◆02 依頼を受け、いざ地へと赴く
カルカン草原。
町から少しばかり離れたところにある草原だ。
広さはかなりあり、遠くには小さくも森がある。
そして、草原にはたくさんの生物が居た。
どれもこれも見たことがないのばかりだ。
まずは、スライム。
名の通り、全身がスライムで出来ている。
某RPGに出てくる奴にそっくりだ。違いがあるとすれば、顔が無いってことくらいだ。
次に、狼。
これは犬ほどの大きさ。
単体では無く、数10匹で群れている。
あれに目を付けられたら一たまりもないだろう。
だから、気をつけないと。
もしかしたら、あれがガルガンなのかもしれない。
「ふう」
小さく息を吐き、呼吸を整えた。
そして、足元に生え渡る草草を見た。
草草は、一見違いが無いように見える。
だが、受付員が言うには、薬草は他の草とは違い、少しばかり青っぽく。
そして、紫色の花が咲いているとのこと。
だから、見つけるのは簡単なそうだ。
だけど、簡単だから報酬はとても少ない。
それこそ、腕に自信がない子供が小遣い稼ぎでするくらいなそうで、人気は無く。年がら年中、薬草採取依頼があるらしい。
だが、今の僕には適当な依頼だ。
実は、僕の能力値はとても低いというのだ。
これも、受付員に軽く聞いてわかった。
まずは、振り返ろう。
僕の能力は0ばかりだった。それこそ、なぜか運が100なだけだ。
これがどれくらい酷いかというと、子供ですらお手伝いや、遊ぶうちに10から30。大人になると、少なくても50から70は全体的にあるそうだ。
そして兵士となると、幸運を除いた能力値は90越えが当たり前だそうだ。
最大値は決まってなく、努力次第で上昇可能とのこと。
ただ、幸運値は生まれながらに決まっている、それこそ運しだいらしい。
大富豪、王族、名の知れた実業家など、地位の高く成りあがった人たちはもれなく高く、一般人は低い、それこそ、一桁台は普通らしい。
それを踏まえると、運が100なのはとてつもなく良いだろう。
まあ、運でどれくらい優位に立てるかが不明ではあるのだが……。
とにかく、僕の能力値がとてつもなく、絶望を越えて低いらしい。
まあ、異世界から来たのだから当然かもしれないが、それでも、自称神さま。飛ばすならそれも考慮しといてほしかった……。
――と、まあ、僕の能力値は最低値だったわけさ。
それゆえ、いかに弱そうに見えるスライムでさえ、今の僕にとっては、悪魔だ。
だから、僕は辺りを監視しつつ、薬草採取に励んだ。
◆
すっかり日が暮れてしまった。
一日中、狼やスライムから逃げつつ、薬草採取をした結果。
「これで、何ギロだろう……」
手に持った袋の中にはかなりの量の薬草が入っていた。
途中、木々に囲まれてジャングルとかした場所で、幸運にも薬草地帯に出くわして、とてつもない量の薬草を手に入れたのだった。
そして、その中には、薬草と同じ形の花を咲かせる色違いの草草もあり、それらももう一つの袋に詰めたため、とても重い。
草とはいえ、チリも積もればというものだ。
そして運がいいのか悪いのか、狼やスライムに襲われることもなく、五体満足だ。
おそらくは、これは運がいいってことなのだろう。
――転生一日目。
まあ、なんとかなりそうな気がする。
「あの……」
と、一日の余韻に浸っていると後ろから声を掛けられた。
振り向くと、そこには少女が居た。
黒に近い青髪は肩にかかるほど、胸はまあまあ、全体的にスラリとしていた。
高級そうなドレスを着ているが、なぜか所どころ破れて白い肌が露わだ。
そして、どちらかといえば着物が似合いそうな顔立ちだった。
「なんですか?」
「ええと、町はどちらでしょうか……?」
「それなら、あちらの方ですよ」
と、町の方へと手を指す。
それにしても、なぜにこんな格好で草原にいるのだろうか。
走りにくそうだし、武器を振るうのも大変そうだ。
まったく不思議だ。
「ありがとう、ええと……」
「ああ、僕はトラウス。レント、トラウスです」
「私はフレイ、フレイ・ド・ソラウス・アカーリナシュです」
ずいぶんと長い名前だ。
まあ、もちろん声に出したりしないけど。
「それで、私が聞くのもなんですが、トラウス君はここで何を?」
「ああ、薬草採取ですよ」
「えっ……? それって、小さな子供がする仕事ではないのですか?」
うっ、痛いところをついてくる。
まさか、僕のステータスが0だとは思ってないだろうし、話のネタか。
「はっはっ、少々訳ありでして……それよりも、フレイさんこそ、そんなボロボロな格好でどうしました?」
「えっ……と、これには、事情がありまして……それよりも、トラウスさんは私のことを知らないの?」
「えっ……?」
誰かと聞かれても知るわけない。
なんせ、転生したばかりで、この世界のことなんて何一つしらないのだ。
それこそ、フレイさんのことなんてわかるわけもない。
「すいません、ちょっと、世間に疎いもので……それで失礼ですが、フレイさんは何者なのですか? 口ぶりからすると有名みたいですが」
「私は、姫です。ソラウス王国の……今はもうありませんが……姫、でした……うっ、ううっ、うっ」
いきなり泣き始める。
そして、その場に膝を付き僕にもたれ掛ってきた。
う、うわあ、や、柔らかい、それにいい匂いがする。
……って、そうじゃないだろ、僕!
「もと姫様?」
「ひゃい……ソラウス王国はもうないので、もと、ですが」
つまりは、今は無きソラウス王国のお姫様ということなのか。
それなら、豪華なドレスに身を包んでいるのも納得できる。
でも、国ってそんな簡単に消えるのか……?
「ええと、もしよろしければ、詳しくお話を聞かせてもらってもいいですか?」
「はい」
少しずつフレイ姫は話し始める。
元は大きな国のお姫様だったこと。
ある日、隣国に宣戦布告され、挑発に乗るも負けてしまったこと。
王族はフレイ姫を除いてみな殺されてしまい、姫だけが生き延びたこと。
そして、風のうわさによると、ソラウス王国は別の国に売られてしまい、今は別の国の支配下となっているそうだ。
そして、一般人となっても、敵国からすれば危険因子なため、血眼になって姫様をさらいにくるやからが絶えないこと。
うん、悲壮な運命すぎる。
家族が殺されて故郷までも失い、さらに今も危険なまま。
これは幸運が0どころか、マイナスなのでは。
僕の幸運を分けてあげられたらいいのだが、それは無理そうだし。
「うん、えーと、その……」
返す言葉もない。
なんて言えばいいのか、何を言っても意味がない気がする。
「あの、話を聞いてくれてありがとう。トラウス君にまで迷惑を掛けるわけにはいかないし、私はもう行きますね……」
そういうフレイ姫の目の下は涙の痕が残り、目元も赤くなっている。
声も震え、足もフラフラ。
正直今にも倒れそうだ。
「はあぁ、はあ、はあっ……」
息づかいも少し荒く、歩くのも限界のように感じる。
「あの、やっぱり少し休んだほうが……」
「へ、平気です。わ、たしは、まだ……――」
「あ、大丈夫ですか!」
案の定、フレイ姫がその場にゆったりと倒れ込む。
幸い地面が柔らかい土だからいいものの、石畳だったら傷を負うところだ。
軽く体を揺するも起きる気配はない。
気絶したのかもしれない。
このまま、見捨てるのは流石に心がズキズキと痛む。
それに敵が来る可能性もある。
――……。
「はあ、これは、うん、助けるしかないか……」
前途多難。
どうやら、転生一日目から奇想天外な出来事に巻き込まれていくみたいです。
これは、前世よりも数段ハードルが上がっている気がする。
とりあえず、身の回りを確認する。
幸いなことに、この場は小さな森の中なため、敵が来ても見つかりづらいはずだ。
それに、もう少しで暗くなる。
どうやらこれは野宿決定か。
――どうやら、僕の転生した先は、ハードモードだったようです。




