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51. 薔薇の庭園を越えた先には

町から外れて教会を少し歩いた先に、小さなホテルがひっそりと開業された。


門をくぐり、薔薇に囲まれた小道を抜ければ、趣のあるレンガ造りの建物が姿を現す。


そして大きな扉が開かれれば、シワのない上質なベストを几帳面に着こなし、丁寧に頭を下げる男が客を迎える。

 

「ようこそお越しくださいました。支配人の、ノアと申します」

 

すらりとした長身、整った容姿、束ねられた黒い髪と瞳。ノアと名乗るその男は、丁寧な所作で客をもてなす。

無駄のない一つ一つの動作に、客の男は気分を良くし、女は見惚れるように頬を赤らめた。


「素敵な方、私、支配人ではない貴方の姿を見てみたいのだけれど……」

静かな街に見合わぬ洗練された男に、色を含んだ言葉をかけるものは多かった。

けれど男は皆に同じことを言う。


「お言葉、恐縮に存じます。……ですが、私は既に結婚しておりまして」

……時に既婚というブランドは人を更に惑わせる事もあり、食い下がる者も多かった。しかしその後の彼の姿を見れば皆たちまち恋心を失わせた。


彼氏が熱心な視線を送る先――、そこには、併設されたレストランに佇む、美しい女性がいた。


大きなガラス張りの窓からは、小さな泉と、植えられた薔薇が一望できる。空が建物に邪魔されることなく広がっていて、夜は無数の星空が演出された。

 

上品に整えられたレストランの内装は、まるで特別な日を演出させる高級さそのものだったが、意外にも和やかな雰囲気が流れている。

それは、レストランの看板メニューが、具がゴロゴロと入った故郷の母を思わせるシチューだからだろうか。


質の良いワインと、丁寧に調理された食事が運ばれる中、客たちはそわそわと落ち着きのない様子を見せる。

そして、小さな舞台が控えめに照らされ、袖から一人の女が姿を現す。

それが、先ほど支配人の男が視線を送っていた女だった。


美しい白金の髪を靡かせて、優雅に礼を取る。

そのレストランに通う者は「今からとびきりにいい歌を聴けるぞ」と言った。

その声を聞いた女は顔を上げてふわりと微笑む。その可憐な姿に皆釘付けとなった。

 

「今日という1日が、皆様にとって忘れられない思い出となりますように」


真紅のドレスがシャンデリアの光をキラキラと照り返している。


――じぃ、と蓄音機から音が流れ、そして女は高らかに歌い始めた。

皆の心を震わせる、愛に満ちた歌声だった。

その瞬間だけは、皆思わず食事の手を止めて聴き惚れる。そして感嘆のため息が部屋中に響き渡るのだ。


美しい女もまた、男を惑わせた。

しかし、どれだけ金払いのいい男が来ようが、貴族がお忍びで愛を囁こうが、いつも同じことを言う。


「私が愛の歌を捧げる方は、決まっているのです」


その女を優しく見守る身なりのいい格好をした1人の男が、支配人に声をかけた。

 

「本当に、美しい歌声だね」

「……そうですね」


それを見た人たちがひそひそと会話をする。

「ああ、あの人、あの人がこのホテルのオーナーさんだよ、元は貴族だって言う……立派なことだ」


柔らかな栗色の髪をしたオーナーと囁かれる男は、人の良さそうな笑顔を浮かべていた。

滅多に表に姿を見せないと言うが、支配人の男とは違う雰囲気の穏やかな男を目当てに通う女性も少なくなかった。

しかし、どれだけ美しい娘が声をかけようが、その瞳に熱が灯ることは一切なく、ただ寂しそうに微笑むだけだと言う。


「リリー!来たわよ〜〜〜!」


突然、扉が開かれて、明るい女性の声が響き渡る。

客たちは目を見開いて、それからまた耳打ちあった。

「噂は本当だったんだな、このホテルはあのフロラン侯爵の御用達だって……」


桃色の髪を揺らす背の高い女性が、いかにも高貴そうな男の手を引いていて、案内されたまま奥へ通されていく。


次第に噂が噂を呼び、ホテルは話題の的となった。

しかしどれだけ盛況してもこれ以上の事業を展開させることはなく、この寂れた教会の近くの町から離れることはなかった。

激化していく噂とは裏腹に、このホテルの中では緩やかな時間が流れている。


『ホテル・ロゼッタ』


その名に似合う庭園の薔薇は今年も美しく咲き誇り、皆を見守るように静かに風に揺れた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

初めて十万字以上の作品を書きました。


投稿する度にPV数を見て一喜一憂したり、毎話付けてくださる反応を見て思いを馳せたり……毎日夢の様な心地でした。


重ための話で、万人受けはしないだろうなと思っていましたが、物語を追ってくださった方がいることで、へこたれず、最後まで載せることができました。


投稿の為に読み返すたび、駆け足だったかなあとか反省点がいっぱい浮かびました、、。またいつか新しい作品を書きたくなったらこの反省点を活かそうと思います。


最後、番外編……というか、本当は本編に載せるつもりで、結局、雰囲気を壊すかなと思い辞めた話をいつか載せようとおもいます。綺麗に終わったその後——エレガルとラビーヌの話なので、読むも読まないもお任せします。


最後まで本当にありがとうございました!

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