらい痛いじゃないか。


「痛い。何すんだ」

 はっ、と目が覚め、自分の傷口を押さえた。そこに誰かの手があった。

そして前を見ると、こちらを見てるマルシアがいた。

「お!」

「あぁぁ~生き返った。本当にサトジュンが生き返った!」

 雅夜がとなりで驚き、声を上げる。

マルシア、傷口から手を抜き、立ち上がる。

「やっぱり。・・・やっぱりおまえは常識外のやつだよ。全く」

「痛い。痛いよ」

 気が狂うように痛い。俺はのたうちまわっていると

「神経が元に戻り出しているから痛いはず。それを我慢するんだよ」

 熱い、痛い。叫び声が上がる。しかし傷は癒えていってるようだ。。

血が止まり、直ぐに露出したギズ口に膜が張り、内側から肉が盛り上がってくる。まるでコマ撮りしたアニメのようにドンドンと変化していく。

吸収しながら、切り口や怪我を修復している。IPS細胞のように足りない部分を補足しているようだ。

すると再生された神経が増えるほど、痛感を受けて、叫び声を上げて転がりまわる俺。

「痛い。痛いよ。誰か助けて」

 身体中の神経が、『痛み』を一気に呼んでくれて、俺をいたぶり翻弄する。

「サトジュン、うるさい。超能力で痛みの神経を止めなさいよ」

 超能力?・・・あ、そうだ。考えてみれば、この前、教わった方法で、ある程度、神経を固めて、痛みを判らなくする方法を教わったんだ。

早々に試してみると、だいぶ和らいだ。少し大丈夫になった。

こんな痛いの耐えられない。気が狂いそうだ。・・・しかし能力者じゃないマルシアはこの痛みに耐えているのか?

凄い。この痛みを克服できるものなのか?凄い精神力だ。

と、止めどもなく頭に浮かぶ。痛みがある時は関係ないことを考えるに限る。


 マルシア、このへんで輸血はいいだろうと判断して、腕からナイフを抜き、血を止める。

「目が覚めたか、おっぱい触らせてやるよ」

 素晴らしいお言葉、ありがとうございます。しかし・・・

「後でいいです」

 俺は上半身起こして確認してみると、元には戻ってないが、取れそうな腕は収まり、脚の見えていた骨は見えなくなり、腹の傷口は瘡蓋が張り始めている。

焦げてボロボロだが、生きている人間になった。

 マルシア、ポケットから静ちゃんにもらった水晶を出し、俺に握らせ、

「悪いものここに集めろ。そしてジャングルを夢見ろ」

「ジャングル?」

「そうジャガーの聖地。絶対優位なテリトリーだ」

 ジャングル。そうメリサが作ったジャングルを見ている。そうだジャングルを作るのだ。するとジャングルの音が聞こえる気がする。鳥の鳴き声、草の揺れる音。なんだか判らない鳴き声や風の音。それらが太鼓のリズムのように聞こえてきた。

そうだ世界を作る。メリサに教わった。信じろ。それがそこにあることを。

サトジュンの上に月が出てくる。弱いが照らしてくれる。

 自分の下から草が生えてくる。それがマルシアにも巻きつく。

それに伴い身体が変形していくマルシア。

「いいぞ。その調子だ」

「これは?」

 なんと俺の身体にジャガーの紋章が体に浮き出てくる。そういえばそうか、マルシアの血を貰ったんだから、俺はジャガーの一族になったのだ。

すると腹に空いた穴がふさがっていく。腕が伸びて、太くなっていく。急激な肉体変化が始まる。なるほど、これを利用して傷も補填しようというのだ。素晴らしい獣人のチカラ。

「すごいよサトジュン。あなた変身していってるよ」

 自分の姿は見えないが、見える手が太くなり、斑紋が浮き出てジャガーの前足に成って行く。

「立ってみろ。行けるか?」

 半獣人の姿を現しているマルシアに言われ、立ち上がってみると、確かにチカラが漲るように震えた。

「ガウ、」

 はい、と返事をしたのだが、声がほえ声になっている。

「凄い。ジャガーになってる。」

 雅夜、素直に喜んでいるが、マルシア、そんな俺を見て、気になっているようだ。

「まずい。・・・が、しかし今そんなこと言ってる場合じゃないか。レクチャーは後だ。私の真似をしろ。行くぞ。」

 俺はうなづき「ハイ」といったら、「ガウ」とまた吼え声になった。

マルシアは、メリサの後を追い建物の奥へと進んでいく。

その後ろに俺も続き、戦っているメリサのもとに急いだ。




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