前編
新作よん!
「んっ……。」
口づけを交わす、私と彼。
私は唇を離し、彼に微笑みかけながら言う。
「まだちょっと、獣臭いかな?」
すると彼は、
「え!?」
と驚いた顔言う。私はくすり、と笑うと、
「……冗談よ。あなたは、人間に戻れたんだもんね。」
と言って再び口づけを交わす。
―――……私達は、暖かい拍手に包まれた。
… … … … … … … … … …
―――……もう、二年も前の話だ。
私の名前は、冴木莉那、自然研究学者で、今日は森林調査の為に山を訪れていた。
……しかし、天気予報は外れ、土砂降りの雨、そしてガイドともはぐれ、更には転んだ為に足を挫き、動けない状態であった。
そんな時、私は一軒の家を見つけた。
それは山小屋の廃墟らしく、まだしっかりとしていた。
……私は、中で雨宿りをする事にした。
山小屋の中は、換気用であろう天窓が一つしかついておらず、暗かった。
……懐中電灯は、足を挫いた時に荷物と共に山の斜面を崩れ落ち、回収は出来なかった。
あまりにも暗い中で、私は何かが動くのを感じた。
途端に感じる獣臭さ、私は逃げようとした、しかし、
「……大丈夫ですか?」
その何かが、人の言葉を喋ったのだ。
その声は、まだ若い、男の声だった。
「……あっ、あなたもここに避難を?」
そう私が聞くと、その声は少し恥ずかしそうな声で、
「……いや、僕、ここに住んでるんですよ。
……電気は、断線してしまって使えませんがね?」
そう言った。私は何故かその声に懐かしさを覚えつつ、
「……そう、ですか。
あの、私、足を挫いてしまって……、せめて雨が止むまで、ここに居させて貰いませんか?」
と言うと、その姿の見えない''彼''は、
「えぇ、良いですよ。」
そう私に言った。
……私は、その何故か懐かしさを覚える''彼''と話した。
彼は何故この森のこんな山小屋に住んでいるのか、何故獣臭さがあるのか、それを教えてはくれなかった。
そして、彼とふと話している時だった。
突然、すぐ近くに雷が墜ちたのだ。
「きゃあああああ!?」
私はそんな叫び声を上げながら、''彼''に抱きつく。
……そして、私は気がついた。
''彼''は、おかしかった。
人にしてはあまりにも大きい身体、そして発達した筋肉のある肉体を覆う、ごわごわとした体毛、そして全身から漂う獣臭い匂い。
閃光が走り、一瞬''彼''の姿が見えた。
茶色い獣毛に覆われた肉体、犬のような顔―――、いや、これは狼だ。
そしてそんな''彼''の肉体は、私よりも大きかった。
「……あ。」
私は全身が震えるのを感じる。
殺される、そう思った。
……しかし、
「……ごめんなさい、怖いですよね……、僕のこの姿。」
''彼''のそんな言葉を聴くと、不思議と落ち着いた。
「……ゴメンね、莉那。」
そして彼は、知らない筈の私の名前を呼んだのだ。
「……何で、私の名前を知っているの?」
そう私が聞くと、''彼''は、
「……それは、言えないんだ。」
そう言って哀しく微笑んだ。
―――それから私は、''彼''の家に度々訪れる様になった。
初めは、とても離れて会話していたが、それも信頼関係が出来るうちに少しずつ短くなり、今では手を伸ばせば、お互いの身体に触れられる程、近くなった。
同時に、私は''彼''についてある程度の情報を聞き出した。
まず''彼''は実は人間で、呪いでこの姿になったらしい。
……そして呪われた理由は、恋人を助ける為だった。
「……彼女は、踏切に落ちた鞄を拾おうとして、電車に轢かれたんだ。
僕は、魔法使いだったから彼女を生き返らせた。
……でも、その代償で俺は二度と魔法が使えなくなり、獣になる呪いが魔法の反動で僕にかかったんだ……。」
''彼''はそう言った。私は''彼''に呪いを解く方法を聞くと、
「……生き返った彼女は、僕を忘れている。
僕を思い出して、僕にキスをしてくれれば、呪いは解けるんだって……。」
そう、''彼''は言った。それに対し私は、
「じゃあ、私があなたの事をその人に話せば!」
と言うと、''彼''は哀しげに首を横に振り、
「……それは、ダメなんだ。
他人が協力するのも、ダメらしいから……。」
そう言った。
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