目録
遠藤に挨拶を終えた多田野はレブ島基地の事務方の職員から第13艦隊の編成表をもらい、受領書に署名した。
「艦艇の所属変更を確認しました。第13艦隊誕生、おめでとうございます。」
書類を確認した職員は、全く気持ちのこもっていない声でそう言うと、さっさと奥に引っ込んでいった。事務方の職員といえど、自分の艦隊の権限が縮小されるのを面白く思わない者はいない。それを考えれば、遠藤の態度は立派なものだった。
多田野は彰子と思わず、顔を見合わせて苦笑した。
「やはり、嫌われものだな。遠藤司令はやさしくむかえてくれたんだが。」
「仕方ありませんよ。遠藤司令が大人だっただけです。編制にも隔たりはありませんし、アサマなんかは比較的新しい方ですから、司令。」
「そうだな。大佐。」
彰子が使った司令という言葉に照れくささを感じながら、頷いた多田野が、基地を出ようとした時、先ほどの職員が走って追いかけてきた。
「多田野大佐。遠藤司令の命令で、編制が変更になったようです。申し訳ありませんが、もう一度、こちらにお名前を頂いてもよろしいでしょうか?」
多田野は不思議に思って足を止めた。
「編制の変更ですか。編制は軍令部も了承済みと聞いていますが。」
彰子が言外に変更は許可できないというが、職員は歯切れ悪く、それがというと多田野を手近のテーブルにつかせ、新しくなった編制表を取り出した。
「主力艦の編制に変更はありませんが、新たに補給艦ヤハタ丸を追加するとのことです。それから、人員にも追加が。」
「1隻増えるのか。」
と多田野は驚き、職員はつまらなそうに頷いた。
「補助艦艇とはいえ、さらに自ら差し出すとは…。確かに軍令部からの命令では、『…その他、艦隊の運営に必要と思われる人員等…』とはありますが。」
と疑うように隅々まで書類を確認していた彰子も声を上げた。
「私にはわかりませんが…。従いまして指揮権移譲の艦艇は重巡、アサマ他、軽巡2、駆逐3、それに補給艦ヤハタ丸となります。ご確認の上、署名をお願いします。遠藤司令はレブ島の方々とご歓談中で、『礼は良い』とのご伝言をお預かりしております。」
「わかった。遠藤司令にくれぐれもよろしく。」
機嫌の悪い職員の手前、多田野は、さっさと署名を済ませた。