前世
中学の時。家庭科の授業で、調理実習をすることになった。
男二人、女二人、計四人で一つの班になり、調理をすることになった。最初俺とOの男二人は野菜の皮むきを任されていたのだが、急に女子が、
「やっぱあんたたちこっちやって!」
と言い出した。
まな板の上には、魚が四尾、並んでいた。
――先生の話をまともに聞いていなかった私は、捌き方も、魚の名前すらわからなかった。
女子いわく、急に捌くのが怖くなったという。
「だって、血だって出るし、内臓だってあるでしょ!」
女子二人は、涙目だ。
――トンッ
見ると、Oが包丁を握っていた。――まな板の上の魚の内、一匹の頭が落とされていた。
「こんなん、簡単だよ」
そういうと、躊躇なく全ての魚の頭を落とし、内臓を洗い流し、三昧におろしていった。
「話、聞いてなかったのかよ」
Oはポカンと見つめる俺たちに言う。
あっという間に、作業は終わってしまった。
「すごい!」「えっ、料理できるの⁉︎」女子が口々に言うと、Oは少し照れた様子で「いや、やったことないけど……」と言った。
「お前、前世“料理人”だろ! 絶対そうだろ!」
俺も、素直にそう褒め称えた。
*
その数ヶ月後。修学旅行で、京都に出かけた。ある寺町を歩いている時、路上で占い師が他校の修学旅行生を占っていた。
近くには、『前世、見ます』との看板が。
「見てもらおうよ!」女子が言った。俺も、“前世”という言葉に惹かれた。一緒の班だったOも誘い、占い師の近くに行った。
「あなたは……時計技師だったみたいね。手先が器用でしょう」
占い師である中年の女性がそう言うと、オォ、と小さな驚きの声が上がった。
見てもらったのは、俺だ。俺は確かに機械いじりが趣味で、それはクラス内でも周知の事実だったからだ。
「当たってんじゃん」、「次、誰にする?」。そんなやりとりがあって、Oが前に出た。
俺は、思い出していた。かつて言った、自分の言葉を。
――お前、前世“料理人”だろ!
「コイツの前世、“料理人”じゃないですか?」
俺が言った。
すると、占い師は一瞬難しそうな顔をして、やがて顔を横に振った。
「処刑人」
小さく呟いた言葉は、身を乗り出していた俺と、Oにしか聞こえなかった。
「なに?」、「なんて言ったの?」。同じ班内のみんなが言うのを俺が適当にはぐらかす横で、占い師は店じまいを始めてしまった。
Oの顔色は、伺うことができなかった。
でも、Oは別に嫌なやつでもなんでもなかった。その後も、俺は普通に友人として接した。
本人的にも、対して気にしていなかったらしい。今年の春、農業高校に進学した。