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機械の町の真実~自己中正義を振りかざすやつは死ね!~

「まーた、その話かよ!」

僕の頭のなかにはいつも"その話"だけがあった。

「何度言ったらわかるんだよ、カーメル!知ってるだろう?この町から出るのは禁止されてるんだよ」

この町──ボーロタウン──は、ランドスライド王国でも、トップクラスの技術力を持った町だ。

なぜ外に出てはいけないかって?

技術を逃がさないためさ。

だけど、僕は納得しない。ずっと僕の世界はこの町だけだった。

外には広い世界が広がっているというのに!

「行こう、サッカ!」

僕は立ち上がった。

「行くってどこにだよ!」

「町の外さ!」

「いま、授業中だぞ!わかってんのか?」

「コンピューターの先生なんて怖くないさ!逃げたってバレ──」

ビィイイイイイイ!!

天井からレーザーが発射されて、シャツの端が切断された!

「まずい!全力で逃げろ!!」

ビィイイイイイイ!!

かわす!

ビィイイイイイイ!!

かわす!

ビィイイイイイイ!!

かわす!

ビィイイイイイイ!!

かわ──否!かわしそこねてサッカは蒸発!

「よくもサッカを!!これでも食らえ!」

石を拾って天井に向かって投げつける!

カンッ!

金属音!

『ピピピー!!エラー!エラー!』

「サッカの仇だ!ざまぁみろ!」

僕は教室を出ると駆け出した。


☆★☆★☆★


「やっとついたわ」

「へぇー!ここがボーロタウンか!カタル村とは大違いだな!」

「なんで君がここにいるのよ」

カーナビーが訊く。

「勇者になるための修行だよ」

答えたのはカース。

カタル村を旅立ったあと、カーナビーと合流したのだ。

マッスルはどこかへ行った。彼は単独行動を好んだ。

「君いいの?ボズーくんが困るんじゃない?」

「いいの、いいの!わたしがいなかったら、ボズーは三回は死んでたんだよ!その分、少し体を借りたって怒らないよ」

カースはへらへら笑いながら答える。

「そういうものかしらねぇ...」

「死ね!悪人!」

突然カースが叫びながら通行人に石を投げた!

「あひゃ!?」

石をもろに食らった通行人は倒れる。

「なにしてるの!?」

「全身黒服だ!怪しい!きっと悪人に違いない!」

「あれはこの町のスーツよ!知らないの!?」

「知らないね!死ねっ!」

カースは、容赦なく倒れたスーツの男に蹴りで追撃する。

カーナビーが呆れた顔で呟いた。

「これだから田舎者は...」


☆★☆★☆★


ボーロタウンの入り口、赤い外套を纏った人影が三つ。

「ボージはん、ほんまにこんな近代的な町に転生者とやらがおるんかいな?」

背中に大きな鞄を背負い、テカテカの黒髪七三に分けた小太りの男が言った。

「ああ、間違いありません。ロバー」

ロバーとは対照的な背の高い針金のような体型で、白い長髪の男、ボージが答える。

「普通、そういうのって、田舎臭い村とかで起きるんやないか?」

「私を疑っているのか?」

「ボージが言うなら間違いないぜ!さっさと転生者を捕まえて、その力を使って世界征服するんだぜ!行くぜ!」

白地に赤いドクロが描かれたヘルメットをかぶった背の低い女が二人の先頭に立って駆け出した。

「ああ!!ちょっと待ってぇなぁ!クロード様!!」

ボージとロバーも慌てて駆け出した。


☆★☆★☆★


「おい!さっさと吐きな!さもなきゃもっと痛い目見るよ!」

カースが倒れた男をいたぶりながら言った。だが、攻撃をうけながらも男は不気味に無表情だ。

「もう、そのへんにしといたら?なにも答えないわよ」

「いやぁ!尋問ってのはなかなか楽しいもんだな!」

「その調子じゃあ、マッスルに殺されるのもそう遠くないわね、"悪魔"」

「なっ!」

カースは狼狽えた。

「わたしは悪魔じゃなくて、勇者!!──って、なんだあれ!?」

カースが指差した方向にいたのは、倒れている男とまったく同じ格好をした男だ。それも三人。三人のスーツ男が無表情で迫ってくる!

「我々はクローンサラリーマンニンジャロボ警察!貴様らを危険存在とみなして逮捕する!」

「まずいわ!ここは逃げましょう!」

「食らえ!ファイアァアアア!!」

カースはすでに足元のスーツ男を灰へと変えていた!

「見たか!次にこうなるのはおまえらだよ!ファイアァ!」

火球がクローンサラリーマンニンジャロボ警察に命中!

だが、火球を食らったクローンサラリーマンニンジャロボ警察は、霧のように消えた!

「バカめ。そいつは私の分身だ!何体もいる同じ姿をした私のなかから、鏡に映る本体を見つけ出し、そいつに攻撃しなければ私を倒すことはできない!!」

言いはなつと同時にシュリケンを投げる!

「くっ!」

避けきれなかったカースの腕には、線のような切り傷が!

「カース、大丈夫!?」

「カーナビー!鏡だ!」

「えっ!?わかったわ!」

カーナビーは、ポケットから手鏡を取り出すと、クローンサラリーマンニンジャロボ警察に向けた!

「おまえかぁああ!!」

カースの放った火球が、鏡に映る本体をとらえた!

「っぐはぁあああ!!」

本体は吹き飛び、分身は消え去った。

「な、なぜ本体がわかった!?」

「質問するのはこっちだよ!間抜けな警察さん」


☆★☆★☆★


僕は追われていた。

「待て!カーメル!!反乱分子は削除する!!」

追いかけてくるのはクローンサラリーマンニンジャロボ警察だ!

大量のシュリケンの弾幕をかわしながら走った。

「くっ!」

シュリケンが、腕をかすめる!

だが、目の前には曲がり角!チャンスだ!

僕は素早く身を隠した。クローンサラリーマンニンジャロボ警察たちは僕に気がつくことなく通りすぎていった。

僕は腕の傷を見た。

「はっ!?そうか...そういうことだったのか!」

僕はこの町の真実を知った。


☆★☆★☆★


「クロード様、ほんまにこいつ知ってるんかいな?」

「うるさい!この町のことなんだから、町の人に訊くのが一番手っ取り早いんだぜ!」

クロードは、クローンサラリーマンニンジャロボ警察を尋問していた。

「クロード様、お待ちを」

「なに?ボージ」

クロードは、攻撃を中断しボージを見る。

「その男、見たところ機械のようです」

「なんやて?機械っちゅーと、ロボットってことかぁ?」

「それに、そいつはこの町の警察、捜索のプロです。利用しない手はないでしょう」

「冴えてるぜ!さすがボージ!さぁ、ロバー、機械いじりはあんたの専門でしょ!」

「わいに任せときー!」

ロバーは、クローンサラリーマンニンジャロボ警察の前にしゃがみこむと、背中の 鞄からドライバーとペンチを取り出し、改造に取りかかった。


☆★☆★☆★


ボーロタウンの中心にそびえ建つ巨大なビル、ボーロタワー。

「ここに署名をお願いします。それから、ここに...」

受付クローンサラリーマンニンジャロボ警察がカウンターに置かれた紙を指差しながら言った。

「めんどくさいな...」

カースがぼやく。

「やりたくないならボズーに頼めば?」

「その手があったか!ボズー任せた!」

カースの瞳の色が赤から青に変わる。

「カース!好き勝手しないでよ!ああ、村に帰りたい...」

ボズーが嘆く。

「早く署名を...」

「あ、ごめんね!今書くよ」

ボズーがペンを手に取り書き始めると同時にカウンターの奥からシャープで刺々しい攻撃的なデザインの鎧を身に付けた男、サムライシャークが現れ、なにかをクローンサラリーマンニンジャロボ警察に小声で説明し始めた。

「書けたよ」

ボズーがペンを置き、顔を上げる。

「腕に傷のある少年!」

クローンサラリーマンニンジャロボ警察がボズーの肩を掴む。

「え?」

「来てもらおうか」

「な、なにをするんだ!」

ボズーは、クローンサラリーマンニンジャロボ警察の手を振り払おうともがくが、さらに後ろから二人のクローンサラリーマンニンジャロボ警察が現れ、手錠をかけて連行していく!

「ボズーをどこへ連れていくの!?」

「マザー様のところだ。我々の仲間が腕に傷をつけた少年を探していたのだ」

「ボズー!!」

「カーナビー!!」

ボズーは、エレベーターでどこかへ連れていかれた。

だが、カーナビーの目的は変わっていなかった。マザーを探し出すという目的は。

数時間前、カースが遊び半分に尋問していたクローンサラリーマンニンジャロボ警察から聞き出したのは、この町のすべてを司るスーパーコンピューター"マザー"の情報だったのだ。そして、そのマザーは単なる機械ではなく、人間だというのだ!

マザーが転生者であるというのなら、今すぐ排除せねばならない。彼女は力を持ち過ぎた。

エレベーターのランプは地下へと向かっていた。


☆★☆★☆★


「えらいでっかいタワーでんなー!」

「当たり前田のクラッカー。ボーロタワーといったら王国で三十本の指に入るか入らないかという高さのタワーですよ」

「すげぇ!まったくすごくない!」

ロバーが改造したクローンサラリーマンニンジャロボ警察に導かれ、ボーロタワーにやって来たクロード、ボージ、ロバーの三人は、無人のカウンターの前に立つ。

「ピ!ピピピー!生体反応ナシ!」

「変だな、誰もいないぜ?」

「ふーむ。まぁ、ここはボーロタウン、機械と科学の町。受付も機械化されているのでしょう」

「それにしても、ロバー、そのロボットなんでそんなレトロなダサいカタコトになっちまったんだ?」

「知らんがな!」

「ふん!また雑な改造をしたんでしょう?」

「なんや!喧嘩売っとんのか!?」

「やる気ですか?フフ...面白い。かかってきなさい」

「いいね!やれやれー!」

ボージとロバーは、今にも殴りあいを始めそうな勢いだ。

そのとき!

「おい、おまえたち!」

「なんや?」

後ろから声をかけられた三人は振り返る。

そこに立っていたのは腕に包帯を巻いた少年だ。

「なーんだ!ガキだぜ!」

「どうしたんでしょうね、迷子でしょうか。ぼうや、お名前は?」

少年はきょろきょろとあたりを見回すと、カウンターの上に目を止め、それから答えた。

「僕はボズー。手伝ってほしいことがあるのさ」

「なんや?わてらをパシらせようっちゅーことか?いい度胸してるやないか!」

ロバーは、今にも少年に掴みかかりそうだ。

「やめときな、ロバー!」

クロードがなだめる。

「ボズー、話してみな!」

「僕は行かなきゃならないんだ。マザーのところへ」

「マザー!」

「ボージ、知っとるんか!?」

「流石ボージ!」

クロードとロバーは、感心した様子で言う

「いや、知らない」

「知らんのかい!!」

二人はずっこけた。

「マザーは、この町のすべてを司る力を持っているのさ。そして、彼女はボーロタワーの地下にいる」

「聞いたか、おまえら!きっと、マザーってのは転生者に違いないぜ!」

クロードが、ボズーに聴こえないように小声で言った。

「なるほど、いいでしょう」

「ピピー!ワレワレ、マザーノトコ、イク!」

「こっちだよ!」

ボズーがエレベーターを指差しながら、走り出した。

「行くぜ、野郎共!!」

クロードたちもあとに続いた。

五人が乗り込むと、エレベーターの扉が閉まり、動き始め──否!動き始めない!

「なんや、なんや!?」

「動きませんね」

「おい、ロバー、どうにかしろ!早く動かせ!」

クロードが怒鳴る。

「そんなんゆうても...」

「機械のプロじゃないんですか?あ、あのポンコツロボットを見れば訊くまでもありませんね!」

「ピピー!ポンコツジャナイ!」

「おまえら黙ってろ!おい、ボズー!」

「重量オーバーだよ!」

「重量オーバー?」

クロードが聞き返す。

「僕たちが重すぎるのさ。このなかで一番重い人に降りてもらわないと!」

四人の視線が改造クローンサラリーマンニンジャロボ警察に集まる。

「エ?ナ、ナニヲ...」

「悪いけど降りてもらうで!」

「アアー!?ヤダー!ピピピー!」

ロバーとボージが、改造クローンサラリーマンニンジャロボ警察を押し出すと、扉が閉まった。

「アイルビーバック──」

改造クローンサラリーマンニンジャロボ警察を残してエレベーターが動き出した。

「これで動くぜ!」

ロバーは操作盤を弄り始める。

「えーと、マザーがいるのは地下やな?地下...げぇ!?地下五階まであるで!?上にも下にもでっかいタワーやなー!!」

「地下五階を押して。でも、マザーがいるのはさらに下の地下六階さ」

ボズーに言われた通りにロバーが操作盤のボタンを押した。

「地下六階?操作盤には地下五階までしか書かれていませんが...」

ボージが首をかしげる。

「地下は関係者以外立ち入り禁止で、そのなかでも地下六階は、関係者のなかでもごく一部の人間にしか知られていないのさ。下りるには地下五階の秘密の扉を通るしかないよ」

ボズーが答えた。

「立ち入り禁止っちゅーと...」

「それだけ、警備は厳重でしょうね」

「当たり前だぜ!」

五階に到着したことを示すランプが点灯する。

「行くぜ!」

扉が開くと同時に通路に飛び出したクロードが、足元のレーザーセンサーを踏む。

ビーー!ビーー!ビーー!

途端に通路の照明が赤へと変わり、アラームが鳴り響く!

「へ?」

「クロード様!!侵入者を感知するセンサーのようです!」

「立ち去れ!侵入者ども!」

大量のクローンサラリーマンニンジャロボ警察たちが現れる!

「フフフ!わたしたちの力を見せるときが来たようだぜ?」

「よっしゃあ!いっちょやったるで!」

「面白い。皆殺しにして差し上げます」

ジャキン!

三人の外套のなかからマシンガンが展開する!

「「「ファイアーーー」」」

ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!

マシンガンによる一斉掃射!

「「「「ぐはあああ!!」」」」

抜け目ない攻撃によって、次々と破壊されるクローンサラリーマンニンジャロボ警察!!

だが、次々と新手が現れ、シュリケン弾幕!

空中でシュリケンと銃弾がぶつかり合って相殺される!

「まったく、次から次へと、きりがありまへんな!」

「おや、ロバー、この程度で限界ですか?」

「まだまだぁあああ!!」

「野郎共!!狙いはど真ん中だぜ!!」

「「ラジャー!」」

ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!

集中放火によって一直線に道が開ける!

「よっしゃあ!」

「ボズー、しっかりとついてきてください」

「行くぜ!!」

先頭を突っ切るのはクロード!

そのあとにロバー、ボズー、ボージの順で、武器を使えないボズーを守るようにして進む。

「おい、ボズー!秘密の扉っちゅーのは、どこにあるんや?」

「あっちだよ!」

「クロード様!扉はあちらです!」

「よし!このまま突っ切るぞ!!」

「「ラジャー!」」

ついに四人は秘密の扉に到達する!

「ロックがかかってるよ!」

「四桁の数字...わたしに時間をください。この町で得た情報から考えて──」

「どきなはれ、ボージ!ここは、機械のプロフェッショナル、わいに任せときー!」

「野郎共ー!!そこをどきな!!」

後ろで叫んだクロードを振り返る三人、クロードの外套から巨大な大砲が展開されている!

「「クロード様!?」」

「ぶっ飛べーー!ファイアーーー!!」

「「「うわああああああああ!!!!」」」

クラァアアアッツツシュ!!!

三人は爆発と同時に飛び離れる!

扉は木っ端微塵に消し飛んだ!!

「ひー、むちゃくちゃや...」

「まったくです」

「うるせぇ!道が開けりゃいいんだぜ!」

扉の先は地下六階へ向かう階段だ。


☆★☆★☆★


「不味いことになったわね...」

カーナビーがいるのは地下六階。マザーがいるのは恐らく角を曲がった先の部屋だ。

だが、そこには二体の武装クローンサラリーマンニンジャロボ警察が立っている。

そのとき!

ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!

扉の奥から激しい銃声が鳴り響く!

「なんだ!」

「どうした!」

二体の武装クローンサラリーマンニンジャロボ警察は、扉の奥へ走り去る。

「いまがチャンスね!」

カーナビーも、あとに続き薄暗い部屋に入った。

「ハハハ!!何人束になろうが雑魚は雑魚だぜ!」

高らかに笑い声を上げたのは、大量の武器を展開し敵をなぎ倒していくクロード!

「やつらの勢いが収まるまでじっとしていてください」

「マザーはすぐそこや!」

ボージとロバーは、ボズーを守るようにして立ち、近づいてくる敵を確実に仕留めていく。

「もう、あきたー!みんな、やめーー!」

エフェクトのかかった声が響き渡ると、一斉にクローンサラリーマンニンジャロボ警察の動きが止まった。

「なんや!?」

「どうやら停止しているようですね」

「わたしたちに怖じけづいたか!やっぱり雑魚だぜ!」

クロードたちも攻撃を止める。

「やぁやぁ、みんな!こんにちわ♪」

部屋の中心にぼんやりと輝くノイズの混じるシルエットが現れると、徐々にピントが合うようにしてはっきりとした少女の姿が浮かび上がった。

「ボクはマザー。よろしくー!」

マザーはにこにこしながら、エフェクトのかかった声で名乗った。

「マザー...」

怒りのこもった小さな声で呟きながら、ボズーが一歩、マザーに近づく。

「おい、ボズー!なにする気や!?」

ロバーが呼び止めようとする。

「ボズーなの!?」

カーナビーは、思わず五人の前に飛び出した。

「なんですか、あなたは?ボズーの知り合いのようですが──」

「少年!」

マザーはボージを遮って話はじめる。

「探してたんだよー?あーれれー?でもおっかしいなー?腕に傷のある少年は、さっきボクの手下が捕まえてきたんだけどなー?」

わざとらしく首をかしげると、なにかを閃いたように手をぽんと叩いた。

「あっ、そうだ!ちょっと連れてきてよ、さっきの子!」

マザーは手近なクローンサラリーマンニンジャロボ警察に言う。

「了解しました」

クローンサラリーマンニンジャロボ警察は、小走りに部屋を出ていくと、手足を縛られた少年を連れて戻ってきて、床に投げ出した。

少年は気を失っているのか微動だにしない。

「んんー?」

マザーは、床に倒れた少年と、ボジーを交互に見ると、やがて、ボジーを見ていった。

「君だね!少年!ボクが探してたのは君だよー!名前は確か...そうそう、カーメル君だったね!」

「ちっ、バレたか」

ボズーは呟いた。

「なにを言っているのですか、ボズー?」

ボージが訊く。

「ボズーじゃないってば。僕の名前はカーメルさ」

「なんや?どういうことや?」

ロバーが狼狽える。

「僕は追われてる身だから名前も隠した方がいいかなって思ったのさ。カウンターの上に置いてあった紙に"ボズー"って、書かれてたのを見つけて、名前を借りたのさ」

「じゃあ、本物のボズーは!」

カーナビーが、倒れている少年に駆け寄る。すでに彼を運んできたクローンサラリーマンニンジャロボ警察は停止していた。

「目を覚まして、ボズー!」

カーナビーは、ボズーの方を揺さぶる。

「ん...カーナビー?」

「良かった!目が覚めて」

「僕は連行されて、そこで気を失って...はっ!?」

ボズーは、手足が縛られていることにようやく気がついた。

「カーーーース!」

瞳の色が赤に変わり、それと同時に縄が燃え上がる。

手足が自由になったカースは手足の感触を確かめながら立ち上がった。

「えーっと、どうなってんだ?」

「ふふん、君は魔法が使えるのかー!すごーい!縄は燃えちゃったけど、どーでもいいや!人違いみたいだったからねー!」

マザーはカースを見ると、大袈裟な手振りとともに頭を下げた。

「ごめんねー♪ボクの手下が手荒なことしちゃってー!」

「あなたは人間なの?」

カーナビーがマザーに訊く。

「うん?こう見えても、一応人間なんだぞ♪」

マザーはカーナビーに向かってウィンクした。

「おい、クソコンピューター!」

カーメルがマザーを睨み付けて言った。

「だーかーらー、ボクはクソコンピューターなんかじゃないってばー♪」

マザーが、振り返りにこにこしながらカーメルを見る。

「僕は気が付いたんだ」

カーメルが腕の包帯をほどき、投げ捨てた。

その少しの血すら滲んでいない不気味なほど綺麗な切り傷の奥に覗いているのは、無機質な銀色の金属だ。

「この町の真実にね。僕はロボットだった。それに...僕だけじゃない。この町の住人はみんなマザーにプログラムされた通りの行動を繰り返すロボットだったんだ!!」

カーメルが叫ぶよう言いにはなった。

「あっはははははは!!」

マザーが笑いだした。

「いーまーさーらーでーすーかー!?」

マザーはカーメルの目の前、鼻と鼻がくっつくほどの距離に一瞬にして近づくと嘲笑うように言うと、また飛び離れる。

「んでー?どうするの?ボクをぶっ壊す?そしたらどうなるか、わかってるのかなー?」

「もちろんわかってるさ。制御が効かなくなって、この町は滅びる...だけど、それでいいんだ!!作り物の平和なんかいらない!!プログラムされた人生をなぞるだけなんて僕は絶対にいやだ!!そんな下らない生き方をするくらいなら、死んだ方がマシだ!この町の人たちもそう思っているはずだ!!こんな町!滅びた方がいいんだぁああああああ!!!」

カーメルが雄叫びをあげる。

そのとき!

「それは違う」

「誰だ!!」

壁に穴を開けて入ってきた侵入者は、逆光によって逆三角形の超筋肉ボディの影となって立っている。

「俺は──」

徐々に部屋の中心へと歩むに連れて、影が取り払われ、その姿が露になる。

「マッスルだ」

「マッスル?誰だか知らないが、邪魔するやつは全員殺してやる!!」

カーメルの目には狂気の色が浮かんでいる!

「マッスル!あのマザーは転生者よ!」

カーナビーが言った。

「違う。マザーは転生者ではない」

「え?」

「カーメル。おまえがなぜその真実に気が付けたかわかるか?なぜおまえ以外の町人が気付けたなかったその真実を、おまえだけが気が付くことができたのか」

カーメルは答えない。

「おまえはプログラムされていなかったからだ。ある日突然この世界に現れた転生者であるおまえはプログラムされていなかったんだ」

「黙れ!僕がこの町の救世主になるんだ!!おまえも、おまえも、おまえも、邪魔するやつはみんな死ねっ!」

カーメルは壁の操作盤をいじり始める!

「どうしますか?クロード様」

「決まってるぜ!目の前に探し求めてた転生者がいるんだよ!とっちめて連れてくぜ!」

「んな、無茶苦茶な!」

こそこそと話す三人にマッスルが気付いた。

「なんだおまえらは?」

「よくぞ訊いてくれたぜ!!」

「ボージ!!」

「ロバー!!」

「クロード!!」

「知恵と!」

「技術と!」

「勢いで!目指すは世界征服だ!赤ヘルの"ヘル"は地獄の"HELL"!」

「「「赤ヘル一味!見参!!」」」

「目障りだ」

マッスルの拳が、ポーズを決める三人に無慈悲に襲いかかる!!

「があああああああっ!!??」

ぶっ飛んだのはクロードだ!!天井を突き破り、上へと飛んでいく!!

ズガァアアン!!

地下五階!

ズガァアアン!!

地下四階!

ズガァアアン!!

地下三階!

ズガガガガガガガガガガガガァアン!!

地下二階!

地下一階!

一階!

二階!

三階!

四階!

五階!

六階!

七階!

八階!

九階!

十階!

屋上!!

「あああああああああ──」

キラン!

クロードは、ボーロタワーを貫通し、そのまま空へと消えた!!

「「クロード様!!」」

「おまえらのリーダーは死んだ。さぁ、どうする?」

「んなもん、決まっとるわ!」

「戦略的撤退です!」

「「覚えてろよー!!」」

ボージとロバーは、部屋を去っていった。

マッスルは、カーメルに向き直る。

「...ははは!!マザー!!おまえのデータはコピーさせてもらった!!」

操作盤を弄っていたカーメルの手には、マイクロチップが!

「おーっとー?なにをする気かなー?」

カーメルはマイクロチップを、腕の傷口──露出した金属の部分──に、ねじ込んだ!

「はははははははっ!!!」

傷口が広がり、全身の機械が露になる!

「はははははははっ!!!」

さらに、その機械のからだが変形し、巨大化していく!!

「はははははははっ!!!」

巨大な機械の身体に、酷く不釣り合いな少年の顔が不気味さを強調する禍々しい姿!!

「はははははははっ!!!見ろ!!この力で、全員捻り潰してやる!!!」

「おまえにはお似合いの姿だな」

マッスルが言いはなつ。

「バカにしやがってぇええええ!!」

カーメルが叫んだそのとき!

部屋の壁が開き、大量の武装クローンサラリーマンニンジャロボ警察が現れる!!

「なにをしているの、マザー!?」

カーナビーが、マザーに向かって叫ぶ。

「あはは...わかんない!!どうやらボクの手下が彼に操られてるようだねー!ボクはしーらない♪」

マザーの姿がノイズとなって消滅!!

「燃えろ!!雑魚ども!!ファイアァアアアア!!!!」

カースの放つ火球が次々に敵を破壊していく!

「フン!ハー!トー!」

マッスルも、凄まじい勢いで破壊していくが、それを勝る勢いで増え続ける武装クローンサラリーマンニンジャロボ警察!!

シュリケンの弾幕をかわし損ね、カースの足が貫かれる!

「うぐっ!?」

そのまま崩れ落ちるカース!

「カース!!」

カーナビーが悲鳴をあげる!

突如、カースの目の前に現れるカーメルの巨体!

「雑魚は──」

カースは身構える!

「引っ込んでな!!」

強烈なパンチが体の中心を捉える!!

ぶっ飛ばされたカースが壁に衝突する!!

壁に蜘蛛の巣条に広がった亀裂が、その威力の絶大さを物語っていた!

その間にも武装クローンサラリーマンニンジャロボ警察は、増え続け、いまや、ほとんど身動きをとれないほどに密集している!その数、一万体!!

「あははははは!!!!これですべて終わりだ!!おまえも、おまえも、おまえも、みんな、みんな死ぬ!!マザーも、この町も、僕も死ぬ!!これでいいのだ!!僕は...僕は救世主になるんだ!!はーっはははははははは!!はーっははははははははははははははは!!」

勝ち誇った表情で、狂ったように笑い声をあげるカーメル!

だが、次の瞬間!!

部屋が躍動し──否、躍動したように見えたのは、密集した一万体の武装クローンサラリーマンニンジャロボ警察が一斉に天井に向かって打ち上げられたためだ!!

そして、天井にめり込んだ武装クローンサラリーマンニンジャロボ警察は、ショックで爆発!!

破片が降り注ぐ部屋に立っていたのは、爆発した武装クローンサラリーマンニンジャロボ警察と同じ数、一万体のアッパーカット姿勢を決めたマッスルだ!!

「そんな!!そんな、バカな!!何が起こった!?」

狼狽えるカーメル。

「おまえがしたのと同じことだ。マザーの力を借りたのだ」

「ふざけるな...ふざけるなぁあああああああ!!!僕は、僕は救世主だぞ!!バカにしやがってぇええええ!!!この世界は、僕を必要としているんだぁあああああ!!それなのに!それなのに、おまえは殺すのかぁあああ!!??ふざけるなぁああああぁああぁぁあぁぁああぁあぁあまあああああ!!!!!!ぁあぁああぁああぁあぁぁああああまぁぁぁあぁぁあぁあぁあぁあぁああああああああぁあぁあああ!!」

いまや、カーメルは大量のマッスルに囲まれ、壁際に追い詰められていた。

「死ね!」

ズガシャァアアアアアアン!!!!

一万体のマッスルが、カーメルに同時に殴りかかった!!

あとにはなにも残らなかった。

ボーロタウンは、何事も無かったかのように、平和に包まれてた。プログラムされた作り物の平和に──


☆★☆★☆★


「おまえのせいで!」

「バカなことをするな!はなせ!」

学校の屋上、掴み合う二人の男子生徒。

「おまえもろとも死んでやる!」

「やめろぉおおお!!」

その影は、同時に倒れこむようにしてフェンスの裂け目から飛び降りた。

「これであいつに会える...」

「うわあああああああああああ」

二人は死んだ。

だが、その記憶は消えなかった。


☆★☆★☆★


「ここは...」

異様な風景だ。ごつごつとした岩が転がる斜面に、俺は倒れていた。

身体を起こすとやけに地面が遠い気がした。

「...っ!生きてる...のか?」

横で声がした。あいつの──ヤイスの声だ。

「ヤイス!?」

「その声はノーフか...」

辺りは激しい吹雪に包まれ、お互いの姿は確認することができない。

「ここは山か!?もしかしてエベレスト!?」

「そんなわけないだろ」

こんな状況にも関わらずヤイスは冷静だ。

「おまえが自殺などとバカげたことをしたせいで、こうなったんだ。おまけに私まで巻き込んで...とにかく、下に降りよう」

俺は歩き出した。

吹雪いていると言うのに、なぜか寒くはなかった。

「なんだ!?ど、どうなってんだ!」

「こ、これは──」

凍りついた泉に映っていたのは、巨大なドラゴンの姿だ。

鋭い爪の映えた手足、そして、その腕には薄い膜が──翼がついている。

右半身は赤と黒の鱗、左半身は蒼と白の鱗に覆われている。

そして、頭が二つあった。

俺の目の前にあるのは、赤と黒の鱗に覆われた牙が生えた巨大な口と後ろに突き出た二本の角をもつ竜の頭。

左を見ると、吹雪の隙間から見えたのは、蒼と白の鱗に覆われた竜の頭だ。

「ああ!?ド、ドラゴン!?」

「落ちつけ、下を見るんだ。あそこに明かりが見えるだろう?あれは村か、町か、とにかく人がいるはずだ」

「だけど、この格好でいくのか!?」

「本に出てくるドラゴンは、魔法を使って人に化けたりする。バカげた話だが、いま、現にこの姿になっているんだ。できないとは言いきれないだろう」

「わかったよ、やってみる」

俺は目をつぶった。そして、自分の、人間の姿を思い描いた。

次に目を開けたとき、あれほど遠かった地面がすぐ近くに見えた。

泉に映った姿は、俺とも、ヤイスとも違った人間の姿だった。右の瞳は赤で、左の瞳は蒼だった。

「すげえ!ほんとにできちゃったよ!」

「私にはぴったりの美しい姿だな。荒っぽい君には少々不似合いだが」

「うるせぇ!とにかく下に降りようぜ」

「ああ。行こう」

俺は──"俺たち"は新しい世界を、新しい人生をゆっくりと歩き出した。

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