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雨の日、僕は彼に出会った

イギリスを舞台とした王道共依存BL

「もう最悪だよ…」


今日の天気は最悪だった。天気予報では小雨の予報だったのに大学の午後の授業の最中から急に降り出した。ぐしょぐしょに濡れた靴で足早にフラットへの道を進む。靴下もびちょびちょで一歩一歩歩くたびに靴と足の間で水が行き来するのを感じる。

「はぁ…靴どうしよっかな。これしかないのに…」

とりあえず早くフラットに帰ろう。カバンの中にある教科書たちがどうなっているかなんて考えたくもない。

フラットは大通りから少し脇道に入ったところにある。家賃は安くて助かってはいるものの快適とは言えない。床はギシギシと音がするし、風呂場は体を洗うのが精一杯な広さしかない。そんな家でもいち早く帰って熱いお風呂に入りたい。

ちょうど大通りから2本ほど道を曲がった時、ふと目の端に黒い影が目についた。思わず足が止まった。その黒い影はゴミ箱に隠れるように丸まり、どことなく人がうずくまっているように見えた。それに加えてその黒い影の下からは真っ赤な液体が雨に打たれながら流れ出ていた。

「!!怪我してる!」

どうしよう…助ける?でも、医療の知識なんてないし………よし見なかったことにしよう。

さっとその黒い影から目を逸らし足を動かそうとした。その時

「うぅ…いてぇ、クッソ…うっ」

微かに聞こえた低いかすれ声にビクッと肩を揺らした。肩越しに恐る恐る”彼”を覗き見ると、泥まみれの頭を必死に上げようとしているのがわかった。ゆっくりと顔が持ち上がり、雨に濡れた長く黒い髪の間から射抜くような瞳と目が合った。その瞳は僕が見捨てようとしたことを読んだかのように一瞬見開いたかと思うと、もう一度ガクリと頭が垂れてしまった。

「……はぁ、もう、なんで僕が……とりあえず救急車呼ばなきゃ」

僕はその影に近づきしゃがみ込んだ。黒い影はどうやら男のようだった。しかもかなり大柄だ。僕はせいぜい168cmしかない小柄な体型だが、この男の肩幅は僕の2倍はあるんじゃないかと思えるほどに大きくて逞しい。

カバンからスマホを取り出し、999番を押そうとした瞬間

ガシッと腕を大きな手に掴まれた

「!」

驚いて思わず尻餅をついてしまった。

「…きゅ…は…ぶな」

「な、なに?」

「…救急車は…呼ぶな」

「え?なんで…?」

救急車を呼ぶな?こんなに血を流して喋る気力も残っていないのに?やっぱり関わるべきじゃない。

掴まれた逞しい手も今は力なく僕の腕に置かれているだけだ。でもなぜかその手を振りはらうことができなかった。

「っ、いよっこいしょ……っ!」

意を決して彼の胴に腕を回し、肩に体重をかけ、足に力を込めて立ち上がった。

重い…思ったより重かった。このままちゃんとフラットまで帰れるのだろうか。そんな不安を感じつつ大雨の中をよろけながら歩いた。


やっとの思いでフラットに帰ることができた。まずはびしょびしょの服をなんとかしないと。

男の体をベッドに横たえ、タオルである程度水気をふく。

「…うぅ…」

男は傷が痛むのか顔を歪ませて呻き声をあげた。

「あの、聞こえますか?今から傷の手当てをします。多分痛いと思うけどちょっと我慢してください」

反応はない。仕方ないか。さっさと終わらせてしまおう

まず服を脱がす。かなり上等なスーツのようだ。黒一色のスリーピースでボタンは銀色に輝いている。あの逞しい腕にはこれまた立派な腕時計がついていた。もしかしたらどこかのお金持ちなのかも知れない。もしかしたら手当したお礼に何か(お金とか)もらえるかも知れない…というところまで考えて手を止めた。

男のスラックスに銃が隠されていた。

「…!…え…?銃?なんで?」

混乱する。人生で初めて銃なんてものを見た。それはどんなものよりも黒く光り重々しく彼の腰に刺さっている。

バッと彼の顔を見ると、彼は上半身の窮屈さがなくなったからか幾分か安らいだ顔をしていた。

こんなものを持っている奴の顔を見てやろうと、髪の水気をとって前髪を避ける。思いの外端正な顔が見えた。白い肌にキリリとした太い眉毛、すっと通る鼻筋、唇は今は血の気がないものの美しいカーブを描いた綺麗な形だった。顔の美しさと銃の存在のアンバランスさに眩暈がした。

上半身にはいくつものかすり傷があり、右横腹には大きな傷があった。

「銃。本物だ。……じゃあこのお腹の傷って」

僕にはそれがどのようにつけられた傷なのかはわからないが、銃で撃たれたんだろうと嫌でも想像してしまう。

なんでこんな人を連れて帰ったんだろうか。今でも遅くない、外に追い出してしまおうか。一瞬そう思ったが苦しそうな男の顔を見るとやっぱり見捨てられない。どうしちゃったんだろう僕。この男の人を見捨てられない。

「大丈夫。傷を治すだけ。命の恩人を殺そうとしたりしないはず…多分。うん。大丈夫。お願いだから大人しく眠ってて」

そう考え直し、新しいタオルとお湯を沸かしにベッドを離れた。

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