第4話
廊下は長かった。
初めて出歩いた家の中は、やっぱり広かった。
母が向かっていた先は、どうやら玄関のようで、そこには20人程の使用人さんたちが並んでいた。
「奥様、間もなく。」
「わかっているわ、ありがとう。」
間もなく、父が来るのだろうか。
母が扉から少し離れて控えると、二人の使用人が進み出て扉に並び立つ。
「開けなさい」
母がそういうと、使用人さんたちが頭を下げる。
「ようこそ、お出でくださいました。」
母も頭を下げると、私に影が射して前が見えなくなった。
「ツェルベール様。」
「よい、頭を上げろ。」
母が頭を上げると、そこには三人の男性がいた。60代くらいの白髭を生やした中央に立つ男性と、少し後ろに控えるとても若く、高校生くらいの男性。どうやら、白髭がツェルベールと言うらしい。
でもツェルベールって…。
「今日はお前の子を見に来た。」
そう言って白髭の男性は、前に進み出た。私を一瞥すると
「成る程、ジークに似て呆けた面をしておる」
と言い、後ろを振り向いて、あと一人の男性を鼻で笑った。
どうやら今日は父だけでなく、その上司らしいツェルベール様も来る予定だったらしい。私を見る小馬鹿にしたような顔に、どうしても良い印象がわいてこなかった。
「ツェルベール様、こちらに」
メイドがひとり前に出ると、ツェルベール様ともうひとりの男性、側仕えらしい人を奥の部屋まで案内をしていった。
「お帰りなさい、ジーク。」
母は残った一人に弱々しく笑いかける。
「お帰りなさいませ、旦那様。」
どうやら、このジークという人が父らしい。父は男らしい顔つきをしていて、俗に言うイケメンというやつであった。年齢は20代後半くらいであろうか。
「ただいま。すまないな、帰れなくて。」
「大丈夫です、それより早くレイナを見てあげて。」
父が母に歩みより、私の顔を覗き込んだ。
「…可愛いなぁ」
父は一気に破顔した。えへえへと笑う姿はちょっと気持ちが悪かった。
父は私を抱き上げて、頬擦りを始めた。
「やばい、可愛い。」
これが父か。さっきまで考えていた厳格なイメージとは全く違っていた。
「旦那様、そろそろ向かいましょう。」
「…わかっている。」
何度か私の頭を優しく撫でると、父は母に私を渡して、母を連れだって屋敷の奥へと入っていった。
ある部屋の前に着くと、父は軽く深呼吸をして軽くノックをする。
「誰だ。」
「ジークでございます。」
入れ、と声が聞こえるとドアノブが回りだし、ひとりでにドアが開いた。
「申し訳ありません、お待たせいたしました。」
父と母は頭を下げ、謝罪を述べる。
「早く入れ。ハルセ、閉めろ。」
ツェルベール様はその後ろに控える若い男性に命ずると、父と母が入ったあとに扉が閉まった。魔法か、便利だな。
「失礼します。」
ツェルベール様の正面のソファーに腰を掛けると、ツェルベール様はまた私の顔を一瞥した。
「私を待たせるほど、こんな娘が可愛いのかジーク。」
「…はい。」
ふん、と鼻を鳴らすとツェルベール様は顔をしかめた。
「親バカか、まぁいい。この娘のことだが、」
そこで、ツェルベール様は一呼吸おいた。
私と両親共に首をかしげると、ツェルベール様は宣告した。
「私の孫娘、リノリアの側仕えにする。」
どうやら、私は生後三週間程にして将来が決まってしまったらしい。