後編
――……ある日の夜、私は''彼''と別れ、一人家路を急いでいた。
何故なら、もうすぐ終電が出てしまうからで、もっと話して居たかったが、明日は仕事があるからだ。
暗い夜道、そして踏切に立った時……私は鋭い頭痛を感じた。頭が割れそうな程の……激しい痛みを。
そして、思い出した。
……そうだ。私はこの場所で一度ーー死んでいる。
その事を思い出した次の瞬間ーー私の身体は、宙を舞った。
ーー……確か、彼の名前は、中田陵介……。
彼との出会いは、大学のキャンパスで、混んでいた食堂で合席した時だった。席を探して食堂内を右往左往していた私に向かって、彼は微笑みながらこう声を掛けてくれた。
「大丈夫ですか?……よかったら、一緒に座りましょうよ?」
その言葉が私が聴いた彼の初めての言葉。
……そんな出逢いだった。
実は彼は、魔法が使えた……、とは言っても、例えばリモコンを使わずにテレビを付けたり消したりしたり、電気を付けたり消したりと、まぁとにかく……、小さな魔法だった。
そんな彼とふざけあったり、何と無く街で遊んだり、キスしたり、……私たちは、そんな風な普通のカップルだった。
しかし、私は大学生最後の夏ーー、電車に轢かれた。
私は、死んだ筈だった。
……でも、気がついたら、私は病院に居て、彼の事や事故の事をを全て、忘れていて……。
……あ。
私は気がついた。
''彼''はーー彼だったのだ。
「大丈夫ですか?」
記憶の中で、彼と''彼''の言ったその言葉の口調が、声が、全て一致する。
……そうだ、''彼''はーー彼だったのだ。
懐かしさを覚えたのも、私の名前を知っていたのも、全て、恋人だったからだ……。
ーーそこで私は、目覚めた。
あの、彼を忘れてしまった日と同じような病院のベッドの上で……。
でも私はあの時と違い全てを覚えていた。
「陵介……君。」
私は、彼の名を呼んだ。
ーーそれから一ヶ月後、奇跡的に全身の打撲で済んだ私は退院した。
……真っ先に向かったのは"彼"の住む、あの山小屋だった。
私はノックもせずドアを開ける。そして驚いた表情で私を見つめる"彼"の胸に飛び込み、そして……、
「陵介、忘れてて……、ゴメンね。」
私は、目を閉じて、"彼"とキスをした。
唇の感触は少しゴワゴワした毛に覆われた人とは違う唇で、鼻にあたる獣毛と彼と獣の匂いが混じり合った匂いは私の嗅覚を、刺激していた。
それから少しすると彼の身体が火照り、少しずつ毛の感触が消えて行くのが、感触で分かった。
ーー戻った。
そう確信した私はゆっくりと目を開く。
そこに居たのは(匂いこそそのままではあったけれども)彼、陵介君だった。
「莉那……。記憶が……。」
そう彼は驚いた顔で言う。私は少し笑うと、
「……全部、思い出したよ。……陵介君、忘れててゴメンね。後、ありがとう……。」
そう言って私は彼の胸に顔を埋めて……、ん?
……私は気がついた。狼の時は毛皮があったから裸でも全然平気だったし、何よりも身体が大きかったから服を着ることは出来なかった。しかし……。
「と、取り敢えず服着てっ!」
私は部屋の隅で顔を真っ赤にしながらそう同じく顔を真っ赤にしている彼に向かって言った。
それから一年後、私たちは一緒の家で暮らしていた。
……明日は、結婚式だ。
彼は人間に戻った……ものの、結局魔法の能力は戻らなかった。
……それに、どうして彼が私を生き返らせる程の魔法が使えたのか……それも分からないままだ。
……でも……それで良い。……彼が、帰って来てくれたから……!
それに、魔法の代わりに彼は新しい能力を手に入れた、それは……。
「うん!やっぱりもふもふねッ!」
「……ったく、莉那はいっつもそれだなッ!」
彼はあの狼の姿にいつでも変身出来る様になると言う能力を手に入れた。
……と言うわけで私は今もちょっと獣臭い(私にとっては好きな匂いですけどね!)彼の胸毛に顔を埋め、一緒に寝るのが毎日の日課になっていた。
「ねぇ……愛してるよ?陵介君。」
「……あぁ、僕もだよ……莉那。」
そんな言葉を交わしながらーー私たちは、愛と言う、魔法のkissをした。
fin
この作品は、新しいスマホになって始めて完結した作品です。
慣れない操作の為に、入力ミス等があると思います。その時は、ご指摘宜しくお願いします!!
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