転生したけど、いきなりピンチ
気付くと、俺は別の場所にいた。変だな、俺は踏み切りにいたはずだが。というか、死んだはずなのだが。周りを見回そうとしても、首が上手く動かなかった。何故だ?
手も足も、よく動かない。思考はハッキリとしているというのに、身体は言うことを聞かない。目に入る範囲で推定してみると、ここは俺のいた世界ではないらしい。日本に、最低でも俺のいた町に、こんな森は存在しない。しかも、植物も全て見たことがない。
「………う………あ」
喋ることすら出来なかった。それに、この自分の寝転がっている範囲と低さ。どうやら、俺は、どこか別の赤ん坊に転生したようだな。まぁ、ここまでハイスピードで気付けたのは、普段の冷静さの賜物か。てか、本当に動揺してないな、俺。
確か、それ系統のラノベをいくらか読んだことがある。だが、一つだけ奇妙なことがある。何故、周りに誰もいないんだ?
そういう系統の物語では、貴族だかの子供に生まれるというのがテンプレなはずなのだが、これは俺、完全に捨てられてるよな? だって、ここ室内じゃなくて外だもん。弁解しようがねえよ、この状況。そもそも、ここどこって話だ。
というか、このままだと飢え死に確定だぞ。何で死んで運良く記憶を持ったまま転生出来たのに飢え死なくちゃならんのだ。どれだけ神様に疎まれているんだよ。
くそっ、誰かに拾ってもらえないかな。声でも上げていれば、誰かに気付いてもらえるだろうか。
どうしたものかと思考していると、何かが草陰から現れた。
そいつは、人間のものらしき手を咥えて、全身が血まみれだった。しかも、そんな奴等がぞろぞろと出てくる。外見は狼。でも、元の毛が真っ黒の狼なんて、俺は知らない。
………何で、こんなハイスピードで詰むんだよ。泣き声をあげても、あの真っ黒狼を逆撫でして食われ、泣かなくても食われるだろう。
あの人間のものらしき手の持ち主は、俺を捨てた親なのではないだろうか。と、すれば、俺は完全に救われる手はない。
いや、せめて、転生した世界ではまともに生かせてよ。前の人生より酷いじゃねえか。生まれて数分で食われるって、どこまで地獄だよ。しかも、俺に意識はあるから、ただの生き地獄だぞ?
せめて動こうとしてみたけど、動くわけもなく、その真っ黒狼を俺を食おうと俺に歩きよった。
抵抗しようがない。せめて、前の人生ぐらいの歳だったらなぁ。
「ファイヤーボール」
と、その時、真っ黒狼の一匹が、突如現れた炎の玉によっな、焦げた。元々黒だから、対して外見は変わらないな、こいつ。
「この犬っころ、燃やされても色変わらないように見えるわね」
草陰から、俺の思ったことと、全く同じような言葉が聞こえる。残りの真っ黒狼軍団が、この声のしたほうに向けて威嚇した。そこから現れたのは長身の女だった。
銀の長髪で、全体的に氷を思わせる美しさを持つ顔立ち、そして何より、尖った耳がその女の正体を教えてくれた。
………まさか、こんなタイミングでエルフに会えるなんてな。運がいいのか悪いのか。
「全く、昔のよしみで願いを聞いてやったら、対象は赤ん坊だし、親は食べられちゃうし、本当、あいつって馬鹿なのかしら。というか、その人間も馬鹿なんじゃないのかしら。ここが、何で進入禁止かなんて理由を考えもしないのね。ウィンドスラッシュ」
とんでもないくらい罵詈雑言を吐きながら、その銀髪のエルフが手を払うと、その延長線上の真っ黒狼は切り刻まれた。なるほど、これが魔法だな。強い、そして、少し惨い。
「全く、何で私がこんな人間の子供を助けなきゃいけないのよ」
うわぁ、性格も冷たいな、このエルフさん。しかも、口調メッチャ恐いし。これ、助けられてもすぐに捨てられるな。やっぱり終わりか。何か、もうどうでもよくなってきたな。
ん、何か、エルフがジッと見てくるのだが………
って、食われる!?
いつの間にか、真っ黒狼の一匹が俺を食べようとしていた。いや、ちょっと、せめて、寝てるときにして、生きながら食べられるのはやっぱ無理!!
「アイスニードル!!」
すると、俺を食おうとした狼が地面から出てきた氷のトゲに串刺しになる。これ、ニードルとかのレベルじゃねえ、ほとんど磔だぞ。
「ったく、ちょっと目を離した隙に、この犬っころが」
どうやら、他の狼も同じ目にあったようだ。そのエルフが、俺に近づいてくる。何だ!? 俺も殺す気か!? それとも、何かの実験にでも使うつもりか!?
流石に、あんな無慈悲な一撃に加えて、あんな暴言吐いてたような人には平常心ではいられない。赤ん坊なのにビクビクしている中、そのエルフは俺のすぐそばまで近づいた。そして、俺を抱き上げる。
「やだ、何この子、メッチャ可愛いんですけど。え、何、今まで見てきた人間の赤ん坊ってゴミか何かだったの、こんなに可愛いかったっけ? 何か分からないけど、この子メッチャ可愛いわ」
………え?
何か、途中に罵詈雑言があったのは確かだが、この状況がよく分からない。ただ、急に抱き上げられて、そのまま抱き締められたのは分かる。いや、ちょっと待って、胸で息が止まるから、赤ん坊にこんなことしてあげないで!!
ちなみに、こんなことを赤ん坊の身体で言うのは奇妙なものだが、そのエルフは、俗にいうナイスバディというやつである。まぁ、中身は高校生だが、身体が赤ん坊なせいで、全く欲情が出ないのだが。
「さてと、家に帰ったら、この子の名前を考えてあげないとね」
………何か、よくは分からんが、とりあえず気に入られたらしい。この赤ん坊の顔に感謝しておこう。前の人生の顔だったら、絶対無理だったろうしな。
「え~っと、オムツ着けて、お洋服を代えて、身体も洗って、あぁ、母乳もあげなきゃ」
………え、何か、ものすごい嫌な予感がするんだけど、どうだろ、気のせいか?
その日、別の意味での生き地獄を見たのは言うまでもない。いや、あんな羞恥プレイは勘弁してよ………