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6. メイド長 クララ

『アンナがここを去った。これで仲良くしていた子達は、みんな居なくなってしまった。

きっと、私のせい。何かお詫びをしたいけれど、持ち物は全てなくなってしまった。

ああ、ずっと体調が悪い。

でも、耐えるの。きっといつか、ナイジェル様が助けてくれる時が来る。』


——……


朝の鐘が鳴ると同時に、メイドが中庭に集められる。甲高い靴音を鳴らしながら肉厚な女が歩いてきて、皆の前に堂々と立った。

黒いワンピースに白いエプロンを纏った四十前後の女。濃い化粧が施された鋭い吊り目が、集まった女たちを見下ろした。


「揃ったわね」


よく通る声だ。その一言だけでメイドたちは一斉に頭を下げる。


「今日の仕事を言うわ。聞き逃さない様に」


メイド長——クララ。

若い頃からここに長く勤めているという彼女の権力は絶大であった。伯爵夫妻からも厚く信頼されており、メイドの管理を全て任せられている彼女には、誰も逆らうことができない。


ヴィオレッタがここに来てから三ヶ月ほどが経ち、既に二人のメイドがクビを切られている。

気に入らない使用人を叱りつける姿はヒステリックそのものであった。


そしてこの女もまた、ローズを苦しめた一人だ。


「ヴィオレッタ、聞いているの!?」


甲高い怒鳴り声が投げられる。

ヴィオレッタは体を縮み上がらせて、弱気な声を出した。


「は、はい……! 全部屋のシーツの取り替えと洗濯です」


その答えを聞いたクララは不機嫌そうに顔を顰めて、それから強い口調で続けた。


「終わるまで決して寝るんじゃないよ!」


ヴィオレッタは頭を下げる。

その表情にはもう、先ほどの弱気なヴィオレッタはいない。

メイド達が怯えながら命令を受ける中、ヴィオレッタの瞳だけが鋭く光っていた。

 

 ◇

 

クララに関しては、姉のこともあるが個人的にも恨みがある。


「ヴィオレッタ、可哀想。無理よ、一日で全部屋のシーツの交換なんて」

「ヴィオレッタが綺麗だからだわ。ミセス・クララって本当いつも……」

 

慰める様に話しかけてくるメイド達の声を、手を上げて制止させる。


「聞こえたら大変です……私は大丈夫ですから! すぐ終わらせてみせます」


明るく言った後にメイド達の耳元に手を添えて「きっと酷い更年期ですね」と続けると、くすくすと笑いが起きて、メイド達は手を振り持ち場へ戻った。


クララのプライドは、王宮の城よりも、聳え立つ山よりも遥かに高い。

辛く当たるのは決まって容姿が綺麗な若い女に対してだった。


いくら立ち回りが上手くても、ヴィオレッタは嫉妬の対象だった様で、理不尽に叱られては無理な仕事を押し付けられるようになった。そしてそれを完璧にこなすものだから、また更に気に入らない様だった。


 ◇


「ノア……いつになったら抱いてくれるの?」

「奥様……」


甘い香りが立ち込める、伯爵夫人の部屋。

いつもの様に閉め切られた部屋で、二人の逢瀬が繰り広げられていた。


エレガルはノアの手に腕を絡ませる。

柔らかく豊満な胸部を押し当てて男の昂りを誘うが、ノアは決して頷かなかった。


「奥様……旦那様が直に帰ってこられます」

 

ノアはそっとエレガルの手を離す。

そして、ゆっくりとその官能的な身体を抱きしめた。

それに満足したエレガルは頬を赤らめて蕩けるような顔をして呟いた。

 

「……貴方だけよ、こんなに思い通りに行かなくて——私の欲を掻き立てるのは」

 

それからしばらくして、ノアは数枚の書類をエレガルに見せた。


「まあ、本当? なんて酷いの? 即刻解雇だわ」


書類に目を通すエレガルは次第にふるふると手を震わせて怒りを露わにした。

ノアが少しだけ眉を下げて、エレガルの顔を覗き込めば、エレガルははっと顔を上げてノアの頬に手を当てる。

 

「もちろん、貴方は解雇しない。そうね。これで貴方を見習いから本当に執事にさせてあげられる。そうすれば私達は……」

 

ノアは静かに目を閉じた。それを見たエレガルは言葉を止めて呟いた。


「ああ、本当に美しい顔ね……貴方が欲しい」


 ◇


風が窓を揺らす夜。

蝋燭の光の中で、ヴィオレッタは手紙をしたためていた。ローズの日記に出てくる”アンナ”と言う女性に向けて。


日記から推測するに、アンナはローズの扱いに異を唱えたメイドの一人だったらしい。

クララはローズを庇うメイドを次々に解雇させたようだった。


ヴィオレッタはどうしても見つけたいものがあった。それはクララに奪われたというローズの持ち物だ。

出来る限り全ての部屋を探し尽くしたつもりだが、一切見つからなかった。

もう売り払ってしまったのだろうか、と一度捜索を辞めたがやはり諦めきれず、名簿を探し出してアンナに手紙を出すことに決めた。


当時働いていた元メイドなら何か知っているかもしれない。それに、最後まで姉の味方であった為に解雇までされた女性だ。

協力してくれる可能性は大いにあるし、探りを入れてもリスクが少ない。


蝋を垂らし、厳重に封をして願いを込める。


「見つかりますように……」

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