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32. 墓参り

エレガルを取り巻く事情でカントリーハウスへ行くまでの日程が早まったことで、屋敷内は忙しくなった。

パーティーの為に洋服や飾りを用意する為にそれぞれ休みを回し、決められた仕事をテキパキとこなしていった。


逆に、エレガル本人は部屋に篭る事が増え、侍女としての仕事が減っていった。食事を運んだり、掃除や簡単な身の回りの世話は侍女ではなくメイド達がこなす。その間ヴィオレッタに出来ることは時々癇癪を起こすエレガルの話し相手だった。


見かねたメイドの一人が、ヴィオレッタに声をかけた。


「ヴィオレッタ。突然侍女を任されてから、全く休んでいないでしょう?奥様は予定を取り消している間、私達が引き受けるから、一日休みをとってきたら?」


ヴィオレッタは驚いた。確かに休みを全く取っていなかったこと。そして、それに気付いて気を遣ってくれる人がいると言うことにもだ。


「ありがとうございます」


ヴィオレッタはすぐさま許可を得て、休みに何をするかを考えた。

歌の練習? パーティーに参加するためのドレスの仕立て? ぼんやりと考えながら廊下を歩いていると、後ろからノアの声がかかる。


「明後日、休みを取ると聞いた」

「ええ、そうなんです」


さすが使用人の管理を任されているだけあって、情報が早い。

 

「何かするのか?」

「特に何も考えていません……しなければならない事は沢山あるのですが」

 

考え込むような仕草を取れば、ノアは小さな声で言った。


「その日、俺も休みを取る。……もし良ければ、墓の場所を教えて欲しい」


なるほど、良い考えだと思った。

それに、ノアが王立オペラ座の寮に届けたと言うローズからの手紙も見たいと思っていた。その手紙を読むのは怖くもあったが、隣にノアがいてくれたらどれほど辛くても、救われるような気がした。


 ◇


その日はすぐにやってきた。

リリーは色の暗いシンプルな服を身に纏う。

いつもより少しだけ入念に化粧をした。普段はきっちり結い上げている髪も下ろして緩く巻いた。目的は墓参りと手紙だが、少しだけ浮かれているような気がした。


一緒に出掛けると気付かれないように、別々に屋敷を出て、少し歩いた街の先で待ち合わせる。


そして、先に待っていたノアを見つけ、駆け寄った。


ノアもシンプルな服を着ていた。

いつものシャツやベストとは違う普通の男性らしい姿に新鮮さを感じて、胸がとくん、と知らない音を立てた。


綺麗な顔と、高い身長は、人を見惚れさせるからずるい。

何か言おうと言葉を探す。ここは無難に、おはようございます? お待たせしました? それとも素直に格好良いですね? 普段なら迷わない下らない思考をあれやこれやと回しているうちに、ノアから先に声がかけられた。


「おはよう。リリー。髪を下ろしているところを初めて見た。綺麗だ」

「おはようございます、ミスター・ノア。……貴方はそんなことを軽々しく言える方でしたか?」

 

表情も変えずにさらりと褒めてくるものだから、動揺して、かつて敵対していた時のような嫌味っぽい言い方をしてしまう。しまったと口を抑えるが、ノアは懐かしむように少し笑った。


「今日はノアで良い。さあ、行こうか」


二人で花を買い、馬車に乗り込み、街を抜ける。

次第に地面がガタガタと揺れ始め、窓から見える景色に冬の寂しい木々が増えていく。

 

ローズの墓は、街から離れた小さな教会の裏手にあった。

馬車を降りると、教会の鐘の音が響いていた。

白い息が空気に溶けていく。


「……静かで、良い所だな」


ノアが静かに呟けば、リリーはゆっくりと頷いて、目的の墓へ向かう。

そしてしばらく歩いて、ある低い石の墓標の前に立ちどまった。

そこには『ローズ』と名が彫られていた。


リリーは少し屈んでその字を指でさらりと撫でる。


「お姉ちゃん、会いにきたよ」

 

ノアは手袋を外して、二人で用意した用意した花を置いた。小さな白い花と、一輪の赤い薔薇だった。


「あのね、ノアに会ったの。最初は敵だと思ったんだけど、お姉ちゃんの思った通り、優しい人だった」

 

リリーが甘えるように声を出せば、ノアはふっと笑った。

 

「ミス・ローズ、貴女の妹は、確かに意地っ張りでした」


リリーはムッとして振り返る。


「でも、聞いていた通り優しくて情に熱い。……そして貴女のことを深く愛しています」


「最初のは余計です」


リリーは咎めるように言うが、耐えきれずに一緒に笑ってしまった。


それから十分程、二人は何も喋らずにただ姉の墓を眺め続けた。

 

「安らかに眠ってね。全てが終わった頃に、また会いに来るから」


リリーが静寂を破り、二人は墓を出た。

砂を踏む足音だけが響く中、ぼんやりとノアに話しかける。


「今、復讐の最中だなんて言えませんでした。

何を言おうってずっと考えてたんです。あの女の愚痴? 旦那様のこと? 私達が陥れた使用人達……? でも、言えなかった」


ノアは静かに頷いた。きっと同じ気持ちだった。


「まだ、時間はありますか? 寮に行きたくて」

「ああ、今日は一日空けているから。何処へでも」


時間を見るに、昼にもなっていなかった。一日中、一緒に居られるのか。リリーは嬉しい気持ちになって、それから慌てて首を振った。

 

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