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痛みの重み

作者: 湯気

男はソファーに座った。向かいに座る妹の真剣な眼差しを見てため息を吐いた。

彼が座ったのを確認し、彼の妹は口を開いた。

「お兄ちゃん、言いたいことは分かってるよね」

「……ああ」

「だったら早くしてよ」

「分かってる。……けどな」

「もう、十分だよ。お兄ちゃんにこれ以上押し付けられない」

「……」

「だから、私に痛みを返して」

彼が彼女から奪ったものそれが『痛み』だった。

人がもっとも捨てたいと思うものであり、それでいて一番必要な感情である。それを任意で奪うことができる奇跡の力を持つのが男であった。

その妹である彼女も普通でないのは必然である。彼女は近くにいる人の痛みを全て受け入れる力を持っていたのだ。

拒むことのできない痛みを感受する妹に対して彼はその能力を行使し、そして彼女が受けるはずである痛みを全て引き受けて来たのだ。

もちろん、それは生きているのが嫌になるほどの痛みであり、痛みを人に押し付けながらのうのうと生きている周りの人間を恨むほどであった。そして、何度もそれから逃げることを考えた。しかし、妹のためにもそれはできなかった。

それを今、彼女は自分に返せと言っているのだ。

「私ももう高校生になるんだし自分の痛みぐらいは自分で背負えるよ。今まで、私の分まで背負ってくれてありがとう」

「……ごめん」

「謝る必要なんてないよもともとは私の痛みなんだから。ほら早くして」

「分かった」

男は妹の手を握り、痛みを彼女に戻るように意識を集中させる。そして、彼女に痛みを全て戻した。

作業が終わり、彼はあることに思い至る。彼が受けてきた痛み。それは全て分割されてきたものであった。

しかし、それが今いっぺんに彼女に戻されたのだ。

「ああああああああああああ!」

部屋中に妹の声が響きわたった。

今ならまだ、彼の能力を使えば彼女を助けることができる。しかし、彼は動けなかった。

男は妹が伸ばし続ける手を見ることしかできなかった。

読んでいただきありがとうございます。


痛みをテーマにして書きました。「痛みは人が成長するのに必要」という文章を入れたかったんですけど何故か文章に入れる間がなかったんで掛けませんでした。


まあ、書きたいことはだいたい書けたのでよしとします。

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