結
「ごめんね」
はらはらして待っていた先ほどの電話の相手の肩をたたいて声をかけた。
「せんぱ〜い」
少し涙目になりながら彼女は抱きついてきた。よっぽどはらはらさせたらしくて、彼女には悪いけど、それが少しおかしかった。
「今日は雅司先輩と梨香先輩の結婚式なんですからね!先輩司会もするくせに遅いですよお。私が代役しろとか先輩達言うし〜!!」
あれから5年がすぎ、私は今少し大きな舞台に立ちはじめていた。
芝居は自分にとってなくてはならないものとなっていた。「劇団カメレオン」も脚本家で舞台監督までしていた佐々木祐介を亡くし、しばらくは再起不能になっていた。その状態が続き、一年になろうかとしたとき、両親に昔話を聞かされた。
佐々木祐介の母と私の父は昔結婚の約束をしていた。
そして、なんと「劇団カメレオン」の創設者は父だった。
父は学生の頃から芝居づけの毎日で、一人息子で病院の跡継ぎだった父を無理矢理見合いさせたのは私の祖父母だった。
結局は破談となったが、その原因は父と母の大恋愛が元であった。
祐介さんのおかあさんも他に好きな人がいたらしかったが、相手を両親に言う事ができずにいたらしい。
もちろんその相手は今の旦那さまである。
父と祐介さんのおかあさんはその後も親友同然のつきあいをしていたが、二人の両親は互いの存在を未だによくは思っていないので、私を祐介さんと会わせる事ができなかったらしい。
そして、祐介さんのおかあさんから母に相談をもちかけられた。
「祐介の命はもってあと半年」
本人もそのことを知っていたが、病院で死ぬのを待つよりも、劇団で芝居がしたいと言った。
その後私は祐介さんのご両親と会い、承諾をもらって劇団員に全て話した。
意外にも亜紀さんは知っていたらしかった。亜紀さんは祐介さんの幼なじみなのだが、病気に苦しむ祐介を皆に悟らせないように協力していたらしい。きっと辛い日々だったのだろう。彼女の落とす影の原因が少しわかったような気がした。
その後、一年遅れとなりながらも舞台にこぎつけ、その舞台が評価され、私も舞台を紹介された。
「劇団カメレオン」を脱退するのはとても迷ったのだが、背中を押してくれたのは父だった。
「香織ちゃん!よかった。間に合ったんだね」
白いウエディングドレスに着替えた花嫁を覗きにいくと、花嫁が少しほっとしたようにほほえんだ。
「さっきは新郎に残念がられちゃいましたけどね。美弥ちゃんがおろおろしてるのがよっぽど楽しかったらしくて」
緊張ぎみだった梨香さんはこわばった頬を少しやわらげ、「全く、雅司は美弥ちゃんをおもちゃか何かと間違えてんのよ」と続けた。
「亜紀さんはやっぱり無理だったんですね」
「一応席はまだ用意してあるけど、どうだろう。今NYなのよ。彼女の舞台装置が評判よくてね、忙しいらしいし」
「あの人ならやるとは思ってたけど、やっぱりすごいなあ」
「何言ってんの。香織ちゃんだって今度NYに行くくせに」
「梨香さんだって雅文さんとロスに行くくせに」
二人は顔を見合わせ、大笑いをしてしまった。それを見た美容師さんが花嫁を注意し、また二人は顔を見合わせた。
あの地下二階は今はもうない。
「劇団カメレオン」も今では少し名が売れて、劇団員もほとんどメンバーは替わってしまった。
今でも目を閉じると思い出す。部屋は熱気に包まれ、かすかな何かの香りがした。
どんなときでも芝居の話しをして、気が付くと朝日が射し込んできて皆であわてた事もあった。
皆真剣だからこそ、いろんな喧嘩もした。
でもそれは全て思い出。
五年前の深い思い出。
でもそれが今の私を支えている。きっとメンバーのほとんどを支えてる。
あのときドキドキしたのを今でも覚えている。
亜紀さんに誘われた時。初めてあの地下二階の扉の前に立った時。そして、「佐々木祐介」を図書館で初めて見かけた時。
きっとあれは恋ではなかった。何かが始まる予感がしたんだと今でも思う。
きっとあの図書館の出逢いは神様のおかげ。
そして、運命をたぐりよせたのは祐介さんと私の力。
無事司会を終え、二次会だと皆が騒ぎ立てた頃、亜紀さんはやってきた。
「これ、二人に結婚祝い」
小さな封筒を手渡し、「頑張んなね」とだけ声をかけるとまた忙しそうにタクシーに乗り込んでいった。
皆があっけにとられていると、タクシーの窓が少し開き、今度は私に声をかけた。
「NYで待ってる」
ふっと笑い、亜紀さんは行ってしまった。
彼女らしい仕草に半ばあきれながらも、少しの不安がなくなった事が嬉しかった。
皆、いつか旅立つものだ。それは不安と、ドキドキの入り交じった感情で。
勇気を出して一歩先に踏み出そう。
神様の気まぐれだけで幸せはこない。
運命は自分でたぐり寄せるモノ!
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
このお話で最終話となります。
ご意見、ご感想等いただけたら幸いです。
香月 圭




