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第10話 復活

メリサは雅夜の家に運び込まれた。

学校からは葛西臨海公園のメリサたちの館のほうが近いのだが、メリサが意識不明の重体の今、館の守りが出来ない場所に避難するのは危険なので、まだ防衛体制が取れる雅夜の家にしたほうが良いということで、再び雅夜の家に戻った。

 マルシアに運ばれ、俺が寝かされた部屋ではなく、朝に戦った道場の中央に、ベッドを置き、そこにメリサが寝かされた。

なんでもここは、エネルギーをためる効果がある場所だそうで、雅夜たちの巫女の儀式は道場でおこなわれているそうだ。超能力を使うメリサには、こっちの方が良いであろうという配慮で移された。

寝かされたメリサはまだ昏睡状態。

人形のように白いメリサの額に、ほつれた髪の毛が巻きつき、痛々しい。

「大丈夫だろうか・・・」

恐る恐る覗き込む俺だが、マルシアは冷静にメリサの傷口に手を入れ、確認する。

「腹の傷は深い。右の脇腹が20cmエグレて無くなっている。メリサの腹の傷は致命傷と呼べるくらい裂けている」

「なんとか治す方はないのだろうか」

「獣人は動物の能力を持ち、野生の動物に強くある治癒能力が優れていて、傷でもすぐに治るが、超能力者にほとんど治癒能力はない。せいぜい痛みを止めるとか、身体の矯正とか現場処理の能力しかない」

マルシアは大量の脱脂綿を施して血を止めようとするが、見る見る血に染まり、ぐっしょりと止めどもない。

「くそー、なんとか、ならないのか!」

 すると雅夜が、静おばあちゃんの手を引いて道場に入ってくる。

「静ちゃん、静ちゃん。こっちこっち」

「うるさいわね。そんなに引っ張らないで」

「静ちゃん、あれやって。痛いの痛いの飛んで行け。あれやって」

 そういいながら、静ちゃんをメリサの隣に導く雅夜。

「なにそれ?おまじないかい」

マルシア、前を開けて静ちゃんと雅夜を通す。

「あら天使さん、傷をおっちゃったのね」

「静ちゃんのは、効くよ。いつもの私はその日のうちに治ってる」

「巫女の癒やしなのだから、雅夜も出来るのよ。まあ今はいいけど」

静ちゃん、メリサのケガで削れた腹に手をかけ、子供の時によく口にしていた他愛も無い呪文を唱える

「痛いの痛いの飛んで行け。痛いの痛いの飛んで行け」

そんな子供だましの儀式だが、メリサの血が止まり、顔の血の気が明らかに戻ってきた。

「凄い。血色が良くなってきた」

「でしょ、静ちゃんは最高なんだから」

「そうね、この子はそう簡単に死ぬ子じゃない。死ぬのまだ先。生き続ける子だよ」

何故か俺を見る。

「?」

「ただ意識が心配かな。苦しんでも、痛んでも意識がなんとか戻れば、自分の能力を使うなりして、どうにかすると思うのだけれど、このままだと体の損傷で眠ったまま、消えてしまう可能性があるわね。ここ2~3日で目を覚さまないと危ないかもしれない」

「何か手だてはないのか?」

「なんともいえないわね。ショック与えて起こそうとしても、身体がこうじゃショックに耐えられないと思うし・・・。なにか方法を考えましょう。・・・・でもそれより、心配は貴方、ネコちゃんの方。あなた背中の肋骨、全部折れているでしょ。よく起きていられるわね」

そうマルシアの背中、服は破れ肌が出て、理科の用具置き場の人体模型のように背中の筋肉が見えている。その肉はザクザクに切れて爛れて血を流している。その血はズボンを伝って座っている場所に血だまりを作るぐらい出血している。

「私は大丈夫、寝てさえいれば、そのうち治る。じゃあメリサはもう大丈夫ということか?」

「意識が戻りさえすればね・・・」

 雅夜、メリサに布団をかける。そして顔に絡まる銀髪を払って整える。綺麗なメリサの顔が見える。

「ごめんなさいメリサ」

 俺はメルサの顔を見ながら謝ると、マルシアが首の後ろを掴み持ち上げてきた。

「ちょっときな」

 そしてそのまま外に掴み出されて、俺は地面に叩きつけれられるように落とされる。

「おまえ、私たちを殺す気か」

「いえ、そんなつもりはまったくなかった」

 俺の顔を踏むようにキックで蹴る。四つん這いの形で地面を転がされる。

「おまえは。戦うっていうことが、わかっているのか」

 俺は首を振るしかなかった。

俺は本当に戦うということをまったく解ってなかった。

「人の命も考えたこともなく、ただ闇雲に友人を殺してはいけない、友人を守らなきゃと思った。しかしあの時、自分が攻撃されて、それをメリサが守って、身代わりにやられて、人形のように飛んで叩き付けられる姿をみて、初めて震えた。・・・あの時、知りました。とんでもないことをしたと判りました。メリサが死ぬのが恐ろしかった。すみません。俺はなんてことをしてしまったんだ。ごめんなさい。それしかいえません」

「言いたいことはそれだけか」

 マルシアは、土下座するような姿の俺を見下ろしいう。

「これは戦いなんだ。戦いにおいて被害が出るのは仕方ない。・・・メリサがやられた事、それは確かに痛い。だがそんな事はどうでもいいんだ」

「え、?」

「そんなことより、お前はこの戦いで何をした?いや、何をしなかった?・・・ダニャには逃げられ、相手の言葉に惑わされ、お前は私達の命令を無視して自分勝手の判断で動きやがった。いいか、それじゃ一緒に戦えないんだよ。信用出来ないんだよ。やることはただひとつ。作戦に従うんだ」

「じゃあ味方がやられてもほっとけと・・・?」

 呆れて見つめるマルシア。

「勘弁してくれよまったく。そこから教えなきゃ駄目なのか?」

 身体がいたのだろう顔をしかめながら、片膝をつくようにして俺の前に座るマルシア。

「いいか、戦いなんだから、誰も負けない戦いなど無い。誰かが勝つとき、誰かが負ける。勝者も敗者も傷つかない争いは無い。誰かが傷を受ける。そうでなければ戦いは終わらない」

マルシアは、俺に諭すように話し始める。

「私たちは、まず誰も信用するなと教わる。味方も敵も何もかも信用するな。そして命令を最優先しろと教わる。そうすることで目標に一直線になり戦える。周りの味方もそうであれば、信用が無くても協力出来るからだ。・・・・そこで一番だめなのは思考。その思考こそが命取り。思考は途惑いを生む。状況と自分を考えて一瞬、行動を停止させてしまう結果を生む。その一瞬でこちらはやられてしまうのだ。バカは考える。考えて死ぬ。言ってること判るよな」

 確かに判る。状況を理解した時、緊張が緩んだ。

安心した時に俺は襲われた。思考した瞬間だと思う。良かったなどと考えたせいだ。

そしてそれを助けたのはメリサで、そのメリサが俺のために傷を負うはめになったんだ。

「事において、全てが終わるまで、一瞬たりとも考えては駄目だ。思考するな行動しろ。行動の中に真実がある」

 俺は思い出した3人の某国人。

傷ついても、武器が無くても挑んでくる闘志。やつらは殺人マシーンだと思った。恐怖を感じた。戦いに理性はいらない。マシーンでなければいけないのだ。

「一瞬の迷いもあってもならない。殺すか、殺されるかだ。それが戦場だ。相手を殺す事にエネルギーを注げ、それだけに集中しろ。そして全ては戦いに勝ってから考えればいいことなんだ」

 納得して目を伏せるこちらを見つめ、ピチピチと頬を叩いて立ち去るマルシア。

その背中には傷が生々しい。

服が破れて肌が傷と血で、真っ赤にただれて判別がつかない。そしてなおも血が滴り落ちて地面にたれている。本当に重症なんだと判った。

「すまない。本当にすまない」

 いなくなったけどマルシアにもう一度、頭を下げた。



 俺はココ数日で勉強して判っているつもりだった。が、結局なにも解っていなかった。友人の命は大事とか。攻撃とか守るとか、全て言葉だけだった。

 自分は殴られて痛かった。でもそんな痛みなんて殺されて死ぬことに比べれば、まったく問題じゃない。

「やはり何処か、俺は絵空事に思っていた」

 メリサを見て守るという言葉の本当の意味を知った。

自分の命が無くなるの前提に守るということ。守るということはそれほど、難しいことなんだと。メリサが見せてくれた。

そしてマルシアは言う。戦いに勝てと。全てはそれが出来て、生き残った人間が『守る』などいう言葉を口にしていいことなんだと。

 自己犠牲で守ったと思って死んだとしても、本当に守れたか後が判らない。どんなことをしても勝って、見届けて、『守った』と口にしろということなんだと。


 立ち上がり、道場であるメリサの寝ている場所に戻る。

「雅夜、変わるよ。俺がみる」

「そうね、じゃあ着替えてくる。お願いね」

 雅夜は俺達の声が聞こえていたのか、何も言わず軽く肩を叩くと母屋の方に戻っていった。

俺はメリサの眠るベッドを前に立ち、頭を下げて謝る。

「おれは何時も中途半端だ。本気でやったことなかった。死ぬ気でやったことがなかった。こんな大変なことだったんだ。今頃知った。ごめんなさい。ごめんない。」

 メリサは意識不明のまま、答えてくれはしない。だけど謝らなきゃ気がすまない。

「俺のせいだ。ごめんなさい。俺はわかってなかった。本当にごめんなさい。ごめんなさい。許してください」

 俺の目にいつの間にか涙が溢れてきた。

「死なないでくれメリサ。お願いです。生きて、笑って、もう一度。・・・ごめんなさい」

 俺はメリサのためならなんでもする。メリサが今、目を覚ましてくれるなら俺の命を渡してもいいと思った。

情けないけど涙が止まらない。

俺はメリサの手を握り。エネルギーを送る。やりかたは判らないけど、俺の全てをメリサにあげるつもりで念を送る。

「ごめんなさい。目をさまして。お願いです」

 メリサ、顔を見つめ、祈る。

「死なないで。ごめんなさい。生き返って。わらってください。お願いです。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 今の俺に出来るのはこんなことぐらい。

俺は、何時間も何時間も手を握ったままそうやって祈り続けた。


 どれ位たったのか判らないが、マルシアが入ってきた。手にはお盆を二つ持ち、自分の分と、こんな俺のために朝食を運んで来てくれたくれたのだった。

気がつくと辺りは明るくなり始めて、いつの間にか朝になっていた。

「ほら、飯だ。食え。これをエネルギーに変えるんだ。おまえが一杯食べて、その栄養の全てをメリサにそそげ。超能力はエネルギーを必要とする。お前がやってもらったようにメリサに送ってチャージさせるんだ。」

「これでいいのかな?」

 メリサと手をつないだのを見せてみる。

「よくわからないが、たぶんそれでいいと思う。メリサがやっていたものそういことだ。超能力者の作られ方が判らないので、イマイチ説明で出来ないが、たぶんそうやって作られていると思う」

「超能力が?作られる?」

「そうだよ。超能力者も獣人も人間が創りだしたものだ。だからそれで送り込めるはずだ」

「メリサもマルシアも作られたということ?」

「そう最初から私達は超能力少女、獣人女の人間兵器として作られたんだよ」

「・・・」

「私達は兵器さ、武器なんだよ。メリサの電子だが、これは強力なバッテリーと考えると解りやすい。電気特性の子供に電気を貯められるように作っていって、それを制御できるように教育する。獣人の場合は、集めて選りすぐり選りすぐった子供に動物のDNAを組み込むのさ、そこで取り込めた子供が獣人になれる。まあそのあとの教育が半端じゃないけどな」

「・・・・そうなのか?そうだったのか」

「超能力というのは極度に肉体を酷使する。充電はきくが使えば使うほど体内を消費する。だから能力を使っていくと消費して苦しくなっていただろう。某国、向こうの超能力もそうだろ。戦っているうちに消耗した」

 そういえば、葛西の水族館のジャガイモ頭の男も水をほしがっていた。

「メリサたち超能力者の寿命は短命。平均寿命18歳。それぐらいで、人間の能力の全てを使い果たしてしまうようだ。その点、獣人は野生の血のお陰で再生能力が強いので寿命も長い。まあ生き延びれたらの話だが。・・・死亡率で行くと、獣人の方が高い。何せハードなミッションばかりだからな。勘弁してほしいよ」

「じゃあ超能力者に獣人の血を輸血したらどうです?」

「それが出来たら苦労は無い」

 マルシア、座るとお盆をこちらに出し、そして自分朝食を食べ始める。

「獣人の血と超能力者の血は交わらないんだ。そもそも人間のDNAの中に超能力を秘めたものと、獣人と相性がいいのがある。それを持った人間が、まず選ばれる。メリサは超能力、私は獣人だ。その二つを血の開発で進めた結果、私達、獣人たちのDNA操作に行き付き、片や自分の能力の開発を進めて、超能力にまで強化させる事に成功したメリサ達は、肉体を適応させれる訓練が必要になった。つまりこれはどちらかを優先するしかなく、肉体をどちらかに選択するしかないんだ。だから超能力者と獣人は別々に作られて、各自の特別訓練を受け、それに合格出来たものがペアーを組み、お互いの長所を生かすため私達は2人でペア行動するんだ」

「でも、いつか誰かは、その二つの能力を持った人間も出てくるんじゃ」

「私の獣人の確率はどれぐらいかわかるか?10万分の1だ。その上、そこに超能力特性を持った奴なんて、現れるはずがない。」

「10万分の1。エリートなんですね」

「偶然だよ。偶然。たまたま私は獣人の素因を持っていただけ。ま、開発が進めば増えるかもな」

 マルシア、おかずの焼き魚だけ多く、5枚もある。それを手掴みでムシャムシャ食べている。

ワイルドな女だ。

「私は南米で生まれてスラム育ちだ。貧乏で子だくさんの家でね。ある日、現れた男たちにスカウトされて連れていかれた。つまりは人減らしの売買と同じ。私は売られて行ったんだ。そしていろんな場所で同じように買い取られて来た子どもたちと一緒に、秘密結社・世界均衡活動部隊という牧場のような研究室に送られて、育てられたのさ。まあ育てるといっても、それはまさに実験というような日々で、そこで残れるのは、精神、肉体が優れた者で、そこで勝ち残ったものだけが、貴重な動物素子のDNAを体内に受けることができるのさ」

 ちょっと嫌なことを思い出したようでマルシアの顔がゆがむ。

「その時、拒絶反応を起こさなかったり、動物に取り込まれなかったものが獣人として進める。ほんの一部のほんの数人だけが獣人になれるのだよ。・・・・まあ、そこで獣人として生きても、そんなに恵まれているわけではない。毎日のように戦場に駆り出され、負ければ死。絶えず勝ち続けなきゃいけないんだよ。まったく生き残っていることが奇跡に近いな・・・あっ、と私の話なんてどうでもいいんだ。それより食べろ。食べて体力をつけろ」

「はい。解りました」

雅夜の家の朝定食。生卵と納豆をご飯に入れてかき混ぜて懸命に食べる。

納豆が嫌いなマルシアは、気持ち悪そうにみてる。

「よく食えるな」

「慣れると美味しいよ」

「別に無理して慣れたくない。もっとほかの美味しい物を食べる」

 そういって、またこの前のスモークチーズを箸にぶっさして、かじっている。

「マルシア。大丈夫だったのかい?えぐられてた傷は?」

「一晩寝て、思い切り食べたら、なんとかなった。ほら」

 マルシア、破れているを他のレザーで補修したジャケットを脱ぎ、背中がなくなったタンクトップシャツをみせる。

昨日の肉のササクレと違い、そこは薄く皮が張っているが、肉が削がれて肩甲骨まで透き通って見えていて、強烈な攻撃の後がまざまざと残っている。

「凄い回復力」

「もう服がボロボロ。何とかしないと裸になっちゃうよ」

 と、言いながら服をパタパタと振ると、タンクトップシャツの脇からオッパイがチラチラ見える。

あれ、これは凄い。乳首は見えないが、ほとんど見える・・・

いかん。傷の話だったのに気持ちはオッパイに・・・・

「何を、みてんだ?」

え?マズイ。気づかれた。

「本当に男はエッチでいけない。こっちは傷を見せているのに、エロい所ばかり見る。そんなに、見たいか?・・・どうだ?こっちが見たいのか?」

自分の胸を鷲掴みして揉むマルシア。

「いえ、そんな・・・はい、とても見たいです」

「たかが女の胸が、そんなに見みたいかね。見せてやってもいいんだけれど、そんなに見たがると、見せたくなくなる。・・・不思議なもんだ。だから見せない」

 といってマルシアはまたジャケットを羽織ってしまった。なんだよ。見せろよ。

「なんか言ったか?」

「いえ、別に」

 怖い、怖い。怒らせると本気で怖いから。逆らわない。

すると今度は静ちゃんに引きずられてるように雅夜が来た。

「もうあんたは覚えていい頃、代々伝わる巫女なんだから、守り神として、癒やしが出来ないなんてダメよ。」

「判ってるわよ。静ちゃん。私だって出来るわ」

「どうだかね。あんたはそんな角みたいな髪型して気が強い女の子なんだから、そろそろ守るということ覚えなさい」

あんだけ俺に説教たれる雅夜が怒られているのが楽しい。

「サトジュン。何、笑ってるのよ」

「別に」

「ほらそれ、すぐに突き刺すように波動を撒く。気をつけなさい。貴方は鎮める方の人間なのよ。むやみに攻撃しちゃ駄目」

「は~い」

「もう本当に。彼の方がよっぽど優しいわね」

 雅夜に、チッ、と睨まれる。

違うよ。俺のせいじゃない。静ちゃんがそう言ってるだけだ。俺は関係ない。

静ちゃんメリサの布団を剥ぐ。そして脱脂綿と包帯が血で固まっているのをハサミで切り取り、そこに手を入れる。

雅夜にも呼び同じように手を入れさせる。

「手当ての意味はわかるわよね。手を当てて患部を温めるから手当というの。血を作るのは腎臓。だから腎臓に手を当てて温める。そしてエネルギー注ぐ」

静ちゃんの体がほんのりと光る。

「あ、温かい」

 一緒に手を入れてる雅夜が、静ちゃんをみる。

静ちゃんは、もっと光りだす。

「ないやってんの?貴方もやるの。こうやって相手に気を送るの」

「よく判らない」

「相手を温めるの。冷やしていいことなんか全くない。温めて溶かすつもりで送るのよ」

 ごそごそやっているうちに、雅夜もこころなしか、光ってきてるようにみえる。

そうか、昔、神と言われた人々が傷を治したり、癒やしたりして奇跡を起こした時、体が光っていたというのは、コレのことか。

手当ての回復って、看護婦や医療関係につく人にたまに現れる症状だって聞いたことがある。それが出来るスポーツ選手も居るって聞いた。こういう温める行為の能力だったんだ。

どんどん雅夜、が集中していくと体の光は強くなっていく。

静ちゃん、それを確認すると手を抜き、雅夜に任せる。

「これで少しは役に立つかな。体の治癒能力の手助けになれば、御の字ね。でも目を覚まさないのは心配ね。意識が深くなれば、そのまま戻れなくなる。早く眠りの姫は起こさないと」

 静ちゃんの言葉を聞いて、俺は思い出したことがある。

「そうか。ちょっと出かけてくる」

「何処へ行くの?」と雅夜に聞かれた。

「近所さ、すぐ戻る」

 そう言って、俺は部屋を出た。

 

  

 雅夜の家を出ると、俺はダニャと話したインド料理店へと向かった。確か雅夜の家とほんのすぐそばだったはずだ。

うろうろと確認しながら、そちらに向かって歩いていると、横にマルシアが並んできた。

「何処に行くつもり?」

ここまで来て隠してもしょうがない。

「ダニャに会って来る」

「居場所知ってるのか?」

「違う。前に一度ダニャと入ったカレー屋がある。そこに行ってみるつもりだ」

「どうした?やけに積極的だね。なんかあるのか?」

「もしかしたらメリサを目覚めさせる事が出来るかも知れないから・・・・くるのか?」

「ああ、暇だからね。不服か?」

「いえ、どうぞ」

そうあれはインド人が作ったってダニャが言っていた。行けば手に入れられるかもしれないのだから。



 行ってみると、やはり雅夜の家から目の鼻の先だった。

マンションのテラスの2階、一年365日休まないと評判のインド人が経営する店『メソポタミア』は、開いていた。

マルシアと店に入ると、愛想よく女主人のララが、出迎えてくれて席を案内してくれた。

狭い店だが、一応、奥の方に案内してくれて、衝立を立てて見えないようにしてくれた。

綺麗な顔にナイスバディ、やはりマルシアは、目立つ。そういう配慮が、インド人らしくていい。

「いらっしゃい。何を食べる?」

「え~と、今日は食事じゃなくて、ダニャについて・・・」

「後にしな。まずは何か注文するべきだ。チャパティを2~3個。出来たら牛肉か豚肉のカレーも一緒に」

「牛も豚も駄目。鶏肉しかないよ。それでいい?」

 頷くマルシア。

女主人・ララは奥の厨房に注文をいれると、ドリンクの用意をし始める。

「インドも食い込んでいるか。インド人は利益にさといからな。何かあったらカスメ取ろうってことかな」

「葛西はインド人のメッカ。よく見かける。数多く住んでいると思う」

「インド人は食べ物や生活習慣の規制が多いから、多くで共同に生活したほうが都合がいい。だから集まっているだけ。それで、今日は何の用事できたの?ミス・マルシア」

「なんだ。自己紹介は必要ないね」

 ラッシードリンクを置きながら、質問してくるララ。人の話を全部聞いてる。

「江戸川区で起きたことはなんでも知ってるわ。学校の大参事もね。・・・・メリサは死んだの?相当な傷を食らったようじゃない」

「さすが共同組合。情報が早いね」

「情報が命。情報が世の中で一番大事。そうじゃなきゃ。世界で生きていけない。・・・でも驚いているのよ。あの無敵のシルバーエンジェルと呼ばれる伝説の娘が傷をおったって、今までなかったでしょ?何かあったの?」

「そいうこともたまには起きる」

 怖い、みんなに知れ渡ってる。俺は自分のしでかした罪の大きさを知った。

だが今はそれどころではない。この東京に迫る有事の事が優先だ。マルシアがいう戦いに勝つということはそうことなのだ。

「それで今回、ここに来た用事というのは、ダニャと連絡がとりたいんだ。・・・この前は話の途中でいなくなったから、その後の話を知りたい」

 ララは、話しだした俺の顔をじっと見つめる。

「私たちは中立。求められれば施す。でもそれはバクシーシーだけ。ビジネスは違う。頼られれば助ける。その代わり代償をもらう。これが世界の常識。判るわよね?」

「ああ判ります。そちらの条件を言ってください」

「まあ、いそがないで」

 ララは微笑むと、外の『オープン』の看板を『クローズ』にし、注文の品を持ってきて、配膳すると、同じテーブルに座る。

「今ね。アジアのパワーバランスが悪すぎる。ユーロはドイツの一人勝ちなので、誰も競りかからず、ピラミッド型で安定している。南米は文化、資源、路線で活性化しようとしてるし、アメリカはシェールガスで経済全てを巻き返そうと考えている。そんなソフト戦略の中、某国は武力によって権力を手にしようとしている。全く後先考えない拡大の方法。許されると思う?略奪は恨みを買うのを判ってない。自国内で膨れ上がった需要を確保するため、行かざるを得ないのはわかるけど、あまりの強引すぎる」

 ララは淀みなく、世界情勢を語った。そうか、これが情報ということか、世の中は動いているということか。

「しかし某国は今までそうやって手にいれてきた。だからそれしか方法をしらない。モンゴル、チベット、少数民族の地域。ダニャ。が生まれた町も押さえられ、虐殺が起き、ダニャの村も襲われ強制退去にあった。そしてダニャの民族も移民に成った。ネパールにはそういう民族が沢山いるわ。日本もこのままだと同じ目にあわされる」

 マルシア、飽きてきたのか、チャパテイをカレーに浸して食べ始める。

見ていて美味しそうなので、俺も摘まんで食べてみる。・・・う、チャパテイって蒸しパンか?ベタベタして気持ち悪い。何だっけ?あのパン・・・あ、そうだ。ナンだ。ナンがうまいんだ。ナンにしてくれればいいのに。

「某国は行動を優先するらしいが、私たちは対話を大事にする。欲望まみれに明日はない。世の中はもう飽和状態。飽和の中で何を選ぶかで、将来が変わる。シビヤなビジネス感覚が必要な時代」

「能書きはいいから、教えろ。知っているのか知らないのか、もし知らないふりならをするのなら、ここが吹っ飛ぶだけ」

 マルシア、単刀直入に切り込んでいく。本領発揮。

「お店壊さないで」

「それで、こちらの代償は?何を渡せばいいんですか?」

 ララは、しみじみ俺の顔を見る。何だろうさっきから、何か付いたままなのか?

「貴方、変わったわね。たった数日でまったく違う」

「俺が変わった?」

「そう、貴方に何かが生まれようとしている。そう今まで、無かったもの。・・・意志。それが貴方の中に生まれ始めている」

 意志か。どうなんだろう?メリサの責任は取ろうと思っているが・・・

ララがじっとこちらを見る。なんだか恥ずかしくなってきた。

 インド人はじっと相手の目をみる。日本人は相手の目を見るのに慣れてない。恥ずかしくなってしまう。しかしインド人は目を離さない。これがインド人の怖いと思うところ。

「貴方、気に入った。私の友達になりなさい」

「え、オレと友達ですか?」

「貴方は今、外に広がっている。感情も精神も、気も根も外へ伸びている。それも巨大な勢いで。インド人は、それを大事にする。英語でなんだっけ?エモーション。そう、内からのエネルギー。それは人間の生きる意志。この世は人間が作っている世界。人間を仲間にしないと生きて行けない」

 手をだし、こちらに向けるララ。

握手か・・・これも日本人は苦手とするな。しかしそんなこと言ってられない。

「よろしくお願いします」

「オッケー。ダニャに連絡取るよ」

 ララ、立ち上がると、店の電話の子機を掴み、ダイヤルを押す。

「それですみません。ミス、インド人さん」

「なにそれ?ララでいいわよ。サトジュン」

「それで、もう一つお願いがあるんです。・・・いや、本当はこちらの方が、俺には大事で、俺はコレのためにココに来たというか、なんというか・・・」

「なにかしら。友達の頼みなら聞いてあげるわ」

「薬が欲しいんです。ダニャにもらった薬。別名・死なない薬」

 不意に言われて、止まるララ。やはり大事な薬のようだ。

ダニャが言っていた。インドでは能力開発もっぱら、肉体酷使、香辛料などの植物から、人間強化を作ろうとしている。そしてあの薬は、インド人が作ったという。だったらとても秘密のものなのかも知れない。

「いま、大事な人が死にそうなんです。どうしても飲ませたい」

「強力な奴よ。死にかけている人間に飲ませるもんじゃないわ」

「でも、このままだった死ぬかも知れない。俺のせいなんです。俺が甘いことしたばかりに。お願いします。お願いします。なんでもします。薬をください」

俺は椅子から降りて土下座して頼んだ。

ララはそれを見ながら冷たくいう。

「知らないわよ。死んでも。責任もてないわよ」

「俺はあれで助かった。だからメリサもきっと、大丈夫なはず」

「判ったわよ。待ってなさい」

「ありがとうございます」

 ララは、俺の手を持ち立たせると、奥に向かっていった。

「おまえその薬を飲んだのか?死なない薬とかいうのを」

 俺がイスの座ると、マルシアが聞いてきた。

「ダニャが持っていたのを貰ったんです。でもその薬を飲んだおかげで、あの時メリサの電撃を受けて死んでも、また生き返れたんだと思う」

「薬か、そんな薬を作っているか、インドというのものなかなか侮れない国だな」

 電話を持ちながら、ララが戻ってきた。

「連絡とれた。会ってもいいって。3日後、夢の島、植物園に来てって」

「3日後か。了解しました。ダニャに伝えといてください」

 ララ、頷くと、ポケットから、黒い楕円形の錠剤を出す。

「はい。これでしょ?」

「ありがとうごさいます」

 それを受け取り、嬉しくなった。これでメリサが助かるかもしれない。

「貴方、今、とてもいい顔をしている。今までは普通だったけど何かが芽生えた時、その人間が変わる。私たちは発芽と呼ぶ。悟りと呼ぶ人もいる。今、貴方は芽生えている」

「ありがとうございます」

 俺は薬を、店のテーブルの紙ナフキンで包み、大事に胸ポケットにしまった。

「それならこう言って『ダンネバード』。ネパール語でありがとうって意味だから」

「ダンネバード、マダム・ララ」

「これで本当の友達になれた」


 インド店からの帰り道、マルシアに聞かれる。

「ダニャと会う夢の島をどう思う?ただ、指定してきたということは、何があるのだろう。罠か?」

「ダニャって奴は、そんな悪いやつじゃない気がする。確かに俺を騙したのかも知れないが、結局は助けてくれた」

そうどこか憎めない顔をしていた。顔で判断しちゃいけないのかもしれないが、結構嫌いな顔じゃない。

「どうもアイツがそんな裏切り者に思えない。だったら俺を助ける必要はない」

「まあ罠でもなんでも行くけどね。もし罠なら罠ごと、ぶっ潰してやるだけだし」

 マルシアの発言は豪快だ。潰す、壊す、殺す。この3つで出来ているようにおもう。

でもそういえば最近、俺も『チョー』とか『ヤバイ』しか、言ってない気がする。人のこと言えないか。


 中庭の道場にいくと、メリサに持たれかかったまま、雅夜が寝ている。

手を当てたまま、疲れて寝てしまったのだろう。

「お疲れ様」

 雅夜を揺すると目を覚まし、

「あ、戻ったの?何か、変化あった?」

 あくび含みで聞いてくる。

「ダニャと連絡がとれた。3日後、夢の島の植物園で会う事になった」

「へえー、どうやってとったの?」

「ダニャ行きつけのお店を知ってたんだ。こいつが」

「代わるよ」

 今度は俺がメリサの手を握り、エレルギーを送る。

「お手柄ね、サトジュンちゃん。でもなんで待ち合わせが植物園なのかしら?」

「あんまり詮索するな。疲れるぞ」

「事前調査は?」

「ばたつくと逃げられる」

 マルシア、やはりまだ体がきついと見えて、部屋の隅に横になる。

「初見で大丈夫?」

「3日後なら体も戻るだろう。それなら罠でもなんでもぶっ壊してやる」

「そうね。まあ、こちらも手負いだから、休ませてもらいますか」

 固まった体をストレッチで延ばす雅夜。

「体中痛い。まだ無理よ私に癒やしなんて。体中のエネルギー、全部持ってかれちゃう。疲れて疲れて、大変ね。・・・何かあったら教えて、それまでお風呂に入ってくる」

「そうか風呂か、いいな。しばらく入ってない」

「そうそうマルシアも来なさいよ。体を洗ったほうがいい。血でカピカピじゃない。いらっしゃいよ。一緒に入りましょ」

「そうだな。体も服も少し気になっていた。そうさせてもらう。後で行くよ」

 雅夜、母屋の方に向かう。

雅夜が消えたのを確認して聞いてくる。

「おまえ、さっきの薬、メリサに飲ませるつもりか?」

「そのためにもらってきたんです」

「強い薬だそうだな。・・・メリサが死んだらどうするつもりだ?」

「わかりません。でも俺に出来るのことはこれぐらいで」

「何も知らないメリサに、訳の判らない薬を医者でもないお前が飲ませる。それを私が何も言わず許すと思うか」

 マルシアは、俺の首元を引き上げて睨む。

「俺は自分の出来る限りのことをしたいのです。メリサがこのまま目を覚まさず消えてしまうくらいなら、俺はなんでもするつもりです」

「薬のせいでお前がメリサを殺すことになるかもしれないんだぞ」

「どんなバツでも受けます。殺して貰っても結構です」

 初めてマルシアの睨んだ目を見て、喋った。

マルシア、手を離し、

「おまえの一途の思いはわかった。このまま意識不明なら、やってみる価値はあるのだから、やるしかないだろう。・・・飲ませて見ろよ。結果はその後だ」

「ありがとう」

 俺はポケットから錠剤を出し、メリサに寄り添う。そして錠剤を口の中に・・・あれ、口が開いてない。

「これって?どうすれば?」

「首を持ち上げれば、口が開く」

 確かに首の後ろに手を入れると、頭の重さで口が少し開く。

「でもこれじゃ、飲み込まない・・・ですよね」

「口移しで水を流し込んでやらなきゃ飲み込まない」

「え、口移し?・・・って、キスになるの?」

「まあ、状態はそうなるね。まあ、おまえが薬を飲ませるというんだから、飲ませればいい。くちづけして飲ませろ。せいぜい頑張れよ」

「そんな、頑張れって・・・」

「そうそう、それ以外で余計なことしたら、判っているな。ブッ殺すからな」

 マルシアは、俺たちを残して、雅夜のいる母屋に向かい道場を出る。

「メリサに、水を・・・口移し。水は?」

道場の脇の流しに行き、コップに水を入れ、持ってくる。

メリサをみる。綺麗な顔立ち。あどけない寝顔。

「マルシアの奴、変なこというから、気になっちゃうじゃないか」

 メリサの脇に座り、首の裏側に手を入れて軽く持ち上げる。すると口を少し開けるメリサ。コップの水を口に含み、錠剤をメリサの口にいれ、ゆっくりとそれに蓋をするように口を重ねる。

 メリサの唇は柔らかい。少し固めのプリンのような感触。

 メリサの鼻息が聞こえる。可愛い息遣い。俺より呼吸が早いんだ、と知る。

俺の口の水を流し込む。

水を口の中にそそがれると、嫌がるように顔を背けようとする。それを逃さないように押さえて、首をさげてやると、条件反射で飲み込んでくれた。

ちょっと気管支に入ったのか、少し咳き込む。でも薬を吐き出さないでくれたので、飲んだことが判った。

 いとおしくてメリサの頬を撫ぜる。

この薬、どうかうまく行きますように。

 俺はまた、昨日のようにメリサの手を握り、祈る。そしてエネルギーと思わる物を、メリサに届けと送るように念じる。



 目を閉じて念じていると、前にメリサからもらったメモリーのようなビジュアルがまた俺の頭に直接流れてきた。

同調しているのか、今度はメリサの中にある、それは鮮明なビジュアルだった。


 森の中の館、新緑の頃、4歳ぐらいのメリサが走る。前を走る8歳ぐらいの男の子、兄のベルガー、川で捕まえた小魚を持っている。

そして館につき、中庭を走ると、テラスから金魚鉢をもった6歳の姉アイリスが小走りで来る。3歳の弟・ミハイルもトコトコと必死にアイリスの後をついてくる。

 ベルガーはアイリスの金魚鉢に小魚を滑らすように入れると、小魚は青い体を震わせ、元気に泳ぎ出す。

 それを必死に覗きこむメリサ。ミハイルも覗こうとするが、メリサへばりついて離れない。小魚揺れる度に、メリサ笑う。


 ビジュアルは変わり、冬の館の中。

燃える暖炉の前に、ベルガーとメリサが並んで立っている。

部屋の奥のデスクの所では、父親らしき男と、外套を着込んだメガネの男が話している。

待たされているので疲れてあくびをするメリサに、ベルガーは手品を見せる。

コインが、右手から左手に移る他愛もない手品。

 だけどメリサはビックリする。右手から消えて、左手の中に現れる。今度は左手のコインを握りしめると消えて無くなる。メリサは、次は右手だと、指さすが、ベルガー右手を開くとそちらも無い。あれ?と見ていると、ベルガーがメリサの耳を撫でるとコインが出てくる。不思議で驚くメリサ。

笑うベルガー。つられて笑うメリサ。

 すると話を終えたメガネの外套の男は、ベルガーの肩を叩き、部屋を出る。

ベルガーの笑いは消えて、父親らしき男の方を見るが、父は動かない。

ベルガー、メリサの手を握り、歩き出す。

 外は雪。

館から出たメリサとベルガーは、外に止まっている車・ロールスロイスのブラックシャドーの後部座席に乗り込む。

見ると戸口に姉のアイリスと弟のミハイルがこっちを見ている。

そこで閉じられる車のドア。

メリサ不安になり、兄・ベルガーを手を握り見る。

するとベルガーは微笑み、コインを渡して握らせてくれる。しっかりと握るメリサ。


 ビジュアルは進み。

メリサは8歳ぐらいになっている。

 大きな倉庫に、幾つものガラスボックスが置いてある。その中にゴムスーツの下着をつけたメリサ達が入れれている。

4隅の電球ランプのが点滅して中にいる少年少女たちの体に電子がボックスに流しこまれ、充満する。

 弛緩する奴、仰け反る奴、色々な反応の中、メリサは軽く目を閉じて耐える。

そのうち隣の他のボックスでは、耐え切れず、のたうちまわる少年も出てくる。床を転げまわり痙攣している。

必死に耐えるメリサ。

 隣のガラスボックスから、音がする。メリサ見ると、ガラスに頭を何度もぶつけている音だった。隣の少年、なおもガラスに指を立てて掻きむしる。メリサにに向かって何か言ってるが聞こえない。

 メリサ、目をそらし、耐える。

のたうちまわる隣の少年。メリサは恐怖で狂いそう。震えているメリサ。

そんなメリサのガラスボックスの前に立つ少年がいる。12歳になったベルガー。

 ベルガーは自分の前で手を握って開く。すると手の中に水があって、それが小さい竜巻になって細く上に上がっていく。手の平の上に20cmぐらいの高さの竜巻が回っている。

メリサ、それに見とれる。

微笑むベルガー。微笑むメリサ。

 学者みたいな教官が来てベルガーの肩を叩き、向こうに連れていく。手を振って去っていくベルガー。微笑むメリサも手を振る。


 ビジュアルは明るくなって外になる。

山の麓に広場になっておりそこに、変電所から引かれた鉄塔に落雷発生装置があり、作業が開始されて、ボルテージが貯まるとブザーがなり、地面に落ちる。

 メリサたち数名。それを確認。

断電服を来た教官たちが、順番に案内する。

 直撃ではないが、落ちた場所から通電するワイヤーを掴み、落雷実験の衝撃を受けるメリサ。ブザーがなり、ビシャっという音共に落雷の衝撃を受ける。

一瞬で服がこげて煙をあげる。髪の毛は一斉に逆立つ。しかし食らったメリサは、何事もなかったように笑っている。

 後の人間も同じように受ける。落雷が体を通過しても平気である。同じように焦げた服を見て互いに笑い合う。そして次の人間も通過。

しかし実験の外が騒がしい。

 人が走りだし、広場の奥にある湖に向かってく。慌ててる様子から、近くの湖で事故が起きたらしい。

 超能力者の事故は多い。また誰かが、しくじったのだと噂をする人と一緒になって、湖に向かうメリサ。

見ると湖の真ん中で、一人の少年が舞うように竜巻の中でもがいている。

 メリサ気がつく。兄のベルガーだと。

ベルガーは訓練中に暴走したようだ。自分の水を集めすぎて、止めれらない様子。

竜巻から逃れようとするが、また巻き込まれる。

10mくらいの高さの竜巻は、浮いたり沈んだり、湖を渦巻きに変えてベルガーを飲み混んでいる。

 兄さん。兄さん。

ベルガーが渦に飲まれて沈み、浮き上がって逃れようとするがまた巻き込まれて沈む。

そして力尽きて、動きが止まり、渦の中に沈んでいく。

呆然としているメリサ、ベルガーが消えて居なくなる。

 あまりに多く死んでいく超能力訓練者たちに、みな慣れっこになっているため、みんなすぐにまた実験に戻っていく。

メリサは、そのまま見届けたいが、そういうものだと、唇をかみ締めて耐えて、みんなと去る。

また通電の実験。

 メリサ涙が出るが、泣いちゃだめ。ないちゃ駄目と、堪える。悲しんでる場合じゃない。そう言いながら、涙は出る。

でも悲しいんだよ。涙が出ちゃうんだよ。


 ビジュアルは、いつしか夢になっていたようだ。メリサに同化してた俺は泣きながら寝ていたようだ。

そんな悲しみながら寝ている俺を誰かが撫ぜる。

誰がが俺の頭を撫ぜて慰めている。・・・・誰だろう?撫ぜている。

誰が、撫ぜる?・・・と、考えると撫ぜているのは・・・。

 俺は目を覚まし起き上がって見てみる。するとメリサが、目を覚ましており、優しく微笑みながら俺の頭を撫ぜていた。

「意識が戻ったのか?」

 頷くメリサ。

「大丈夫か?」

「もう大丈夫、自分でエネルギーのコントロールを始めた。もう動けると思う」

 俺はしっかり過ぎるぐらい握りしめていた手に気が付き、恥ずかしくなって慌ててはなした。

微笑むメリサ話しだす。

「体は動かなかったけど聞こえてた。あまりに大きな傷でそれを止めるためには、体の全ての機能を使わなくては駄目だった。エネルギーは届いていたよ。暖たかった。ありがとう」

「いや、俺のせいだ。俺があんなことしなければ、メリサが傷を負うことなかったのに、ごめんよ。・・・マルシアに怒られた。おれは本当に自分勝手で・・・」

「マルシアは強がりいうけどね。すごくに優しいの。私や貴方のことや、雅夜の事が心配で心配でたまらないのよ。大家族で育ってきて、貧しくて家族が死んでいくのを見て、そして一緒に訓練して来た仲間が死んでいくのをみて、とてもとても悲しかったんだと思う。私は慣れたとか言ってるけど、本当は悲しくて悲しくて仕方ないのよ。だからまた悲しくなりたくないから、親しくならいように虚勢を張っているの」

 なんとなく判っていた。マルシアはきつい怒りを口にするが、言っている事は全て自分にいい聞かせているような真面目さがあったから。

「見たよ。メリサから流れてきたビジュアル。過去の思い出や出来事が、俺の中に流れてきた」

「そう私の過去か、そんなことも吸収するのね何時頃の思い出?」。

「古い森のお城から、辛くきつかった超能力を訓練している頃まで・・・メモリーが止めど度もなく流れてきた」

「そう、あの頃は嫌な思い出ばかり。10人中6人が死んでいく過酷な訓練」

「兄さんもそれで死んだんだね?」

 頷くメリサ

「困るのよね。思い出って楽しことより悲しいことや苦しことばかりが残ってしまう。みんな死んでいった。仲良くなってもみんな死んでいく。あの時ね、本当に悲しかった。。ベルガー兄さんには生きていて欲しかった。・・・でもそれを言ってても仕方ないの。だって明日は自分が死んでいるかも知れないから。それほど、みんな死んでいった」

 メリサ、ベッドから降りる。

「体は大丈夫なのか?」

 メリサ、微笑むとベッドに腰かける。そして隣をポンポンと叩き、座れと促す。

俺は言われるまま、メリサの隣に腰をおろした。

「サトジュンが、誰もかれも、みんな守りたいと言い出した時、私ね、急に思いだしたの。・・・友人が死んでいく。仲間が殺される。そんな物は見たいくないと泣き叫んだ過去の自分を思い出したの」

 メリサは、いつもの冷たい天使の微笑みは消えていた。それは目を伏せた優しい慈悲の眼差し。そして一つ一つ噛みしめるように語りだす。

「私達は進撃してきた。踏み越えてきた、守るより攻撃。そうして勝ち続けてきた。でもね。心の何処かに、『見捨てて来た仲間のこと』『助けたかった兄のこと』が。しっかりと残っていた。・・・目的や計画に実直であればあるほど、自分は助かる。経験や思考、判断が未熟であればあるほど、死んでいく。それは仕方ないこと。だから私は忘れることにした。閉じ込めることにしていた。でもね。サトジュンが友達だから守る。殺させないって私たちの前にたったでしょ。あのとき何故かサトジュンの姿がカッコ良かったのよ」

 なんか褒めれて嬉しくなってきたな。

「判っているわ、それはバカなことだって。でも、もしかして本当に私がしたかったことって、サトジュンと同じ、守ることだったんじゃないかって。思ちゃったりしたの・・・・だからサトジュンが殺されそうになった時、私も自分でも気がつかないうちに体が動いていた。・・・不思議ね。うふふ。」

 可愛い。メリサ可愛い。なんて可愛いんだ。本当に天使だ。

笑っていた方がいい。メリサは笑うべきだ。

 あれ?どうした?変だぞ。胸がドキドキする。なんだろうこの変な気持は。

いや分かっている。噂では聞いている・・・これが恋というものか。

「よし。決めた。俺はメリサを守る」

「また、何度もうるさいよ。私に守られたくせに。ベルガー兄さんが死んだのに同情してくれたの?」

 それはメリサが好きだから・・・なんて言葉は、恥ずかしくて言えないから

「判らない。とにかく守らきゃと、いま思った。だからメリサを守る」

 と、大声で宣言してしまった。

「へんなの。まあいいわ。勝手にすればいい」

 少し嬉しそうにメリサ、俺の手を握り

「ありがとう」

 と、微笑む。

ん?これは・・・可愛いメリサの瞳がこちらを見つめている。

ヤバイ、昨日の柔らかいメリサの唇の感触を思い出してしまった。

 あ、胸がドキドキしてきた。

これはまた、口づけの予感がする・・・・・


「メリサ!目を覚ましたか?」

 そう言いながら入ってくるマルシアに驚き、俺は、ぴょーんとメリサから離れ、床に座る。

「どうしたの?」

「いや別に」

 心にやましい気持ちがあると、体は反応するらしい。

「あれ?マルシア。服が違う」

「えへへへ。いいだろ。雅夜に貰ったんだ」

 破けたレザーライダース・ジャケットは、黒から赤に変わり、俄然派手になった。肩から吊るされた鎖は、脇に誂えられた長いポケットに延び、首から下げていた超能力遮断のナイフを括りつけ、そこにしまってあるようだ。

「ほら、見てみろ。このタンクトップ。ジャガー柄だぜ。豹柄とは違い、しっかりと中の模様まで再現してある。さすが日本だ。こういう細かい物もキッチリ作ってある。感動したよ」

 みるとへそ出しタンクトップ。やはりノーブラなので、大きな胸がゆさゆさ揺れる。

うーん。こちらは体にビンビン来るな。やはりマルシアの色気も捨てがたい。

そこに巫女の衣装をまとった雅夜がやってくる。

「うわー、次はコスプレかよ」

 次から次へと、男の弱い部分に攻め込んできて、フラフラ来る。

「なにいってんの。馬鹿じゃないの。これが我が久宝家の当主の衣装なの。その辺のまがい物と一緒にしないで頂戴」

 もうメリサ、好奇心の塊になっており、フラフラと雅夜に近づき、衣装を触る。

「薄い。透けてる。綺麗な白と赤。お人形さんみたい。・・・ねえ私にも服を頂戴。綺麗な奴。お願いよ」

「うーん・・・巫女の服はないけど、昔、着ていた服なら、あった気がすけど・・・」

「それでいい。頂戴」

 わーいわーいと喜ぶメリサ。

やはり女の子というのは、服が好きらしい。こんな事で大騒ぎになっている。

俺の横にマルシアが来て聞く。

「目覚めたのは、やはり薬の効果か?」

「実際は判らない。メリサも自分で治癒に勤めてたらしいけど、やはり俺は薬の力が大きいと思う。そうでなけりゃ。こんな偶然に意識がもどらないと思う」

 メリサはをみると楽しそうに、雅夜にまとわりつき、巫女の衣装の裾をめくっている。

「どちらにしてもお前は決心した。それは評価していい。戦うということはそういう事だ」

「ありがとうございます」

「じゃ褒美だ。胸を揉ましてやる。揉んでいいぞ」

 マルシア、ジャケットの片方の肩を抜き、胸を出す。そしてタンクトップの上から、揉んでみせる。

「え、・・・い、いいんですか?」

「柔らかいぞ。ほら触ってみろ」

 うわー。柔らかそう。揉みたい。・・・と、フラフラと手を伸ばしかかったが、ふと周りをみると、メリサも雅夜も、マルシアとのやりとりを聞いていて俺の行動を見つめている。

やべー、今、揉んじゃ、まずそうな予感。

「いや今は・・・いいです。」

「そうか?揉みたくないのか?」

「いや・・・揉み・・たい・・・けど、やめておきます」

「ならいいけど、残念だな」

 マルシア、ジャケットを戻すと、俺から離れていく。そして雅夜の巫女の衣装を触り始める。

 くそー。揉みたいよ。でも今、揉んだら、このあと俺は終わってしまう気がするんだよ。畜生、勿体なーいけど俺の男としての予感が辞めておけ、きっと、どえらい目に遭うぞと、警告を発しているんだよ。残念だが今は、・・・今は駄目です。


「おや、お揃いで」

 ひょっこと静ちゃんも着物を着て現れる。それも変わった烏帽子と官女の衣装。そして長い巾着袋に入れたものを抱えている。

「雅夜、これが貴方が欲しがった荒川の流れを鎮める青龍」

おばあちゃん、雅夜に巾着袋を渡す。雅夜、開くと青い柄と鞘の日本刀が出てくる。

「おお日本刀だ。本物か」

「貴方、バカ?偽物もってくるはずないじゃない。」

「そりゃあそうだ。」

 抜いてみると刃渡り1m20cm真っ直ぐな菊一文字。濡れているように光る。

「我が久宝家の宝刀。荒川を鎮める水の刀。名は水流刀・青龍」

 光っているかと思ったが、いつの間にか濡れているようだ。雅夜が、振ってみると水が滴る落ちる。

 飛沫舞い散る氷の刃という語呂があるように、これは本当に『宝刀』のようだ。

「雅夜、貴方は当主なんだから、もっと力をつけなければいけません。やっとこの前、癒しの大事さを知ったようです。でも貴方はまだ攻撃を求めている。それじゃ邪念に飲まれます。攻撃は反応です。相手が来るのを制して当てるのです」

 静ちゃん左手を振る。それを右手で手首を打つようにしてみせる。

「攻撃する手を打てば、相手はもう攻撃出来ません。手の中の親指。それを切ればもう武器さえも持てないのです」

「でも、なおも向かってくるなら?」

 つい俺は聞いてしまった。

「その時に、相手の首をハネればよい。武器のない者など簡単に討ち取れます」

微笑む静ちゃん

 なるほど、攻撃をやめろということではなく、いかに戦うかを教えてくれて居ることが判った。

「剣は演舞の時と同じ。別に切ろうと思わなくても、踊って当てればよい。すれば刀の方で勝手に切ってくれる。刀の重さ、振りの早さ。それは舞で養われる。誰よりも早く、誰よりも綺麗に当てられます。やって御覧なさい。」

 雅夜、刀をさやに収めると、正座して、自分の前に置く。そして三指をつき、頭を下げて、始まりを待つ。

腰から下げた横笛を出し、曲を吹き始める静ちゃん。

それに合わせて、雅夜が舞い始める。


 静かな中、笛の音と巫女の服の衣づれの音しかしない厳かな舞。

激しく大きな動きと、手を広げた回転と、荒々しい踊りから始める。

しかしその踊りは、上から下へと、下ろすような動作と、回転を縮めるような動きで、激しい同調から、鎮める動作の舞であることがわかる。

見ている俺達も、激しい動作で引きこまれて、ゆっくりと動機が静まっていくのが判った。

「人間は環境が作る。ここに生まれていたら違う人生を歩んでいたのだろうな」

 静まっていく気持ちの中でマルシアが漏らす。

「日本はまずいな。こんな柔らかな日々を暮らしてると、アンテナが曇る。もっと鋭く張り巡らしていないと、痛い目に合う」

「善にも悪にも成れる。悪になってみようか」

「悪ってなんだ?メリサ」

「感情を持ってはいけない。未来を考えてはいけない。それが私にとっての悪だ」

「・・・・裏切ればいい。ヨーロッパも何もかも」

 なんてことをいいだすんだマルシア。

「悪ついでにやめてもいいんだよ。ダニャのように。おまえはもう十分働いてきた。ギリシャ戦、ベネチア戦、チェチェン戦。お前の功績は十分すぎる。こうして生きていることさえ奇跡なんだ。ここで辞めても、いいんだぞ」

「本当ね。ダニャ、の気持ちがわかってきた。あまりにも幸せなのよ。そんな幸せの中にいて、また戦わなくてならないなんて。やめたくなるのも判る」

「お前は寿命が短い。働けば働くほど寿命を縮めている。あと何年生きられるか判らない。幸せも味わいたいと思うなら、今しかないと思う」

 静ちゃんの曲調が変わった。ゆっくりと、長い音のゆらぎ。

笛の音が静かな漂う感じになっている。

そこでゆっくりと雅夜が刀を抜く。

 濡れたように光る青龍。振らず体に巻きつけるように踊る。


「私たちは作られた人間、兵器なのよね」

 マルシアが口にした言葉をメリサもいう。

「私は、貴族が生贄のように差し出した人間。貴族は王や国に危険が及んだ場合、戦うという条件で料金や待遇をもらっている身分。私は、子供頃ころからESP要素が強かったため、早くに特別教育に出された。でもそれは貴族が自分の子供を生贄に差し出したに過ぎない。才能が、あるがための教育と指導。言葉にすれば綺麗だけど、貴族という身分を続けるため、子供を兵士に、差し出したに過ぎない」

「どこも同じさ。子供が一番、辛い目にあわされる」

「今更、変われない。私は戦いしか知らないし、戦いのために生きてきた。普通の生活では生きられない。戦いの中でしか行きていけないのよ」


 静ちゃんの笛の音が、激しくなる。高音で切れるスタッカートが増える。

雅夜、踊りが激しくなる。うねる。回る。刀がひらひらと舞う。

まるで刀が、手の一部のようにクルクルと回ったかと思うと、体の回転と共に空を切り、青龍のまとわりつく水が、撒き散らかされる。

そして、だんだんと笛の音は弱くなり、雅夜の舞も、ゆっくりとなり、刀を肩に背負い、攻撃的な動きは揺れる静かな動きになり、止まって終わる。

 何故が拍手をしたくなってしまい、俺は拍手した。

メリサもマルシアも同じようで、拍手をしている。なんだろう。何かとてもよい物を見せて貰ったきがする。本当に雅夜は素晴らしい女性だ。

「あ、疲れた。静ちゃんどう?」

 刀を鞘にしまうと、抱えて尻もちを着くように座り込む雅夜。相当激しい踊りなので息が荒い。

「まあまあね。一応、及第点。毎日遊んでいるから駄目かと思ったけど、なんとか続けていたようね」

「当たり前じゃない。コレでも久宝家の当主の自覚はあるわよ」

「偉い。偉い」

「これはどんな意味があるの?」

 メリサが持ち前の好奇心で聞いてきた。

「これは神事の舞。雨が振って増水すると、荒川は怒り狂ったように、のたうち回り、各地に被害を出す川なの。だからその荒ぶる川と同調してから鎮め、鎮まらいのなら、分断すると脅す舞。それが江戸時代から続く荒川の神事なのよ」

「荒川は神なの?」

「そう。恵みの川。災害の川。神がいて動くもの」

「日本も神がいるのね」

「そうそう、貴方達にこれをあげようと思って」

 静ちゃんは、袖口に入れた物を出し、メリサとマルシアを呼ぶ。

「何?なんかくれるの?」

「はい。天使ちゃんにこれ」

 2個の指輪を出す。金と銀のふたつ。

「右が金で出す手で、左が銀で欲しい手ね。」

 メリサの両手に指輪を着けさせる。

「ね、プラスとマイナスを両方持つの。出すでしょ。でもね。戻さないと減ってしまう。アースってわかる?マイナスもしっかりしておかないと、過充電してしまうのよ。過充電は発熱して膨らんで壊れる。放したら戻す。大事よ。」

 なんだかわからないが、家の電気と同じに考えてプラスとマイナスを用意したらしい。

「う~ん。なるほどね。わかったわ。静ちゃん」

「いい子ね」

 静ちゃん、メリサの頭を撫ぜる。

あ、ヤバイ。頭は・・・と思ったが、何もおきなかった。

ただ、メリサの右手と左手に、雷光が走った。綺麗に指輪から指輪に雷が動いた。

 お、何かが起き始めたのか?

「それで、お嬢ちゃんは猫だから回る玉ね」

 出したのは3cmぐらいの水晶球。それをマルシアに見せる。

「光を集めて貯める水晶球。夜行性の猫は光に弱い。だから水晶玉に光を集めるの。そして隠せば、闇になり、貴方の世界。攻撃に有利になる状況を作り出す」

「静ちゃん、本当?それって魔法じゃない?」

 雅夜、ツッコミをいれるが、全然動じない。

「効くと思ったら効く。本気に思う。信じること」

「判ったやってみるよ。サンキュウ」

 マルシア嬉しそうに、受け取り水晶を見つめる。

「光が集まるって本当か?」

 つい俺も、不思議になって言葉にしてしまった。

すると静ちゃん、笑って言う。

「おまじないなんてものは。効くと思えば効く。効かないと思えば効かない。信じるものは救われる。そんなものよ」

 なるほど、いつの間にかおまじないになっている。やっぱり効かないのだろうな。



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