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第四十一話 ダリウスの秩序

ダリウスは証言台で、最後まで自分を正当化した。


「私は名の秩序を守ろうとしただけです。家名が乱れれば、相続が乱れ、社会が乱れる。身元のない子どもを適切な家や商会へ結びつけることは、慈善でもあります」


 彼の声はよく通った。


 言葉だけを聞けば、一定の理屈があるようにも思える。名のない子に居場所を与える。商会で働き口を得る。貴族家の断絶を防ぐ。


 だが、その理屈の中に子ども本人の意思はない。


 裁判長が尋ねた。


「拘束印の使用を指示しましたか」


「指示していません。ただ、未熟な子どもが新しい環境で混乱しないよう、名を安定させる技術は必要だと考えています」


「本人の同意なく?」


「幼い子どもに同意能力はありません。大人が最善を判断する」


 その言葉は、アルベルトが言ったことと同じだった。


 父親だから。家のためだから。幼い子には分からないから。


 私は傍聴席で手を握りしめた。


 ダリウスは続けた。


「北境の名前の家は、子どもに過剰な選択を与え、名簿制度を感傷に従わせようとしている。これは危険です。名は個人の玩具ではない。家と社会の柱です」


 その時、中央名簿局長が証言台へ立った。


 彼女は杖をつき、ゆっくり口を開いた。


「名は確かに社会の柱です。しかし柱は、人を潰すためにあるのではありません」


 大広間が静まった。


「私は長く名簿局にいました。家名を守ることの重要さも、身元の記録がないことの危うさも知っています。けれど、記録を守る者が、記録される人間を見なくなったとき、名簿は凶器になります」


 ダリウスの顔が強張った。


 局長は、古い資料を示した。


「十年前、ダリウス副局長は『奉公名安定化案』を提出しました。私は却下しました。理由は、本人の同意と解除手順が不十分だったからです。にもかかわらず、その術式が黒インクとして流出した。資料保管責任者は当時、ダリウス副局長でした」


 弁護側が反論しようとしたが、局長は続けた。


「さらに、ベルン家の私的帳簿から、白紙名の子どもを相続名の補填候補として記した写しが見つかりました。これは王宮調査官が押収したものです」


 新たな証拠だった。


 ダリウスの顔から血の気が引いた。


「それは、家の古い慣習で」


「禁じられた慣習です」


 局長の声は厳しかった。


「あなたは秩序を守ったのではない。秩序という言葉で、名を持たない子どもを都合よく使った」


 大広間にざわめきが広がった。


 裁判長は静粛を命じた。


 その後、押収された私的帳簿が読み上げられた。


 白鈴一号。年齢推定九から十。銀髪。健康状態良好。ベルン家分家の早世令嬢名への適合可能性あり。


 リンの顔が白くなった。


 私はすぐ彼女のそばへ行きたかったが、証人席から動けない。テオドール様が休憩室への移動を申し出た。裁判長は認め、リンはマリベルに付き添われて退席した。


 怒りで手が震えた。


 リン・エイルは、誰かの死んだ令嬢の身代わりにされる予定だった。


 名前を与えられないまま育てられ、必要になれば他人の名前をかぶせられる。白紙であることを清らかだと言われ、その白紙を貴族の都合で使われる。


 これ以上の侮辱があるだろうか。


 裁判は終盤へ入った。


 ダリウスは最後に、自分の家もまた名に縛られていたと語った。ベルン家は古い名簿官の家で、誤記一つ許されない。家名を守るために、彼自身も幼い頃から役割を押しつけられた。


「だから私は、乱れた名が許せない。家名を失えば、人は何者でもなくなる」


 彼はそう言った。


 その言葉には、わずかな本音があった。


 けれど、傷があるからといって、他の子どもを傷つけていい理由にはならない。


 裁判長は判決を下した。


 ダリウス・ベルンは、名簿術式の不正流出、違法拘束印の幇助、白紙名児童の身代わり登録計画への関与により有罪。中央名簿局副局長の職を剥奪し、貴族名簿管理権を永久停止。関与した商会幹部と名簿官には禁錮刑と財産没収。被害児童の保護と名の再登録に、没収財産を充てる。


 大広間に、重い沈黙が落ちた。


 完全な勝利とは言えない。


 傷ついた子どもたちの時間は戻らない。燃えた棚も、祠で失われた日々も、マイラの手首の黒い跡も消えない。


 それでも、制度の奥に隠れていた罪が、公の場で名を呼ばれた。


 それは必要な一歩だった。


 裁判後、リンは休憩室で鈴を握っていた。


 私は彼女のそばに座った。


「リン・エイル」


 彼女は顔を上げた。


「はい」


「よく頑張りました」


 リンはしばらく黙っていたが、やがて言った。


「白鈴一号、いや」


「ええ。あなたはリン・エイルです」


「リン・エイル、かえる」


「帰りましょう」


 その夜、私はリネリアへ手紙を書いた。


 大きな裁判が終わりました。リン・エイルは、自分の名前を言えました。お母さまも証言しました。もう少しで帰ります。


 最後に、こう書き添えた。


 名前は、誰かが勝手に使う紙ではありません。あなたが教えてくれたことです。

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