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プロローグ

闇に包まれた英国(イギリス)ロンドンの街。

石造りの建物がひしめく古めかしいその街には不思議な噂がある。


所謂、都市伝説というやつ。


その街では、毎晩魔女が出没し、人間を襲っているそうだ。

魔女に襲われたら人間なんてひとたまりもない。


しかし、もうひとつ噂がある。

魔女と対をなす存在がいると。


そして彼らは私達人間を守る為に魔女と戦っているのだと。














「ひ、ひぃ! ば、化けもんだ!」


夕闇のなか、男は1歩ずつ後ろずさりしていた。

トン、トン。

その男をゆっくりな足音で追いかける女が一人。



「化け物とは失礼ね。私をそんな畜生共と一緒にするなんて」



その言葉とは裏腹に彼女は喜色満面の笑みを浮かべていた。

ガツン。

遂に壁際まで追い詰められた男が腰を抜かして倒れ込む。


「あら、大丈夫?」

「ち、近づくな!」


差し伸ばされた女の腕を男は払った。


「さっきから酷いわね。誘ってきたのはそっちでしょ?」


腕を擦りながら女は言う。

そして、片腕で男の首を掴み上げるとぐうっ、と持ち上げた。


「は、はが! ぐるじい!」

「Are quite.――お静かに。

死ぬときぐらい、クールにお願いね」


女のもう片方の腕が光を発して粒子がくるくると腕を包み始めた。


「では、ごきげんよう。私の愛しい人」


その瞬間舞っていた粒子が急に形を成してドリルのようになった。

ギュルギュルと粒子が回る。

それが男の腹に突き刺さる、


そんな時だった。



バリバリッ!


稲妻が走って女を直撃した。

感電した女の腕が男の首を離す。

ごほごほと咳き込む男は誰かに抱えられて連れ去られた。

全ては一瞬の出来事だった。



「恋人との逢瀬の時間は終わりだ、ジル・ド・レ卿」



雷を放った本人、背の高い短髪の男が言う。

彼は裾の長い青色の魔導服に身を包み、一本傘を開いていた。

真っ黒焦げと化した女――ジル・ド・レ卿は言葉を紡ぐ事など不可能に見えた。

最早、何処が口なのかも分からない程であったからである。

けれど、パリパリッと卵の殻が割れるような音がした後、彼女の首がぐるりと男の方を向いた。

そして、彼女の顔が裂ける様に口が開いた。


「あら、雷だなんて。雨なんか降ってたかしら?」


「っ! …この化け物め!!」


男は腕を振り上げるとジル・ド・レ卿に向かって降り下ろした。

彼の腕から一本の雷が放たれ、千分の一秒にも満たない時間で走っていく。

が、それは途中で方向を変え地面に吸い込まれた。


「避雷針かっ!」


男がそう言うが早いか、いつの間にかジル・ド・レ卿は彼の後ろに回り込み彼の脇腹に強烈なハイキックを喰らわせていた。

踏ん張ることも出来ず男は吹き飛ばされ、建物に穴を空ける。

ズドン、と腹の底に響くような音がしてその後建物の中が崩れるような音がした。

そして、辺りに平穏が訪れる。


「駄目ね。やり損ねたわ」


ガラガラ。

瓦礫が崩れると共に男が起き上がった。

だが、男はその場から動かない。

否、まんじりたりとも動けなかった。

足が瓦礫に挟まって持ち上げたくとも持ち上がらなかった。

男は何度も力を有らん限りに引っ張ってみるけれど、いずれ抵抗するのを止めた。

沈黙。

そして、男は叫んだ。


「んが! 糞! 足が挟まって動かん!

―――っおい! エミリー! 手ぇ貸せ!」


沈黙。


「あら、お仲間がいたの?」


沈黙。


永遠に沈黙が続いた。


「…んー?スキアリって事でいいわね?」


残念なことに未だに男に救いの手が差しださられることはなかった。

そして、


踊る粒子(ダンシングフェアリー)

―――version大きな大きな巨人の手」


ジル・ド・レ卿が唄うように呪文を唱えた。

すると、何処からか光の粒子が集まってきて、もぞもぞと動き出した。

一本、二本三本と指が現れる。

そして直径三メートル程のどでかい人間の手が生み出された。


「んな…っ! あり得ねえ!」


「私の可愛い妖精さん♪

悪い悪い人間にお仕置きしてください」


どでかい手が男の体を薙ぎ払う。

ズカン。ズカン。ズカン。

一発、二発と手の平、手の甲を使ってはたく。


「ぐが! …ぬが! …っぐ!」


ズカン、ズカン。

男の口から鮮血が吐き出される。


「ゴボッ!! っち! この糞やろうめ!!」


必死で足元をごちゃごちゃやってるがどうにもならない。

ズカン。ズカン。ズカン。


いつの間にか男の声が聞こえなくなった。


「あら、…もう死んじゃったかしら?」


「――ばだ、じんで…なんがねぇ…よ…!」


「タフね。普通ならとっくに死ぬんだけど?」


男の足はガクガクと震え、体は傷だらけだった。

それでも、男は強がるのを止めない。

魔女を睨み付けるのを止めない。

ジル・ド・レ卿はそんな男を好ましく思った。


「貴方の事、嫌いじゃないわ。

―――でも、だからこそ本気で葬ってあげる!」


ジル・ド・レ卿が更に呪文を詠唱すると、光の粒がもっと集まってくる。

そして、最早街のビル並みの大きさになった。



踊る粒子(ダンシングフェアリー)

―――versionビックリ魔神の手♪」



ズゴー、と空気が切り裂かれる音と共に手が垂直に降り下ろされた。

近くの建物を巻き込みながら手は男を襲う。


「ちょっと…やべえか?」


ズゴゴ…。

そして、大きな手は男を捉え押し潰す。


そのはずだった。



「ぬがあああああーーー! ぐお…があ…ぐが!」



男は巨大な手を両腕で受け止めていた。

押し潰されまいと体全体で踏ん張っている。

強大な圧力を誇るはずの魔法を生身の人間で対抗しているのだ。


「やるわね…。でも、そう長くもつかしら?」


ジル・ド・レ卿は呪文の詠唱を一層パワーアップる。

魔神の手は圧力を増していった。


「ぐわあああああ!! っ畜生が! ぬごっ!」


男の腕が折れる。

足が折れる。

それでも男は最後の最後という所で自らを保っていた。

死にそうで死なない。


「しつこいっ!」


とどめとばかりに力が倍以上に強くなる。


その時だった。

男の耳元の通信機から音がした。


ジ、ジジー、ジ、ジジ。


「えー。あー。あー。マイクテスト、マイクスト。

聞こえますかー、筋肉バカ。

…あれ? 返事がないな?

もしかして死んだかな、あの人」


男は額に血管を浮かばせて怒鳴った。


「ぎごえでる! おせえぞ、エミリー!」


「あ、無事だったんですか、トールサン。

ヨカッタデス、イキテテクレテ」


「全然無事じゃねえよ!でめえがおぜえがらっ!」


「っえ? 死にそうなんですか!?」


「俺がじぬわけねえだろ! ご馬鹿野郎!」


「それじゃあいいじゃないですか。

…大体時間稼ぎも出来ない様な人に文句言われる筋合いないですよ…」


「てめえ、ごら! ごろずぞ!」


「あー、電波の調子がー。 聞こえなくなってしまったぞー。

仕方ないから勝手に云いますね?

近隣住民の避難及び半径一キロの魔術コーティング完了しました」


その時、男の―――トールの顔に初めて笑みが生まれた。


「んじゃ、つまりは――」


音が一瞬乱れる。

ジ、ジジー、ジ、ジジ。

そして、通信機は最後の音を出した。



「暴れちゃってくださーい!」



「りょおがいっ!」



















その頃、雨の中傘をさしている女の子が一人。

ビルの上に立っていた。

その子は通信機を耳から外し、青色の魔導服のポケットに入れた。


「さてと。――どーしよっかなー?」


バリバリッ!


街の向こうで雷の落ちる音が鳴る。

それは何度も繰り返され怒号の様に響いていた。


「なーんかトールさんだけでも、どうにかなりそうだけど…」


更に雨は強さを増していた。


「いちおー、行った方が良いよね。多分」


そう言うと女の子はビルから一歩踏み出して摩天楼の彼方へ落ちていった。


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