◆04 薬草はタダの薬草じゃなくて凄い薬草だった?
「じゃあ、ちょっと僕は町に戻って、依頼の報酬を受け取りに行ってくるよ」
フレイ姫の騎士。
もとい、動く幸運の置物となった僕は町へと戻っていた。
朝早いにも関わらず、多くの人々の姿が見え、その中には20人程の屈強な肉体の戦士たちもいた。
もしかしたら、彼らがフレイさんの命を狙っている奴らかもしれない。
「ちょっと、話を聞いてもいいか」
と、男たちを軽く見ていると後ろから声を掛けられた。
振り向くと、そこに前身を高そうな装備で覆った大男が立っていた。
「なんでしょうか……?」
「俺の部下たちを見ていたようだがどうかしたかい? もしかして、また、あいつらが迷惑でもかけちゃいましたかね……?」
どうやら、彼らのリーダーのようだ。
それにしても、ただ見ていただけで、迷惑を掛けられたと思うとは、一体彼らの日常はどれだけ低いのか。
「いえ、あまり戦士を見たことがないもので。つい珍しくて」
「ああ、なるほど、つまり、君は田舎出身というわけか。奇遇だな、俺も田舎育ちだ」
「そうですか。そう言えば、皆さんは何をしに来たのですか? 魔物討伐とかですか?」
「ああ、違うよ。俺たちの仕事は、逃げ延びた姫を捕まえて、王の前に差し出すことさ……おっと、そんなゴミを見る目で見るなって……俺たちは戦士、王の犬だから、命令には逆らえないのさ」
気づかないうちに睨んでいたようだ。
おっと、気を付けないと。
「すいません。でも、姫って悪者なのですか?」
「さあな。末端の俺たちは知らないのさ……それでも、戦士は王の命令に従わないといけねえ……君は戦士になるのは止めておいたほうがいいぜ……地獄を見ることになるからな」
地獄。
まあ、こんなの日常茶飯事みたいだし、過去にはもっと酷い命令もあったのかもしれない。
それこそ、人殺しとか……。
「おっと、仲間が呼んでいる。じゃあな、坊主」
「はい」
大男は軽く手を振ると、走って仲間たちの方へと戻っていた。
そして、そのまま町の外へと向かっていく。
あっちは、カルカン草原ではない、ということは、ひとまずは安全か。
小さく息を吐き、呼吸を整える。
彼らは悪くない。
それこそ、彼らも被害者だ。
だから恨むのは止めておこう、それに、まだフレイさんは生きている。
その間は僕がとやかく言う必要は無い。
それは恨みを持った人自身の問題だしな……。
「さて――報酬を貰いに行くか」
――――
――
二度目となる依頼所。
昨日よりも若干人が少ない、まあ朝だからかもしれないが。
「あの、薬草採取依頼を完了したので来ました」
〔そうですか、では、こちらのカウンターに置いてください〕
「はい」
合計二つの袋をカウンターの上に乗っける。
これで、何ギルだろうか。
〔はい、では、鑑定しますので少々お待ちください〕
「はい」
受付員がテキパキと袋から薬草を取り出しては、小さな袋に詰めていき、同時に紙に何か書き込んでいく。
……。
少し待つと、一つ目の袋が終わる。
そして、二つ目へと手が伸びる。
〔……えっ……? これって……〕
と、明らかに受付員が動揺する。
手元にある袋の中をまじまじと眺めては、疑いのある目で見つめた。
「あの、どうかしましたか?」
〔その、これは、どちらで……?〕
「はい? それならカルカン草原ですよ。それがどうかしましたか?」
見たところ、どうやら受付員は赤い花に目を取られているようだ。
どうかしたのだろうか……?
〔あの、お手数ですが、事務所へと着いてきてください〕
「あ、はい」
受付員についていくと、とある部屋へと案内された。
そして、その中には大量の書類と格闘する男が座っていた。
痩せ気味で、頭が少しばかり剥げている。
見たところ、60歳くらいだろうか。
「失礼します、ガルン所長、お客さまです」
「なにかね、リリイさん。私は見ての通り忙しいのだ」
〔ええと、赤の薬草を採取してきた受注者がいらっしゃいましたので……お連れいたしました〕
「ふーん、赤の薬草ねえ……赤の薬草? それはほんとうか!」
適当に言った後、ガルン所長が急に驚き、そして駆け寄ってくる。
それに、なんだか嬉しそうだ。
「初めまして、冒険者殿、私はガルン。この依頼所の所長です。それで、あなたが赤の薬草を持ってきたお方で間違いありませんか?」
「はい」
「そうですか、それでは、見せてもらっても?」
「ええ」
了承を得ると、ガルンは袋の中に手を入れて、じっくりと観察し始めた。
それに、足元から重そうな書物を取り出し、ページをめくった。
そして、書物と薬草を見比べる。
「ほほオー、これは、珍しい」
「そうなんですか?」
「はい。これは、不治の病をも直す、神の薬草と呼ばれるものです」
神の薬草?
それに、不治の病を治す薬草?
それが本当ならとてもすごくないか。
「これだけの量となると、前例がないかね?」
〔はい、私の記憶では、10年前の1ギロが最高かと〕
「ですよな、これは、10ギロはあるのではないか」
と、二人が話に盛り上がり、僕は蚊帳の外だ。
だが、なんとなく、理解した。
どうやら、僕が採取した赤の薬草は相当なレアアイテムだったようだ。
これは、かなりの額を期待できそうだ。
「冒険者さま、申し訳ないが、こちらで全てを換金は不可能ですな。よくて、0.01ギロ、価値にして、10万アバンかと」
「10万アバンか……」
とりあえず、安いのか高いのか予想がつかない。
もしかしたら、足元を見られているかもしれないし。
たしか、赤竜討伐一体で1万アバンだったか。
それを考えると10体分か、そうとう高いな。
それに、10ギロはあるとのことなので、総額にして、1億アバンか。
「一つ聞いても?」
「はい、なんでしょうか?」
「この国の平均年収ってどれくらいですか?」
「そうですなあ、人によってばらつきはありますが、だいたい、5万アバンから10万アバンというところですかな」
「そっか……」
前世の世論調査では、たしか400万だったな。
ということは、10万アバンで計算すると……。
1アバン辺り、40円か……。
ということは、一億アバンは……40億円に相当するのか……?
はんぱねえ、もう働く必要なんてねえじゃねえか。
「喜んで売ります、10ギロ全て!」
「ありがとうございます。ですが、申し訳ない。この依頼所にはそんな大金は置いてないのです。出来ても、10万アバンが限界かと……」
10万アバン、それでも400万円に相当する。
いくらなんでも、流石に40億円も置いてある依頼所なんてあるわけないか。
ということは、もしかして、持っていても全てを売ることができないのか……?
「あの、他に買い取ってくれる依頼所、換金所は知りませんか?」
「他ですか? あるにはありますが、おすすめはいたしませんな。私たちの依頼所は国直属です。ですが、他は違います。だから、ぼったくりに会うかもしれません」
「そうですか……では、とりあえず、0.01ギロ売ります」
「はい、わかりました。では、準備いたします――そういえば、魔法袋は持っていますか?」
「魔法袋ですか? いや、持ってないですが」
「では、そちらを買われることをお勧めしますよ。流石に、赤の薬草をこれだけ持ち運ぶと、悪いやからに目を付けられるかもしれませんので」
「では、お願いします。それで、いくらですか?」
「はい、1万アバンです」
「わかりました。報酬から引いといてください」
はあ、なんだか想像以上につかれた。
それにしても、かなりのやり手だ。
まさか、魔法袋を買うことになるとは……。
でも、必要だしいいか。
◆
早速貰った魔法袋に薬草を詰めていく。
すると、吸い込まれるかのように入っていく。
中をのぞき込むと、そこには広々とした空間が広がっていた。
まるで、某ロボットのポケットの中みたいな感じだ。
そして、もう一つ。
ズボンポケットには、財布が入っていた。
革製の財布であり、その中には10万アバンが入っている……ということは無く、100アバンが入っていた。
まあ、当初の依頼の報酬金だ。
円にして、4000円。思ったよりも少ない。
だが、スリにあう可能性もあるため、あまり大金を持ち運ばないほうが良いと思い、少なくしている。
「あの、服屋はこの辺にありますか?」
「ええ、それなら、正面の黄色い屋根の家がそうですよ」
と、よほど赤の薬草を買えたのが嬉しかったのか、ウキウキしながらガルン所長が教えてくれた。
◆
早速、服屋へと入り、注文をした。
すると、店の主人からだいたいの体格を聞かれたので、だいだいで僕とフレイさんのを答える。
すると、奥の方に行ったと思うと、大量の服を抱えてきた。
それから数十分。
やはり、ベテランとでも言うべきか、あっという間に二人分の衣服を目の目に用意してくれている。
目の前の机には大量の衣服が置かれ。
簡素な衣服に帽子に靴、そしてサングラス。
まあ、僕とフレイさんの着替えだ。
流石にあのままでは、動きにくいし、遠目から見ても姫だと一目瞭然だ。
だから変装の意味も込めて、なるべく質素な服を買った。
よもや、姫が庶民の格好をしているとは思わないだろうし。
「お客さん、下着はいらないかい?」
と、店の店主が聞いてくる。
「ああ、そうですね、それも男性用と女性用、両方をお願いします」
「はいよ……総計で、500アバンってとこかな」
「はい」
店主は一枚の紙を受け取り、それに口座番号とサインを記す。
この世界は治安があまり良くない。そのため、日本で言う銀行みたいな感じの機関にお金を預けて、使う際はそこから引き下ろす仕組みだそうだ。
だから、出歩くときお金を持ち歩く必要はさほどないそうだ。
まあ、カード払いみたいなものかもしれない。
「あいよ、これで全て揃いましたかね?」
「はい。ありがとうございました」
魔法袋にどんどんと投げ入れる様に詰め込んでいく。
不思議なことに、適当に投げ入れても綺麗にまとまり、見やすい。
そして、数分で全てをしまい終える。
「ああ、そうだ。この辺に食事ができる場所ってありませんかね?」
「それなら、近くにサンドイッチ屋があるよ。あれは絶品だから、ぜひ食べることをお勧めしますよ」
と、教えてくれた。
サンドイッチ。
まあ、それを買っていけばいいか。
店から出て教えてもらったサンドイッチ屋へと足を運ぶ。
そして、数分で店につく。
店とはいえ、屋台みたいな感じだ。
数人の先客が注文しており、それを若い店主がうかがいながら、テキパキと作っていく。
「お客さん、何にします?」
と、あっという間に僕の番になる。
一応、カウンターにはメニュー表が置かれており、様々な種類がある。
カツハムにコロッケ、それにフライ。
うっ、なんだか油揚げのオンパレードだ。
他には、フルーツサンド、パンの切れ端と。
「じゃあ、フルーツサンドとカツハム、それとコロッケを2つずつで」
「へい、それなら、30アバンです」
ポケットから財布を取りだして、硬貨を取り出す。
ええと、たしか1金貨で1万アバン、1銀貨で1000アバン、1銅貨で100アバンだったな。その他に、細かいお金として安物の鋼で出来たのがあって、それぞれが1アバンと10アバンだったか。
つまりは、
1金貨=1万アバン(40万円)
1銀貨=1千アバン( 4万円)
1銅貨=100アバン( 4千円)
それに、1アバン硬貨と10アバン硬貨があるって感じだ。
なんだか、慣れていないせいかややこしい。
この場合は、手持ちに100アバンがあるから……10アバン硬貨を三枚か。
「まいど、お熱いので気を付けて」
と、どうやらぴったり払えたようだ。
ふと、空を見上げると太陽が真上まで上がっていた。どうやら、昼になったようだ。
そろそろ、フレイさんのところに戻るか。




