◆03 姫の騎士になりました?
暗かった森に日が差し込む。
日はゆっくりと僕たちの方に近づき、辺りが明るくなる。
そして日が顔にかかり、まぶしい。
それに鳥たちの鳴き声が響き渡りうるさい。
「ふぁ~、あれ、私はいったい……?」
と、フレイ姫が目覚める。
そして、起き上がり背伸びをし、甘い吐息をもらす。
だが、キョロキョロと辺りを見回し、キョトンとしている。
どうやら昨日、倒れたことに気が付いていないのか状況を今一つ理解していないようだ。
「おはよう、フレイさん、調子はどう?」
「えっと、その、絶好調……とまではいきませんが、それなりに元気ですよ」
「それはよかった」
「それで、いったい、私は……」
「ああ、昨日の夜、突然倒れたのさ……だから、その間一応警護したけど、幸い追手が来ることも無かったよ」
「そ、そうですか。ありがとう、トラウス君」
フレイ姫がドレスの裾を軽くつまみ優雅に一礼した。
その姿はやはり姫そのものだ。
いや、本当に姫なのか。
元だけど……。
「それで、どうして、助けたのでしょうか……?」
「えっ? どういうこと?」
「ええと、昨日も話したけれど、私は命を狙われています。だから、私に関わるとあなたも危険なの」
「ああ、そんなことか」
「そんなことって……」
フレイ姫が心底不思議そうに言う。
そして、物珍しそうに僕を見てくる。
いや、僕は別に絶滅危惧種ではないのだが……。
まあ、理由は無い。
訳でも無いか、かわいい子を見捨てることができなかった。
ただそれだけだ。
「うん、まあ、フレイさんが可愛いから助けただけだよ」
「えっ……えーと、えっ、いや、その……ありがとう」
フレイ姫が戸惑いつつ、最後はなぜかお礼を言う。
なんで、だろう?
「――そういえば、フレイさんはこれからどうするの?」
「私は、これから遠く離れた地に逃げようと思っています。追手も敵国には簡単に来られないと思いますし」
うん、どういうこと?
えーと、たしかソラウス王国があって、ここは別の国だったか。
だとするのなら、他にもいろいろな国があるってことなのか。
そう言えば、依頼書にガレル王国なんてあったな。
他の国に行けば、流石に追手たちも好き勝手にできないし、探すこともないだろうと。
「――そうなのか」
「うん、トラウス君はどうするの?」
「うーん、まだ、未定かな……とりあえず、今日は依頼の報酬を貰いに依頼所に行こうとは思っているけど、その後は決めてない」
「そうですか。あの、えーと、トラウス君は、家族はいますか?」
「家族? たぶん、いや、いないよ」
まあ、いないだろう。
いや、普通はいるかもしれないか、転生したのだし。
でも、自称神さまはたしかこう言っていた。
【君は一人さ】
と、おそらくは家族がいないってことだろう。
そして、後二つ。
異常と商売だっけ。
異常は能力値のことだとして、商売って結局なに?
まったくわからん。
「……そうですか、すいません」
なぜかフレイさんが僕に謝る。
いや、僕は別に家族が死んだわけではないけど。
それこそ、前世では飛行機事故で親よりも早く死んでしまった。
親不孝者だしな。
そういえば、おふくろは元気かなあ。
「あの、えーと、その……」
「なにかな?」
「その、私の、私の騎士になってくれませんか!」
「へ……? えーと……?」
どういうこと……?
あれ、話がワープした?
それこそ、いきなり違う話題が飛んできた。
「どういうことですか……? まったく理解できないけど……」
「あ、すいません、えーと、その、つまりは、独り同士、協力してくれませんかということです」
「はい?」
もっと意味がわからなくなった。
協力……?
「その、ようは、私と一緒に旅をしてくれませんか?」
「えーと、なぜに……?」
「その、一人じゃ寂しいし、それに、さっき私のこと可愛いって言ってくれましたし、それに、それに、えーと」
なんだ、これ?
もしかして、俺はハーレム系主人公へと転生したのか!
それは嬉しいけど、状況が理解できない。
もしや、さっき可愛いから助けたって言ったから?
それで、だから騎士になってということなのか……?
「それに!」
「それに?」
思わずゴクリと唾をのむ。
これから何を言うのか想像できない。
だが、もしかして……。
「トラウス君って、幸運の置物だから!」
「はい……?」
幸運の置物?
それは、人間としては扱ってないということなのか。
ズシリ、と体がだるくなる。
いや、知っていたよ!
こんなかわいい子が僕なんか好きになるわけがあるはずないって!
でも、それにしても、人間以下……それも置物とは……。
「あっ、その違います、そういうことではなく」
必死にフレイさんが慰めてくれる。
でも、僕は置物、置物だ。
だから、その場で固まろう。
それこそ、石のように……石の上にも三年だ。
この場合、僕が石なのか。
「――トラウス君と会ってから、ピタリと追手に会わないから」
「……どういう、ことですか?」
小さいながらも一応は聞く。
これも、全ては、可愛いがゆえにだ。
声を聞いているだけでなんだか癒される、そんな気がする。
「実はね、昨日の夜、トラウス君に会う前に、追手と遭遇していたの。そして、飛び込んだ先がトラウス君の目の前だったの。それまで、追手隊は、私を――」
「ちょっと待って、追手隊……?」
「うん、だいたい20人くらいに追われていたの。でも。トラウス君と出会ってから、ピタリと止んだの。それも、偶然かなって、思ったけど……」
「この森は小さい、それこそ20人も居れば、すぐに見つかる」
「そういうことなの……でも、私は助かった……ほんとは、昨日捕まっていてもおかしくなかったのにね」
「だから、僕を幸運の置物と言ったのか」
うん、考えを再度改めよう。
ここは異世界、何が起きてもおかしくない。
――アンダースタンド!?
おけ、ここは何でも起きる、それこそ奇想天外な出来事が起こり続けるのかもしれない。
「なるほどね、確かにフレイさんにとって、僕は幸運の置物さ、それは確かだよ」
「自信気に言わないでください、それに、その、可愛いって言ってくれたのは嬉しかったり、いや、なんでもないです……」
フレイ姫はそう言うと、俯いた。
顔を見ると、少し赤くなっていた。
そしてそれを見て、僕の心臓もバクバクと脈打っている。
これは恋、なのか?
って、いかん、いかん、僕は置物だ。
置物、置物。
うん、僕は動く幸運の置物さ。
そうだ、置物に恋なんて不要だ!
「あの、ほんとうは、一緒に旅する仲間が欲しかっただけなのです。変なことを口走ってしまい、ごめんなさい」
フレイ姫がウルウルしながら僕に謝る。
うん、前言撤回。
僕は、恋患いに陥った、置物さ!
と、まあ、僕が置物なのかどうかはさておき、そろそろ返事をしないと。
これから先のことなんて決めていない。
でも、誰かが既に通ったレールの上を走るなんてそんなの、つまらない。
どうせなら、新レールを走りたい。
だから、僕は……。
「うん、決めた」
「なにを決めたのです?」
「僕はフレイさんの幸運の置物になるよ」
「ひゃい! えっと、まだ怒っています……? そうですよね、人間どころか置物なんて酷すぎました、ほんとうに申し訳ありませんでした。かくなる上は、命を持って……」
「だああああっ、違うって」
なんでそうなるの……?
フレイさんと僕、悲しいほどに息が合わない。
合わなさ過ぎて泣きそうだよ。
「――まあ、僕は君の騎士になるよ。だから、これから先、よろしく、フレイ姫」
「えーと、その、ありがとう……私だけの騎士、トラウス君!」
その日。
転生二日目。
僕はフレイ姫の騎士になりました。
若干置物よりだけど……。




