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漂流

「後方の敵艦隊、動きありません。前方敵本隊は反転逃走中。」

 戦いを終えたという認識の元、観測員の声は明らかに落ち着いていた。

 本隊が撃破されたことで、遊兵と化した敵後方艦隊は、こちらの動きを伺うように距離を保ったまま、追随しているようだった。

「なら、敵溺者の救助は彼らに任せましょうか。」

同意を求めるような彰子の発言に多田野は戸惑った。

士官学校の授業では、漂流者は敵であっても、一刻も早く救助し、見捨てないと習う。それは、海軍軍人の誇りであり、生粋の海軍軍人の軍令部課長を父に持つ彰子が目の前の漂流者を助けないというのは意外だった。

「彼らも我々の捕虜になるよりは、少し長く漂流したほうが良いでしょう。一応、浮き輪は投げ入れますが。」

 ちらりと多田野を見て、そう言った日野は艦橋前方の窓から双眼鏡を使い、波間に漂流している人々を確認していく。なるほどと思った。

多田野も司令官席から立ち上がり、日野の隣に立ってみた。海面に浮かぶ人は艦橋からは双眼鏡を使わなければ、小さな粒が浮いているようにしか見えない。しかし、多田野には双眼鏡を使う勇気はなかった。

「司令、艦長。大変です。民間人と思しき溺者あり。」

「民間人というのは。」

思わずそう呟いた多田野にあれですと予備の双眼鏡を手渡した日野が指し示す先には、うねりとうねりの合間に軍服を着ていない集団が幾つか浮かんでいるのが見えた。彼らは静かに味方を待つ軍人とは対照的に盛んに手を振って救助を求めていた。

「彼ら、救命胴衣を着ていません。」

「なんですって。」

艦橋に銃声が聞こえ始めた。

観測員が、一転、切迫した声を上げた。

「た、大変です。一部の軍人が民間人を銃撃しています。」

「彼らは何をしてるの。」

慌てて双眼鏡を取った彰子に答えられる者は誰一人いなかった。

あちらこちらで、救命胴衣もなく沈みそうになりながら手を上げている民間人らしき人影を救命胴衣を着た漂流者が撃ち殺していく。

異常な光景だった。

「楢橋少尉。各艦に打電。大至急、敵溺者を救助する。海難救助旗揚げ。」

「艦の大きさから考えて、受け入れはアサマと軽巡イトイ、アヤセの3艦がよろしいかと。念のため、駆逐艦隊に警戒を。」

「なら、駆逐艦隊の指揮を猿渡大佐に一任する旨の連絡を。民間人はアサマが優先して保護する。」

「それがよろしいかと。念のため、保安要員は完全武装させます。」

彰子の言葉に多田野はしっかりと頷いた。

「各員、民間人の保護を再優先。助けよう。」

アサマのマストに海難救助旗がはためき、それは順次第13艦隊の各艦に広がっていった。

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