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15. ノアの忠告

『痛い……火傷も、傷も。

ああ、刺されたこの傷は、もう治らないのかしら。

身体中が痛くて、眠れない。

殺される。私も、お腹の中の子も。』


——……


ヴィオレッタは、エレガルの髪を丁寧にといていた。

これも、本来は侍女の仕事だ。しかし、ヴィオレッタが巻き髪を上手に作れることを知ったエレガルは、髪の手入れもヴィオレッタに任せる事が多くなった。


「奥様、痛くは無いですか?」

「そうね。問題ないわ」


ヴィオレッタの問いに高圧的に答えるエレガルの隣には、ふるふると握った拳を震わせている侍女マグリットが立っていて、こちらを鋭く睨んでいた。


ヴィオレッタはそれを無視し、「そう言えば……」と呟く。


「本日のパーティーを主催されるマクガーン侯爵夫人は、近頃ワインに興味を持たれているとお聞きしました」


エレガルは、眉をぴくりと動かして耳を傾けた。


「何でも広めたいお気に入りのワインがあるとか……」


だから、マクガーン侯爵夫人に好かれたくば、ワインの話を持ち掛けるのが最適だ。そこまで言わずとも貴族女性であればすぐに察する。


スラスラと情報を流しながら、熱い鉄で丁寧に髪を巻いていく。そして、仕上げた髪に用意された宝石を飾ろうとテーブルへ手を伸ばし「あ……」と動きを止めた。


「あの、ミス・マルグリット。ルビーではなく、ガーネットに変えてもらえませんか?」


マルグリットは勢いをつけてヴィオレッタを睨みつけ、「どうして私が!?」と反論した。

しかし、エレガルに「マルグリット」と冷たい声で呼ばれ、体を震わせる。


「直ちに……」


そうして、ガーネットをヴィオレッタに渡した。


「ヴィオレッタ、説明して頂戴」

「もちろんです、奥様」

 

ヴィオレッタは、ガーネットを丁寧に飾りつけながら、微笑んだ。


「マクガーン夫人は、近頃よくルビーを付けておいでですから。何でも、不倫相手にプレゼントしてもらった、なんて噂です」

顔を屈ませて、声をひそめる。

「プライドが高いようなので、被らない方が得策かと」


エレガルは面白そうに口角を釣り上げる。


「そうね。そうするわ」

「奥様、とってもお美しいです」


用意を終えたヴィオレッタがうっとりと言えば、エレガルは満足げに立ち上がり、そのままマルグリットを連れて、社交パーティーへと向かった。


共に部屋を出るマルグリットに強く睨みつけられる。

ヴィオレッタはしっかりと目を合わし、そして毒気のない笑顔を向ける。最近分かった事だが、煽るように笑うよりも純粋な顔をした方がマルグリットは余計に腹を立てるのだ。


 ◇


「随分と、奥様に近づいているようだが」


窓から淡い月明かりが差し込む、涼しい夜。

エレガルとナイジェルの帰りを玄関先で待つヴィオレッタに声をかけたのは、無表情な顔に少しだけ不機嫌さを滲ませたノアだった。


ヴィオレッタは、動揺を隠すようにゆっくりと息を吐く。あれから——クララを殺そうとしたあの日から、一度も話していなかった。


「何か問題でも?」

「侍女の立場でも狙っているのか?」

「ええ、そうです」


ノアはヴィオレッタの嘘くさい笑顔を嘲笑うかのようにふっと声を出した。

 

「随分と野心があるようだな」

「何とでも仰ってください」


ヴィオレッタが踵を返して去ろうとすると、ノアはその肩を掴んで引き留めた。


「……忠告してやる」


低い声が、周りの空気を震わせる。

ヴィオレッタは、何も言わずに振り向いた。

鋭い目が、強くこちらを捉えている。


「ミス・マルグリットを侮るな。

痛い目に遭いたくなければ……諦めろ」


ヴィオレッタの心臓が、ドクンと跳ねる。

真意が測りきれない。


「……痛い目に遭えば良いとは思わないのですか?

私は貴方達の秘密を知っている、いわば脅威なのでは?」


ヴィオレッタの仮面は既に取れている。柔らかな笑みも見せなければ、明るい声も出さない。鋭く見つめ返す視線と、低い声。


数秒の沈黙が流れ、ノアは「そうだな」とそれだけ言って、去っていった。


残されたヴィオレッタは背の高いノアの後ろ姿をじっと見つめる。

わざわざ、忠告した意味とは。

秘密を握るヴィオレッタをこれ以上エレガル夫人に近付かせない為の脅しか、それとも、ヴィオレッタの身を案じた優しさか。

ラビーヌの声が思い出されて反響する。


 “それと……もし良ければ、あの執事に会いに行ってあげて。リリーと会いたがっていたから”


もし、ローズの妹、リリーとして会っていたら、彼はどんな顔を見せ、何を話したのだろうか。

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