ソックリだと言わないで。
主人公の名前は友人のたんじぇんとsから頂きました。
余り、後味はよくないです。
「芽子ちゃんって本当に義母にソックリね」
それが母の口癖だった。
ニコやかに笑いながらも、目は殺気立ち、私を見ながらも、その先にある人物を睨んでいるのが常だった。
私の父方の祖母、道野 桜花は、一言でいうなれば典型的な完璧な女性であり、そして、完璧であることを他人にも強要する人だった。
対して母は、外面を気にするタイプであり、要領のよさで色んなことを誤魔化し、愛されるのが得意な人であったが、祖母はその外面や誤魔化しを見抜いていた。
「ここの掃除、全然出来ていないわ」
「この料理、とても不味いわね」
そういって祖母は、毎日のように母に文句をいい、母はその度に笑いながら、それを受け入れていた。
祖母の厄介な所は、全てが正論であり、指摘だけで終わらないことだった。掃除がダメだと指摘した後は、自分で完璧に掃除し、料理がダメだと指摘した後は、その何倍も美味しいものを作る。
祖母としては見本を見せてるつもりだったのだろう。
「本当に義母様は素晴らしいですね……」
母は祖母にそういっていたが、イライラしていたのは間違いないし、それを隠そうとするのに必死だったことも私は分かっていた。
けれど、頭のいい母はそれを他人には見せない。
人望厚い祖母の悪口を言ってしまえば、立場が悪くなることになるのを理解しているので表面上はニコやかにしていた。
「本当にあの人って憎たらしいわ……わざわざ皆の前で指摘して……しかも、わざわざ作り直すかしら!?」
父も祖母も兄もいないときに、私に散々怒りや愚痴をいい、そして最後にはこう言った。
「芽子は……お婆ちゃんにソックリね」
殺気立った目を向けて、苛立った目を向けてくる。
「冗談よ、何を本気にしてんの?それに、義母様は素晴らしい人だから光栄なことよ?だからそんなに悲しい顔をしないでよ~」
そして、すぐに笑顔で弁明するのだ。
冗談よと、本気にしないでと、クスクスと笑い、抱き締める。
それがいつも通りの光景だった。
私は祖母に似ているとよく言われた。
釣った目や、変に出来がいいところとか、祖母には一番気に入られていたことも似ていると言われる原因だったかもしれない。
とにかく私は、祖母に似ていると言われた。
「芽子は本当に義母様に愛されているね、もうお母さんなんていらないんじゃないかしら?」
「義母様は芽子が可愛いんですって、だったら義母様の娘になっちゃう?」
「やっぱり義母様と芽子は似てるね、私の子じゃないみたい」
母はよく私にそういった。
冗談混じりに笑って、ニコやかに……しかし、殺気のある目でいうのだ……そして、私が不安になって抗議しようとする前に必ずこういうのだ。
「冗談よ、何本気にしているの?貴女のこと大好きよ」
そう言われてしまえば、私は何も言えず、ただただ抱き締められ、母の愛を信じるしかなかった。
父さんは母と祖母が上手くいっていると信じ、兄さんは母にちゃんと愛されているから、問題に気づいていなかった。
歳をとっても祖母は相変わらず完璧さを出し続け、母の外面を見抜き、叱咤しながら、父や親戚たちを従わせ、実権を握り、母に権力を渡さなかった。
そんな祖母に母は苛立ちながらも保身から言わず、
「本当に義母は嫌な人ね……芽子は義母にソックリ……」
「お母さ……」
「冗談よ、本気にしないで、褒めてるのよ?貴女は義母様みたいに優秀で綺麗だわ……本当に、義母様そっくり……嫌味ったらしいくらいに……なんてね」
そして、またクスクスと笑い抱き締める。
そんな母に、私は何も言えなかった。
愛されていると思っていたから、愛していると思っていたから。
けれど、限界が訪れるのは早かった。
きっかけは、兄が跡継ぎ修行も含めて、県外の全寮制の高校にいくと決まった時の話だった。
母は自分に似ている兄を心底溺愛していたので、そのことを悲しみ、その決定を下した祖母に恨みをずっと呟いていた。
「あぁ……本当に義母様はなんて嫌なのかしら……!まもるをそんな高校に行かせるなんて……っ……」
と、母は嘆いた。
確かに、最終的な決定を下したのは祖母であったが、希望したのは兄である。祖母に恨みをぶつけるのは筋違いなんじゃないかと思ったが、それを理解した上で怒っているようにもみえた。
「お母さん……私がいるよ……」
私は母を慰める為にそういった。
よく考えれば、深く考えれば、その後に出る答えは検討がつく筈なのに、検討がついていた筈なのに、私はこの時、何も考えていなかった。
「貴女なんかいらないのよ!」
だから……何かの糸がプツリと切れた。
母はすぐにハッとし、いつも通り、冗談よと、大好きよと、本気にしないでよと、笑っていたが、私の耳はその言葉を通り抜け、脳みそに入らなかった。
「……ざ……んなよ……」
ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「え?」
「ふざけんなぁああ!!」
私は机を投げ飛ばし、窓からすを割った。
「……ヒィ!?……ちょ、何を怒ってるの?やあね、冗談よ……」
そういって、母は取り繕うようにいうが、私はもうそれでは止まらなかった。
「もういや!!ずっとずっとそればっかり……もうやめてよ!気持ち悪いし!しんどいし!吐き気がする!頭が痛い!もう嫌!」
辺りにあるものをすべて投げ飛ばし、私は力のあるかぎり暴れた。
母は化け物をみるような目でこっちを見るが、キレた私は止められなかった。
「何が冗談だ!何が愛してるだ!全然そんなこと思ってない癖に!嫌いなお婆ちゃんに似てるって言われ続けられる私の気持ち考えたことあんの!?挙げ句にいらないって言われて……っうぅ……うわぁああ!!!」
私は大声で泣いた。
泣きわめつづいた。
ちゃんと分かってはいるよ。
母が全て悪いわけではないことを。
ちゃんとご飯を作ってくれたし、洗濯もしてくれた、母の嫌味なんて、時々だし、すぐに笑ってフォローするから、私も気にしなかった。
人間だもん、そりゃ愚痴りたくなる時だってあるよ。
誰かに当たりたくなる時だってあるよ。
けれど、もう私は母に愛されていると思えない。もう私は母を愛せない。許せない。
「文句があるならお婆ちゃんに直接いってよ。私はお婆ちゃんじゃないからどうしようもないよ……
流石に母さんを恨むよ……」
私は吐き捨てるようにいって、走り去り、自分の部屋に戻ってまた泣いた。
色んなことに後悔した。
どうして我慢が出来なかったのだろうか、母の苦労を知っている癖に、そんなに酷いことを言われなかったのに。
別にいらないと言われてもいいじゃないか。
兄を心底愛してた母だ、感極まって思わずそういっても仕方がなかったのに……
別に祖母にソックリだと言われてもいいじゃないか。私はお婆ちゃんが大好きなんだから……
罪悪感が襲い、けれど、それでも何時かは爆発していただろうと思う。限界はもっと前から……
そこまで考え、私は眠りについた。
その日から、私は母と会話をしなかったが、その日を境に母は変化を見せ始めた。
「ここの掃除、出来ていないわよ」
と、祖母がいえば、いつもは申し訳なさそうに笑うだけの母が……
「これでいいの、変に手を付けないでね」
そう言い返していた。
少しの変化に見えるけど、私や祖母からしたら大きな変化だった。
そして、母は向き直って、私越しではなく、直接祖母を睨みつけた。
「完璧主義は素晴らしいけど、私には向いてません。
私は今まで、義母様の命令に従って笑ってるだけでしたが……これからは、これからは、私の意見もいいますから」
母は宣言した。
オドオドしく、目線をそらし、けれどしっかりと母は祖母にそう宣言したのだ。
「あら……言うようになったわね」
祖母は、一瞬面食らっていたが、その後何処か嬉しげな様子を見せて、去っていった。
「め……芽子」
母が私の名前を呼び、どうしようかと思ったが、取り合えずは近くに寄った。
「今まで……ごめんなさい。
芽子を……義母様に見立ててずっと攻撃してた……義母様に不満があるのに……それが言えなくて……自分の弱さのせいで……」
途中で涙を流した。
計算の涙ではないのが分かる。
「努力するから……もう、逃げないから……ごめんなさい」
そういって、母は私に頭を下げた。
きっと、本当に反省してるだろうと思う。
母は小賢しいけど、悪人じゃないしし、自分の過ちに気づける。
ちゃんと主婦業もして、私を育ててくれたし、ご飯も作ってくれる。
謝ってくれている。
論理的に考えれば、倫理的に考えれば、十二分に許せることだけど
……
「無理……今はどうしても許せない」
私はいった。
心にポッカリと穴があき、埋められない不信感という風か吹き荒れてしまい、どうしても許せない。
そういってしまったら、母は泣いた。
「ごめんなさい」と「悪かった」と、泣きながらいうが、その言葉は風となって胸の穴から突き抜けるだけだった。
「どうして、信じてくれないの?」
だって、私を見てくれないから。
今、お母さんは何処をみてますか?私を見てくれてますか?
母がいくら反省しようと懺悔しようと、私が冷たい人間のレッテルを張られたとしても……
「……愛してるの」
下を向き、私を見ようとしないうちは、その言葉を信じれない。
だから、早く私をみて。
さっきからずっと、泣いているんだよ。
芽子
祖母に似ている普通の少女。
祖母のことは嫌いではないが、母から祖母にソックリと言われるのが嫌。
母
要領がよく、気は強くない女性。
義母が大嫌いで、芽子を無意識に義母に見立てて嫌味をいっていた。主婦業は誤魔化しながらもちゃんとやっており、息子と娘をちゃんと愛している。
祖母
完璧主義で、誤魔化しや妥協を許さない人。
多分、デカイ会社の会長か、旅館の大女将みたいなん。




