混迷
海の上の戦いも混迷を極めていた。
突発的な開戦と司令官を欠いた艦隊同士は入り乱れ、混戦の様相を呈していた。
「猿渡艦長の駆逐艦隊が完全に突出しすぎています。それにしても、司令が乗り込んだ敵の旗艦、なんか変ですよ。砲撃も止みましたし、砲台が止まったままです。」
日野の報告通り、モハメッドの砲撃は止まり、砲台もあちらこちらを向いて動く気配がなかった。モハメッドでの反乱を知らない彰子には敵旗艦の意図が図りかねた。しばらくの沈黙が続く。
「司令は無事でしょうか。」
楢橋がポツリと言った。
「もし殺すなら上手くやるさ。楢橋大丈夫だ。」
南郷が、複雑なジグザグパターンを維持しながら楢橋を慰める。その言葉で彰子も気分を取り直した。
「確かにそうね。もし殺すならもっとやり方があるはずだわ。猿渡艦長に艦隊運動に戻るよう厳命。我々はこのまま反航戦を仕掛けます。」
彰子がそう命令した時、モハメッドの甲板で何かが規則的に光った。
「モハメッド甲板より発光信号。『司令被弾。之ヨリ内火艇デ脱出。援護求ム。』」
見張り員がそう叫んだ。彰子は一瞬だけ安堵とともにたじろいた。
「とにかく、内火艇の収容準備。誰か三上先生を呼んできて。航海長。なるべく近づけて。」
「了解です。艦長。」
というと南郷はアサマを急速に曲げた。モハメッドの横っ腹に突っ込むように前進して行く。
「交渉決裂で怪我したということでしょうか。」
日野が双眼鏡を手渡しながら言う。
「何が起こったかはわからないけどその可能性が高いわね。一応、陸戦隊を待機させましょう。」
敵艦に衝突してでも司令を救うと彰子は覚悟を決めた。




