Part A
この話は未完結で、でも、完結しています。
どちらかを決めるのは、読んだ方だと思います。
で、珍しい試みをしようと思っています。
まあ、元来からわたしは他人と違うことをする性分らしいので。
詳細はBパートのあとがきで。
「ここは……どこ?」
愛が目を見開くと、そこにはマーブル模様の世界があった。それまでのあったものは何一つない世界。手を伸ばしてもなににも触れられない。見ている色は刻一刻と変化を繰り返す。現状維持などどこにもない、常に変化の連続でできている世界がそこにはあった。愛は身体をよじる。だが、視界はなにも変化しない。どこから見ようが全て変化しているからだ。上も下も右も左もない。地も天も――自分を繋ぎとめておくものが何一つない世界。
「!」
愛は気づいた。自分自身に肉体がないということに。
なにもない。
自分は一体どうやってこの世界を認識しているのか、わからない。
「違うよ。ここはなんでもある世界だよ」
唐突に声が届く。だが、どこから届いたのかはわからない。
「誰? どこ?」
愛は声を出す。だが、実際に声が出ているのか愛には認識できなかった。なぜなら、愛はこの世界にはなにもないと認識しているから。
「全ては、人の見方さ。君がなにもないと認識すればこの世界にはないもない。でも、なんでもあると君が認識すれば、この世界は逆転するよ」
先ほどとは違う声が聞こえる。もちろん、相手の姿は見えない。
でも、この声はどこかで聞いたことがあると愛は認識した。
舞ちゃん? この声は舞ちゃんなの?
同時に舞の姿を想像する。すると、愛の目の前に舞の姿が現れた。
「久しぶり、愛ちゃん。元気そうでなにより」
「舞ちゃん。ここ、どこなの?」
「ここは、どこでもないし、どこでもあるんだよ。愛ちゃん。わたしはわたし。でも、わたしはわたしじゃないかもしれない。それは舞ちゃんにも、全ての人に言えること。思い込みなんて、誰にでもあるからね。想像が全てを創造するのよ」
「想像が……創造?」
どういうことだろう、と愛が思考に耽っていると、それを察知したのか舞は――誰でもあり誰でもないその存在は続ける。
「そう。想像が創造。洒落じゃないよ。ここは――ううん。昔から、全てはそうだったの。愛ちゃんが元いた世界も。違うね。ここも元いた世界――でも、違うと思えば違う。わたしを認識したまま、うん。誰か想像してみて」
愛は舞の言葉に従い想像する。
誰? 誰か――
「やほほい。愛! 生きててよかったよ。あれ? ちょっと違うね。今の愛はどっちでもあってどっちでもないんだもんね」
舞の隣に、自分を助けた希が姿を現した。
「希ちゃん! よかった無事だったんだね」
「うーん……まあ、無事であって無事でないというか。たはは」
「どう? 愛ちゃん。少しはわかった?」
「え? 何が?」
希の無事を心から喜んでいた愛は先ほどまでの舞とのやりとりを忘れていた。舞は苦笑して、
「想像は時に無限大で、時にはなにも生まないということ。世界はね、そういうもの。でも、違うと思えば世界は違う様相になる。そうと思えば世界はそうなる」
うーん、と舞が何を言ってるのか、愛は理解できない。でも、それでも、もう一度会えてよかった。その喜びで愛の心はいっぱいだった。だから、想像した。
「おっす! 愛!」
茜の声。
「存命だったとは……惜しかったか」
夕の声。
「受験勉強してる?」、「今度どこか行こうぜ。みんなで」、「ねえ、ゲームセンター行こう! クレーンゲームやろっ」と愛の知り合いたちから、「あーあ、また朝か。学校嫌だな」、「今日、あの娘に告白しようかな」、「くそっ。急いでるんだから、早く歩けよ」、「早く離婚して、新しい人生を始めたい」、「子供なんて……」、「ここから飛び降りれば、自由」、「早く帰って寝よう」、「毎日が楽しい! こんなに人生ってよかったっけ!」、「あはは! それおもしろーい!」、「あーもう! 化粧の時間ないじゃん!」、「やっぱ、プールは気持ちいいな!」、「寒いなー。温暖化なんて嘘だろ!」、「おめでとう! 先輩!」、「消費税上げたいなー」、「時間が……くそっ。何で動かないんだよ」、「一夜漬けで大丈夫かな。もっと前から勉強すりゃよかった」、「…………」――愛の耳に多くの声が聞こえてくる。同時に愛の知っている人、知らない人――老若男女問わず多くの人が世界を埋め尽くした。
「え? なにこれ?」
愛は戸惑う。そして、自分に肉体があることを認識した。愛の驚愕を無視して、舞は、
「そっか。愛ちゃんは日常に帰りたいんだね」
と微笑みながら言う。
「世界は優しくない。なんなら、新世界を創造することも、お前はできるんだぜ?」
と睨む夕。
「まあ、全部は愛次第だろうさ」
と希。
「ただ、選択権を示そう。そのために、全ての情報を持っていた方がいい。無を――想像するんだ」
「無?」
夕に聞き返す。
「ああ、希が消える時――思い出せ!」
…………。
希ちゃん! いや! みんな!
愛に記憶がよみがえる――それまでの世界は一変――誰もいない、真っ黒な世界が愛の眼前に広がった。
「いや! いや! いや! いや! 違うよ! 見捨てないで、お願い! 消えないで! ねえ! お願い! やだよお!」
愛は必至にみんなを創造する。だが、彼女が経験した現実がその想像を邪魔していた。現実の天敵――それが想像。時に、現実に打ちのめされ人は想像を忘れる。だから、なにも想像されない。だから、希望がない世界ができあがるのだ。常に想像はやめてはならない。現実に打ち勝つためにも。
なにがあっても。
なにもなくても。
自分の喪失。自分が唯一、世界との繋がり。それを忘れた時、人は存在を失う。今の愛がそれだ。現実に打ちのめされたのだ。なにも想像できない。だから、自分を忘れた。自分だと思っていた存在を忘れたのだ。
「いや! やだ、やだやだやだ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 自分が大事。みんなが大事。なにもかも大事。大事大事大事」
―さっさと、行けよ-
唐突に希に最後にかけられた言葉を思い出した。
希はわたしに意志を託した。
託されたのは、わたし。
誰でもあって、誰でもない――違う。
否定。
誰でもなくて、わたしなんだ。
「誰でもなくて誰でもある誰かが、誰でもあって、誰でもない誰かに言ったんじゃない。わたしだ。希ちゃんは、わたしに! 希ちゃんがわたしに言ったんだ!」
そして、愛は取り戻した。
誰でもあって誰でもない誰か――、
ではなくて。
愛である、愛でしかない――代替の効かない存在。
愛は愛を、取り戻した。
物語は――後半に続く。