Part B
「変化――維持」
と希。
「現実――想像」
と夕。
「他人――自分」
と茜。
「似ているけど、非なる存在。遠いけど、近い存在。表と裏の存在」
と舞。
それで。
わたしは。
次になにを取り戻して、なにを捨てたいのだろうか。
何が好きでたまらなくて、なにが嫌いでたまらないのだろうか?
「わたしは今や神。ううん。オリジナルの存在をすでに超えた存在。わたしが望めば、最短47分で新たな世界を創造することができる。一週間もかからない」
とわたしは呟いた。と思ったけど、呟いたのはわたしが見ているわたしだった。
「いいえ、その解釈でいいの。わたしはあなたよ。ほかの誰でもない」
と目の前のわたしが言う。
「まだ、もやもやしているんだろ? 自分が安定していないのだ。ということは、お前は変化を望んでいるのか?」
にやにやしながら夕が言う。
わたしは……なにを望んでいるのだろうか?
「変化と維持。愛は二つ望んでいるんだって。でも、今なら可能」
微笑む希。
「なぜなら、わたしは今までこの戦いに関わった人――そして、始まって以来最大、70億の人間の魂をさっき手に入れたのだから。全てを合わせれば約75億。なんでもできる」
と目の前のわたしは言う。
思い出す。
名前もしらない十字架に張り付けられた全裸の女。
怪物に姿を変え、天に昇る螺旋階段に立ち向かった希。
天使――悪魔となり、計画を阻止しようとした舞。
楽しむだけ楽しんだ夕。
いつでも、誰かを救うことを考え、でも誰も救えずに散った茜。
知ることもなく、全てを奪われた人々。
そして、
なにも決められず、ただ助けられ、
生贄となったわたし。
そして、今は神となった。
なにもしなかったわたしが神となったのだ。
「なにもしなかったからわたしが神となったのだ」
と眼前のわたしは皮肉げに笑う。
して。
どうする。
「なにも想像せず創造しないこともできる」
と舞は諭すように言う。
「でも」
「わたしは」
「みんなを受け入れた」
今度は目の前のわたしではない。わたしが言った。自分自身に言い聞かせるように。
「そう。その通り。だから、わたしたちはここにいる」
と清々しい笑顔で茜ちゃんは言う。
「変化が怖い。だって――自分が自分で、みんながみんなでなくなるから。わたしはみんなと一緒にいたい――けど、でも、まだ出会ったこともない誰かとわたしは笑いたいし、恋もしたい。もっと幸せになりたい」
わたしは言う。
「ただし、保証はない」
釘を刺すように、目の前のわたしが言う。
「まあ、そんな世界を望めばできるけど? でも、どうやら、今のあなたは違うようね。らしいと言えば、らしい。よく知らないけど」
と舞ちゃんは言う。
違う。
だって、みんながみんなを受け入れて、でも、それは、維持だから。
変化のない世界。
喧嘩のない世界。
軋轢のない世界。
つまり――
努力のない世界。
誰かと仲良くなりたいという欲求がない世界。だって、その前に仲好くなっているから。
誰かと恋がしたいという欲求がない世界。だって、その前に恋をしているから。
それは――自分だけの世界。
神の世界だ。
努力の肯定が、
神の否定。
神の肯定が、
努力の否定。
「つまり、世界はさ。現実と呼ばれる幻想と想像と呼ばれる絶望によってかろうじて、奇妙で奇怪で絶妙なバランスの内になり立っているんだよ」
と目の前のわたし。
よし! これでいこう!
「うん。いいと思うよ」
希は言う。
「つくづく優しいね」
相変わらず皮肉げに夕は言う。
「じゃあ、また。会えたら、いいね」
笑顔の茜。
「ばいばい」
手を振る舞ちゃん。
「うん。ばいばい」
わたしは言う。わたしに。
END.
わざわざ見てくださっているみなさま、
ありがとうございます。
この話はUN:KNOWNとは繋がっていて、でも、違うようなお話です。
読んでくださったらわかると思いますが、この話には至るまでの話があります。
で、珍しい試みといいますのは、
もし、この話が好評でしたのなら、
至るまでの話とその後の話を書こうと思っております。
先にも言いましたが、今のままでも完結してますし、でも、やっぱり未完結です。
『別にいいや』という方はスル―。
『ちょっと見たい』という方はなんらかの形でその旨を示していただければ、ありがたいかと。
ちなみに、
ムカついて、『くだらない』、『つまんない』という意見もどうぞ。精神の強さには多少の自身がありますので。あまりキツイ言葉は……控えていただきたく申し上げます。
まあ、賛否両論お待ちしております。あればですが。
特になければ、このままで。
あ、非が多い場合もこのままで。
ちなみに、書くのが決まった場合はなんらかの方法でお知らせさせていただきます。その時は、まあ、最後ということで全力でやります。
では、また(まあ、これが最初で最後のあとがきかもしれませんが)。